ロボコニストの間で話題になっている力作『闘え!高専ロボコン ロボットにかける青春』。その著者・萱原正嗣さんによる大会観戦記をお届けする。
大会のあの一戦で何が起こっていたのか。その時、メンバーは何を考えたのか。大会後の当事者の声も交えて、テレビではうかがい知ることができない、書籍で取り上げられた4チームのストーリーに迫った。
■前編:『闘え!高専ロボコン』アフターストーリー 高専ロボコン2017 “前夜” 編
『闘え!高専ロボコン: ロボットにかける青春』
萱原 正嗣 (著), 全国高等専門学校ロボットコンテスト事務局 (監修), 見ル野 栄司
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ディフェンディング・チャンピオンを襲ったトラブル
2017年の第30回高専ロボコン全国大会は、波乱含みの展開となった。
拙著の『闘え! 高専ロボコン』で紹介した5チームのうち、今年の全国大会に進んだのは高松・詫間・奈良・小山の4チーム。最初に試合を行ったのは高松(香川高専高松キャンパス)「Sundogs」だ。昨年の全国大会優勝チームにして、一昨年も決勝に進んだ強豪校である。今年も、全国大会最多優勝の詫間(香川高専詫間キャンパス)、2年連続ロボコン大賞の奈良、テストランでいいパフォーマンスを見せていた大分などと並び、優勝候補の一角と目されていた。
高松のマシンは、揺れ動く風船を掃除機のように吸い付け、吸引口に取り付けたヤスリで風船を割る機構が特徴だ。対する徳山(山口県)「がる男」は、県特産のフグの皮をつけた秘密道具を持つ。
この試合、高松は序盤から苦戦を強いられる。試合開始30秒近くで、高松のマシンの1台がすべての風船を割られ、動けなくなった。1対2で不利な戦いを強いられることになった高松に、その10秒ほど後にさらなる悲劇が襲う。もう1台のマシンが突如動けなくなってしまったのだ。
徳山の2台のマシンは、ノーガードになった高松の本陣とマシンを容赦なく攻撃する。1分40秒ほど、高松のもう1台のマシンの風船がすべて割られて勝負がついた。ディフェンディング・チャンピオンに早々と土がつく展開に、会場は驚きで包まれた。
敗戦後の会場インタビューで、ワイルドカード(敗者復活)への期待を表明した高松の選手たち。だが、ほとんど何もできなかった試合展開で、ワイルドカードに選ばれる可能性が低いことは、本人たちがいちばんよく分かっていたのではないだろうか。
試合後、廣本宗優(むねまさ)さん(5年生)に話を聞いた。廣本さんは昨年の優勝チームのリーダーで、今年はピットクルーとして3年生主体のチームを支えてきた。
「マシンが止まったのは、練習で何回か起きていたトラブルです。マイコンのリセットがかかってマシンが動かなくなる。搬送1週間前に最後の直しをして、そのあと練習では問題なかったので、直ったものと思っていたんですが……。こういうのはやっぱり本番で出るんですね」と悔しそうに試合を振り返る。
高松は四国地区大会の後、マシンの足回り強化のため、地区大会の準決勝で詫間に敗れたBチームの足回りを移植した。そのBチームのマシンでも、回路が止まるトラブルは起きていた。過電流によりヒューズが切れ、マシンが動かなくなるトラブルだ。
「回路はもともとAチーム(全国大会出場チーム)が使っていたものを使い、ヒューズを大きくして対策をしました。ただ、電流が大きくなった分、ほかのところに負荷がかかってマイコンリセットがごく稀にかかるようになっていました。その問題を潰しきれませんでした……」と廣本さん。
5年生の廣本さんは、チームの将来を見据えてこうも語る。
「こういう何もできない悔しい負け方をするのは、2014年の『出前迅速』のとき以来です。いまの3年生はこういう悔しさをこれまで味わったことがありません。今回の敗戦をいい糧にして、来年以降につなげていってほしいと思います」
「魅せる」ロボットへのこだわり
1回戦第5試合、続いて小山(栃木県)の「海底忍魚隊」が登場した。「魅せること」にこだわった、深海生物のメンダコとチョウチンアンコウを模したマシンは愛嬌たっぷり。メンダコの足とアンコウのチョウチンにはそれぞれ秘密道具と刀が付けられている。
対する松江(島根県)の「八百万の亀々」は、マシン本体と紐でつながった子機がフィールドを縦横無尽に駆け回り、風船を各個撃破するユニークな機構を持つ。
