<目次>
①はじめに
今回テーマとして取り上げる「電波」は、現代においてなくてはならないものとして理解いただけるはず。携帯電話が普及し、ひとり1台スマートフォンを持つ現代では、物心ついた頃から意識せずとも電波を使用し、それによって様々な恩恵を得ています。しかし誰もが毎日のように使っていながらも、電波そのものについては詳しく仕組みを理解している人は意外と少ないのではないでしょうか?
我々デバイスプラスでも、電子工作記事やロボコンを通じて電波について触れてきましたが、一方で電波だけを取り上げたことは記憶になく意外な盲点となっていたようです。しかし、ロボコンにおいても電子工作においても、今では電波を通じてロボットの制御や、状態をモニターしたりしているので、なくてはならないものです。身近になってきたスマートフォンを例にしても、携帯電話の音声通信も様々な電波を利用しているのですが、更にはデータ通信の高速化、位置情報を複数の測位衛星から受信していたりと、Wi-Fiの周波数も複数の電波を使う装置として開発されてきたので、今後も電波を使った装置が発展していくことは間違いありません。
そこで今回は我々の生活に密着し、産業の発展に大きな役割を担っている「電波」について詳しく紹介していきたいと思います。
②電波の正体を知る
さて、早速「電波」とは何なのかを紹介するにあたり、今回編集部では講師役として日本無線株式会社 マリンシステム事業部 マリンシステム技術部 技術専門部長である大槻秀夫氏に解説していただくことにしました。大槻氏が所属する日本無線株式会社は、船舶の無線通信から始まった100年以上の歴史を持つ、日本最大手の無線通信メーカーで、JRCの略称で知られた通信に関わる者であれば誰もが知っている企業です。
【大槻秀夫氏のプロフィール】
1964年生まれ。東北工業大学通信工学科卒業後、1987年に日本無線株式会社に入社。学生時代のアマチュア無線の経験から各種車載用無線機・携帯型無線機・アマチュア無線機器など、数多くの無線機器の開発プロジェクトリーダとして製品設計の責任者を経験。2012年に海上機器事業部 海上機器技術部 船用通信グループ長、2017年にマリンシステム技術部 担当部長(船舶搭載用無線機開発責任者)に就任。また、2022年2月に全国船舶無線協会水洋会部会 技術委員会 技術委員長(船用機器技術責任者)、2023年1月に総務省情報通信審議会専門委員(情報通信技術分科会諮問委員 航空海上WG座長)を任命されるなど海洋領域における通信の発展に貢献。2024年4月からは、社内でも数少ない技術の専門部長として無線技術の応用分野などでも知見を活かして幅広く活躍している。
大槻氏は日本無線において様々な事業に従事しつつ、子ども向けに電波教室を開催したり、電波について分かりやすい説明本に寄稿するなど、電波の普及と理解に大きな貢献をされています。そんな大槻氏からは次のようなアドバイスをいただきました。
大槻氏:「電波というのは非常に奥が深く、すべてを理解しようとするととてもではないがひとつの記事では終わりません。まずは電波の性質、つまり周波数と波長を理解し、それぞれの周波数帯がどのような特徴を持っていてどのような使われ方をしているかを理解することから始めるのが良いでしょう」
電波は、電界と磁界が互いに影響し合いながら、空間を光と同じスピードで伝わっていく電磁波の種類のひとつです。電磁波には電波と光なども含まれますが、一般的には電磁波と説明するとあまりなじみも無く、光も含まれるので、身近な電波を利用している例を説明しています。電波法という法律では、300万メガヘルツ以下の電磁波を電波と呼んでいますが、この電波にも周波数の低い電波から高い電波まで様々な種類に分けることができ、周波数が違うと波長の長短があるため性質も変わってきます。
まず電波とは、時間的に電界と磁界が影響して発生しますが、特徴として1秒間に何回向きが変化するのかを周波数と言い、一般的には大きな数字を使うので補助単位も一緒に使って表記しています。例えば、1秒間に100回変化すれば100Hz(ヘルツ)、10倍の1,000回変化すれば1kHz(キロヘルツ)、1000倍の、100万回変化すれば1MHz(メガヘルツ)、最近では更に1000倍の、10億回変化すれば1GHz(ギガヘルツ)となります。
周波数の値が小さければ周波数が低い、大きければ周波数が高いと言いますので、この高低が周波数を説明する際の意味に使われて、VHF(Very High Frequency)などの語源になっています。周波数はその高低の違いで、伝達する際の性質や電波として使える周波数の幅が変わり、情報量に違いがでるのです。
