生体電子工学:ニューラルダスト-脳と体のインターフェイスを実現する超音波ニューラルセンサ

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©UC Berkeley

※この記事はDevicePlus.com(英語版)のこの記事を日本語訳したものです。

カリフォルニア大学バークレー校SWARMラボがこのたび、ホコリほどの大きさしかない超音波ニューラルセンサを開発したと発表しました。0.8 x 3 x 1 mmのこのインプラント型微細ニューラルセンサは、末梢神経系内で筋肉、神経、臓器の電気生理学的データをリアルタイムに読み取ることが可能です。ワイヤに接続して使用する従来型のインプラント型電極と異なり、同センサは無線かつバッテリー不要、さらに超音波通信式となっています。超音波は、ミリ単位以下の微細デバイスへの電源供給、データの伝送に非常に有効です。

ニューラルダストってどんなもの?

研究チームによると、「浮遊性で独立したミリ単位のセンサノードで、超音波後方散乱により、局所の細胞外電気生理学的データを検知、読み取る」能力を有するものを指しています。

この新技術はエレクトロシューティカル(電子薬学)技術、すなわち生体電子工学療法への道を開くものです。無線センサによって、筋活動、神経活動からそれぞれ筋電図(EMG)信号、神経電気記録図(ENG)信号を検知、処理します。また記録データに基づき、体内免疫系を刺激したり、炎症を改善したり、てんかん等の疾患の進行を防いだりすることも可能です。

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図1. ニューラルダストセンサの各部/©Dongjin Seo et al., 2016

ニューラルダストシステムは、フレキシブル基板上に実装されており、その主要構成部品は、ピエゾ素子、カスタムトランジスタ1点、神経信号測定電極1対です。システムの一部である外部超音波送受信ボードにより、540ナノ秒パルス6回を1周期とする超音波エネルギーを当て、反射パルスを受信することで、センサへの電源供給および通信を行います。超音波エネルギーによるピエゾ素子の振動が、外部で生じた超音波の動力を電気へ変換し、それがトランジスタへ伝えられます。

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図2. ニューラルダストの実装/©Dongjin Seo et al., 2016

ニューラルダストセンサの実装プロセスを図2に示します。厚さ50 mmのポリイミドフレキシブルPCB(黄色)上面に、ピエゾ素子(灰色:0.75 x 0.75 x 0.75 mm)およびカスタムトランジスタ(緑色:0.5 x 0.45 mm)をワイヤボンディングした後、医療グレードのUV硬化導電性銀樹脂のカプセルに内包します。部品同士の電気接続には、アルミニウムワイヤによるボンディング、導電性金トレースを使用します。

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図3. ニューラルダストセンサの各部/©Dongjin Seo et al., 2016

基板裏面の金製導出パッドは露出した状態で、筋肉、神経と直接接触し、電気生理学的信号の導出、記録を行います。

ニューラルダストセンサの信号受信方法は?

筋電図(EMG)信号の導出のため、「ホコリ」サイズのニューラルダストセンサを腓腹筋に埋め込み、神経電気記録図(ENG)信号導出のため、坐骨神経の神経上膜(最外部層)に接触させます。超音波パルスが外部変換器からピエゾ素子へ伝送されトランジスタへ電源供給を行うため、バッテリーは不要です。神経または筋肉からの活動電位(電圧)を一対の電極で受け、トランジスタへ伝送します。伝播された超音波エネルギーがピエゾ素子を振動させ、その振動が超音波「後方散乱」信号を生成し、それが電極によって電気生理学的電圧にエンコードされます。最終的にこの電気生理学的信号をデコードして、EMG、ENGデータとして受信します。

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図4. ピエゾ素子(銀色の立方体)を搭載した微細センサ/©UC Berkeley

外部超音波送受信機を使用してニューラルダストに電源供給し、かつダストと通信する現在の研究は、末梢神経系への埋め込みが前提となるものですが、研究者らによると、ニューラルダストを中枢神経系や脳に埋め込むことも可能だということです。さらに神経系人工装具の機能制御に貢献できる可能性も有しています。さらにサブミリメートル単位までの小型化や、生体適合性薄膜を用いてセンサを製作する研究も進められており、そうなると耐劣化性は向上し、10年以上体内で稼働可能なセンサが実現するでしょう。

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