小山は序盤から「魅せる」ロボットの持ち味を発揮する。アンコウが飛び道具を発射し、メンダコの秘密道具で相手本陣の風船を割る。そして、メンダコを膨らませる見せ場も全国大会の場で披露した。
なお、メンダコに取り付けられた秘密道具の足は、これも深海生物のチンアナゴをかたどっている。当初は3台目のマシンとして製作を予定していたが、チームの人手が足りずに2台に絞った。その代わりに、チンアナゴを秘密道具として実装したのだ。
試合後、リーダーの福林明日香さん(4年生)の表情は思いのほか明るかった。
「飛び道具を打てましたし、メンダコで風船も割って、スムーズに膨らませることもできました。自分たちのやりたいことはできました」
だが、ひとつ悔やんでいることがあるという。
「メンダコ1台で本陣を攻める練習をしていなかったのが、今となっては心残りです。私たちのマシンはそれほど強くないので、メンダコとアンコウ2台がノーマークで相手本陣を攻撃できると思っていました。今日はアンコウの進路が妨害され、メンダコ1台で本陣を攻撃しなければならなくなりました。その練習ができていたら、少し違った展開にもなったのかな……」
「魅せること」にこだわってロボットをつくってきた福林さん。その福林さんがライバル視したのが福島の「カエルの為に腕は鳴る」のロボットだ。カエルを模したマシンの手は、人が前後左右に動かした腕と同調して動く「マスタースレーブ方式」のコントローラだ。
「デザインがかわいいですし、マスタースレーブのアイデアも面白いなと。デザイン賞やアイデア賞で私たちのライバルになるのかもしれません」
大会最後の表彰式で、小山の「魅せる」ロボットはデザイン賞に輝き、福島は特別賞(ローム)を受賞した。
圧勝の後の落とし穴
1回戦第9試合には詫間「Impact」が登場、函館の「函館三景」と対戦した。
この試合、詫間は相手を寄せ付けない強さを見せた。圧巻だったのは、複数のハエたたき素早く動かし風船を割る「Mother」だ。動きを邪魔しようとする相手のマシンをパワーで寄せ付けず、開始わずか20秒ほどで、相手本陣の風船をすべて撃破した。X型アームで本陣の風船の一網打尽を狙う「Eclipse X」は温存しての勝利だった。
2回戦では、満を持して「Eclipse X」を投入。ハエたたきの「Mother」との組み合わせで試合に臨む。対するは一関(岩手県)の「しの☆もん」。8本の長い腕を2本ずつX型に配した「おろっち」(八岐の大蛇がモチーフ)と、X型アームを備えた「どらっち」(ドラゴンがモチーフ)の2台のマシンが詫間を迎え撃った。
試合は序盤から予想外の展開を見せる。対戦型の今大会は、ロボットどうしの衝突が認められている。開始早々一関本陣に迫ろうとする「Eclipse X」目掛け、「おろっち」が「X」の左斜め前方から突進する。「X」を操縦する森拓人さん(5年生)が「避けきれない」と思った直後、「X」は「おろっち」に当たられ転倒した。試合開始10秒ほどのことである。
「『X』のパワーの方が上だと思っていましたが、バランスを崩してしまいました。斜めから当たられた影響もあるのかもしれません」と森さん。
このとき、「X」と「おろっち」の腕が絡まり2台は動けなくなる。その後、「Mother」と「どらっち」も交錯して動きが止まり、審判から「待て」がかかる。交錯したマシンは引き離すためだ。このとき開始20秒ほど。
だが、マシンは引き離せても、体勢を変えることは認められない。「X」は倒れたまま起き上がれず、詫間は1対2で残り時間の戦いを強いられた。「X」を操縦できなくなった森さんは、声を張り上げ、フィールド脇を駆けずり回り、身振り手振りも交えて仲間に指示を出す。
この時点で、本陣に残っている風船の数は詫間の方が少ない。このままでは詫間の負けだ。「Mother」は自陣を捨てて一関本陣を目指すも、またも「おろっち」が立ちはだかる。フィールド中央で揉み合いを続ける両マシン。その間、「どらっち」が詫間本陣にX型アームで攻撃を仕掛け、詫間本陣に残る風船は2個となった。
だが、詫間も脅威の粘りを魅せる。「Mother」が自慢のハエたたきで一関本陣に迫る。
逆転勝利もあるかと思えた開始50秒ほど、必死の追撃もあと一歩及ばず、詫間本陣の風船がすべて割られた。森さんはフィールド横の床に突っ伏し、床を何度も叩いて全身で悔しさを表現した。
