ROHC2018 優秀作品インタービュー【Vol.2】

ライブ演出経験のあるエンジニア2人が目をつけた「Sub-GHz帯無線通信技術」

 

第1回:某自動車会社の若手技能員が、楽しいモノづくりの世界で生み出した乗り物〜ROHC2018 優秀作品インタビューVol.1〜

 

ROHM OPEN HACK CHALLENGE(ROHC)」 は、ローム製のセンサやマイコンボードを駆使してプロトタイプ作品を募集するコンテスト。2018年は6月から8月にかけて作品を募集し、優秀作品は、賞金がもらえると同時にCEATEC JAPANのロームブースにて展示。来場した多くの方に作品が紹介されました。

そのROHC2018で優秀賞の一つを獲得したチーム「CrappySound」に、受賞作品となった「CrappySound」に対してのこだわりや、開発時に苦労した点などを伺ってみました。
「CrappySound」は、玩具のクラッピー(Crappy)をコントローラーとして用いた音ゲーと、自動演奏するクラッピーと2種類の楽しみ方のある作品です。

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──どんなチームでこの作品を作ったのですか?
2017年に開催されたミュージシャンズハッカソンに参加した縁で結成した、緒方・竹内の2名で構成されたチーム。どちらも守備範囲の広いエンジニアです。
・緒方:今回はVR(3DCG系)、画面の演出、アプリ全般を担当。専門はVR(3DCG系)やAI(自然言語処理が主)。
・竹内:今回は筐体、コントローラ部分を担当。専門は触覚デバイスの開発ですが、ハードウェアから、ちょっとソフトウェアまでやります。

──ミュージシャンズハッカソンとは?
ミュージシャンとエンジニアが参加して、音楽・エンタテインメントのテクノロジー演出を進化させるハッカソンです。プロのアーティストと一緒に作品を作ることに興味があり、エンジニアとして参加しました。こちらのハッカソンです。→ Musicians Hackathon for 「TECHS」Vol.02 ブログ
今回のチーム結成はROHCの一環で開催されたハッカソンに、二人とも個人で参加していたのがきっかけですが、最初の縁はこちらのミュージシャンズハッカソンでした。そのハッカソンで出会ったミュージシャンのライブ演出を一緒にお手伝いしたこともあります。

──どのようなライブ演出をされたのですか?
竹内:ボイスパーカッションとルーパー(短いフレーズを録音し、そのフレーズを再生しながら、音を重ねていき、一人で多重録音していくことができるエフェクタ)をかけ合わせた作品の演出をお手伝いしました。
緒方:HTCVive Trackerとプロジェクションマッピングをつかったダンサー向け演出システムをお手伝いしました。ライブ演出つながりでいうと、MBSハッカソンでは、お笑いのライブ演出をVRで体験する作品を作ったこともあります。そして、最優秀賞をいただきました。

広いライブ会場などで使えるような「Sub-GHz帯無線通信技術」に着目

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──今回ROHCで賞を獲得した作品について詳しく教えてください。
音ゲーと、自立演奏端末の2種類が楽しめる「CrappySound」という作品を作りました。
音ゲーは、玩具のクラッピーをコントローラとして活用しました。トリガーを引くタイミングをクラッピーの背中のタイミングバーの点灯で示すことで手軽なハンドクラップの演奏支援を実現します。 ハンドクラップによる演奏結果は採点もされ、映像演出にも反映されます。
通知の送受信にはホスト端末はLazurite Sub-GHz(ラズライト サブギガヘルツ)を、コントローラ側はLazurite 920J(ラズライト 920J)を利用しています。Sub-GHz帯無線通信技術が利用できるところに目をつけました。
この仕組みは、他との混線も少ないため、音ゲーだけでなく、広いライブ会場などでのアーティストとユーザーを結び付けるツールとしても活用できると考えています。
【活用例】
– カラオケで聴衆の盛り上げ度合いの採点
– アイドルライブの演出
– バラエティ系イベント
– 楽器の教材
– ゲーセンでの体感ゲーム、等々
また、自立演奏端末としてのクラッピーは、生演奏を実現しています。こちらは、サーボやソレノイドの信号線を配線する必要があったので、配線を取り回ししやすいLazurite Sub-GHzを採用しました。活用例としては、イベントやお店運営で場を盛り上げ、集客効果を期待できます。

