Wearables TechCon 2016:医療用ウェアラブル、SFの世界が現実に

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©IDTechEx

※この記事はDevicePlus.com(英語版)のこの記事を日本語訳したものです。

病院のベッドに横たわる患者。つながれたチューブから送られた血液を、ベッドにかけられた数台の機器が定期的に解析する。機器は持ち運ぶことができず、患者の行動は制限されている・・・そんなシーンをテレビでご覧になったことがあるでしょう。あるいは、実際に経験された方もあるかもしれません。

この同じデータが、ウェアラブル端末に搭載された小型センサでリアルタイム、非侵襲的かつ連続的にモニターできるとしたら、どうでしょう?また、対応アプリを使えば、その有用なデータに、世界中どこからでも医療者がアクセスすることができる・・・こういったことがもう、現実のものとなってきている――それがウェアラブルの世界です。

身体機能をモニターするウェアラブル技術は、ウェルネス市場においては既に大いに市民権を得ています。心拍数モニター、フィットビット(Fitbit)、その他フィットネスデバイス等、ユーザーが自身の健康上の目的やフィットネスの目的を達成するのをこれまでになかった方法で支援してくれる製品は、いずれも大人気です。しかしウェルネスと医療とは別物です。より健康的な生活を送る一助となるという意味では求めるものは同じですが、規制、期待、成果という点において、両業界は大きく異なるものだと言わなければなりません。そのためウェルネス市場ほど容易あるいは早期にウェアラブル技術が医療市場へ浸透するということはないでしょう。

本年度のWearables TechConでは、医療用ウェアラブル技術の未来について、様々な議論が交わされました

パネルディスカッションでの貴重な意見

専門家らをパネリストとして進められた医療用ウェアラブルに関するパネルディスカッションでは、「今後の見通し:医療用ウェアラブル」をテーマに、Nanowear社共同創業者兼CEOのVenk Varadan氏がモデレーターを務めました。同社は、業界初医療グレードスマートテキスタイルの発売を予定しており、このスマートドレスSimplECGは、男性用はタンクトップ、女性用はブラジャー形で、循環器疾患患者の心電図(ECG)、心拍数、呼吸数の測定が可能です。

パネリストには、WiCis社創業者兼CEOのLeo Montejo博士、GN ReSound社、Global Audiology Relations副社長John A. Nelson博士、Spire社共同創業者兼CEOのJonathan Palley氏が並び、医療用ウェアラブルの現状および今後の見通しについての意見が交わされました。

写真1. パネルディスカッション―今後の見通し:医療用ウェアラブル

パネリストらはいずれも、不適切な規制が医療用ウェアラブルの進歩を遅らせているとの認識を示しました。ウェアラブル端末を診断ツールとして使用するためには、医療上の判断に求められる精度および正確性が必要ですが、現在、医療グレードデバイスとして適格な基準というものが定められているわけではありません。規制に関しては、米食品医薬品局(FDA)が、ウェアラブル技術の爆発的な普及に追いつくべく作業を進めているということです。パネリストらはいずれも、ウェアラブル端末製造業者らが、臨床検査を実施して自社製品を検証することが倫理上必須事項であるという意見に賛同していますが、現在かかる規制は定められていません。

ベテラン医師であるMontejo博士は、この件に関して独自の見解を有しています。医療分野でウェアラブルが発展していくためには、効率的な動力源の確保、邪魔にならないこと、医療者にとって有用なデータを提供すること・・・これらが鍵となるとしています。博士は、医療者が、ウェアラブル端末ごとにスマートフォンやタブレットの各アプリを操作しなければならないような状況は非実用的だと指摘しました。データは既存の医療インフラに統合し、標準的なプラットフォーム上でアクセス可能とし、患者のその他のデータと連携させる必要があるということです。

またNelson博士からは、ウェアラブル端末の目的は、医療者が即時使用可能なデータを提供することであり、医療者のサービスレベルを低下させるものであってはならないという意見も出されました。ウェアラブル端末は、より多くのデータをより高速、より容易に提供するものとはいえ、医療者の診断責任にまで踏み込むことがあってはならないのであり、開発にあたっては、このことを念頭に置いておくことが重要だということです。

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写真2. Spire社製iOS用マインドフルネス・アクティビティトラッカー/©Mashable

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写真3. Spire社製iOSアプリユーザーインターフェイス/©Gizmodo

パネルディスカッションではさらに、医療用ウェアラブルの発展の道筋として、既存のウェルネス技術をいかに医療グレードまで向上させるか、ということに関しても意見が交わされました。例えばSpire社の製品に、ユーザーの1日の呼吸をモニターし、ユーザーがリラックスして穏やかな気分になるようサポートする小型クリップ式ウェアラブルデバイスがありますが、あくまでウェルネス用であり、医療現場での使用は認証されていません。しかしMontejo博士からは、ウェアラブル端末で呼吸をモニターするこの技術を使えば、オピオイド鎮痛薬の過剰摂取の際、患者の呼吸停止時に緊急警報を発するという機能によって、救命が可能だという指摘がなされました。Spire社のJonathan Palley氏は、自社製品を医療グレードに向上させることも考えているとの見解を示しています。

