フレキシブル基板技術の最先端トレンド- 第2部

※この記事はDevicePlus.com(英語版)のこの記事を日本語訳したものです。

第1回:フレキシブル基板技術の最先端トレンド-第1部

 

フレキシブル製品

フレキシブル基板は様々な分野に応用されています。従来回路同様、フレキシブル回路にも、最終製品に求められるフォームファクターや機能に対応する各種のデザインがあります。フレキシブル基板を使用した多くの製品のうち、現在市販されている製品、あるいは開発途上にある製品を数点ご紹介します。

 

フレキシブルセンサ

現在大きく成長を遂げているウェアラブルおよびIoT分野にとって、センサは必須の要素です。そして人間の身体や環境をモニタリングする技術の拡大により、より邪魔にならず、省電力で、より小型化というフォームファクターの中で稼働するセンサが求められています。これらの要件を満たし、ユビキタスセンサのさらなる普及を後押しするもの・・・それは間違いなくフレキシブル技術でしょう。

センサとは、タイプ別にそれぞれ異なるデータを提供するものですが、フレキシブルセンサは、圧力、ガス、温度、生物学的データ、湿度、明るさ等多岐にわたる変数を網羅してモニターすることが可能です。

フレキシブル基板は、モニター装置を身体の動きに沿わせることが可能なため、特に医療分野への応用が期待されます。Flexible Circuit Technologies社製のパッチ型酸素センサは、手術中等、患者のモニタリングが必須である場合に、リアルタイムで患者の酸素レベルを測定し、生理学的機能に関するフィードバックを医療者に提供します。

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図6:Flexible Circuit Technologies社製フレキシブルプリント基板:酸素センサパッチ、LEDライトを搭載/©ArmDevices

カリフォルニア大学バークレー校が開発を進めているスマート包帯は、フレキシブル基板に小型電極が多数プリントされており、電気信号を利用して、目に見える状態になる前に皮膚状態の変化を検知します。この技術により、創傷が表面に達する前に、組織の悪化状態を知らせることができ、床ずれ防止が可能となります。

 

 

Tacterion社製のsensorskinは、伸縮自在のセンサ搭載シリコンポリマーによって、高い表面触覚感度を実現しました。キャパシタンスベース版(sensorskin C.)は感度が非常に高いため、センサとのインタラクションに物理的接触は不要です。この技術によって、どのようなものであれ3D表面を、筆記具あるいはその他のエレクトロニクス製品の制御装置として利用することができます。またセンサ層をスマートドレスやウェアラブル端末に統合することも可能です。

 

 

フレキシブル/折り畳みディスプレイ

スマートウォッチやウェアラブルリストバンドは非常にポピュラーな製品になってきましたが、硬質素材ディスプレイではサイズ上の制限のため、ユーザーの満足度や表示機能には限界があります。フレキシブル技術で手首に巻くよう成形されたリストバンドディスプレイでは、画面サイズを大きく拡大することが可能となりました。
FlexEnable社が製作したOLCD(有機液晶画面)画面の試作品は、プラスチック製トランジスタを利用しており、リストバンド製品として十分な柔軟性を発揮しています。

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図7:FlexEnable製ウェアラブルOLED画面/©The Verge

現在技術コンセプトの段階ではありますが、Lenovo社はOLED画面付湾曲リストフォンを発表しました。同製品は一連のヒンジを使用して手首周りに沿わせ、ヒンジとヒンジの間に湾曲不可能な部品を内蔵しています。

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図8:Lenovo製リストフォン試作品:ヒンジ使用設計によって電話を手首に沿った形とする/©SFChronicles

2014年、Plastic Logic社は、同社の柔軟性のあるプラスチック製AMOLED画面によって、世界OLEDコングレスから「OLED イノベーション優秀賞」を授賞されました。この技術は独自の有機薄膜トランジスタ(OTFT)を使用したもので、曲げ半径0.75 mmを達成しています。

 

 

皮膚や衣服に取り付けるウェアラブルタイプのディスプレイもまた開発されています。韓国科学技術院(KAIST)の研究チームが最近、ウェアラブルディスプレイ向けの超薄型透明酸化物フィルムトランジスタ(TFT)に関する論文を発表しました。

この研究は、トランジスタアレイを、無機ベースレーザリフトオフ装置(ILLO)を用いて、実装されているレーザ反応基板から剥離し、剥離した高性能酸化物半導体を超薄型透明プラスチック基板に置き換えるというものです。ウェアラブルディスプレイへの応用を特に企図する場合、別のフレキシブル基板で置き換えることも可能だということです。

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図9:超薄型透明酸化物フィルムトランジスタを用いたウェアラブル端末/©KAIST

同技術は開発途上であり、大量生産のためにはさらなる研究が必要です。とはいえ、展示された試作品は、ウェアラブルでフルサイズの未来の携帯ディスプレイの姿を垣間見ることのできるものだと言えるでしょう。

 

スマートドレス

耐久性の高いフレキシブル基板に回路を実装することから、フレキシブルエレクトロニクスはテキスタイルとの相性が抜群です。布製衣服にセンサを取り付ける場合、より邪魔にならない、見えにくいというフォームファクターが課題となります。

独立研究機関Holst Centreは、多岐にわたるスマートドレスを幅広く開発し、提携企業で製造を行っています。試作品には、ウェアラブルディスプレイ搭載衣服のほか、太陽光フレキシブル回路搭載による電話充電可能ドレス、LED搭載の光ファッションドレス、心拍数モニターのためのセンサ搭載スポーツウェア等があります。

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図10:「ウェアラブル太陽電池シャツ」:120枚の薄膜太陽電池モジュールが付けられており、外出中にスマート端末に充電可能。開発Holst Centre社、設計Pauline van Dongen社/©ArmDevices

 

太陽光発電

太陽電池は、より明るく、よりフレキシブルになり、表面の粗滑を問わず発電場所とすることが可能となってきました。韓国の研究チームが開発した1ミリ厚の太陽電池は、機能的完全性そのままに、鉛筆に巻き付けることも可能です。ガリウムヒ素製太陽電池を、接着剤不使用でフレキシブル基板に直接実装することで、(毛髪以下の)超薄型電池が実現しました。同電池は小型設計に適合する長時間の電源供給を必要とするウェアラブル端末や各種機器、センサの動力源として大いに利用されるようになるでしょう。

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図11:超薄型太陽電池/© Juho Kim, et al in Applied Physics Letters

従来の硬質ボディ設計から、フレキシブルなフォームファクターが求められる未来へと、今やテクノロジーの世界は大きな変革を遂げています。フレキシブル技術の進歩により、特に医療、ウェアラブルおよびIoT、センサ、スマートテキスタイルの分野において、従来の非柔軟素材では不可能だった新たな機能性が実現することになるでしょう。人間の身体や生活を連続的にモニターし、人々の経験を向上させるようになるであろう未来の世界・・・それを電源、構造、処理の面で実現する技術、それがフレキシブル技術なのです。フレキシブルエレクトロニクスに対する大きな注目や多額の補助金、これらによって同技術が広く普及する未来は、すぐそこまで来ているのです。

 

 

今回の連載の流れ

第1回:フレキシブル基板技術の最先端トレンド-第1部
第2回:フレキシブル基板技術の最先端トレンド- 第2部(今回)

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