ロボコン

高専ロボコン2017「大江戸ロボコン忍法帖」振り返りと記事まとめ

1988年の「乾電池カーレース」から始まり、今年で30回目を迎えたロボットコンテスト。今年は「ROBOCON 30th」を記念し、いままでになく豪華な催しとなった。

強豪とされるチームが初戦で次々と敗退する中、予測不可能な混戦を制して優勝したのは北九州高専。ロボコン大賞は大分高専が受賞した。

大会オーバービュー【1】コラボ企画やサプライズ演出

ロボコニストや長年のファンならお気づきかと思うが、今年のロボコン関連企画はいつになく気合いが入っていた。まず大会以前の盛り上げ企画や、大会中のサプライズな演出について振り返ってみよう。

13年ぶりの地上波生放送・ライブストリーミング配信

高専ロボコンが地上波で生放送されたのは2004年以来、13年ぶりだ。あわせて、インターネットによるライブストリーミングも実施された。池澤あやかさんや土佐信道さんを中心に、地上波では伝えきれない大会の舞台裏や閉会式の模様を配信。現地に行けない「自宅組」にとっては嬉しい演出だった。

コラボドラマ「大江戸ロボコン」

NHK教育「Rの法則」内で、コラボドラマ「大江戸ロボコン」が一週間にわたって放送された。ロボコンをテーマにした映像作品は、2003年に発表された映画「ロボコン」以来、14年ぶり。村上新悟さん(小山高専OB)がスケルトニクス(沖縄高専OB・阿嘉さん作)に乗って「ほ~っほっほ~」と甲高く笑い、事情を知るロボコニストをクスリとさせてくれた。

「ROBOCON 30th」お祝いロボット

「30周年記念ロゴを自由な発想で描くロボット」の動画が募集され(デバプラも池澤あやかさんと投稿したぞ!)、特設WEBサイトと大会で紹介された。

注目すべきは「撒き火師」。火の点いたろうそく(!)を自動で並べてお祝いロゴを描くロボットだ。製作者は元ロボコニストで、「火を使ってみたかった」のだとか。メイキング動画も公開されているので、ぜひ見てみてほしい。

森政弘教授のお話

森政弘教授のお話

閉会式でロボコン大賞の発表をされた、東京工業大学名誉教授、森 政弘教授。言わずと知れたロボコンの創始者だ。ロボコン大賞が存在する理由と高専ロボコンが「アイデア対決」である所以を先生ご本人から聞けたのは、往年のロボコニストにとっては感涙モノのサプライズだったように思う(記者はうるっとした)。「理性だけではなく感性も必要」、それが高専ロボコンなのだ。

大会オーバービュー【2】備えが勝敗を分け、懸念点は試合で出る

今回は、チームの総合力が試される試合になっていたように思う。まず、会場が国技館から有明コロシアムに変わり、慣れない会場への対応力が問われた。
また、直接対決はロボットの損耗も激しい。ピットの作業効率を考えた道具立てなど、兵站サイドでの備えが試合結果にも影響を与えていたように感じる。

ロボコン大賞、大分高専「マリンビート」

大分高専

各校が様々な工夫をしている中でも、群を抜いていたのが大分高専のプラダンロボット「マリンビート」だった。ロボットメンテナンス用の工具箱も自作のプラダン製で、工具箱の上にロボットを乗せてターンさせることもできる。作業者は同じ場所に立ったままで、ロボットのメンテナンスができるのだ。よく使う工具は置く位置が決められており、作業効率の高さは一目瞭然。本当に素晴らしいピットだった。
プラダンは普通のものではなく、ハニカム構造の特別なもの。自校にあるウォータージェットで切り出したのだそう。ここまで内製できるとは……正直羨ましいチームも多いのではないだろうか。

マリンビートは、「プラダンボディ」という材料革命を起こしたこと、倒れても起き上がる機構を実現したことなどを高く評価されて、ロボコン大賞を受賞した。大分は1991年に「スプレもん」という伝説のロボットを制作し、関係者全員を仰天させている。フロンティアスピリットは連綿と受け継がれていたのだ。ピットでこのイノベーションと言ってもいいマシンについて話すメンバーの、誇らしげな姿が記憶に残っている。大賞発表の瞬間、そしてインタビュー中の涙にこめられた万感の想いに、記者ももらい泣きしてしまった……。

