若者の未来の働き方

学生時代の研究が新発想につながった!?“自分の感覚”を信じてエアコンでイノベーションを生んだ 〜エンジニアのリアルボイス

これから世に出るエンジニア候補生にとって、「ビジネスの現場」がどうなっているか、正確にイメージするのが難しいものだと思います。また、若手エンジニアにとっては、「どう成果を出すのか」、いまいち見えないものかもしれません。そこでデバプラが一計、今、現場で成果を残した人にお話をお伺いし、これからどう働いていくのが良いかを探っていくことにしました。

第1回は、エアコン内部の「熱交換器 *」をぬれたまま加熱することでカビや細菌を除去するという画期的システム「加熱除菌」を開発した、株式会社富士通ゼネラル・奥野大樹さん。その臨場感あるお話は、「イノベーションを生むには何が必要か?」という重要な命題にも深く関わっています。

* 熱交換器とは、温度差のある2流体の間で熱エネルギーの移動・交換を行わせて、室内に取り込んだ空気を冷たくしたり、熱くしたりする装置

奥野さんと熱交換器

 

ロボットの授業がイメージと違い、MEMSを研究

──現在、富士通ゼネラルに所属する奥野さんですが、学生時代はどんなことをされていましたか?

子どもの頃からロボットに対する漠然とした憧れがあって、大学の機械工学部に入りました。でもそのロボットの授業が、イメージとは全然違ったんです。それで3年生の時に大学のMEMS(微小な電気機械システム)を研究する研究室に入り、MEMSとバイオセンサーを融合させたような特殊構造の研究をしました。

──お仕事内容を教えてください

まず、エアコンのプラズマ空気清浄(プラズマクリーン)ユニットの開発チームに加わりました。これは空気中のほこりを電気的に吸着する「電気集じん」の仕組みを利用したユニットです。

ただ、エアコンの中にこうした構造物が入るとどうしてもエアコンの機能に影響が出やすく、逆に影響が全く出ない所に置くと空気清浄効果が発揮されないというジレンマに苦労しましたが、最適な落としどころをなんとか見つけ、2014年に搭載製品が発売されました。お客さまからの反応がよく、清潔機能に対する需要を感じました。

その後、新しい機能の開発を先行的に行う部署に移りました。

──そこではどんなことを?

会社からは「もっと清潔機能を開発してくれ」と言われていたので、最初の1年間くらいは何をどのように清潔にすべきかをいろいろ調査・検討しました。その一環で、悪臭などを理由に回収されてきたエアコンを分解してみたところ、内部の熱交換器の一部にピンクっぽい汚れや黒いカビが付いていたんです。どの機種もカビや細菌抑制のための乾燥運転を行っているはずですが、それがうまく機能しない場合もあるんだなと思い、そこに改善の余地を感じました。

 

周りからは「エアコンを壊す気か」と反対された

──なるほど。そこからどのように改善を?

熱交換器は細かなフィンが連なる構造のため、1~2ミリくらいのすき間にどうしても水が表面張力で残ってしまいます。そこで弊社も他社も「水があるから菌が繁殖する」ということで乾燥させて
抑制していたんです。でも僕のなかには、大学時代からバイオの研究をしてきた経験上、カビ菌は乾燥した状態の加熱には強いけど、お湯には弱いという実感がありました。だから逆に水を活かしてそのまま温度を上げれば、いわゆる「湿熱」によりカビを除去できるのではと考えたんです。これが「加熱除菌」の大元の発想です。

そこで何℃ならOKかというのを試験で調べ、実際に55℃以上の湿熱であればカビや細菌が除去されるということがわかりました。

──あとは、熱交換器を55℃以上に上げられるようにすればいいと。

と思ったのですが、この話を専門家に持ちかけたところ「本気?」という反応が返ってきました。「夏場に55℃なんて許容できない」「エアコンを壊す気か」と。室内の空気の熱を外に追い出して冷たい空気として室内に戻すエアコンの仕組みを「冷凍サイクル」と呼びますが、僕のアイデアは、家庭用エアコンの冷房時の冷凍サイクルにおいては、常識からかけ離れたものだったんです。熱交換器を55℃以上まで上げてしまっては、冷凍サイクルの信頼性や耐久性が担保されるはずがないだろうと。でも僕はエアコンの冷凍サイクル設計の実務経験がなかったので、「暖房運転の時に熱交換器は50℃にも達するわけだから、温度制御上の工夫をとり入れることで55℃以上に上げても冷凍サイクルの信頼性・耐久性は担保されるのでは?」と、感覚的に“いけるだろう”と思えたんです。

──そこからどうやって会社を動かしていったのでしょう?

