できること

ラズパイを使ったコーヒーメーカー制御装置の製作

第1回:装置の概要とコーヒーの抽出について

これまでDevice Plusではラズパイを使ったさまざまな電子工作を紹介してきましたが、今回からこれまた非常にユニークな電子工作の連載がスタートします。
紹介してくれるのは、これまでもさまざまなメディアで自作派向けの電子工作記事を執筆されてきました、阿矢谷充さんです。それでは早速お届けしたいと思います。

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目次

  1. Lチカのその先に〜ラズパイを使ったより実用的な電子工作を!
  2. 美味しいコーヒーを淹れるポイントと電気コーヒーメーカーの問題点
  3. 市販の電気コーヒーメーカーに接続する制御装置
  4. 機器の内部構成

 

1. Lチカのその先に〜ラズパイを使ったより実用的な電子工作を!

これから4回にわたって「ラズパイを使ったコーヒーメーカー制御装置の製作」と題して記事の連載をさせていただきます。はじめにこの記事の狙いとその概要についてご説明します。

「電子工作」のプラットフォームとしてRaspberry pi(以下ラズパイ)は広く認知され、定着した感があります。皆様の中にもラズパイを通して電子工作に興味を持たれ、入門された方も多いかと思います。しかし、多くのラズパイを使った電子工作の入門書を見るに、その内容はGPIOを使用した、いわゆる「Lチカ(LEDを点滅させる)」にとどまっているものが多く、「その先に何を作るか?」は大きな悩みどころなのではないでしょうか?

そこで本連載では「コーヒーを手軽に美味しく淹れたい」というテーマを取り上げ、それに対応するべく作成したラズパイを使った市販のコーヒーメーカーを制御する装置を「実生活に役立つ実用的な電子工作」の例として解説していきたいと思います。

昨今の新型コロナウイルスによるテレワークの拡大により、自宅で美味しいコーヒーを淹れて飲みたいという欲求が高まっている方も多いでしょう。今回作製した装置は、市販のコーヒーメーカーに接続し、その機能を拡張して手軽により美味しいコーヒーを淹れることを目的としています。

本機の機能については追って詳しく解説しますが、基本的にラズパイで「Lチカ」+α程度の機能を習熟された方でも十分対応可能な内容です。

なお、本連載ですが、全4回で以下の内容を予定しています。

第1回:装置の概要とコーヒーの抽出について
第2回:ハードウエアの製作
第3回:Pythonによる制御ソフトウェア
第4回:リモート設定

 

2. 美味しいコーヒーを淹れるポイントと電気コーヒーメーカーの問題点

当方はコーヒーが大好きで、普段は買って来た豆をミルで挽き、ペーパーフィルタのハンドドリップで淹れて飲んでいます。この方法を使えばかなり美味しくコーヒーを淹れることができるのですが、それなりに手間がかかります。

それで簡単にパッと飲みたい場合は市販の電気コーヒーメーカーを使用します。粉と水をセットして電源スイッチを入れるだけなので手間はかからず、ある程度よい豆を使えばそれなりに美味しく淹れることができます。しかし、さすがにハンドドリップで丁寧に淹れた場合に比べると味は劣ると思います。

この味の差を生む要因としては、以下の3つが考えられます。

  1. お湯の温度
  2. 蒸らし時間
  3. お湯の注ぎ方と抽出時間
    (単位時間あたりのお湯の量や、回しながら等の粉への注ぎ方)

1のお湯の温度ですが、ハンドドリップの場合、やかん等で沸騰させたお湯を別のドリップポットに移してから粉に注ぎます。こうすることによってコーヒーの抽出を行うお湯の温度を熱湯の100度から90度前後に落とすことができます。これは日本茶の場合と同じで、沸騰したてのお湯では温度が高すぎてコーヒー豆から雑味が出てきてしまうわけです。基本的に低い湯温で入れた方がまろやかな味になると言われていますが、低温になるとより長い抽出時間が必要になります(例えば水出しコーヒーは一晩かけて抽出します)。

2の蒸らしは非常に重要で、一度コーヒー粉にお湯をいきわたらせて十分に豆を膨らませます。こうすることによって豆からのコーヒーエキスが十分に引き出されるようになります。一般的に30秒から40秒程度の蒸らし時間を取ることが推奨されています。

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各種ドリッパー
(上段左から:円錐形 ハリオV60、コーノ 下段:台形 カリタ、メリタ)

 

3の注ぎ方は、どの程度の時間お湯をコーヒーに浸して抽出するかに関係します。一気にドバッと注ぐか、少しずつゆっくり注ぐかによって味が変わってきます。この要素は使用するドリッパーの種類によっても大きく変わってきます。例えば1つ穴のメリタ式は適当にお湯を注いでも、穴が1つでゆっくりお湯が落ちて一定の抽出時間が維持できますが、3つ穴式のカリタや円錐型のコーノやハリオでは、落下速度が速いので、お湯の注ぎ方を自分でコントロールする必要があります(それだけ自由度があるということになります)。

