インタビュー

電子回路を手書きで簡単に! 家庭用プリンタで印刷も手軽に! 電気とモノづくりを身近にする東大発ベンチャー・AgICの挑戦!

“モノづくりのイノベーター”にスポットを当てる、「People Plus」。3回目は、家庭用プリンタで電子回路を印刷できる革新的な製品で注目を集める東京大学発のベンチャー「AgIC」。電子工作を愛し、大学時代は「学生フォーミュラ」や「大学ロボコン」に夢中だったお2人に、新製品の魅力やモノづくりへの熱い想いを伺った。

“電気”と“エンジニア”への
愛が詰まったインクでモノづくりを革新

「私自身が欲しかった。それが一番の理由です」と語るのは、東大発のベンチャーとして今年1月に起業したAgIC(エイジック)の清水信哉さん。写真光沢紙の上に線を引くだけで電子回路が簡単に描ける「導電性ペン」。インクカートリッジを交換するだけで、家庭用インクジェットプリンタで電子回路が印刷できる「導電性インク」。それがAgICからこの夏登場する2つの製品だ。自宅やオフィスでペンならササッと、プリンタなら2~3分で電子回路を印刷できる画期的な製品。そこには“電気”と“エンジニア”に対する清水さんの深い愛情がたっぷり詰まっている。

モノづくりへの愛を熱く語る清水信哉さん(AgIC代表取締役)

モノづくりへの愛を熱く語る清水信哉さん(AgIC代表取締役)

電気の楽しさと
モノづくりの面白さを子どもたちへ

「小さい頃から科学が大好きでした。理数系の大学出身の母が、学生時代に使っていた教科書や本をくれたんですよ。それが面白くて。科学や物理、電磁気学とか量子論とか、小5ぐらいから夢中で読んでいました。本があって、あとは紙とペンがあればいい、という感じでした。あの頃が一番勉強した気がします」と言って清水さんは笑う。
高校生になって電子工作にハマり、東大では電気系の学科に進み、ゼロから電気自動車をつくる「学生EVフォーミュラ」の創設メンバーにも名を連ねるようになる。本で科学や物理の面白さを知り、“電気”が好きになり、紙とペンで創造を広げ、“?”に答えてくれる母がいて、今の清水さんがいる。写真光沢紙に描くだけで電子回路ができる「導電性ペン」を知育玩具や電子工作キットとして活用し、子どもたちにその楽しさを広げたいと考えるのは、とても自然な流れだったのかもしれない。

「導電性ペンと写真光沢紙、あとは電池とLEDがあればいいんです。紙の上に線を描いて、その上に電池とLEDを載せるとLEDが点灯する。自分の手で簡単に電子回路がつくれて、すぐ試すことができるので、子どもたちも電気の仕組みを目で見て直感的に知ることができます。しかも紙なので折ってもいいし、ハサミで好きなカタチに切ってもいい。絵を描くだけじゃなくて、電気をプラスすることで遊び方は広がるし、さらに楽しいことができるようになる。子どもならワクワクすると思うんです」と清水さん。
その想いは、アメリカの科学博物館「テックミュージアム」で行ったワークショップの子どもたちのイキイキとした表情を見て、さらに強くなった。参加した子どもたちの中には、電気について何も知らない小学校低学年ぐらいの子どもたちも多かったという。
「小さい子どもでも遊んでいるうちに、こうやったら光るとか、こうやったら光らないとかいうことがわかってくる。そうすると創造力が広がっていくのがわかるんですよ。例えば、その時は“母の日”が近かったので贈り物のカードをつくったんですけど、二つに折りたたんだ紙を開くと『おかあさん、ありがとう』と書いてあって、ハートのマークをピンク色に光らせたり…。もちろん簡単な作り方は教えるんですよ。でも、“母の日”の贈り物だからハートのマークをピンクに光らせようとか、そこまで考えてつくるようになる。それってすごくいいことだなと思ったんです」と清水さん。

今まで、小さな子どもでも簡単に電子回路をつくれるようなツールはなかった。そこで清水さんは子どもでも電子回路に気軽に触れられる「電子工作キット」はもちろん、日本の教育関連企業と共同研究も進めており、学校向けの教材としても「導電性ペン」の魅力を広げていきたいと夢を語る。
「小さい頃から電気に親しんでもらえる環境をつくりたい。それで面白いと思ってもらえたら、電気のことをもっと好きになってもらえると思うんです」と清水さんは力強く語る。