ウェアラブル端末との連携機能によって、既存の医療機器をアップグレードするという選択肢もあります。Nelson博士によると、ReSound社はもともと補聴器や聴覚機器の製造業者であり、ウェアラブル機器に着手しようとは思っていなかったということです。ところが、自社製品の接続性を向上させ、スマート技術を活用して機能を向上させるにはどうすればよいか、という問題を検討してきた結果、携帯端末で個人に適合した聴覚を手軽に提供するというコンセプトへ到達し、微調整機能やカスタマイズ機能によって、難聴患者に健常聴覚を提供する製品が誕生するに至ったということです。

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写真4. ReSound社製補聴器/©AudiologyTV

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写真5. ReSound社製補聴器:ReSoundスマートアプリで難聴患者各人にカスタマイズされた聴覚を提供/©AudiologyTV

つまり、医療用ウェアラブルの成功のためには、高精度、高信頼性を確保すること、有用なデータを提供すること、既存医療インフラと統合すること、これらが前提となるでしょう。

Montejo博士へのインタビュー

医療用ウェアラブルの第一人者Leo Montejo博士にインタビューし、医療用ウェアラブルの課題と今後の見通しについての意見をお聞きしました。博士はハーバード大学で研修を受けた麻酔専門医であり、以前はスタンフォード大学で教授を務めたWiCis社創業者兼CEO。同社が開発した製品としては、携帯端末からの身体データを、GPS位置情報、高度情報、方位情報、テキスト、画像とともに、特定画面へリアルタイムにストリーミング配信するソフトウェアプラットフォームがあります。このプラットフォームは、全OS(Windows、iOS、Android)とも互換性を有しており、いかなるウェアラブル端末とのインターフェイスも可能ですが、実際には、同社で試験を実施し、医療グレードと評価されたデバイスに限定して販売しています。

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写真6. WiCis-Sports社製プラットフォーム搭載デバイス:いずれのウェアラブル端末も、試験で医療グレードと評価済み/©WiCis

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写真7. アンドロイド用アプリ画面:リアルタイムで身体データを表示/©WiCis

医療グレード、医療品質という言葉が出てきましたが、どういったものをそう呼んでいるのですか?

Montejo博士:FDA認証機器に限りません。FDA認証機器のほとんどは、厳格な品質保証ガイドラインを遵守しています。ですから当社では、対象端末を、日常的に医療現場で使用されているFDA認証機器と比較して、数値が等しければFDA認証でなくても医療品質であると評価しています。

ウェアラブル端末が医療グレードに値するか否かの判断のために実施されている検証方法について詳しくお話しいただけますか?

Montejo博士:当社のウェアラブル端末検証方法は非常にシンプルです。ボランティアの身体を、患者の処置に日常的に使用している手術室のモニターにつなぎます。最近発売されたあるウェアラブル端末から心拍数を検証するとしましょう。ボランティアの身体にそのウェアラブルを接続し、同時に手術室のモニターにも接続します。休息時あるいは移動中にデータ測定を実施し、1秒ごとの全データをシステムに記録します。測定後、両システムの数値が大きくかけ離れているとは言えない場合、当該ウェアラブル端末は医療品質であると結論します。

医療用ウェアラブルを対象とした規制機関はあるのですか?

Montejo博士:現在FDAのみです。業界として何らかの機関を設立し、自主規制を進めていくべきでしょう。それもFDAよりも、より実用的な方法が望ましいと考えています。というのも現在FDAの合格基準は過度に厳しいものであり、長期的には医療界に有用だと思われる業界をつぶしてしまいかねないためです。

医療用ウェアラブルと患者の安全やプライバシーに関する意見をお聞かせください

Montejo博士:ウェアラブル端末の使用にあたり、医師は20ものアプリを使い、しかもそれぞれが個別のプライバシーポリシーを定めているという現実が、既に問題です。これでは長続きしません。当社のソリューションはもともと、院内および遠隔治療での使用からスタートしたため、データはすべて「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)」に準拠しています。また、当社が開発したダッシュボードには、各ウェアラブル端末からのデータが医療者に有用な方法で表示されます。実際今まさに、ゴドウィン・オーステン山登頂を目指している登山家らから、当社のシステムを介してデータが送信されてきていますが、それもHIPAAに準拠しています。既存のウェアラブル端末が医療現場での使用を目指す場合、ソフトウェアは全てHIPAA準拠とすべきだと思います。そしてデータの表示に関しては、患者のモニターに使用している既存の画面を模した、共通のダッシュボードに統合することも必要でしょう。

トップダウン型アプローチについてお聞かせ下さい。病院インフラに関して、医療機関が、医療用ウェアラブルを外注し、既存システムに統合させるようになっていくと思われますか?

