PWM駆動の電流回生方法による差について

第1回:消費電力の計算方法について
第2回:出力電流の絶対最大定格について
第3回:ブラシ付DCモータの簡単な駆動について
第4回:PWM駆動による定電流動作について

 

質問:PWM駆動のオフ・デューティ区間での電流回生に方法がいくつかあるようですがその差は何ですか?

回答:大きくは2つに分かれます。1つはブラシ付モータの2端子を等価的にショートする方法で、もう1つはブラシ付モータの2端子に等価的に電源の極性をオン・デューティ区間と逆に接続する方法です。前者の方法は回生電流の減衰は緩やかで、後者は電流を逆に流そうとする向きの電圧がコイルに加わるため、回生電流の減衰が急になります。モータの2端子を等価的にショートする方法はモータに約「電源電圧×オン・デューティ比」の電圧がかかることになりますが、モータの2端子に等価的に電源の極性をオン・デューティ区間と逆に接続する方法ではモータに約「電源電圧×(オン・デューティ比(%)-50%)/50%」の電圧がかかることになります。

この方法でオン・デューティが50%より低い場合、出力MOS Trをオンさせて接続のように逆方向に電流が流れる回路では逆方向に電流が流れ、オン・デューティ比からの計算で決まる電圧がモータにかかります。しかし、出力MOS Trを全てオフさせて、寄生のDiで接続のように逆方向に電流が流れない回路ではオン・デューティが50%より小さくてもオン・デューティ比による正方向の小さな電流が流れます。

PWM駆動の電流供給時(オン・デューティ区間)とモータの2端子を等価的にショートする方法の電流回生時の等価回路をFig-1に示します。

  • 電流供給時(a)電流供給時
  • 電流回生時1(b)電流回生時1
  • 電流回生時2(c)電流回生時2

Fig-1 PWM動作 電流供給、モータ2端子ショート電流回生 回路図

電流供給時はQ1とQ4をオンして電源にモータを接続しています。また、電流回生時は、(b)の電流回生1ではQ1オフ、Q2オンさせ、Q4はオンのままでモータ端子間をショートしたことと同じにします。(c)の電流回生2ではQ1、Q2ともオフさせ、Q4はオンのままで、Q2の寄生ダイオードを通じてモータ電流が一巡します。

モータの2端子をショートする電流回生を行ったPWM動作波形をFig-2に示します。ただし、電流のピーク・ピーク間の変化を実際より大きくしてあります(以降も同様)。

Fig-2 PWM駆動による定電流動作波形

Fig-2 モータ2端子ショート電流回生時 PWM動作波形

モータ発電電圧(Ec)をゼロとするとモータ平均電流値 Iaveは、

Iave=Ea・m/R
(ただし、Ea:モータ電源電圧、m:オン・デューティ比、R:モータ等価抵抗)

となり、モータ電源電圧にオン・デューティ比をかけた電圧がモータにかかることになります。

モータの2端子に等価的に電源の極性をオン・デューティ区間と逆に接続する方法の電流回生時の等価回路をFig-3に示します。

  • ( d ) 電流回生時3( d ) 電流回生時3
  • ( e ) 電流回生時4( e ) 電流回生時4

Fig-3 PWM動作 モータ2端子電源極性逆接続電流回生 回路図

(d)の電流回生3ではQ1、Q4をオフし、Q2、Q3をオンしオン・デューティ区間とモータにかかる電源の極性を逆にしています。また、(e)の電流回生4ではQ1からQ4の全てのTrをオフしていますが、Q2、Q4の寄生ダイオードを通じて電流が回生し等価的にオン・デューティ区間とモータにかかる電源の極性が逆になります。

Fig-3(d)のようにモータの2端子を等価的に電源の極性をオン・デューティ区間と逆に接続する電流回生を行い、逆方向に電流が流れる回路のPWM動作波形をFig-4に示します。

Fig-2 PWM駆動による定電流動作波形

Fig-4 モータ2端子電源極性逆接続電流回生、逆方向電流流れる回路 PWM動作波形

回生電流がゼロ以下になると逆方向に電流が流れるためオン・デューティが50%でモータの平均電流がゼロになります。オン・デューティが100%から50%では平均である方向に電流が流れ、50%から0%では50%より大きい場合と逆の方向に平均で電流が流れます。モータにかかる等価的な電圧は、

モータ電源電圧×(オン・デューティ比(%)-50%)/50%

になります。
次にFig-3(e)のように電源逆接続の電流回生を行い、逆方向に電流が流れない回路のPWM動作波形をFig-5に示します。

Fig-2 PWM駆動による定電流動作波形

Fig-5 モータ2端子電源極性逆接続電流回生、逆方向電流流れない回路 PWM動作波形

電流がオン・デューティ区間の逆には流れないため、オン・デューティ比が50%でも平均電流がゼロにならず、オン・デューティを50%より小さくしていくと平均電流は減少し、0%で電流ゼロになります。電流の過渡波形で電流最小ピーク値がゼロより大きい場合のモータにかかる等価電圧が、

モータ電源電圧×(オン・デューティ比(%)-50%)/50%

になります。
これらの等価電圧は実際には出力Trの上側、下側のオン抵抗の差や、Diで発生する順方向電圧があるため、前記の計算式による値と多少のずれが生じます。

 

 

今回の連載の流れ

第1回:消費電力の計算方法について
第2回:出力電流の絶対最大定格について
第3回:ブラシ付DCモータの簡単な駆動について
第4回:PWM駆動による定電流動作について
第5回:PWM駆動の電流回生方法による差について(今回)
第6回:モータに最大の電流が流れる状態について
第7回:出力トランジスタの寄生ダイオードを通じて電流回生した時の消費電力について
第8回:モータにトルク負荷をかけた時のモータ電流について
第9回:モータの電気的時定数に対して十分に小さいPWM周期について
第10回:1個のMOSFETでモータをPWM駆動させるときのモータに並列接続するダイオードに流れる電流について

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ローム株式会社モータアプリケーションエンジニアグループ所属。名古屋工業大学電子工学科卒業後、ローム株式会社へ入社。これまで数々の開発に取り組み、モータードライバ一筋のエンジニアです。

http://www.rohm.co.jp/web/japan/

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