2019年8月2日〜11日、中国・深センでRoboMaster 2019大会が行われた。優勝はABUロボコンでもおなじみの、中国・東北大学。
この大会には日本から唯一、そして昨年大会に引き続き、FUKUOKA NIWAKAが参戦した。本記事ではこの日本チームのレポートを行いたい。
改めて、RoboMasterとは
RoboMasterという大会については、昨年も概要を紹介した。改めて振り返っておけば、下記のようになる。すでによくご存じの方は、次の見出しまでスキップしていただきたい。
- ドローンで有名な、あのDJI社が主催する、ロボットコンペティション
- 中国を中心に、世界各国の大学生が参加、その数7000人以上
- 7台の特徴あるロボットを独自に製作し、
- それぞれパイロットが1人称視点で操作し、
- 弾を撃ち合い、最終的に相手基地を破壊すると勝利
- 優勝賞金は約750万円
勢いがある中国が仕掛ける、大規模かつ派手なイベント、ということができる。付け加えれば、あらゆる面で、エンジニアという人種へのリスペクトがつまった大会、というのが、参加者の感想だ。
より詳しくは、下記のリソースをあたられたい。
RoboMasterとは、どんな戦いなのか?
その内容に関しても、おさらいしておく必要があるだろう。これも、よくご存じの方、またすでに大会ライブ中継等を見た方は、次の見出しまでスキップしていただきたい。
- 1チーム最大7台のロボットを開発。それぞれ機能が異なる
- ゲームの目的は、相手の基地のHPをゼロにすること
- ただし、基地は堅い装甲で守られている
- これを解除するには、相手の「哨兵ロボット」を破壊しなくてはならない
- そこに至るまで、どう有利を作るか、あるいは隙を突くかが、戦いのキモ
あれこれ言わずとも、数試合見てみれば、特に『PUBG』などの多人数vs多人数ゲームの経験がある人は、飲み込める内容でもある。よって、重要な点に絞って紹介していこう。
まず、戦いのポイントになるのは「42ミリ弾のロード」が挙げられる。
弾には、42ミリ弾(通称ゴルフボール)と17ミリ弾がある。その攻撃力は、100対10。実に10倍。当然、これがあるのとないのでは、戦力に大きな差が出る。これを使えるのは、チームで1台のみの「ヒーローロボット」だけだ。
この42ミリ弾は初期状態ではロードできず、「エンジニアロボット」がフィールド上の「資源島」にある箱から持ち帰らなければならない。さらに、エンジニアロボットからヒーローへ受け渡すという、実戦投入まで2段階の作業になる。この作業をスピーディかつ安全にこなすというのが、自チームの戦力を高く保つカギとなる。
当然、相手はそのローディングの妨害を試みる。その役を担うのは、1チーム3台までの投入が許されている「歩兵ロボット」。ヒーローは確かに強力な弾を撃て、HPも多い。しかし、歩兵は集団戦術がとれ、素早い。小回りが効く。この辺りは、絶妙なバランスになっていると感じる。
42ミリのロードの後の展開は、チームの戦術次第。自ロボットを孤立させないように、つまり一対多の状況を作らせないようにし、相手に隙ができるのを待つか。あるいは個のスピードや技術、弾丸回避能力などを信じて敵陣になだれ込むか。もちろん、チーム間の相性もある。「ドローン」の活躍の機会もある。ハイレベルな戦いになれば、難易度の高い課題をクリアしての「ボーナス」狙いもある。
この、戦術・戦略レベルの方針は各チームさまざまだと思うが、ひとつ強調しておきたいのは、「オペレーターは1人称視点である」ということ。つまり、各機体に付けられたカメラの映像でしか、状況が判断できない。視点は低く、そして視野は限られている。よって、私たちが観戦をしている時のように、フィールド全体をたやすく捉えられるわけではない。引いて守るべきか、攻めるべきか、あるいは味方のピンチに駆けつけるべきか。こうした判断は、極めて難しいものになっている。言い換えれば、強いロボットを作り上げるのとは別のレイヤーでの、「強さ、の要素」がある、ということになる。
少し分かりづらいと思われる、各ロボットのHPも挙げておく。右側の数字は、レベルアップ後の最大値。バトル中に経験値を得るとレベルが上がり、HPや攻撃力(正確には連射力)が上がる。ヒーローが大きな潜在能力を持っていることが分かるだろう。
- 歩兵:200→300
- ヒーロー:300→700
- 哨兵:600
- エンジニア:1000
- ドローン:HP設定なし(攻撃されない)
8/2 国際予選1日目 NIWAKAチーム、順調な滑り出し
中国外から参加するチームは、まず、国際予選を戦うことになる。ここから上位4チームが、「中国本戦」に参加する権利を得ることができる。
対カリフォルニア大学サンディエゴ校
国際予選の序盤は、グループ分けしたリーグ戦。FUKUOKA NIWAKAの初戦の相手は、抽選によってカリフォルニア大学サンディエゴ校となった。
リーグ戦は1戦2ラウンド制。結論を言えば、FUKUOKA NIWAKAは難なく勝利。2ラウンドとも慎重に序盤を戦い、そして相手ロボットを倒し、終盤に相手基地に突入、基地HPを削り、勝った。
各ロボットの動きを見ていると、単純に勝ちを狙うというよりは、多くの可能性を試しているようにも見えた。そんな余裕が垣間見えた。
