第1回:人機一体 金岡博士×スケルトニクス 阿嘉代表対談(前編) - 2人が語るロボット開発の今
ロボット開発スタートアップである、スケルトニクス株式会社CEO阿嘉倫大代表と、株式会社人機一体代表の金岡克弥博士との対談後編です。
市場の確立されていないロボット開発という分野でスタートアップを立ち上げたお二人は、どんな思いからロボットを作ろうとし、開発や会社経営の上で壁にぶつかった際はどのように向き合っているのでしょうか。飾らぬ言葉で語ってくださいました。
なぜ、我々はロボットを作るのか?
──阿嘉代表がロボットを作りたいと思い始めたのはどうしてなのでしょうか?
阿嘉 私のロボット製作の原動力は単純にものづくりの奥深さに惹かれているからです。より包括的に説明するなら創造的な、クリエイションな行いにモチベーションを感じます。それは有形無形を超えてそう感じます。
金岡 たしかに、モノを作るのはおもしろい。そのおもしろさがあってこそ、画期的なモノが作られていく。それは否定できません。私自身、モノを作っていると楽しいですし、できあがれば達成感を感じます。
ただし、モノを作ることのおもしろさに埋没しないように気を付けなければなりません。おもしろさに耽溺してしまうと、ロボットは自己満足のためのオモチャに成り下がります。次世代を担う若い方々は、特に「モノを作るのはおもしろい」と強調しすぎる人に騙されないでもらいたい。
参考になる例を挙げましょう。IT系のソフトウェアベンダーの構造は非常に歪(いびつ)です。プログラミングはおもしろい、モノ作りはおもしろいと人を集めながら、三次下請け、四次下請け、ひどい場合は六次下請けなどという不透明な多層構造になっていて、下層で働くプログラマーには全然お金がいかない。その歪んだ構造の維持に「モノを作ることはおもしろい」という免罪符が利用されているように思います。
たしかに、モノを作るのはおもしろい。でも、それを前面に押し出すことで本質から目を背けさせ、モノを作る力を搾取しようとする人がいるかもしれない。警戒した方がいいでしょう。
阿嘉 たしかに、そうですね。ただ、それでも僕はモノ作りが好きだということに対して、迷いはないです。そして、現在進行形で注力しているのがロボットであり、その上で魅力的だと感じるテーマが強さです。
この「強くなりたい」という思いや憧れは多くの人が心に持っているものだと思います。もちろん強さだけに執着しているわけではなく、あたかもアルコールの作用とわかったうえで酩酊を楽しむように、原始的な本能の作用とわかったうえで強さを求める。そんな内なる欲求に身を預けています。
金岡 強くなりたいという憧れはよくわかります。身体能力を拡張することは、まさに夢ですよね。「夢」「ロマン」という言葉も免罪符になりがちなので、私はあまり使わないようにしているのですが、強さへの憧れは根源的な欲求、本能であって、抗うことはできません。問題は、それをどうやって社会に実装させていくか。単純に誰かを強くすることに対して、誰かがお金を出してくれることはありませんから。
モノを作ることのおもしろさに耽溺してはいけないように、夢を追うことに耽溺してはいけない。社会にどんなプラスをもたらすことができるのか。強くなることでどんなメリットを与えることができるのか。強くなることが、社会を豊かにし、人を幸せにする。その論理、ストーリーを丁寧に構築し、粘り強く理解を求めていくことが必要だと思います。
阿嘉 強くなりたいという視点、社会の役に立つという視点、その他の視点。いずれか1つにとらわれ過ぎず、バランスを取っていきたいですね。ただ、強くなりたいという視点が自分にとって最も強い原動力になっていていることは否定できません。
スケルトニクスによるパフォーマンスがテクノロジーの発展につながることはあると思いますが、社会のために役立つことが開発の推進力になってはいないですね。
──スケルトニクスは国内外のイベントに参加し、NHK紅白歌合戦でも舞台演出にも使用されました。これは十分社会に役立つことでは?
金岡 エンタテイメントを通して、夢を与え、人々を喜ばせてという意味では十分に社会の役に立っていますよね。しかも、ハウステンボスとドバイ首長国連邦ですか? スケルトニクスの販売にも成功している。待っていれば注文が入るという話ではありませんし、会社として販売する以上、売りっぱなしにはできません。アフターサービス、メンテナンスも必要ですよね。実現させるまでには大変なご苦労があったと思います。これはすごいことです。ちなみに、今、おいくつですか?
阿嘉 27歳です。
金岡 私があなたの年齢の時には、絶対にできなかったでしょうね。私は研究者としてキャリアをスタートさせましたが、研究者としての自分の才能、能力の限界が見えてしまった。だから、ロボット工学への想いを実現させるために、スタートアップ経営者となりました。
阿嘉さんがいきなりスタートアップからキャリアをスタートさせ、ちゃんと継続されているのはそれだけで驚きです。才能は十分にあると思うので、今後は人と資金を集めるのがいいと思います。
私も最初は研究者個人としてやってきたので、人を増やすリスクを取れるのかという悩みはありました。でも、結局のところ、私が成すべきことを成すには必ずチームとしての会社組織が必要になると気付きました。技術者、資金提供者を含め、会社組織を作ることをロボット作りと同じくらい、あるいはそれ以上に重要と考えていい。
阿嘉さんが最終的にやりたいことが、「強くなりたい」という個人的な視点だとしても、それに共感してくれる人は必ずいると思います。その思いを外部に発信し、人や資金を募ることは社会に繋がることでもあります。そして、社会に繋がっていることはトータルでメリットの方が多いと思います。
とはいえ、偉そうなことは言えないですね。スケルトニクス社は有名で、皆に知られていますが、人機一体社はまったく知られていないですから(笑)
スタートアップを立ち上げるのはやめた方がいい!?