少しずつ人を巻き込んでいきました。正式な業務テーマとする前に、冷凍サイクル専門家のHさんに相談していました。最初は首を傾げていたHさんも、私たちでやれる範囲の評価データを見せ、やる意味も含めて根気よく話しているうちに「やってみなければ本当に出来ないかは分からないか。やってみよう。」という流れに。そこでHさんの手を貸していただく段取りをつけるため、Hさんの上司を説得しました。Hさんの参加は、冷凍サイクルにおける課題の解決はもちろん、他部門への相談にも絶大な効果を発揮してくれました。
例えばコンプレッサーの部門に相談にいった際、初めはやはり「え? そんなことして大丈夫なの??」という反応でしたが、冷凍サイクルのエキスパートを“仲間”にした状態だったので、「Hさんが言うのであれば、協力しましょう。」という感じで協力が得やすかったことが印象的です。

以降もさまざまな人の力を借りながら開発を進め、ついには温度上昇を制御する特殊な仕組みが完成しました(特許出願中)。そうして加熱除菌システムを搭載したエアコン製品が、2017年11月に発売されました。

奥野さんと部品

 

人を巻き込まないと革新は生まれない

──反響はいかがでしたか。

かなりよかったですね。正直、自分でもここまでの反響とは思っていませんでした。おかげで最初はフラッグシップモデルだけの搭載でしたが、すぐに他機種にも導入されました。基本的に新しい部品を入れることなく、現状の機構のままで導入できるのも大きなメリットでした。

会社のカタログでも大々的に宣伝していただき、ありがたいことに僕自身の写真とコメントも掲載してもらいました。自分の仕事がこんなふうに形になり、しかも会社に武器として使ってもらえていることが、とても嬉しいです。家族にも「こんな仕事をしたんだよ」と見せることができました。

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──イノベーションを起こせた要因はなんだったと思いますか?

一つはやっぱり、僕が冷凍サイクル設計の経験がなかったために、「そんなことできるはずがない」と否定的な思考が働かなかったのが大きいと思います。冷凍サイクル設計に詳しい人ならまず55℃以上に加熱するという発想にはならなかったでしょう。

もう一つは、「あとひと工夫あればいけそうだ」と思った自分の感覚を信じて、周囲にNOと言われてもあきらめずに続けたことです。これならいけると思ったら、自分の目で見て本当にダメだとわかるまでは粘る、というのが大切ではないでしょうか。

──現在はどんな業務に就かれていますか?

今は全社を横断した新規ビジネスの創出プロジェクトに就いています。社内外を問わず、人をどんどん巻き込んでいくような仕事です。

──純粋なエンジニアとは違う業務だと思いますが、抵抗はありませんか?

ないですね。逆に狭い範囲で閉じこもってやることの方が、僕は違和感を抱いてしまいます。やっぱりいろいろなところに目を向けて、どんどん人を巻き込んでいかないと、新しいものを生み出すのは難しいと思うので。

──学生時代のものづくりと、ビジネスの現場のものづくりは、やはり違いますか?

そうですね。たとえば日程に関しても、学生時代はそこまで日程のことは気にしませんでした。でもビジネスの現場では、この期限までにやるといったら絶対にやらなくてはいけません。とことんこだわることも時には非常に大切ですが、最善の落とし所を見極めることはもっと重要になります。もし間に合わなければ、お客さんを含めたいろいろな人に迷惑がかかります。そうした「責任のレベル」が、学生時代とは全然違うなというのを働き出して実感しました。

──これからエンジニアを目指す人たちに何かメッセージをお願いします。

就職をあまり重く考えない方がいいのではないかと思います。会社とは、外に向けてはいいことばかり言うものです(笑)。結局は、入らないとわかりません。むしろいろいろな情報に惑わされず、「自分はここで、これをやりたい」ということだけを思って会社に入れば、まずやっていけるのではないでしょうか。

それと、専門外のことにもぜひ目を向けてもらえたらなと思います。僕が学生時代にそれができたかというと微妙ですが、学生時代にたまたまMEMSの研究とあわせてバイオ関連の研究もしていたことが、その後の仕事に繋がり、加熱除菌の開発にまで繋がりました。なのでみなさんも興味があるところからでいいので、自分がどっぷり関わっているもの以外にも目を向けて少しずつ学んでいけば、それが何かの役に立つ日がいつかくると思いますよ。

 
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Device Plus 編集部

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