また、電波は電磁波の一つですが、この電磁波が空間を伝わる速度は周波数によらず一定です。電波の速度はすごく早く、いつもは1秒間で地球を7回転半くらい進むと説明していますが、あまり理解できないので言い換えると、地球から月までの距離を、1.3秒くらいで進む速度です。電波は進みながら、周波数で説明したように電界と磁界の向きが時間で変化しています。電波が1秒間に進む距離を周波数で割り算すると、向きが1回変わったときに電波が進んだ距離となりますが、これを波長と言っています。周波数が低いと波長は長く、周波数が高いと波長は短くなりますので、周波数と波長は反比例の関係です。
現在では電波は様々な用途に使われていますが、電波の性質の違いは周波数の違うことが理由と考えるよりも、この波長が違うことが影響していると考えるほうが理解しやすいです。例えば、ミリ波と呼ばれる波長。波長が1~10mmで30~300GHzの周波数の電波は周波数が高い性質として大容量のデータを送ることが可能で、衛星放送等にも利用されています。電波の性質としては極めて直進性が高く、アンテナもパラボラなどで送受信をお互いに合わせやすいなどが理由ですが、まれに大粒の豪雨が降ると電波が減衰するという特性も。これ以上更に周波数が高くなると、波長が短くなり雨の大きさが波長に比較して同等の大きさになってしまいます。減衰する量が大きくなると屋外の長距離伝送では利用できなくなってしまうのです。逆に、その雨の量と降雨の場所を把握する目的で利用されるのが気象レーダーでもあります。そのような様々な性質からミリ波は衛星通信や自動車の衝突防止用、気象レーダーなどに活かされています。
このように電波には様々な周波数があり、その性質を活用して、携帯電話や交通系ICカード、電子マネー、MRI、ラジコン、AMやFM放送、ETCなど身近な用途でも積極的に活用されています。
現代においてこれだけ様々な用途で用いられている電波ですが、そうなると考えるのは「なぜ電波同士、混信しないのか」という点ではないでしょうか?
まずは混信する理由を説明していただきました。混信とは、必要な情報が十分に区別することができない状態を言います。イメージとしては、受信したいラジオ局に他の放送局の音が混じってしまう状態です。電波で混信することが無い理由の答えは、周波数が異なるからです。ラジオ、テレビなどの放送は、送信されている電波の周波数が放送局ごとに異なるので、それぞれ希望する周波数に設定して電波を区別しています。
この原理を大槻氏は振り子の実験用具を用いて解説してくれました。複数の長さが違う振り子、すなわち揺れる速さが異なる振り子があって、一つの振り子の触れる速さに合わせて少しずつ揺らすと、一つの振り子だけを揺らすことができる様になります。電波の受信装置でも同じ考えで、決められた速さの振り子で取り出した時と同じ様に一つの周波数の信号を取り出すことができます。
大槻氏:「この棒には3つのコインが長さの異なる紐でぶら下がっています。このうち、ひとつのオモリだけを揺らします。例えば長い紐のコインを揺らそうとするとそれに応じた大きな揺らし方が必要になります。短い紐のオモリを揺らすには細かく揺らさないといけません。この3つのコインのうちひとつだけを揺らすということは、まさに特定の周波数だけを狙って揺らしていることになり、波の揺れる速さが異なることで混信が起きないということが分かると思います」
もちろん、同じ周波数を同時に使うと混信することはあります。ですがそうならないように電波法でルールが決められています。この点は後ほど紹介していきたいと思います。
③電波はどのように伝わっていくのか?
それでは電波はどのように空気中を伝わっていくのでしょうか?その疑問について、大槻氏は次のように解説いただきました。
大槻氏:「電波は非常に高速に進んでいきます。その速さは1秒間に30万kmにも及び、そのスピードは光と同じです。直進していく以外にも、屈折したり、反射や減衰、障害物を回り込んだり、干渉したりします。電波はその波長によって伝わり方が変わってきますので、その特性をよく理解してどの周波数を利用するのか、検討することが大切です」
電波は一定の速度で直進しますが、建物や地面などに入ると減衰することは理解していると思います。さらに、山や建物など障害物があっても電波は回り込む性質があります。このように電波の伝わり方は一様ではありません。
次に電波を使って音や映像がどのように伝わるのか見ていきます。一昔前ならテレビやラジオ、現代ならばスマートフォンで音楽や動画を楽しんでいる人も多い中で、その仕組み、つまりなぜ映像や音楽が手元まで届くのかを理解している方はどのくらいいるのでしょうか?