潰えた大記録の夢
奈良の「万里一空」は2回戦からの登場だ。「万里」と「一空」の2台のマシンからなる。どちらもムチのようにしなる腕を持ち、それぞれ特徴ある秘密道具も備える。
この試合、対戦相手の呉(広島県)の「猪鹿蝶」は、ほとんど何もさせてもらえなかった。開始早々、「一空」が呉本陣の横手にまわり、ムチのようにしなる腕で次々と風船を撃破する。その精度は高い。試合開始わずか14秒、この日最速のタイムで試合を終わらせた。
準々決勝第2試合、奈良は石川「疾風蟹」と対戦した。石川は名産の蟹になぞらえ、両手のハサミをX字に開いて本陣を割るマシンを「折蟹」を2台揃える。筆者にはカニではなくエビのように見えるのだが、それはマシンの性能とはまた別の話である。
試合序盤、奈良が有利に試合を展開する。「万里」と「一空」がともに相手マシンを相手陣地に押し込み、「一空」が長いしなる腕を伸ばして本陣を攻撃する。開始30秒ほどで本陣の7つの風船を割った。
だが、そこから石川も反撃を見せる。「折蟹」Aが「一空」を石川本陣から押し返し、もう1台の「折蟹」Bも「万里」を押して奈良本陣に迫る。ここで、「一空」と「折蟹」Aが交錯して両者の動きが止まる。その間、奈良本陣近くで「万里」と1対1の攻防を繰り広げている「折蟹」Bが奈良本陣の風船を4つ割ることに成功。その後、この2台も交錯して動きが止まり、1分20秒に審判の「待て」がかかった。
思わぬ展開が待ち受けていたのは、試合再開後のことだった。1分40秒ほど、「一空」が「折蟹」Aに押し倒されて動けなくなる。「一空」を操縦していた久米弘祐さん(4年生)によれば、「相手マシンのバンパーに足元をすくわれるような格好になった」とのことである。
この時点で、相手本陣の風船を割った数は奈良が7つに石川が4つ。1対2の攻防を強いられた奈良は、守りに徹して逃げ切る作戦もありえたが、「万里」は残り3つの風船を割ろうと石川本陣に迫る。しなるムチの腕は強力で、早々に2つの風船を割ったが、残り1つがなかなか割れない。その間に、石川が奈良本陣でX攻撃を仕掛けて風船をすべて撃破した。
このときの状況を、久米弘祐さんは次のように振り返る。
「残り1個の風船は、空気が抜けて萎んでいました。そうなるとまず割れません。あの状況で取るべきだった手は、自陣の風船を守り抜くことでしたが、風船が萎んでいることに気づかず相手本陣に攻撃を仕掛けてしまった。その判断ミスが敗因です」
試合後、優勝を逃した要因を、久米さんは次のように分析した。
「大会全体を通して見れば、対戦型の試合に適した練習が足りなかったことが敗因です。例年の競技はセパレート型で、そのときは1回1回の質を高めた練習を行ってきました。今年も例年と同じような練習をしていて、相手の動きに臨機応変に対応する練習をしていませんでした。来年以降のルールがどうなるかは分かりませんが、勝ち続けられるチームであるために、後輩たちには今年の敗戦を活かして頑張ってほしいと思います」
表彰式、3年連続ロボコン大賞の大記録はならなかったが、パワフルなマシンは技術賞に輝いた。
ワイルドカード復活のその後
準々決勝第4試合には、「ワイルドカード」で復活した詫間が登場した。「ワイルドカード」は、1回戦・2回戦で敗れたチームのなかから1チームが準々決勝に進める仕組みのこと。2回戦終了後に行われた該当チーム発表時、「詫間」の名が呼ばれると、ピットでは歓喜に包まれた。
詫間は2回戦での敗戦の悔しさを晴らすべく、本陣一撃必殺の「Eclipse X」と、ハエたたきの威力がすさまじい「Mother」の2台で試合に臨む。対するは、前評判の高かった大分を2回戦で破った北九州(福岡県)「ReVictor」。奈良のマシンに似たしなる腕を持つ同タイプのマシン2台を並べるチームだ。
開始早々、両チームのマシンがフィールド中央で激しくぶつかり合う。パワーで勝ったのは北九州だ。詫間の2台はジリジリと自陣に押し返される。この展開に、「X」を操縦していた森さんは焦りを感じた。
「相手マシンを押し込み、相手陣地に攻め込むのが僕らの必勝パターンです。マシンのパワーには自信があったので、僕らが動きを止められるどころか、押し返されるとは思ってもいませんでした」