【CrappySoundの特徴】
– Lazurite Sub-GHzとLazurite 920Jによる音ゲーのための演奏操作指示・コントローラの握りこみ通知の送受信
– Lazurite Sub-GHzによる自動演奏端末への演奏コマンドの無線配信
– コントローラ端末から受信した演奏操作タイミングの採点・評価
– 映像演出のレンダリング
– 自動演奏のシナリオ制御

(左)音ゲークラッピー(コントローラー)の機構 (右)自立演奏端末クラッピーの機構

(左)音ゲークラッピー(コントローラー)の機構 (右)自立演奏端末クラッピーの機構

詳しくはこちらの動画をご覧いただけるとわかりやすいかと思います。

──なぜこの作品を作ろうと思いついたのでしょうか?
二人が知り合ったのは、ミュージシャンズハッカソンという音楽・エンタテイメント系のハッカソンイベントでした。ROHCの一環で開催されたハッカソンで再会し、アイデアを交換する中で「玩具のクラッピーを用いて音楽演出ができないか」となり、音ゲーをコンセプトにした作品「CrappySound」となりました。
ハッカソン後も改良は続き、ROHCの応募までに自動演奏の機能を加え、CEATEC JAPANでは映像演出の抜本的な見直しを行うなど、着実な進化を続けています。

──映像演出の抜本的な見直しとは、具体的にはどのような見直しがされたのでしょうか?
最初は特定のCG演出のみでしたが、CEATEC JAPANでは外部から動画を取り込んで、CG演出の一部とする機能を追加しました。

──どんな点にこだわりましたか?
全体の仕上がりにこだわりました。
最終的なアプリケーションで使用しているコンテンツはUnityとTouchDesignerを使用した演出となっています。そして、この演出に合うような曲を選曲しています。
筐体もこだわっており、自立演奏端末のクラッピーを固定するための土台は、レーザーカッターで加工し、塗装して仕上げています。

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──開発にあたり、苦労した点はありましたか?
無線通信の安定性が課題でした。
また、電源供給方法においても試行錯誤しました。最初は電池駆動による自動演奏にこだわっていましたが、対費用効果を考えると、ここは電源タップからの電源供給で割り切ることも必要だったと今は考えています。
そして、マイコンとサーボへの電源供給をそれぞれ分離し、マイコンの安定動作を図るといった設計面での見直しは今後の改善点の一つです。

──今後の展開について
緒方:個人的には、新しいカラオケ採点システムに使えたら面白いなと思っています。歌っている人だけのカラオケ採点でなく、聞いている人の盛り上がりを含めて採点するような。その場合、広いライブ会場などで活躍するSub-GHz帯無線通信技術の必要性はなくなるんですが(笑)。
また、自動演奏端末はもう少し改造して、他の展示の客寄せに使ってしまおうかと画策中です。実用につなげるの大事だと思っています。

竹内:本職は触覚技術なので、できればその要素も加え、イベントなどで使えるコントローラに仕立てられないかなと妄想しています。

ROHCに参加してみて

──ロームのどのデバイスを利用しましたか?
Lazurite Sub-GHzとLazurite 920Jを使用しました。
音ゲーによる演出を実施するうえで、省電力デバイスであり、かつ広いライブ会場などで使えるような無線通信手段として最適と考えたからです。

