インタビュー

Scratch普及のリーダー・阿部和広さんインタビュー 前編

近ごろ、Scratchが気になっている読者も多いだろう。

え? 子ども向け? いやいやいや。

Scratchは、人気のこの連載にもあるように、Raspberry Piや各種サードパーティ製のツールとあわせて、デバプラ的にはかなりのことができてしまう、ロックでクールなネコちゃんなのだ(ちがう)。

念のためおさらいをしておくと、Scratchはプログラミング言語の学習環境。プログラムを書くというよりは、ブロックを組み立てることで、カンタンに何かが作れてしまうイメージだ。にもかかわらず、前述のように高度なことにも応用が利いてしまうのが、昨今の人気の秘密だろう。

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記者もこのナイスなプログラム言語のことを知りたくて、日本のScratch界の第一人者である阿部和広さんのもとをたずねた。

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アラン・ケイのこと、そして子どもたち

阿部さんは、長年プログラミング教育に尽力してきた教育者。子どもたちとのワークショップや大学での講義、また著作などを通じて、人々が学ぶこと、そして創造することを手助けしている。Scratchの日本語版は阿部さんの担当だ。

教育者になる前、プログラマーだった阿部さんが転身したきっかけは、あのアラン・ケイとの出会いだったという。

……アラン・ケイ。乱暴を承知でひと言で表すとすれば、”パーソナルコンピューティングの父” となるだろう。その後のパーソナルコンピューターのあり方に大きな影響を与えた、いわば生ける伝説。

アラン・カーティス・ケイ(Alan Curtis Kay, 1940年5月17日 – )は、アメリカ合衆国の計算機科学者、教育者、ジャズ演奏家。パーソナルコンピューティングの父、と言われることもある。主に、オブジェクト指向プログラミングとユーザインタフェース設計に関する初期の功績で知られている。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という言葉でも知られている。

http://ja.wikipedia.org/wiki/アラン・ケイ

さらに付け加えるならば、”構成主義” 、そして”構築主義” という理念に強い影響を受け、教育に重きを置いた人であること。

1968年シーモア・パパートと出会い、LISPを教育向けに最適化した方言であるLOGOプログラミング言語について学んだ。そこから発展して、ジャン・ピアジェ、ジェローム・ブルーナー、レフ・ヴィゴツキーらの業績や構成主義についても学び、それらからも強い影響を受けた。

http://ja.wikipedia.org/wiki/アラン・ケイ

構成主義(Constructivism)と構築主義(Constructionism)は、”考え方”、もしくは”立場” だ。詳細を述べれば本が書けてしまうほどで、また正確に理解するのもカンタンでは無い。よってここでは、学びの方法に限って、シンプルに記してみる。例えば、教師が生徒に、正しいことを一方的に受け渡すのが “教示主義”(Instructionism)。それに対して、生徒や子どもが、自発的に知識を発見するよう促すのが、構成主義、構築主義。

阿部さんは2001年にこのアラン・ケイに出会った。そしてその思想に共鳴し、以来、一貫して子どもたちにプログラミングを教え続けている。

「一番最初の話をしましょうか。アランさんたちが開発したSqueak Etoysを使って、初めて子どもたちのワークショップに参加した時のことです。

その時は、わたし自身、プログラミングを子どもに教えることに意味があるのか、まだわからなかったんです。しかし、その3時間で子どもたちは、想像を絶するくらい、期待以上のものをガンガン作っていました。それを見て、『なるほど』というか、得心するところがありました。それと同時に、その時に小学4年生ぐらいの子が言っていた言葉も重要です。大人に聞こえていないと思っていたのでしょうが、『先に先生が喜ぶようなものを作って、あとは遊ぼうぜ』と言っていたんです」

この言葉は、アラン・ケイが、そして阿部さんが影響を受けた 構成主義や構築主義の理念を表しているように、記者には思われる。この小学生は、それを実践していたのだ。しかも、大人の勝手な期待を軽く受け流しながら。子どもたちのポテンシャルを示すエピソードだ。

ちなみに、そのワークショップの模様は、下記サイトで見ることができる。

http://camp-k.com/wsreport/232/

http://squeakland.org/resources/audioVisual/movie.jsp?id=28

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2014年8月にロサンゼルスのアラン・ケイ氏の研究所(Viewpoints Research Institute)を訪問した時の様子。(阿部さんご提供)

 

「Scratchはホンモノの言語」

そうして教育の道を進むことになった阿部さん。近年では、主にScratchを通じて子どもたちと接している。読者の中には “Scratchは子ども専用”、というイメージを持つ人がいるかもしれない。阿部さんの見解は?

「まあ、子どもが学ぶために作られたものですからね(笑)。ただ、Scratchは言語としては “ホンモノ” です。子どもにおもねっているとか、バカにしているとか、そういうものではありません。プログラミングが初めての子どもたちがアイデアを形にすることを考えたとき、テキストベースの言語に比べて、Scratchで実現できる可能性は高いのではないでしょうか。プロトタイピングのツールとしてもいいし、目的に応じて、こんなふうに、コマーシャルクオリティのものが作れるということは証明されていますし」

もちろん、Scratchはただ高度なモノが作れることを売りにしているわけではない。Scratchのサイトを10分見て回れば、素朴なものからハイレベルなものまで、多種多様な作品が集められている。この自由さが、本領だ。阿部さんのScratchアカウントのお気に入りもおもしろい。

阿部さんのScratchページ:http://scratch.mit.edu/users/abee/

とは言え、デバプラ的にはテクニカルなものが気になるところだ。その方向性の中での阿部さんのお気に入りを聞くと、「たくさんあるけど」とことわりながらこちら↓を挙げてくれた。

http://scratch.mit.edu/projects/37337166/

消しゴムをはじいて相手を机から落とす、”ケシピン” シミュレータだ。グラフィックはなかなかにロックな感じだが、ある種の物理シミュレーションが行われていて、なにより実際に楽しめるものになっている。さらには各種センサーが載ったボードと組み合わせれば、フィジカルなゲームにもなる。クール。小学5年生の作品だというから驚きだ。

また、”Remix”もおもしろい仕組みだ。Scratchユーザーは、誰かの作品をベースにして、それを加工・Remixし、また公開できる。各作品画面の右下、ツリーのアイコンがそれ。複雑なものを作るのがシンドイと感じても、誰かのアイデアを土台にして、その上に何かを付け加えることならできるかもしれない。そこで学ぶことがあるかもしれない。

もちろん阿部さんご自身も、Scratchを使って遊ぶことがあるという。例えばこちら↓。

iPad上のScratch互換ソフト(Pyonkee)から制御できるようになっている。

わくぷろ表紙

阿部さんの著書。左下の男性は、Scratchを開発した、MITのレズニック教授。

「学びのこと、クリエイティビティのこと。そして”やってみる”こと。」Scratch普及のリーダー・阿部和広さんインタビュー 後編に続く

 

Device Plus 編集部

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