フライバックトランスを利用したプラズマスピーカの制作

第1回:PWMの基本とTL494

今回は待望の電子工作記事の新連載となります。執筆頂くのは、日本で唯一の「テスラコイル実演サービス」をおこなっている、つくば科学株式会社代表取締役で、これまでもさまざまな工作記事を発表されてきた菊地秀人さんです。今回はそんな菊地さんが、フライバックトランスを利用したプラズマスピーカを制作し、高電圧で遊ぶ方法を紹介してくれます。それでは早速始めていきましょう!

 

目次

  1. はじめに
  2. プラスマスピーカ?テスラコイル?
  3. PWMとは
  4. TL494とは
  5. 高圧トランスの選定
  6. フライバックトランスの調達

 

1. はじめに

皆さんはじめまして。今回から工作記事の連載をさせていただきます、菊地秀人と申します。インターネット上では PJ(@pcjpnet)という名前で活動しています。どうぞ、よろしくお願い致します。

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今回は高電圧で遊んでみるということで、フライバックトランスを利用したプラズマスピーカを作ってみます。これは、SSTC(Solid State Tesla Coil)と言われる小型テスラコイルの基礎ともなっています。

 

2. プラスマスピーカ?テスラコイル?

基本的にどちらも変圧して高電圧を生成するという点では同一のものです。放電から音を鳴らすことに重点を置いたものが「プラズマスピーカ」、放電を見せることに重点を置いたものが「テスラコイル」と呼ばれる傾向にあります。回路的にもほぼ同じもので、プラズマスピーカはコア入りのトランスを使用して小さく収めることが多いようです。

テスラコイルは基本的に空芯コイルを使用するため共振周波数の点からどうしてもサイズが大きくなります。しかし、コアによる電力損失が無いため、空芯コイルを使用するテスラコイルでは大電力のものを作ることができます。今回は皆さんにも簡単に実践してもらえるように小型のプラズマスピーカを製作することを目標としますが、改良していくことで、SSTC(Solid State Tesla Coil)と言われる小型テスラコイルにすることも可能です。

大型のテスラコイルで使用されるDRSSTC(Dual Resonant Solid State Tesla Coil)という方式では、半導体の焼損を防ぐため一定期間で放電を停止させる運用をおこないます。この方式の場合、特定周波数でパルス状に放電させることしかできないため、音程を表現する程度しかできません。

それに比べ、SSTCやプラズマスピーカではPWM方式での発振を使用しますので、音楽を流すということも可能です。その分、放電は短くなるのですが、表現力は高くなるということになります。

 

3. PWMとは

PDM(パルス密度変調)の一種であり、デジタル信号でアナログ信号を表現する変調方法の一つです。難しく聞こえると思いますが、話は単純です。

例えばLEDの明るさを制御したいとしましょう。とても早い速度でON/OFFを交互に繰り返せばトータルで点灯している時間は半減します。よって暗く見えるわけですが、ONにしている時間とOFFにしている時間の比率を変化させることによって明るさを制御できるようになります。これがONとOFFの2つの状態しかないデジタルの状態から、アナログ的な信号を表現する方法です。

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引用:パルス密度変調 – Wikipedia

 

こちらが波形の例です。正弦波の波(緑色)を表現するために、PDM波形(青色)のON/OFFの比率が変わっていきます。

 

4. TL494とは

PWM信号を生成する回路はディスクリートで組んでも良いのですが、今回は手間を省くために定番のPWMコントローラICを使用します。使用するのは、Texas Instruments社のTL494というICです。

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引用:TL494 Pulse-Width-Modulation Control Circuits / TL494 データシート、製品情報、サポート| TI.com

 

このICはPWM信号の生成に必要な回路が全部入っている上に、エラーアンプも内蔵されているため、電源などの製作に適しています。TI社以外のセカンドソース品も大量に出回っているので容易に入手できます。

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上の波形がTL494への入力信号、下の波形がTL494から出力されるPWM信号になっています。拡大しても分かる通り、入力がない状態の場合、ON/OFFが同じ比率で繰り返されています。

この繰り返される間隔、つまりキャリア周波数のことですが、SSTCではコイルの共振周波数に合わせることによって、効果的に高電圧を生成しています。上記画像ではPWM信号のキャリア周波数は50kHzとなっており、人間の耳には聞こえない周波数帯域になります。

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TL494に1kHzの正弦波を入力した波形がこちらです。出力されるPWM信号に遅れがあるため少々見づらいですが、波が上がっているときはON状態が多くなり、波が下がっているときにOFF状態が多くなります。

このPWM信号をトランスに入れて高電圧を生成することによって、放電から入力した音が聞こえるという状態を作り出すことができます。こちらの画像でもキャリア周波数は50kHzとなっています。人間の耳には聞こえない帯域のため必然的にローパスフィルタがかかった状態となり、キャリア周波数は聞こえずに入力した1kHzの正弦波だけが聞こえるということになります。

 

5. 高圧トランスの選定

次に、プラズマスピーカを製作するために小型のコア入り高圧トランスを探します。一番適しているのが、ブラウン管で使われているフライバックトランス、もしくは車用のイグニッションコイルになります。これは、そこそこの電流を流すことができるためです。超小型のコア入り高圧トランスでも良いのですが、コアによる電力損失が無視できず、発熱で溶けてしまいます。今回はAliExpressにてフライバックトランスを探すこととします。

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探すと、この「BSC25-T1010A」が使えそうです。もちろん廃棄予定のブラウン管テレビなどから取り外すという入手方法もありますが、今となっては入手が難しいかもしれません。

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トランスの1次側巻線は絶縁を考えると自分で巻いたほうが良いと思われます。このようにコア材に銅線を巻くスペースがあるフライバックトランスが理想的です。

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「BSC25-T1010A」の内部回路図です。フライバックトランスはどの型番でも大体同じような回路になっています。高圧出力(HV)はケーブルが出ているためにすぐに分かりますが、対になる接続ピンは回路図がないとすぐには判明しません。回路図がない場合は実際に高電圧を流してみて、一番放電する場所を探すという作業でピンを探します。

「BSC25-T1010A」では上記画像より、9番ピンと判明します。どのフライバックトランスでも内部に整流用のダイオードが含まれているため、半波整流の波形で高電圧が出力されますが、音質にはそこまで影響ないのでこのまま使用します。

 

6. フライバックトランスの調達

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AliExpressにて「BSC25-T1010A」が10ドル前後にて販売されていますので次回以降の連載でこちらを使用していきます。探す際は、「fly back transformer」や「high voltage transformer」などのワードで探してみても良いかもしれません。コア材に銅線を巻くスペースがあるものが望ましいということを忘れないでください。

Amazonでも「フライバックトランス」などで検索すると出ますが、中国からの発送なのでAliExpressで購入するのが良いと思います。フライバックトランス以外は秋葉原等で容易に入手できる部品で製作します。

次回は実際に回路の製作に入っていきたいと思います。お楽しみに!

 

 

今回の連載の流れ

第1回:PWMの基本とTL494(今回)
第2回:制御回路の組み立て
第3回:レベルメータの取り付け
第4回:放電の動作確認

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つくば科学株式会社代表。回路設計からプログラミングまで幅広く取り扱っています。趣味は工作で、稲妻を発生させるテスラコイルや、レーザープロジェクタ、ジェットエンジンなど見た目が派手なものをよく作ります。

http://pc-jp.net/

ゼロから作るライントレーサー