──情緒的な質問になりますが、デバプラを読んでいる学生さんたちも研究や就職などに向き合い、失敗してへこむことがあると思います。お二人はスタートアップの代表を務め、しかもロボット分野という市場の確立されていない世界に身を置かれています。落ち込まれたとき、失敗したときはどうやって気持ちを奮い立たせているのでしょうか?
阿嘉 逆説的ですけど、大切なのはある種の諦めだと思っています。圧倒的に優れた先輩がいて、一生かかっても追いつかないかもしれない。絶望的ですが、絶望からのゼロスタートというか。それでも僕はモノ作りが好きというところに立ち戻ります。
実際、会社がうまく回らないときは、「自分は就活もしていないから職歴もない。スケルトニクスが終わったらどうなるんだろう?」という怖さを感じます。ダメなら終わる。でも、やるしかない。諦めて腹をくくるわけですが、直面する事態のつらさは変わりません。
でも、僕はモノ作りが好きだし、がんばってもダメだったときに人生がどうなるかはわからないですけど、結果は受け入れるしかない。そういう覚悟でいると、本当に落ち込んだときも戻ってこられます。
金岡 すごいですね。
阿嘉 自分の可能性をどこまでも信じてみたい気持ちがある反面、やっぱり現実として立ちはだかる壁のリアリティは強く感じます。そして、覚悟があればうまくいくよとも、諦めなければ成功するよともアドバイスできません。ただ、モノづくりが好きだという気持ちは、迷いなくあるので進むしかないし、それでダメなら受け入れるという……こんな話でメッセージになっていますか?
──ヘンに飾られた言葉より、はるかに響くと思います。金岡博士はいかがですか?
金岡 熱い話の後に申し訳ないのですが、私は基本的にずっとへこんだままで、立ち直ってないんですよ。過去の失敗をいつまでも引きずっています。立ち直る方法を私が教えてほしいくらいです。
立場的に「若い人へのメッセージをお願いします」と聞かれることもありますが、私がスタートアップについて言えることはこれだけです。つまり「我々のようなロボットのスタートアップを立ち上げるのはやめた方がいい」ということ。これは逆説的な励ましではなく、本音です。他の進路に行く能力があるなら、そちらに進んだ方がいい。私はスタートアップにいて、社長をやっていて、まるで無間地獄にいるみたいな感覚になっています。
──無間地獄ですか!?
金岡 無間地獄は言い過ぎかもしれませんね。でも、賽の河原で石を積んでも積んでも崩されて、それでもまだ積まなくちゃいけない。それに近い徒労感、理不尽さを感じています。一歩一歩が本当にしんどいですよ。ロボット開発はともかくとして、スタートアップの経営をしていて楽しいとは到底思えないので、よっぽどの覚悟がない限り、やめたほうがいいとアドバイスしています。
ちなみに私の場合、覚悟があったというよりは、研究者から起業して経営者になることがまるで運命の既定路線として最初から決められていたかのように、逃れようにも逃れられなかった。
今、我々には理念としてぶちあげた大きな理想「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」があります。これを達成するまでは、積んだ石を何度崩されようとも、決して解放してもらえない。一旦始めてしまうと、上手く行かなかろうが失敗しようが、やめることはもう許されない。
たぶんね、私は「M」なんですよ(苦笑)。苦しい感覚が苦しいまま楽しくなっている。ある意味、人生の充実感になっていて。倒錯していますね。正直、普通じゃない。もしやめることができたら、普通に考えれば楽になれるんでしょうけどね。私にとっては、やめた後にはそれこそ無間地獄が待っています。
だから、若い人には「こんなジレンマに陥るくらいだったら、最初からやらない方がいい」と言いたい。真っ当に勉強して高い能力を身に付け、着実に成果を上げて社会に貢献する仕事をするほうが、どう考えても健康的です。
──これを金岡博士なりの励ましと捉えるか……。
金岡 いえ、逆説ではなく言葉通りに捉えて下さい。もちろん、ポジティブな面もあります。社長として、自分の理想とする組織を作ることのできる立場にいる。私が産みの苦しみを味わったとしても、最終的には人機一体社という「場」がうまく機能して、革新的なロボットを作り、王道としてのロボット工学が社会に役立ち、世界を良い方向に変えることができる。それができるという自信があるからこそ、苦しいことも楽しいと感じられる。ただし、その自信に根拠はないのですけどね(笑)。
今回の連載の流れ
第1回:人機一体 金岡博士×スケルトニクス 阿嘉代表対談(前編) - 2人が語るロボット開発の今
第2回:人機一体 金岡博士×スケルトニクス 阿嘉代表対談(後編) - なぜ、我々はロボットを作るのか?(今回)