高専ロボコン2017「大江戸ロボット忍法帖」。今年はいつもの国技館から、有明コロシアムに会場が変更された。
コロシアムをイメージしてか、バトルフィールドを取り囲むようにピットが置かれている。自チームの出番以外も気が抜けない。「ちょっと緊張しますね」とは、東工大ロボコニスト・谷さんの談。
ピットは、バトルフィールドを取り囲む「(メインの)ピット」と、ロボットの組み立てや道具の保管などに使われる「サブピット」に分かれる。
現在、会場ではテストランが続いている。様々な仕組みの「刀」とアイデア満載の「秘密道具」で、どれもこれも強そうだ。今回は「最強の機構」が見えない。マシン同士の相性もありそうで、チームによっては3台のロボットを作り、相手にあわせて動かすロボットの組み合わせを変えているようだ。
以下、記者が見ることができるところだけで恐縮ながら、各チームの状況をお伝えする。
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富山本郷「武士王者(ブシキング)」
展開アームがとても長い釣り竿。蜘蛛のモチーフそのままに、巣を張って本陣を守るらしい。もう一台のマシンは、自機の風船を守るための青いヘリウムバルーンが目を引く、ほかに無い個性的なモデルだ。
しかし、風船をもつマシン「刀螂」から発煙! 何かが焼ける匂いがする…(ロボコンOB、東工大の日下部さんいわく「トラウマの匂い」)。マシンはスタートできず、不安の残るテストランとなった。
テストラン2回目、「刀螂」が走る(良かった~!)。アームを展開し(一部飛んでしまったが)刀とアームで風船を割ったところでアラートが作動、停止する。不安は残るが、ひとまず2台のテストを終えることができた。
奈良高専「万里一空(バンリイックウ)」
豪快なニンジャ「万里」と堅実なニンジャ「一空」のコンビ。本陣を守る「宝物」は法隆寺五重塔がモデルだ。セッティングは順調でチーム内の声掛けもハキハキしていて、練習を積んだことがわかる。スムーズに走り出すが、刀を振ると風船が逃げる…「ヤスリが触れれば割れる」というものでもなさそう。秘密道具の矢を発射するも、当てるのは難しいようだ。また、エックス攻撃用のアームも搭載している(盛りだくさん!)。エックスアームの展開で一気に割りたいところだが、本陣中央に位置決めするのは簡単ではなさそうだ。一番強いのは、よくしなるスポンジアームか? 釘バットのようだ。
テストラン2回目、「本陣の真下から矢を打つ」という方法で、相手本陣の風船を一気に割る! 操縦が上手い! 位置がバシっと決まる。強そうだ。
群馬高専「Gダイナソー」
3台のロボットを戦略的に組み替えて戦う。よくしなるアームであっという間に本陣風船を割っている「アカギザウルス」。キビキビとした動きの「ハルナザウルス」。位置決めはシビアだが、キマれば相手本陣を一網打尽にできるアーム子機を発射させる「ミョウギノサウルス」の3台が会場を魅せた。また、本陣の宝物「恐竜の赤ちゃん」がかなり可愛い。守ってあげてほしい。
舞鶴高専「鶴THE刀(カクザトウ)」
まきびしをイメージした秘密道具が本陣下部、叩きつけるような刀が上部~中段の風船を割る。アームが本陣を横から挟み込むように動くため、風船を逃さず確実に割っている。動きも速い。
位置決め精度が高い。操縦者が上手いのか、どこかで自動制御しているのか?
長岡高専B「ベアLINK”(ベアリング)」
3台のロボット。地区大会から、細部のアップデートを重ねているのが分かった。くまタイプはアームに手裏剣を、パンダはベアクローのツメの向きを変えている。アームを叩き下ろすときにパンダの目が赤く光るのが、凶悪さを感じさせて記者好みだ。
ブーメラン、アーム、ベアクローで順調にすべての風船を割る。記者イチオシのロボットたち。
大分高専「マリンビート」
ウォータージェット加工機で作ったという、ハニカム構造のプラダン構造! じつはピットにもプラダン製の専用工具箱があった。工具箱上部にターンテーブルが付いており(これもプラダン)、省スペースなピット作業を可能にしていた。転倒からの復帰パフォーマンスも鮮やかだ(自己復帰できるマシンは貴重)。ボディが軽いためか、動きが軽快。ただし横の動きがやや不自由なようで、本陣前での位置決めは多少手間取る場面もあった。
長野高専「ALPS(アルプス)」
ロボットは、ハチ・イノシシ・うりぼうの3台。注目の秘密道具は、ハチロボットの空を飛ぶ112本の矢! …が、テストランでは風船を割れず、半分近い矢がフィールドを外れてしまった。秘密道具が客席に落ちると、危険行為としてペナルティが課される(地区大会でも30秒停止ペナルティを受けている)。見た目にはハデだが、決められるか…? イノシシ、うりぼうの触手がとても印象強い。
小山高専「海底忍魚隊(カイテイニンギョタイ)」
最近はやりのメンダコが愛くるしい! 地区大会でデザイン賞を受賞した、女性リーダーのチームだ。相棒のチョウチンアンコウは、重そうな矢と上から叩きつける鞭アームで風船を割っている。注目のメンダコは…地区大会のときとカラーリングが変わったか?
