ロボコン

ABUロボコン2017 “The Landing Disc” 振り返りとまとめ 

ものづくりの街、東京都大田区。ものづくりのなかでも、「削る」「メッキする」などの材料加工に特化した町工場が立ち並んでいるのが特徴だ。

『下町ロケット』で登場したような精密加工を要する特殊製品は、材料技術の有無がカギを握る。日本が産業国として世界のトップ国に追いつくラストチャンスとも言われている「第四次産業革命」。それをハードウェア面から支えるのが大田区だとも言える。

そんな日本の未来を生み出す町で、2017年8月27日、国際的なロボットコンテストである、第16回ABUロボコンが開催された。

ABUロボコン2017 大会オーバービュー

正式名称は「ABUアジア・太平洋ロボットコンテスト(ABU Asia-Pacific Robot Contest)」。アジアと太平洋を中心とした放送機関の連合体が主催するロボットコンテストだ。

強豪国と言えるのは、中国、ベトナム、タイ、マレーシアだろうか。特に中国とベトナムは、ともに過去5回の優勝経験がある。

今回の競技内容は、”The Landing Disc”。柔らかい樹脂でできたディスクを台の上にのせる競技だ。このディスクによって、射出した後の軌道を一定にすることが難しい点が、最大のポイントとされた。

結果は、ベトナム・ラクホン大学が盤石とも言える力量を発揮し、優勝。柔らかいものをいかに制御するか、という課題は、清水優史東工大名誉教授が述べたように、もはやあまり関係のないレベルの精度をたたき出していたようにも思う。

今回の日本開催は、2002年、2008年に続く3回目。記者は過去のABUロボコンも見てきたが、本当に洗練された大会だったと感じる。ライブストリーミングの12カ国語化、最新の放送技術の投入、ピットの整備、厳格なルールの運用など、さまざまな面で、ホストである日本・NHK、そしてケータリングの手配にまで至るすべての関係者の力の入り具合を感じた。世界に誇れる大会組織だった。

強豪校振り返り ベトナム、マレーシア、タイ、中国

機構的な面で言えば、全体として「変わりダネ」は少なかった。ベルトかローラーかバットで1枚1枚ディスクを射出する。国内大会のような、まとめ投げやディスクを丸めてしまう等のアイデアは見られなかった。

ラクホン大学(ベトナム)…優勝

予選リーグ、決勝トーナメントすべての試合でAPPARE!を決め、文句なしの強さで優勝。そして最大の栄誉、ABUロボコン大賞を受賞した。
他校との目立った違いはディスクの自動ロードくらい。しかしながら、それが「強さの切り札」となった印象はない。センサやモータも決して高級なものではなく、機構は手作り感あふれるアナクロ仕様だった(装填部の直動機構はギアのピッチに合わせてポールに穴を開けていた!)。
一目見れば分かる仕事の丁寧さや、必要十分を突き詰めた作り込みで「勝つべくして勝つ」マシンを完成させていたように思う。これでベトナムの優勝回数は6回目。参加国中トップだ(次点は中国の5回)。

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マレーシア工科大学(マレーシア)…準優勝

優勝校のラクホン大学同様、すべての試合でAPPARE!勝利。仙台高専名取や長岡技術科学大学を彷彿とさせる円弧形状のカタパルトを持ち、予選では44秒、準決勝では41秒でAPPARE!を達成。これは国内大会での工学院大学(APPARE!達成タイム0分43秒)とほぼ同等タイムだ。「国内大会ロボットとのバトルを見てみたい」と強く思わせるマシンだった。

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タートゥーム社会教育産業カレッジ(タイ)…ベスト4

“国内大会のロボットを彷彿とさせる”といえば、準決勝でマレーシアに敗退したタイ・タートゥーム社会教育産業カレッジも忘れてはならない。精度の高い投射でベスト4、敢闘賞と特別賞が贈られた。そのフォルムと精密さに、京都工芸繊維大学のマシンとの対決を夢見てしまった。

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東北大学(中国)…予選敗退

CFRP(炭素繊維強化樹脂)の削りだしギアが目を引いた強豪、中国。回転式の自動装填、相手の5ポイントスポット専用の自動打ち落とし機構など、徹底して「勝つため」のマシンだった。相手の戦術を初めから制限して試合運びを有利にする戦略性は、孫子の兵法マインドか。

本戦では、スポットに乗ったディスクが「静止する前に撃ち落としたか、静止後に撃ち落としたか」でAPPARE!妨害成立の可否が別れることになった。東工大とカンボジア相手に判定の難しい試合で敗北、まさかの予選敗退となったが、高い技術レベルが評価され、技術賞を受賞した。来年もまたぜひ、そのスーパーパワーを見せつけてほしい。