導電性ペンで電気回路を描く様子。インクの乾きも速く、描いてすぐ触っても手につかない。「導電性ペン」は1,200円(税込)。近日中にAmazonなどで販売予定。

導電性ペンで電気回路を描く様子。インクの乾きも速く、描いてすぐ触っても手につかない。「導電性ペン」は1,200円(税込)。近日中にAmazonなどで販売予定。

この春、アメリカのイベントで販売し好評だった「子ども向け電子工作キット」(発売未定)。導電性ペン、電池、LEDなどが入っていて、紙の上の点線を導電性ペンでなぞると、ロケットが光るカードが完成する。

この春、アメリカのイベントで販売し好評だった「子ども向け電子工作キット」(発売未定)。導電性ペン、電池、LEDなどが入っていて、紙の上の点線を導電性ペンでなぞると、ロケットが光るカードが完成する。

 

プリント基板を自分で手軽に
すぐに試作できる便利さを

「導電性ペン」が子どもと“電気の楽しさ”をつなぐツールだとしたら、家庭用インクジェットプリンタで電子回路を印刷できる「導電性インク」は、モノづくりをさらに身近にしてくれるツールだ。
今までプリント基板をつくるには、外部の専門メーカーに頼らざるをえず、高いコストに加え、手元に届くまでも多くの日数を要した。さらに電子回路の試作も、煩雑な配線に加え、改めてプリント基板にする手間がありながら、ブレッドボードなどで行うしかなかった。そうした課題を、家庭用インクジェットプリンタという身近なツールで手軽に印刷することで、AgICは簡単にクリアしてくれる。
「特別なアタッチメントやソフトウェアなども必要ありません。インクカートリッジを導電性インクと交換するだけで使えます。しかも、印刷できる紙は写真光沢紙のみになりますが、市販のものもそのまま使えます。それに電子回路もかなり高精度なものがつくれるんですよ。回路線幅は0.15mm程度まで可能ですが、これは一般のプリント基板の最少幅とほぼ同じ。抵抗値が若干大きいので、線を細く長くしすぎると電気が流れにくくなるという特性がありますが、マイコンなどを実装する基板としては十分だと思います」と清水さん。

AgICの製品に使用されている銀ナノ粒子を使ったインクは乾きが速いのも特長で、印刷後すぐ触ってもインクが指につくことがない。従って印刷した電子回路の上に、導電性の接着剤やテープを使って電池やLEDなどの部品をすぐに実装できる。紙の耐久性を考えるとプリント基板の代替品とはなりにくいが、低コストでさまざまな電子回路のパターンを印刷し、すぐ試すことができる利点は大きい。電子工作好きはもちろん、いろいろ試作したいエンジニアにとっても頼りになる製品である。
AgICでは、推奨のブラザープリンタと導電性インクをセットアップしてすぐ使えるようにした「AgIC回路プリンタ」60,000円(税込)と、市販のインクジェットプリンタに自分で導電性インクをセットアップする「AgIC回路プリンタDIYキット」30,000円(税込)を9月に発売予定だ。「使用済みのプリンタはノズルなどの洗浄が必要になるので、推奨のプリンタもしくは市販の新しいプリンタの使用をお勧めしています」と清水さんは言葉を添える。

この6月に大手電機メーカーから転身。「ハードウェアをバリバリつくれる会社なので、これからが楽しみです」と語る小笠原一憲さん(AgICチーフエンジニア)は、メディアアートにも造詣が深い。

この6月に大手電機メーカーから転身。「ハードウェアをバリバリつくれる会社なので、これからが楽しみです」と語る小笠原一憲さん(AgICチーフエンジニア)は、メディアアートにも造詣が深い。

 

インタラクティブな広告ポスターなど
さまざまな分野で注目

小笠原一憲さんは大手電機メーカーの研究所を辞めて、この6月からAgICのメンバーに加わった。
「清水とは昔から知り合いで、去年のビジネスの立ち上げのときから話は聞いていました。プリント基板の問題もあって、僕自身も電子回路を始めるときはハードルが高いなと思っていたので、そういう問題を解決するAgICの取り組みは面白いと思っていたんです。それと僕はメディアアートの分野にもつながりがあって、いろいろ手伝ったりもしているんですけど、そういう分野にも使えると思って注目していたので、清水に誘われて迷わず決めました」と小笠原さん。