音や映像はアナログ信号もしくはデジタル信号という電気信号によって伝わっていきます。搬送波と呼ばれる音や映像の「情報」を運ぶ電波を変化させて飛ばし(変調)、その情報を受信する人が電波の中から情報を取り出す(復調)ことで音や映像が届きます。
電波に載せる情報量に応じて最適な電波の帯域が異なるのです。
また、届ける際の変調も、アナログ変調とデジタル変調の2種類あり、それぞれに長所と短所があるため最適な方法を使い分けています。まずアナログ変調には振幅変調(AM)と周波数変調(FM)があります。ラジオのAM、FMでご存知の方も多いでしょう。AM、FMでは周波数帯が異なり、場所によって聞きやすさ、聞きづらさ、音質が変わってきたりしますよね。対して、デジタル変調はアナログ変調と比べて雑音に強いという特徴があるため、携帯電話やデジタル放送に用いられています。
④正しい知識で電波を使用する
ここまで解説してきた電波ですが、電波そのものは国民の共有財産とされています。目に見えない電波ですが、これは誰のものでもなく国民誰もが利用できるもの。ですがその利用にはルールが存在します。
電波は1950年に制定された電波法によって管理されています。この法律では電波を公平かつ能率的に利用するため、電波を使用したい人に対し一般的には無線局の免許が必要な制度となっています。一般的に通常利用しているスマートフォンは、携帯電話会社が管理していますので、包括的に免許を受けており、技術基準適合証明(技適)を受けた端末であれば、免許の手続きは不要です。また現在広く利用されているWi-Fiのアクセスポイントなどの無線LANの装置についても技適を受けた装置の場合には、免許を受けないでも使用できます。
但し、勝手に無線機を改造したり、許可されていないアンテナなどを接続すると技適の認証の範囲から外れますので、絶対にしてはいけません。
電波利用の注意点に関して、大槻氏は以下の点を挙げてくれました。
大槻氏:「電波を出す際の注意点として、まずは輸入品を扱わないということが挙げられます。海外で使われている電波と日本で使用できる電波では異なる場合があるからです。例として同じWi-Fiでも周波数帯が若干異なっていたりします。もし輸入品を使用する場合には国内の電波利用に合っているのか確認する為に技適を受けた製品を使用するようにしましょう。
また、ロボットの大会などでは、様々な団体とか個人がWi-Fiで接続していますので仕様を確認することが重要です。自分の所有しているWi-Fiがどの周波数帯の電波を出すことができるのか、きちんと認識することも大切です」
Wi-Fiの通信では、使用できる周波数が限られており、先に説明した放送局の様に周波数を別にするという考えでは無く、同じ周波数を複数の利用者で時間を分けながら利用しています。従って、利用者が多いと、データの速度が遅くなったり、最悪の場合には必要な通信速度が維持できない場合も考えられます。
一般的なWi-Fiの装置で利用可能な周波数帯だと、大きく分けて2.4GHz帯と、5GHz帯です。2.4GHz帯の電波は、利用者も多いので、機器間で干渉しやすいのと、2.4GHzは国際的にもISMバンドと言われて、電子レンジで利用している周波数と同じですので、干渉することもあります。その影響でデータの伝送速度が遅くなったりする可能性は高いのが現状です。
一方で、最近のWi-Fiルータには5GHz帯の機能がついており、この周波数帯は利用者も少ないので、混信する可能性が低くなりますが、同じ周波数を、人工衛星や空港気象レーダーでも利用しているので、屋内のみに限定されており、屋外では使用できません。
一般的なWi-Fiルータの仕様によっては、利用するチャンネルを任意に設定できる場合もあります。大きな大会では、利用されているチャンネルをモニターするアプリなどもありますので、利用状況を確認しながらより利用者の少ないチャンネルに設定することもWi-Fi利用の技術としては必要なスキルでもあると考えられます。
⑤まとめ
今回は電波について、その正体や特徴、利用の仕方などを日本無線株式会社大槻秀夫氏に解説頂きながら紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
現代において、電波はなくてはならないものとなっており、意識せず毎日のように使っていますが、一方でなぜ音や映像が伝わるのか知らない方も多かったのではないでしょうか?
電波について正しい知識を持ち、安全かつ適正に利用することは非常に重要です。デバイスプラスの読者の方々には、電子工作やロボコン関連で電波を使う方も多いことでしょう。これを機に電波について興味を持ってもらい、正しい利用の仕方を知って頂ければと思います。
※画像提供:日本無線株式会社