優勝は北九州高専「ReVictor」

優勝は北九州高専「ReVictor」

まず讃えたいのは、優勝の瞬間にチームメンバーの一人がマシンに駆け寄り、しっかり非常停止ボタンを押していたこと! 本当に素晴らしかった!!  優勝した北九州は、シンプルに「強いロボット」としての完成度が高かったように思う。
準々決勝、香川高専(詫間)とのもみ合いではグイッと相手ロボットを押し返し、決勝の対石川戦では機敏な動きで相手をかわして一瞬速く本陣に回り込んだ。秘密道具の鞭アームはよくしなり、風船を逃さずに割っていく。むき出しのメカが少ないせいか、激しい激突のあった試合の後でも影響を見せない。
徹底した作り込みが本戦を支えていることを感じさせてくれた。掴むべくして掴んだ勝利だったように思う。おめでとう!

北九州高専

無冠ながらも印象に残ったチーム

香川高専(詫間)「Impact」は文字通り笑顔の怖いお母さんロボットのインパクトが絶大。地上波でもストリーミングでも、もはやチーム名が「お母さん」になっていたように思う。しかも速攻型で、強かった……。
群馬高専「Gダイナソー」チームで目を引いたのが、搬入箱。扉がL字の跳ね上げ式で、つっかえ棒で固定する。跳ね上げた扉は屋根になり、通路を塞がない。持ち上がった天井の一部には梱包写真が貼られていた。これらの工夫が、スムーズな搬入やテストランの準備、本番に向けたマシンの合わせこみに繋がるのだ。

初戦で敗れた強豪校たち

地区大会やテストランで強さを見せつけながら、全国大会の初戦で敗退したチームも多かった。
まずは長岡高専Bの「ベアLINK”」。初戦で石川高専の「疾風蟹」に敗れた。石川の巧みなガードでパンダ、くま両機の強みを封じられ、手裏剣ブーメランやベアクローの力を発揮できなかった。

ベアLINK”

秋田高専「烏合の衆」は、機動性の高いカラスロボット「レイヴン」が初戦で長野「ALPS」に敗退。相手本陣への攻撃を優先しているスキにがら空きの自軍を襲われ、すべての風船を割られてしまった。
香川高専(高松)「Sundogs」の武器はバキューム式秘密道具。決定力が高く優勝候補かと思われていたが、徳山高専のカンガルーロボット「がる男」にロボットの風船を割りつくされて敗北。徳山の戦略の妙が光る一戦だった。

香川高専(高松)「Sundogs」

それぞれ、相手の出方を予想した戦略で勝敗が決したように思う。強豪を下したチームはその後の試合でも勝負強さを見せてくれた。

ガチンコ対決ならではのトラブル

旭川高専

旭川高専と舞鶴高専の対決では、舞鶴機のタイヤに旭川の子機の紐が絡まった。舞鶴は身動きがとれなくなり、それが敗因になってしまったようだ。長岡高専Aは同様のトラブルに見舞われつつも勝利し、その後大慌てでタイヤを交換している。故意による拘束は禁止だが、ぶつかり合うバトルではどうしても耐久性は求められる。敗北は悔しいが、「ノーサイド」で来年の開発に活かしてくれれば、と思う。

富山高専は試合中、発煙によって一時試合が停止するトラブルが発生。ロボットの押し合いになったとき、モーターにかかる負荷が熱になるのだ。実はテストランのときにも発煙が起きている。部品や原因は違うかもしれないが、思わぬところで共通の問題が発生するのも開発における「あるある」だ。苦い経験を持つエンジニアは多い。

「ROBOCON 30th」アニバーサリーイヤーの終わりによせて

キリがないためすべてを書くことができない。しかし、ここでご紹介できなかったチームも士気は高く、マシンの完成度は高かった。勝った・負けたのバトルを見ているとつい忘れてしまいがちなのだが、本来は、自作ロボットが「普通に動いている」という事実そのものが凄いことなのだ。
「ちょっとだけ……あの回路のはんだ付けだけやっておこう」と思っただけなのに気がついたら何時間も経っていた驚きや、初めて通電するときの「計算通りにいってくれ」「頼むから燃えないで」という緊張(たいてい動かない)、開発につきまとう様々なジレンマや苦しみ。思った通りに動いた瞬間の、安堵と喜び。ロボットの一台一台に、それらの経験知がぎっしり詰まっている。

うまく動き、勝利することがすべてではない。その「作るという挑戦」そのものと、モノを作る人への最大級の敬意をこめて、この記事を締めようと思う。

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