気になる点は、昨年大会の国際予選より、全体としてぐっとレベルが上がっているように見えることだ。2018大会の序盤では、ロボットの台数が揃っていなかったり、そもそも動かないロボットが多く見られたり、という印象があった。しかし今年は、比較的どのチームも「動いている」。
8/3 国際予選2日目 早々の試練到来
2日目にして、FUKUOKA NIWAKAは厳しい局面を迎える。
対クイーンズ大学
2日目の第1戦はカナダ・クイーンズ大学。
ファーストラウンド、特筆すべきは、FUKUOKA NIWAKAのエンジニアのスピード。ニコ生実況も務めるFUKUOKA NIWAKAの総監督・古賀さんによれば、今年はエンジニアの開発に相当のリソースをつぎ込んだ、とのことだ。確かに、この後の試合も含め、多くのラウンドで相手チームより速く42ミリ弾のローディングエリアまでたどり着いていた。
それはこのクイーンズ戦でも同様。早々に資源島にたどり着く。が、積み込みの途中で、多くの弾をこぼしてしまっているようにも見えた。
クイーンズ大学は、攻め気な展開。対するNIWAKAは、引き気味の慎重な対応。局面をコントロールしている、というようにも見えるが、果たして。
どちらも決定打が無いまま終盤に入るが、状況は相手に与えたダメージの差で、クイーンズの優勢。残り2分半の時点で、クイーンズ大学860対FUKUOKA NIWAKA520。このまま、双方ともに相手基地にダメージを与えられなければ、このダメージ量で勝敗が決まる。
日本のオーディエンスとしては「攻めて欲しい」。しかし、NIWAKAヒーローも歩兵も、有効打を放つことができない。差が詰まらない。結果は、そのままタイムアップ。わずかな与ダメージ差で、大会2戦目にして初の敗北を喫した。
セカンドラウンド開始、実況の古賀さんも険しい表情に見える。
しかし、心配は無用だった。開始直後の展開から相手の攻撃を受けきった序盤・中盤。そしてファーストブラッド(ラウンド中の第1キル)を取ってからは、慎重かつ強力な攻め。相手哨兵も落とし、基地の装甲オープン、そこにヒーローが迫り、あっという間に基地撃破。慎重な戦いぶりではあったが、その実力を垣間見せてくれた。
結果としては1−1のドロー。実力はNIWAKAの方が上と見えるだけに、もったいない、というニコ生オーディエンスの感想もあった。
対香港大学
2日目の第2戦は、香港大学。ABUでもおなじみの「香港科学技術大学」とは別。
もしここで負けるようなことがあると、国際予選決勝トーナメントへの出場が難しくなるかもしれない、という1戦だ。
ファーストラウンド、やはりNIWAKAエンジニアは速い。ただ、やはり調整が完璧ではないようで、42ミリ弾をこぼしてしまっている。ヒーローへ受け渡すことができた弾も、それほど多くないように見える。
香港大学は上がり気味、前掛かり。NIWAKA側バンカーエリア(防御力が上がる優位なスポット)に歩兵が陣取り、さらに砲塔をNIWAKAロボットに向けたまま、本体は無限回転。被弾を減らすギミックだ。昨年は同様の狙いで本体を左右に揺らす動きをするマシンが多かったが、今大会では無限回転がトレンドのよう。
ファーストブラッドはNIWAKAが取る。相手ヒーローをキル。しかし、与ダメージ全体では香港が若干ながら有利。守り気味なNIWAKAにとっては、危険な展開、と言えるかもしれない。クイーンズのファーストラウンドの敗戦の光景がよぎる。
しかし、これを払拭したのは歩兵の活躍だった。残り1分、歩兵2台が連なって相手陣に突入。装甲は開かないままだが、基地にダメージ! ルール上、これで与ダメージではなく、基地HPをめぐる争いになる。あとは、自陣基地を守り切ることができれば……。
結果は、NIWAKA勝利。守り切った。ファーストラウンドを取った。機を見た歩兵2台の突入は、本当に見事だった。
セカンドラウンド、エンジニアの給弾は、ファーストラウンドより改善しているように見えた。一転、香港大学は引き気味で、しかしNIWAKAも攻めきれず、拮抗した展開。
相手エンジニアがNIWAKA陣に突入、囲んで削るNIWAKA。が、仕留めきれない。そうした展開が続き、拮抗が破られないまま。残り1分、与ダメージは若干NIWAKAの有利。確かにこのままでも勝てるが、危うい差。「攻めて欲しい」と思ってしまうオーディエンス(と記者。もちろんこれが、勝手な意見であることは分かっているのだが、つい)。
おそらく、攻められない理由があるのだろう。結果はそのまま、与ダメージの差でNIWAKAが2ラウンド取り、勝利。
国際予選決勝2日目を終が終わり、現時点で2勝1分け。リーグ戦の突破を決めた。
今回の連載の流れ
RoboMaster 2019 FUKUOKA NIWAKAが見た景色と、その先の景色(前編)(今回)
RoboMaster 2019 FUKUOKA NIWAKAが見た景色と、その先の景色(後編)
RoboMaster 2019 FUKUOKA NIWAKA かく戦えり(1)最大の課題は「人」
RoboMaster 2019 あの試合では、何が起こっていたのか?FUKUOKA NIWAKAかく戦えり(2)
大会の敗北で失うもの、得るもの FUKUOKA NIWAKAかく戦えり(3)