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日本勢の健闘と悔しさ 東工大、東大

東京工業大学

東工大Maquinistaは国内大会優勝、ABUではベスト4、敢闘賞を受賞。ベトナムの34秒APPARE!に敗北したが、ABU初出場という事実を忘れてしまうような、安定感と冷静さが印象に残るチームだった。
勝っても負けても「得るものがあった」とスッキリ語れるのは、すでに本大会の先を見越しているからかもしれない。来年の活躍がいまから楽しみだ。

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東京大学

国内大会準優勝・東大RoboTechは、Kinectを利用した位置情報検知の不調に泣いた。

「Kinectが光に弱い」という話はよく耳にする。Kinectは、光学的なセンシングシステムだ。パルス発信した照射光の反射から、物体の奥行きを計測する。そのため、同じ波長の強い光に干渉されると目がくらんで「見えなく」なってしまう。

本大会では国内大会のときと会場のセッティングが変わり、フィールドに照明光が集中したため、干渉が起きてKinectが見えなくなった。テストランで様々な対策を試していたようだが、自動制御の復活には至らず、メインの武器を封じられたなかでの出場になってしまったようだ。

※過去の高専ロボコン(2012年・小山高専)でも同じトラブルが起きている。そのときはセンシング対象にアルミホイルを巻いて反射を強化し、カメラにはサングラスをかけて受信する光量を減衰させるという急ごしらえの対策でその場をしのいだ。

本当に悔しい結果となったが、手動操作に切り替えての参戦でベスト8という実績は、彼らの底力を物語っていた。

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健闘した学校たち

常連・常勝の強豪校ほどの開発環境に恵まれていなくても、すべてのチームが素晴らしいマシンを仕上げていた。決勝トーナメントを見ていると感覚が麻痺してしまうのだが、「ちゃんと動くロボット」を一から作り上げていること自体が驚嘆すべきことなのだ。

カンボジア国立ポリテク大学は、開発人数わずか5人というリソースで完成させたマシンで強豪・中国相手にAPPARE!を達成、会場をどよめかせた。

エジプト・カザフスタンと韓国のチームは試合開始の直前までマシン加工が続いており、率直なところ「ちゃんと動くの!?」と心配にすらなったが、本戦ではしっかりと動作し、チームによってはきっちり得点も果たしていた。

開発期間の短いチームの活躍も目立った。イランチームは2ヶ月、パキスタンチームは2ヶ月弱、インドチームは3ヶ月という(下手をすれば材料調達だけで終わってしまいそうな)短期間での開発で、イランとパキスタンは予選での得点獲得、インドは決勝進出を果たしている。次回、もっと余裕のある開発ができれば、さらに凄みを増すだろう。

ここに挙げたチームはもちろん、日本に来て、力を尽くしてくれたすべての参加者に敬意を表したい。そしてこうした場を提供することに尽力した人々にも、感謝を伝えたい。この場の経験を、できるだけ多くのロボコニストに味わってもらいたいとも思う。

2018年 ベトナム大会にむけて

2018年ベトナム大会、そしてその国内予選とも言えるNHK学生ロボコンの競技課題は、今年に引き続き「柔らかいものをマトに向かって投げる」ものになりそうだ。弾の回収、ロボット2機の連係動作という点では、2016年や2015年ABU大会でのノウハウも活きるのではないか。

決勝直前、来年のテーマが発表された瞬間から、出場者の頭はマシンの構想に切り替わっていた、かもしれない。来年、また同じチームとベトナムで会えることを楽しみにしたい。

ABUロボコン2017 デバプラ記事まとめ

▼ ABUロボコン2017:ロボット写真集

▼【前日テストラン】デバプラ、リアルタイム更新するよ!ABUロボコン2017

▼【速報】ABUロボコン2017 テストラン速報 〜打ち上げディスク、横から投げるか下から投げるか〜

▼【速報】予選リーグ 一巡目 結果速報:ABUロボコン2017

▼【速報】予選リーグ 二巡目 結果速報:ABUロボコン2017

▼【速報】予選リーグ 三巡目 結果速報:ABUロボコン2017

▼【速報】決勝トーナメント準々決勝・準決勝 結果速報:ABUロボコン2017

▼【速報】決勝! 結果速報:ABUロボコン2017

▼ ABUロボコン2017写真集 テストラン:前半

▼ ABUロボコン2017写真集 テストラン:後半

▼ ABUロボコン2017写真集 予選リーグ

▼ ABUロボコン2017写真集 決勝トーナメント

地上派での放送は、9/18(月・祝)午前10時05分~。
NHKにて放送予定。地上派での放送も要チェックだ!

高専ロボコン2016 出場ロボット解剖計画
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