去る2022年9月3〜4日、東京都江東区にある東京ビッグサイトにて「Maker Faire Tokyo 2022」(以下、メイカーフェア)が開催されました。このメイカーフェアは、誰でも使えるようになった新しいテクノロジー(カードサイズのコンピュータやセンサ、3Dプリンタ、ロボット、AI、VRなど)をユニークな発想で使いこなし、皆があっと驚くようなものや、これまでになかった便利なものをつくり出す「メイカー」が集い、展示とデモンストレーションをおこなうイベントです。昨年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響でオンライン開催のみでしたが、今年は2年ぶりに会場での開催+オンラインでのハイブリッド開催となりました。
会場入り口では、開場前から2年ぶりの開催に沸き立つファンたちで長蛇の列ができ、メイカーフェアらしい熱気に満ち溢れた雰囲気に。会場内はメイカーとファンたちがあちこちでコミュニケーションを図り、誰もがリアル開催を喜んで笑顔だったのが印象的でした。そんなメイカーフェアの中でも特に注目の作品を、デバプラ目線でお届けしていきたいと思います!
①長岡造形大学 テクノロジー×デザイン領域 / MKB-System
デバプラで電子工作記事の執筆をしてくれている平原真さん(准教授)が所属する、長岡造形大学がブースを出展。誰もが一度はやったことのある、鉛筆をゆらゆら上下に揺らして、まるで柔らかいモノのように見えるあの現象を、多数のステッピングモータで制御するシステムを開発し実現していました。
これはTouchDesignerで制作したシミュレータでモータの動作を設定し、1台のマスター(Arduino Uno)から複数のスレイブ(Arduino Nano)に命令を送り、ドライバを介してモータを制御しています。まるでその動きは人間が指でつまんで動かしているかのような滑らかさで、本当にゆらゆらと揺れているように見えてきます。
なお、長岡造形大学では2023年度から「テクノロジー×デザイン領域」が誕生予定とのこと。プロダクトやグラフィックなどさまざまな領域を横断して、もっと広く、楽しく、フレキシブルにデザインが学べる場になるとのことで大いに期待したいところです。
平原真さんのデバプラ連載記事はこちら!
- M5Stackとセンサで作るカラーリキッド
- Arduinoと赤色レーザーで作るレーザーストリングス
- Arduinoと加速度センサで作るデジタルボール転がし迷路
- Arduinoを使ったソーラーパネルで動くデジタル飼育箱
②いしかわきょーすけ / 手のひらサイズペンプロッタ
線を引くことで印刷できるペンプロッタ。これを自作して展示し、さらに実演までされていました。手のひらサイズという通り、本当にコンパクトで小さいのですが、その精密さは素晴らしく、精緻にペンが絵を描いていきます。作者は6年前からペンプロッタの自作に取り組み、今年は1軸直動機構を2つ組み合わせたペンプロッタで、名刺用紙に絵や文字を描画したり、ペンとテーブルを個別に動かすタイプのデモもおこなっていました。
③ねくある(NEXT+α)/ アトゴフンダケ
ねくある(NEXT+α)ブースには、以前にデバプラで制作記事を公開し、大きな反響を呼んだ「アトゴフンダケ」が元気に活躍していました!
この全自動二度寝支援装置「アトゴフンダケ」は、目覚ましが鳴ったらすぐに止めてくれるという非常に便利な(?)装置なのですが、会場ではそのアイデアと動きが特にお子さんに非常にウケており、何度も何度も目覚ましを止めていました。
マイコンはArduinoを使用。内部の仕組みとしては、目覚まし時計を叩くアームはサーボモータ2個とソレノイド1個によって構成されていて、蓋は蝶番で開閉するようになっており、サーボモータとリンク機構によって開閉させるようになっています。見てもらうと分かる通り、とても機敏な全力の動きが特徴で、これで再び安心して眠りにつくことができそうです。
④D-The-Star / 自律小型移動ロボット「マイクロマウス」
会場で小さなロボットが所狭しと駆けているので覗いてみると、ミニマムサイズのロボットがコースを自律で、とてもスムーズに駆け回っていました。
この「マイクロマウス」は、自動で迷路を探索・解析し、最短ルートかつ高速で駆け抜ける自律小型移動ロボットで、マイコンと光センサなどを搭載し、自ら学習しながら迷路を壁に当たることなく走行できます。迷路はその都度作り変えてもロボットは再び学習するため問題なく、毎回軽快な走行を披露してくれます。
「マイクロマウス」は非常に歴史のあるロボット競技会で、参加者がロボットの機構からソフトウェアまでをオリジナルで製作するのが特徴。このD-The Starチームは、過去に競技会で優勝するなど優秀な成績を収めていることもあり、デモ走行していたマイクロマウスは、非常に精緻な動きを披露してくれました。
⑤工作記録帳 / コマッピング
コマとプロジェクションマッピングによる美しいデモを披露していたのが、工作記録帳ブースです。ここで展示していた「コマッピング」は、回転するコマに、プロジェクションマッピングによるエフェクトを投影し、幻想的な雰囲気を作り上げています。
