若者の未来の働き方

“ライダーのため”を貫く。これまでにない“テンションが上がる”ものを作り出すために ~エンジニアのリアルボイス

これから世に出るエンジニア候補生にとって、「ビジネスの現場」がどうなっているか、正確にイメージするのは難しいものだと思います。また、若手エンジニアにとっては、「どう成果を出すのか」、いまいち見えないものかもしれません。そこでデバプラが一計、今、現場で成果を残している人にお話をお伺いし、これからどう働いていくのが良いかを探っていくことにしました。

第3回は、株式会社本田技術研究所 二輪R&Dセンターに勤める山崎世界さん。世界有数の自動車メーカーであり二輪車の売り上げで世界首位を走る本田技研工業株式会社の研究開発部門を担う山崎さんが開発した画期的なデジタルメーターの開発秘話とともに、“ものづくりの仕事で特に大切なこと”を聞いてきました。

DSC_0110+

 

バイクの修理を機に、ものを触るのが楽しくなった

──学生時代は将来どんな仕事を目指していましたか?

父もエンジニアをしていた関係で、子供時代から仕事といえばものを作ることだと思っていました。とはいえ特に何かを作っていたわけではなく、『ガンダム』とかのアニメが好きだったので、漠然と将来はロボットみたいなものを作りたいなという感じでした。それで高校卒業後は理系の大学に進みました。

──大学ではどんな勉強を?

電気電子工学科だったので、まずは電気の基礎的な知識を学びました。

それと光学系の研究室に入り、光が物体に当たることで散乱する「散乱現象」について研究しました。主にやっていたのは、散乱現象の数式を見ながらプログラミングでアルゴリズムに落とし込むという研究です。

もともとプログラミングもパソコンも得意ではありませんでしたが、先輩に教わりながらやるうちに、テトリスみたいに組み合わせていく感じが面白くて熱中しました。あるときフとひらめいて作業を始めて、気づいたら12時間も経っていたとか、夜アイデアが浮かんで朝までやって……ということもありました。

──他に学生時代に熱中したことは?

バイクですね。大学2年の時にバイクを買ったのですが、1週間で大転倒してパーツが破損してしまったんです。ショップに持っていったら修理代がすごく高かったので、それなら自分でやってみようとヤフオクでパーツを落札し、父にいろいろ聞きながら直しました。

そこからものを触るのが楽しくなって、だんだんハマっていきました。バイクの仕組みがブラックボックスではなくて、目で見て理解できるものだったのも大きかったと思います。

──なぜ本田技研工業株式会社でしたか?

先ずはバイク、ですね。いくつかバイクメーカーはあると思いますが、そこからの選択は、個人的な好みです。本田技研工業はシェアが大きいし、レースも強い。なにより技術力が高そうだと思いました。
その時のエントリーシートは、手書きでA4を4枚ぐらい。締め切りギリギリまで手を付けられず、マンガ喫茶で唸ってました。そして締め切り当日、本田技研工業本社の管内なら間に合うということで、渋谷の郵便局まで出しに行く、という(笑)。
エントリーシートの中身に関しては、とにかく「俺はこんなバイクを作りたい」ということを熱く綴りました。漫画『AKIRA』のバイクの絵を切り貼りしたりして。

──株式会社本田技術研究所に入社してからは、どんな業務に就きましたか?

二輪車に搭載する電装部品を開発するグループで5年間、メーターやスイッチの開発業務に携わりました。

──その中でもどんな担当でしたか?

その部品ができあがるまでの全体に関わる、ひとつの部品の、いわばプロダクトマネージャー的な役割です。

構想を考えてデザイナーと共有し、それを仕様図面にして部品を供給するメーカーに伝えてコストを算出してもらい、開発や営業の人と整合を取り、できあがったものをテストし、車体に取り付けて見栄えを確認する、といった流れです。

 

若い人がかっこいいと喜ぶメーターを

──特に印象に残っているプロダクトは?

私が初めて開発を担当した、CBR250RRという250ccのバイクのメーターです。この機種自体のコンセプトが「250ccという“クラス”を超える、かっこよく、速く、装備が豪華」といったものだったので、それならメーターもすごくかっこいいものを作ろう、1000ccクラスのメーターを超えるものにしてやろう、という思いで開発を始めました。

──特にどんなところにこだわりましたか?