メディアアートへの活用に着目した小笠原さんと同じように、AgICの「導電性インク」は科学にとどまらず、さまざまな分野から注目を集めている。例えば、広告の分野。写真光沢紙に印刷できるAgICの「導電性インク」は、通常なら手間と時間とコストがかかりすぎて、なかなか実現できない大面積(A4サイズ)の電気回路や電極をつくれるのが特長だ。
「大判プリンタを使用すれば、ポスターなどさらに大きな紙にも印刷できます。現在、広告ポスターへの応用など問い合わせがすでに来ているんですよ。一見ただのポスターだけど裏に電極(タッチセンサー)を仕込んでおいて、ポスターの絵に触れるとある部分が点灯する、というようなインタラクティブなポスターを製作中です。曲がる基板や薄い基板はコストも高くつく。でも、これなら紙代で済むのも魅力です」と清水さん。

使用できる紙は写真光沢紙のみだが、紙以外では光沢処理を施したプラスチックフィルムなどにも印刷できるため、その可能性はさらに広がる。例えば、小笠原さんが東大の学生と行ったメディアアートもユニークだ。
「男子トイレの小便器につける的ってありますよね。飛び散りを防ぐためにつける的です。あれを鍵盤にして、鍵盤に水が当たると音が奏でられる、みたいな…。汚くてすいません(笑)。要するに静電容量式のタッチパネルなんですけど、そういうインタラクティブなこともできちゃうんですよ」と小笠原さんは楽しそうに語る。

広告ポスターへの応用を視野に、現在試作中のタッチパッド。A4の紙に描かれた銀色の丸い部分が電極(タッチセンサー)で、それに触れると青のLEDが点灯する。直接触れるだけでなく、紙の上から触れてもLEDを点灯させることができる。

広告ポスターへの応用を視野に、現在試作中のタッチパッド。A4の紙に描かれた銀色の丸い部分が電極(タッチセンサー)で、それに触れると青のLEDが点灯する。直接触れるだけでなく、紙の上から触れてもLEDを点灯させることができる。

 

エンジニアってカッコいい!
モノづくりが誰でも気軽にできる未来へ

子どもたちに電気の楽しさと電子工作の魅力を伝える「導電性ペン」。電子回路を家庭用インクジェットプリンタで手軽に印刷できる「導電性インク」。2つの製品を通して清水さんは「モノづくりをする人たちの地位をもっと高めたい」と夢を語る。
「『エンジニアってカッコいい!』と思ってもらえるようにしたいんです。そのために、いろんな人がモノづくりを手軽に始められる環境をつくりたい。まずは子どもたちに電気や電子工作を好きになってもらう。電子工作を始めると出会う、電子回路の自作という高いハードルも下げたい。そうやっていろんな人がモノづくりを楽しめるようにしていきたい。“面白い”と思ったものがすぐつくれる。発表する場は、YouTubeとかニコニコ動画とかいろいろありますから。そこで話題になればビジネスにつながって、自分の技術やアイディアで起業できる人がもっと増えるかもしれない。そうすればエンジニアにさらに注目が集まって、『エンジニアってカッコいい』となっていくと思うんです。そうやって多くの人が自由に起業できたら面白いじゃないですか。私たちが“東大発のベンチャー”という言い方をあえてしているのも、そういう想いがあってなんです。成功事例になれば他の人もやりやすくなると思って(笑)」と清水さんは照れながらも熱く語る。
“電気”と“エンジニア”に対する愛情をたっぷり詰め込んで、この夏AgICがモノづくりの新たな道を切り拓く。

導電性ペンで手書きしたグラフが壁に貼ってある。右下の紙が電池に触れると、青と赤のLEDが点灯する仕組み。グラフは体重の変遷。ダイエット中のメンバーがモチベーションを高めるためにつくった。「PCやスマホでも体重管理ができますが、こっちの方がやる気がでます!」とのこと

●この夏発売予定のAgICの製品の詳細はこちら!

http://agic.cc/ja/

Device Plus 編集部

エレクトロニクスやメカトロニクスを愛するみなさんに、深く愛されるサイトを目指してDevice Plusを運営中。

http://deviceplus.jp

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