なんてことに目を奪われているうちに、いつのまにか風船が全部割れていた! デザイン優先、という見方もあるようだが、覆された。
呉高専「猪鹿蝶」
猪、鹿、蝶がモチーフ。エアブラシでの繊細な塗装が非常に美しいロボットだ。鹿ロボットの竹アームが確実に風船を狙い、猪のエックスアームが一気に割り、蝶の長いアームは広範囲の防御と足元の風船を狙う。役割分担も美しく、柔軟な戦略の組み換えが期待できそうだ。
テストラン2回目、蝶のマシンが出る。弾を数発撃ったところでジャム! 完全とはいえないテストランとなってしまった。
長岡高専A「新鮮組」
地区大会で文句なしの優勝を勝ち取った強豪チーム。カニの挟み込むようなビンタと、タコの抱きしめるような長いアームが特徴だ。アームが重そうにも見えるが、動きは安定している。死の抱擁。絶対殺すだいしゅきホールド。とてもよく割れる!
…が、テストラン終了直前、カニロボットに異変?? 直後にテストランが終わったため詳細は見られなかったが、なにか部品が落ちたようにも見えた…?
秋田高専「烏合の衆」
黒いカラスが3台。1台目…当たれば割れる! アームのしなりが少ない。軸が強いようだ。ヤスリも位置が良いのか、風船を逃がさない。位置決めが決まれば非常に強い力を発揮するエックスアーム。他チームと少し違い、刀8本で本陣の軸をなぞる。エックス展開のアームよりも位置決めはシビアではなさそう。東北大会でもスピードと攻撃力が目立っていたが、全国に来てももちろん見劣りはしない。
一関高専「しの☆もん」
タイヤそのものが4輪とも360度回る。キビキビした動き。スタートダッシュで位置決めができれば、エックスアームで一気に風船を割り尽くすような、スカっとした展開も期待できそうだ。
テストランでは、鮮やかなエックス攻撃に会場が一瞬どよめいた。
神戸市立高専「さるかにんぽう」
自機の風船を逃がしながら、8本のアームで挟み込んでエックス攻撃をするロボットと、大きく開かれた壁に針が付いており、自分自身を本陣に押し付けて「面で割る」ロボット、そして矢を発射する子機付きのロボットだ。矢の本数はあまり多くないが、一本一本が重いためか、その他の飛び道具よりも割れる率は高いように思った。
鈴鹿高専「Lucy(ルーシー)」
よくしなる多椀の鞭アームと、フォーク状の秘密道具を搭載した2台。ひときわ長いアームを展開して…ヒット!と思ったら本陣のポールにヒットしてアームが折れてしまった…。刀はロボットの身体ごと押し付けて風船を割るイメージだ。派手さはないが、狙った獲物は逃していない。
都城高専「割れ!風船PANだ!」
パンダロボット3台。クラフト紙の紙飛行機を発射する「ヒュンヒュン」、フライフィッシングの要領で秘密道具を飛ばして風船を確実に割る「ブンブン」、神主の幣束をイメージした触手系の秘密道具で攻撃・防御を兼ねる「シャンシャン」。イメージが湧きやすい。
熊本高専「蜂部蜂蔵」
ロボットそれぞれに340本、合わせて680本の矢が搭載されている。モチーフはひと目で分かる、「ハチ」だ。最速での勝利は8秒とのこと(!)。本領を発揮すれば、相手チームは何もできないうちに勝負が決まってしまうだろう。
テストランでは慎重なスタートを切った。しっかり位置決めをして…吹き矢発射! まあまあ割れたが、一気に全部を制する!というほどの迫力には至らなかった。本戦での活躍を期待したい。
徳山高専「がる男」
ロボットは、カンガルーのがる男とがる子の2台。パッと見は似たようなマシンだが、「がる男」は槍のような秘密道具を細かい調整機構で狙いを定めて風船を割る。「がる子」は軽量ボディで機敏な動きを実現しているとのこと。
テストラン中、秘密道具のアームが飛んでしまった! 客席に落ちると危険行為としてペナルティの対象になる。気をつけてほしい。
松江高専「八百万の亀々(ヤオヨロズのカメガメ)」
ロボットは「カメノウズメ」「オオカメヌシ」「アマテラスオオメカメ」の3台。言わずと知れた、神話上の神様がモチーフだ。協力して勝利を掴めるか。
オオカメヌシはアームと子機を持つ。相手本陣を挟み込んで、風船を逃さず割っている。
アマテラスオオメカメがアームを高く伸ばし、風船を守ると同時に暖簾状のやすりを展開した。しかし、あまり割れる感じではないような気がする。守りの仕組みとしては心強そうだが…。「カメノウズメ」はテストランではお披露目ならず。秘密兵器か、ぶっつけ本番になるか?