若い人が見てかっこいいと思うバイクにしたかったので、フルデジタルメーターの液晶画面を囲むベゼルの幅を極力細くし、画面を大型化しました。やっぱりスマホ世代に支持されるには、液晶は大きくないといけないだろうという考えがありました。

また、タコメーターを内側・外側の2列式に分けたセグメント表示としました。内側には通常通りに回転数が表示され、外側にはあらかじめ設定しておいたシフトチェンジ用の回転数を目印として表示させたり、回転数の直近の最高値をマーキングすることができます。

起動時のオープニング画面にもこだわりました。いったん全部点灯した後にだんだん消えていき、「CBR」の文字が浮き上がるという、映画の『マトリックス』的なイメージをとりいれたんです。この2秒間のために、パラパラ漫画でアニメーションを作ってデザイナーにイメージを伝えました。

──これまでにこうしたメーターはなかった?

そうですね。最近は250ccにもデジタルメーターが付き始めましたが、こんなに大きい液晶は使っていません。タコメーターが2列になっているものも、おそらく他にはないと思います。

メーターの説明

──開発で特に苦労したところは?

部品メーカーさんの「ここはそんな大きさにはできない」といった意見を取り入れて試作品を作ったところ、ものすごく不出来なものになってしまったんです。周りからは、こんな安っぽいのは見たことがないとか、このまま製品化されたら大分恥ずかしいよね(笑)とか、ひどいことを言われました。

そこでまずはメーターケースを開け、内部のデザインやパーツを変えられないか、じっくり検討しました。そして部品メーカーさんや先輩社員と意見を出し合いながら、一つ一つ改善していったんです。それでコストアップしてしまう場合は、他の部分で作り方を工夫するなどして相殺するというトレードオフも行いました。そうやってなんとか納期までに、イメージ通りのものに仕上げることができました。

──いざCBR250RRが発売されての反響は?

発売後にネットで検索してみたら、「かっこいい」ととても好評でした。特にフロント周りが大型バイクみたいでかっこいいとか、メーターが多機能でいいという意見を見て、「よっしゃあ!」となりました。ああ、狙い通りにバイク乗りの人たちの気持ちをくすぐることができたんだなと思いました。こだわったオープニング画面を動画でネットに載せている人もけっこういて、それも嬉しかったですね。

CBR250RRが発売

 

“お客さまのため”と思えば言いにくいことも言える

──現在はどんな業務に就いていますか?

電装品の開発に5年間携わった後、2018年4月からダカール・ラリー用レース車両の電装プロジェクトリーダーに就きました。ダカール・ラリーという世界的なオフロードレースで使われるホンダの二輪車両の電装品を開発する仕事です。

実際にレースの現場に行って電気系統のサポートも行います。さっそく先日、レースでチリに行ってきました。1月にペルーで行われるダカール・ラリーの本番も現地に行く予定です。

ダカール・ラリー

──仕事をするうえで大切にしていることは?

ちゃんと自分の意志を持って、それをはっきり人に伝えることですね。
私も最初は周りの言うことを聞かなくてはいけないのかなと思っていましたが、はっきり自分の意見を言わないと伝わらないというのがわかったので、今ではきちんと言うようにしています。本当にお客さまのことを思うからこそ、良かれと思うことをきちんと伝えていかないといけないなと。

前述のメーター開発の時も、かっこいいバイクを作って若い人たちに喜んでもらいたいという目的がまずあって、そのためには言いにくいこともしっかり伝えるしかないなと思い、実行していった感じです。

──相手に理解してもらう為には、言い方も重要になってきますか?

それはあまり意識していません。言い方よりも、技術的な裏付けが重要だと思っています。単に「ここを変えたい」と希望だけを言っても「なんでだよ」となってしまいますが、技術的な裏付けをふまえてきちんと説明すれば、納得してもらえます。

──社会人になって気づいたことは?

たとえ希望の会社や部署に入れなくても、悲観する必要はないんだなということです。実は私も最初はEV(電気自動車)の開発をしたかったので、電装部品を開発する部門に配属された時は落ち込みました。でも実際にそこでの仕事に取り組んでみたらすごく楽しく、やりがいをもって仕事ができました。だからそこは考え方ひとつなのかなと。

たとえ希望通りの仕事じゃなくても、与えられた条件の中で自分のできることを発見して持ち味を出していく。そういう前向きな気合みたいなものが大切なのではないかと思います。

──これからエンジニアを目指す人たちに向けてメッセージをお願いします

今はArduinoやmbedなど、手軽に電子工作ができるツールがあります。将来ものづくりを目指す人は、ぜひそういうものを使い、簡単でもいいので自分が考えた面白いアイデアとかぶっ飛んだアイデアを形にしてもらいたいです。そういう勉強が、エンジニアになったときの力になってくれると思います。私自身もそういう電子工作をもっとやっておけばよかったなとちょっと後悔しています。

 
ロボコニストが伝授!ぼくらの就職活動

Device Plus 編集部

エレクトロニクスやメカトロニクスを愛するみなさんに、深く愛されるサイトを目指してDevice Plusを運営中。

https://deviceplus.jp

電子工作マニュアル Vol.3