開始20秒ほど、「X」はなんとかマシンAを交わして相手本陣に迫る。その間、「Mother」は自陣本陣近くで、もう1台のマシンBの風船をすべて撃破していた。
このまま勝負あったかと思えたが、「X」は相手本陣前でもたつき、なかなかX攻撃を繰り出せない。そうこうするうち、詫間本陣に迫っていた北九州のマシンAが、しなる腕で本陣の風船を次々と割っていく。「Mother」は懸命にそれを防ごうとするが、北九州の攻撃はそれを上回った。開始30秒で詫間本陣の風船がすべて割られ、勝負がついた。
いったい、「X」に何が起きていたのだろうか。森拓人さんは、「あのとき、2つのミスを犯してしまった」と振り返る。
「相手をどうにか振り切ったものの、また追いつかれるかもしれないと焦っていました。スピードを出しすぎて、本陣へのアプローチを間違えてしまいました。X攻撃を繰り出すには本陣への近づき方が重要なのですが……」
もうひとつのミスは、「Mother」が相手のマシンを倒していたことに気づけなかったことだという。
「あの展開なら、『X』と『Mother』の2台がかりで相手のマシンを狙って攻撃すべきでした。それに気づけず本陣攻撃にこだわってしまったのも敗因のひとつです」
また、2回戦と準々決勝での2度の敗戦を、森さんは次のように総括した。
「一番の大きな敗因は、自分たちのマシンの足回りのグリップ力を過信していたことです。一関戦でも結果的には当たり負け、北九州とのぶつかり合いでは力の差を感じました。来年以降は、他チームの足回りをもっと研究していく必要があります」
だが、森さんは5年生。その課題に向き合えるのは後輩たちだけだ。
「来年は、僕らが去年・今年と逃した四国大会の優勝を成し遂げてほしい。高松の3連覇を阻んでほしい」
森さんは、後輩たちに思いを託した。
ロボコン戦国時代の幕開けか
準決勝第1試合は、奈良を倒した石川「疾風蟹」と、長岡「新鮮組」の対戦。石川の2台がともにカニ、長岡はタコとカニの組み合わせという海洋動物どうしの戦いである。結果は、石川「疾風蟹」がわずか28秒で勝利。カニのハサミを使ったX攻撃で試合を決めた。
準決勝第2試合は、詫間を倒したチームどうし、一関「しの☆もん」と北九州「ReVictor」の戦いだ。北九州が一瞬の隙を見て相手本陣に迫り、防御にまわった一関をものともせず、ムチのようにしなる長い腕で容赦なく本陣の風船を撃破。1分ほどで勝負がついた。
決勝のカードは、石川「疾風蟹」と北九州「ReVictor」。本陣を巡って一進一退の攻防が見られたが、次第に北九州が押し始める。開始50秒、北九州のマシンのしなる長い腕が、石川本陣の最後の風船をとらえた。北九州は10年ぶり3度目の栄冠、詫間の4度に次ぐ優勝回数だ。
表彰式、栄えあるロボコン大賞には、2回戦で北九州に敗れた大分「マリンビート」が輝いた。大分は初の大賞受賞である。
評価のポイントは2つ。ひとつは、軽さと強さを兼ね備えたハニカム構造のプラスチック段ボールをマシンの躯体に利用し、圧倒的なスピードを見せたこと。初戦を1回戦最速の16秒で勝利したのがその実力のあらわれだ。
もうひとつのポイントは、倒されても自力で起き上がれる機構を備えていること。ロボコン大賞プレゼンターで、高専ロボコン産みの親の一人、東工大名誉教授の森政弘先生は、「人間と同じように転んでも起き上がれる機構」と高く評価した。2回戦の北九州戦、試合に敗れはしたものの、倒れても起き上がる姿で会場を沸かせた。
30回の節目となる今年の高専ロボコンは、優勝候補や優勝経験チームが早くに姿を消す波乱含みの展開となった。ベスト4のうち、北九州を除く3チームが優勝未経験、北九州も10年ぶりの優勝と、近年は優勝から遠ざかっていた。
対戦型というルールも少なからず影響している可能性もあるが、この状況は、勢力図の変化の兆しと言えるのかもしれない。最多4度の全国優勝を誇る詫間も、2009年を最後に勝てていない(2010年のベスト4がその以降の最高成績)。全体のレベルが上がり、チーム力が拮抗するようになったと見ることもできるだろう。
来年は、新たな10年の幕開けの年。高専ロボコンが戦国時代に突入しているのであれば、戦いは激しさを増すことになるだろう。今年悔しさを味わったチームも、虎視眈々と栄冠を狙っているはずだ。
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