旭川高専「ばすたーちゃんⅡ」
ロボットは3台、目を引くのは、竿を伸ばす鉄壁の防御が迫力満点の1号機(シロクマ)だ。冷静に操作すれば、相手を妨害しながらすべての風船を割ることもできそう(谷さん)。
旭川高専のマシンは子機が特徴。自走式のハリネズミと皇帝ペンギンの赤ちゃんが可愛い! …と思ったらそれぞれの子機が長いアームを伸ばして風船を叩き割った! 見た目に反する凶悪さ、良い!
北九州高専「ReVictor(リヴィクター)」
黄と黒の、鞭のようにしなるアームを搭載したロボットが3台。テストラン中2号機にトラブル発生か? 時間を使い切って妨害アーム展開、鞭アームによる攻撃モーションまではこぎつけたが、強さを見せつけるには至らなかった。本戦での活躍を期待したい。
香川高専詫間「Impact」
手裏剣のような飛び道具とエックス攻撃アーム、そして笑顔が怖いお母さんのハエたたき攻撃ロボットの3台。地区大会では速攻で勝負を決めるシーンもあったが、テストランでは慎重に動かしている。それぞれのマシンで風船をまんべんなく割っていき、最後はエックスアームですべてを割った。安定感を感じる。
石川高専「疾風蟹(ハヤテガニ)」
ロボットは、「折蟹甲(オリガニコウ)」「折蟹乙(オリガニオツ)」「蟹嵐(カニアラシ)」の3台。エビに見えたけどカニ。秋田高専「烏合の衆」と似た、挟みこむアームによるエックス攻撃だ。蟹嵐は手裏剣を発射するマシンだが、打ち出し機構にトラブル発生。攻撃には至らなかった。「折蟹」のコンビは慎重ながら確実に動いている。
香川高専(高松)「Sundogs」
全国出場校のなかでは唯一の「バキューム式」。やすりのついたリングの内側にファンを搭載し、触れた風船を確実に吸引してやすりに触れさせ、割る。風船の「逃げ」を許さない機構が頼もしい。
勢い良くアームを振り下ろすとロボットの脚が浮くようなシーンも見られたが、どっしりとした低重心で転倒はない。優勝候補の強豪チームだ。
鳥羽商船高専「鳥羽G3」
紙コップの飛び道具と刀アームの2号機「G2」と、長いアームを横向きに広げ、やすりのついた暖簾を振り回して広範囲に攻撃する3号機、「G3」の2台(1号機はお蔵入りらしい…残念)。
紙コップの飛び道具は、発射ミスがあっても客席に飛び込みにくい。球数少ないのが苦しいか…? G2の刀がいい仕事をするが、暖簾の攻撃がなかなか当たらない。
函館高専「函館三景(ハコダテサンケイ)」
遠隔狙撃ロボット「がぎゅう」「よこつ」と、ラダーアームを振り回して攻撃する「えさん」の3台。テストラン開始となるが、スタートできない! マシンを手搬送でフィールド中央に置き、アーム展開や攻撃パターンについて審査員に説明している。動いているところが見られないのは残念だった…。
福島高専「カエルの為に腕は鳴る」
宝物が動いている。可愛い。
マスター/スレーブでモーションコントロールをするアーマードスーツ式は、全国出場校のなかでは唯一だ。強さよりも面白さ、高専ロボコンの楽しさを優先させたのだそうだが、テストランも大変スムーズに動いているように見える。
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テストラン前半は、単一チームでのテストだった。記者の感想としては、対戦形式ということもあり、また例年と比べてもアイデアの幅が広い(広すぎる!)こともあり、明日の結果の予測はまったく不可能と感じた。
この後、対戦形式のテストランに入る。