──ロームデバイスの特徴や今後使用される方にとって有益な情報があれば教えてください
音ゲー用コントローラーにLazurite Sub-GHzとLazurite 920Jを使用する場合、前述したように「広い会場で」使用するのに適しているかと考えます。
一方、狭いスペースでの無線通信が目的であれば、他の通信手段も併せて検討すべきでしょう。
Lazuriteシリーズは省電力・長距離通信に優れたマイコンボードをもつ一方、まだ動作に癖があるように感じます。開発をする際には、まず基本通信機能の確認から着実に進めるのが良いかと思います。

──ROHCに参加したきっかけを教えください
緒方:Sub-GHz帯の通信モジュールを試してみたかったのと、以前のハッカソンで対戦チームだった竹内さんや池澤さん(今回は審査員)、MBSハッカソンの審査員をされていた小笠原さんなど、知り合いが多く関わっていたので参加してみました。

竹内:クラッピーチャレンジというクラッピーを改造するムーブメントにはまっていて、小さくて無線通信が簡単にできる、かつ高機能よりは省電力に振ったデバイスはないかなと探していたところ、単体でスマホと連動するセンサメダルに目をつけ、ROHCにたどり着きました。
最初はセンサメダル目当てだったのですが、メダルのハードウェアはハックできないとのことで、Lazuriteに鞍替えしました。

※センサメダルとは、加速度、気圧、地磁気、照度、磁気、温湿度の計6種のセンサを搭載した基板。今回開発に仕様したセンサメダルはすでに販売を終了していますが、後継機種(SensorMedal-EVK-002)が展開されています。

──ROHCに参加していかがでしたか?
緒方:CEATEC JAPANへのプロダクト展示は今まで経験がなかったので、良い経験になりました。また、他の受賞作品のアイデアに、本業(家電メーカー)でも参考になりそうなものがあったのも収穫でした。winOpen(気圧利用防犯センサ)仕組みは、なるほどなと思いました。

竹内:無線関係は、イベントなどで混線トラブルになるもとなので今まで毛嫌いしていたのですが、Lazurite Sub-GHzとLazurite 920JはSub-GHz帯ということで他との混線も少なかろうということで使ってみました。実際Maker Faire Tokyo 2018に展示したときも会場の端までいってもちゃんとつながっていることを確認でき、これは素晴らしいと感じました。

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──来年以降、ROHCに参加する方にメッセージをお願いします
緒方:人間、好きなことを楽しんでやる方が良い結果に結びつきますし、得るものも多いと考えています。来年も開発を楽しみましょう!

竹内:こういったイベントは参加者と企業がともに育っていくことに価値があると思っています。みんなで切磋琢磨して、もっと楽しいものを、もっと作りやすく、そしてもっとたくさんの人が集う場にみなでしていきましょう!!

 

 

今回の連載の流れ

第1回:某自動車会社の若手技能員が、楽しいモノづくりの世界で生み出した乗り物〜ROHC2018 優秀作品インタビューVol.1〜
第2回:ライブ演出経験のあるエンジニア2人が目をつけた「Sub-GHz帯無線通信技術」〜ROHC2018 優秀作品インタービューVol.2〜(今回)
第3回:エンジニアリング+ゲーミフィケーションで「エアコンのもったいない」を解決する高校生〜ROHC2018 優秀作品インタービューVol.3〜
第4回:2〜3台の気圧センサとマイコンで作れる家庭用簡易防犯システム〜ROHC2018 優秀作品インタビューVol.4〜
第5回:カラーセンサで好きな色を読み取り、5色の絵の具で色を再現~ROHC2018 優秀作品インタービューVol.5~

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2 歩先の未来について考える「TheWave湯川塾」の事務局や、オープンイノベーションを促進する日本最大級の開発コンテストである「MashupAwards」を運営する一般社団法人MAの理事などでコミュニティ運営を行いながら、最新のサービス動向や技術に接している。 また、シビックテックメディア「CivicWave」の主宰者でもあり、本の執筆やブログなど、ライターの仕事も行っている。

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