今年6月4日、東京都の大田区総合体育館で開催された「NHK学生ロボコン2023」。この大会でローム賞を受賞した京都工芸繊維大学の「ForteFibre(フォルテフィブレ)」の出場メンバーの皆さんに、ロボットの開発経緯や、大会当日の様子について話を伺った。
31回目となる今大会は、全国から応募された39チームのうち、ビデオなどの事前審査を通過した22チームが出場。優勝チームは「ABUアジア・太平洋ロボットコンテスト2023カンボジア・プノンペン大会」(8月に開催)に日本代表としての出場権を得ることもあり、白熱した戦いが繰り広げられた。
今年の競技課題は、カンボジアにちなみ、 “Casting Flowers over Angkor Wat(アンコール・ワットに花々を)”。アンコール・ワットを模した高さ0.8~1.5mの11本のポールに、カンボジアの寓話によく登場する知恵の象徴である「うさぎ」と、力強く穏やかな「ぞう」をモチーフにしたロボットが協力してチームカラーの輪を投げ入れ、各ポールの一番上にある輪が得点になるというルール。一見単純に見えて、ロボコン史上屈指の作戦力が必要になるとも言われた今大会は、作戦プランの多さや臨機応変な操縦が勝負の決め手になった。
■チームの「夢」を詰め込んだ機体
京都工芸繊維大学ForteFibreは、ハード4名、ソフト4名の計8人という少数精鋭で大会に臨んだ。うち5人が女性で、取材中もたわいのないおしゃべりに花が咲く、明るく朗らかなチームだ。技術の話になると一転、真剣なまなざしで語り合う姿に、ロボット制作への強い思いがにじむ。今大会について尋ねると、「やりたいことや、ロボットに載せたい夢がたくさんあったんです」と口をそろえる。ロボットのサイズ制限があるなか、機体にいろいろな機構を詰め込もうと最終段階まで工夫を凝らしたという。
チームの特長の一つ、エレファントロボット(ER)からラビットロボット(RR)を射出するという戦略は、計画の最初から考えていた。リーダーの志田さんは「実は当初は、『妨害機構』をRRに搭載する予定でした」と明かす。ERからRRを射出し、段上に橋渡しすることで迅速に中心のアンコール・ワットエリアに到達し、RRから腕を伸ばして相手のリングがポールに入らないように妨害をするという「最速妨害」が当初のコンセプトだったという。
「コンスタントに一番得点の高いポールにリングを入れるのが難しそうだなと最初から思っていて、それよりも得点勝負で小賢しく勝とうと思っていました」と戦略的な一面を見せる。最終的に妨害機構は搭載しなかったが、ERからRRに橋渡しする仕組みを主軸に構成した。
スムーズに三段目のセンターエリアに到達するため備え付けたRRの昇降機構は、サイズが大きく、他の機構やガイド、モーターとのスペースの取り合いに苦戦。その結果、ロボットの内側にリングを通すスペースが確保できず、外側を移動させることになった。リングの回収機構は当初、リングの真ん中に腕を入れて持ち上げる手法だったが、安定性を求めて何度も改良を加え、最終的にすくって持ち上げる形に落ち着いた。
一番力を入れたのが、リングの射出機構だ。リングの個体差によって生じる空中姿勢のばらつきを安定させるため、射出ローラーの材質変更や、機体の見直しを繰り返し、空中姿勢の変化の原因を探った。メンバーは「本当にずっと、皆でリングを飛ばし続けてたよね」と笑い合いながら振り返る。動作の異なる装填機構も比較評価し、大会間際まで何度も実験を重ね、美しく安定した投てき姿勢を実現。途中、リソースの少なさに苦しみ、スケジュールに追い込まれながらも、チーム一丸となって納得のゆく機体を完成させることができた。
取材に同行したロームのエンジニアは、実際のロボットを見学し、基板を立てて搭載した点に注目。基板を平面に載せるチームが多いなか、垂直に立てることで他の機構のスペースを確保でき、基板の一部が破損してしまっても交換しやすいというユニークな工夫を称賛した。このロボットがいかに工夫を積み重ねて出来上がったものなのか、大会を終えた後でもその熱量がひしひしと伝わってきた。
想いを詰め込んだロボットとともに満を持して臨んだ試合の行方は……。後編に続く!
今回の連載の流れ
「あの時のピットvol.5」学生ロボコン2023 ローム賞受賞校に聞く【前編】(今回)
「あの時のピットvol.5」学生ロボコン2023 ローム賞受賞校に聞く【後編】