Montejo博士:そのことについては、スタンフォード、Kaiser社、Sutter社とも幾度も対話を重ねてきましたが、これらの機関はどうやらウェアラブル端末に対しての対応を決めかねているようです。ですから少なくともこれらの機関に対しては、尻尾を振っていればそれが犬全体を動かすことになる、と考えることにしました。つまり、スタンフォードがウェアラブル端末を採用するようになるためには、まずパロアルト地域のコミュニティが日常的にウェアラブル端末を使用するようになり、そのデータを当社が所有するという状況を作るということです。そうなればスタンフォードへ行って、当社のデータを使用すれば、患者は入院の必要が無く、コスト削減につながりますよ、と言うことができます。ウェアラブル端末の流れの方向性は、病院から地域コミュニティへ、ではない、ということです。

プライバシー、規制、データ品質といった多くの課題に直面しつつも前進しようとしているエンジニアたちに一言お願いします。

Montejo博士:データの有用性が臨床的に検証できれば、ウェアラブル端末の医療認証も実現すると思っています。臨床検査を全く実施していないウェアラブル端末が非常に多いというのが現状で、著名な企業の製品でさえそういった状況です。有用性に関する科学的な証拠がほぼ皆無であるビタミン剤やホメオパシー医療の轍を、ウェアラブル端末に踏ませてはなりません。

展示会場

Si-Cal Technologies社からは、iNeedMD社用心電図グローブが展示されていました。1回限りの貼って剥がすタイプの同グローブは、分かり易いデザインで、セットアップも簡単、2分間の12誘導心電図を作成することが可能です。センサとプリント基板が埋め込まれており、正確な配置が可能で、リード線の反転も防止します。データは解析ソフトへ無線、有線いずれでも伝送可能。さらに、ラテックスフリーの廃棄可能素材で、二次汚染のリスクを低減します。コストの削減、携帯性の向上を実現した同製品は、従来機器が使用できない状況での救命に有効です。

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写真8. Si-Cal社製iNeedMD社用心電図グローブ

エキサイティングな医療用ウェアラブル

Wearables TechConから逸れますが、医療用に開発された驚きのウェアラブル端末をいくつかご紹介しましょう。紹介するのは氷山の一角に過ぎません。ウェアラブル端末は実に幅広い分野に応用されています。

1.HealthPatch MD

Vital Connect社製小型バイオセンサパッチは、邪魔にならず不快感をもたらさない形状で心拍数、呼吸数、皮膚温度、体位、転倒検知、活動(段差等)等、多くの情報をモニターし、有用なデータを大量に提供する製品です。再利用可能センサを用いた使い捨てパッチで、家庭でも、あるいは入院、外来でも使用可能です。米国国内使用に関してはFDA認証を取得しており、カナダ、欧州、日本での使用も認められています。

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写真9. HealthPatch MD/©Vital Connect

2.Quell

医療用ウェアラブルは、とかくセンサによるモニターに重点を置きがちですが、NeuroMetrix社製のQuellは、慢性疼痛に対する強力な治療効果を有する製品です。Quellからは、最大電圧100ボルト、最大電流100ミリアンペアの二相対称波形が出力されており、おしゃれなベルトで下肢に装着すると、ふくらはぎ上部の知覚神経が刺激され、信号が脳へ送られ、鎮痛反応を励起します。FDA認証製品で、睡眠中か活動中かに応じた治療レベルに自動調整可能。またBluetoothでモバイルアプリに接続することで、ユーザーがデータを確認し、療法を管理することが可能です。

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写真10. Quell:ふくらはぎ上部に装着し、24時間慢性疼痛から解放する/©Semiconductor Intelligence

3.Analog Devices社製ウェアラブル健康評価プラットフォーム

意欲的なウェアラブル開発会社Analog Devices社からは、ユニークな腕時計型ヘルスモニタリングプラットフォームが販売されています。光学センサによって心拍数、電気皮膚反応の測定が可能な埋込型システムで、超低電力消費を実現しています(40 µA/MHz未満)。データはBLEラジオ波でクラウドへアップロードも可能です。Blipと呼ばれる画像システムを搭載しており、一人暮らしの高齢者のモニターにも有効です。

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写真11~12. Analog Devices社製ヘルスモニタリングリストバンド/©Analog Devices

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写真11~12. Analog Devices社製ヘルスモニタリングリストバンド/©Analog Devices

4.ATO-Gear、Quad Industries社製歩容解析センサ

新進企業ATO-Gear社がQuad Industries社と共同開発したプリント感圧インソール。足裏8ヵ所に埋め込まれた圧力センサが、毎秒数千枚ものスナップショットを撮影し、フットストライク(歩容)を測定します。データはBluetooth送信機からスマートフォンに送信可能で、ユーザーはARIONアプリを使って、歩容解析結果をリアルタイムで受信できます。

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写真13. Quad Industries社製感圧インソール/©IDTechEx

スマートドレスであれ、ヘッドバンド、リストバンド、パッチあるいはそれ以外の形状であれ、医療用ウェアラブルによって将来、携帯性、非侵襲性、リアルタイムデータ送信、連続モニター、接続性はさらに向上するでしょう。SFの世界が急速に現実のものとなってきているのです。

執筆:Amanda Mintier

Wearables TechCon 2016シリーズ:

Device Plus 編集部

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