仕組みとしてはRaspberry Piのカメラでコマの位置や回転、非回転を画像検出し、エフェクトをリアルタイムで投影し、コマに追従させているとのこと。エフェクトのセンスの良さと、コマに対しリアルタイムに追従する精緻さに脱帽です。
⑥カサネタリウム / EMOjiマスク
この「EMOjiマスク」は、絵文字(emoji)で感情(emotion)を伝えることができるマスクです。コロナ禍においては社会生活の中でマスクを着用するシーンが増え、顔の半分を覆ってしまうことで感情が伝えづらくなることに着目し、マスクに絵文字の一部を表示させ、自分の感情を表現できるようになっています。
マスクへの表示はフルカラーLEDが裏に仕込まれており、絵文字の切り替えはM5Stackを使って制御。マスクを着用している人自身は、マスクが現在どのような表示になっているか見えないので、M5Stackの液晶画面に絵文字を表示させることで認識できるようになっており、液晶画面を見ながらボタン操作で絵文字を切り替えられます。
LEDの光は四角形のピクセルにするためにLED間を高さ5mmの格子で区切る工夫がなされており、この区切りを入れることで光の拡散層を作っているとのことです。
⑦PB Make部 / ロボットボール「omicro」
まるで動物の顔のようなデザインがボールの中に入っている「omicro」は、ハンドモーションで複数同時に操作することができるロボットボールです。
この「omicro」とは、マーカーレスARと仮想障害物を用いた自走式球体型ロボットの制御システムのことを指すそうで、スマートフォンやタブレットからbluetoothで接続して操作も可能。6軸コンボセンサ(3軸加速度センサ+3軸ジャイロセンサ)でボールの姿勢の変化を検知するだけでなく、ハンドジェスチャで指示を出すことで、手の動きを機械学習で学習し、ジェスチャに応じてボールを制御することもできるとのことです。
動きは非常に軽快で、球体なので水面を走行することできるとか。360度旋回ができるので、狭いエリアでもキビキビとした動きを見せてくれました。
⑧MK Tech Lab / ロボットアームを動かして不思議な映像空間を体験しよう!
この作品は、半ドーム形スクリーンに投影される仮想空間の迷路を、ハンドジェスチャでクリアしていくゲームとなっているのですが、その仕組みが特徴的です。半ドーム形スクリーンにはロボットアームが取り付けられており、そのアームにはピコプロジェクタが搭載されています。このピコプロジェクタが投影する迷路を、非接触式のハンドラッキングセンサの上で手を動かすことで、自身のボットを移動させることができます。
モータの制御にはM5Stackを使っており、ロボットアームは3Dプリンタで製作した5軸のものを採用。ハンドジェスチャで仮想空間のボットを操作するのですが、仮想空間内では敵を避けながらオーブをゲットしてからゴールに向かわなければならないなど、かなり本格的な内容になっています。
ハンドトラッキングセンサの感度はかなりよく、操作性は良好でストレスなくゲームを楽しむことができました。仮想空間のコンテンツを現実空間で楽しむというアイデアを見事に実現しています。
⑨ぷらぎあ工房 / 5指ロボットハンド「LiNKER-G28」
まるで人間の指のようなリアルな動きをするこのロボットハンドは、ワイヤ駆動で動く5指ロボットハンドです。
特徴としてはLeapMotionというカメラで画像認識して、手をセンサの上でかざすだけで、人間の手や指の動きと同じようにロボットハンドを動かすことができます。
前述のようにワイヤ駆動なため、駆動させるモータを離れた場所に置けるようになったことで、軽量でサイズもコンパクトな仕上がりにすることが可能になりました。まるで人間の手のような、優しく包みこむような動きは必見です。
⑩高エネルギー技術研究室 / テスラコイル
以前、デバプラで研究室長の菊地秀人さんが「フライバックトランスを利用したプラズマスピーカの制作」の連載をしてくれたのを覚えている方もいるかもしれませんが、メイカーフェアでもテスラコイルのデモをおこなって、大きな注目を集めていました。
テスラコイルとは、共振現象を利用し、高周波・高電圧を発生させる特殊な変圧器のこと。1万ボルト以上という、非常に高い電圧を発生させることで人工的に稲妻を発生させることが可能です。
この日は小型のテスラコイルを使って、菊地さん自らパフォーマンスをおこなっていましたが、菊地さんの指とテスラコイルの間に紫色の稲妻が確かに見えます。デバプラスタッフも恐る恐る手を出してみると、ビリッ!と強力な静電気のような感触を受けましたが、そこまで痛みはないのが意外でした。
菊地秀人さんのデバプラ連載記事はこちら!
⑪まとめ
2年ぶりの会場での開催となった今回のメイカーフェアでしたが、昨年悔しい思いをしたメイカーさん達や、ファンやマニアの方々はその分、今回のメイカーフェアに賭けるものがあったのか、独創的でアイデアに富んだ作品が多く並んでいました。
それぞれの技術は既にあるものでも、その組み合わせひとつでまったく新しい作品が生まれてしまうのも、メイカーフェアの良いところ。既存の作品でも少しでもブラッシュアップして、より良いものにしていくという、メイカーとしてのプライドもあちこちで垣間見ることができました。
2023年は10月に開催を予定しているとのことで、今からどんな作品が登場するか、楽しみにしておきたいと思います。