ハンドドリップのやり方については、カリタ社が「はじめてのハンドドリップ」というわかりやすい動画をYouTubeで公開していますので、ぜひご参照ください。

ところが、一般的なドリップ式の電気コーヒーメーカーはスイッチを入れると適当な間隔でお湯がコーヒー粉に注がれるだけなので、上記の1から3のポイントはほとんど何も考慮されていません(こういったパラメータを設定できる機種もありますが、非常に高価です)。そこで市販のコーヒーメーカーに一手間加えて、できるかぎりハンドドリップで淹れた味に近づけるための制御装置をラズパイを使って作ってみることにしました。

 

3. 市販の電気コーヒーメーカーに接続する制御装置

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この装置は市販の電気コーヒーメーカーのACコンセント部分に取り付けるもので、コーヒーメーカー本体の改造等は一切おこないません。コーヒーメーカーの電源のON/OFFだけを時間制御します。

この制御装置に接続するコーヒーメーカーですが、カリタのET-102という製品を組み合わせてみました。電源を入れるとお湯が注がれるだけの極めてシンプルなもので、お値段も市場実売価格で3,500円程度と非常にお手頃です。

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カリタET-102と制御装置の接続

 

あとこのET-102はドリッパー部分を市販のいろいろなタイプに交換して使用することができます。付属するのはもちろんカリタの3つ穴タイプですが、メリタやハリオ、コーノに交換して問題なく使用できました。これによりドリッパーの違いによる前述の3の要素である抽出時間の調整が可能になります。

本機に組み合わせのできるコーヒーメーカーは、電源を入れたら何も制御をしないもっともシンプルなタイプになります。コーヒーメーカー自体にコントローラ等が実装されているようなインテリジェントなタイプには使用できません。

ユーザインターフェースですが、下の写真の黒いボタンで、コーヒーを何カップ淹れるか(2〜5杯)を選択します。液晶にCup数が表示されます。あとは、赤いボタンを押せば通電開始します。

最初に一定時間お湯が注がれると、通電を止めて蒸らしに入ります。蒸らしが終わるとまた通電してお湯が注がれ始めます。

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(ユーザーインターフェース)
黒ボタン:Cap数設定、赤ボタン:Start、LEDは赤が動作中点滅、黄色が通電表示

 

この装置は、以下の3つの時間をカップ数ごとにプログラミング設定できます。

  • 初期お湯投入時間
  • 蒸らし時間
  • 蒸らし後の通電時間+PWMによるON/OFF時間の設定

まずこれにより、最初に説明した1〜3の要素のうち、2の蒸らし時間を自由に設定することが可能になります。「初期お湯投入時間」は蒸らしに入る前にコーヒー粉にお湯を注ぐ時間です。コーヒー粉に満遍なくお湯が行き渡るようにお湯の投入時間を設定します。

三要素1のお湯の温度の制御には根本的な機器の作り込みが必要で、本機では元のコーヒーメーカーをそのまま使用するので特に何もしていません。実際にこのカリタET-102の抽出湯温を実測してみましたが、80度台の半ばくらいの割と低めの温度でお湯が出てきます。これは高温によって雑味や苦味成分が出てくることを避けられるので、かえって好都合です。また、抽出時間を長めにして味のコントロールをおこなうことができるという可能性も出てきます。

三要素3の抽出時間ですが、まずET-102ではいろいろな種類のドリッパーに交換することができるので、これによって基本的な抽出ストラテージの決定がおこなえます。例えばハリオやコーノの円錐形はお湯の透過時間が短く、台形型のカリタやメリタはそれよりゆっくりと透過されます。今回はこれに加えてラズパイのPWM機能を応用したON/OFF制御を加えてみました。詳しくは第3回の制御ソフトウェアで解説しますが、これによってお湯を出す時間と待つ時間を調整して、味のコントロールができるようにしています。

 

4. 機器の内部構成

機器内部は以下のようになっています。

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左のブロックがラズパイ本体とその上に付属回路を実装したユニバーサル基板です。今回使用したラズパイのモデルは「Raspberry Pi 3 Model A+」です。市販のユニバーサル基板と同サイズでコンパクトなのと、外部のインターフェース(LANやUSB)は使用しないため、このA+を選択しました。今回のソフトウェアでは処理能力はさほど必要ないので、さらに低価格なZero WHでも動作は問題ありません(Zero WHでは動作確認しましたが、ラズパイ4系では動作確認をおこなっていません)。

ユニバーサル基板上には液晶ディスプレイ、タクトスイッチ、LEDが実装されています。写真は古い部品で構成されているものですが、第2回では、この部分は最新の入手可能な部品に改版した形で紹介したいと思います。

写真右上のブロックが、コーヒーメーカーの電源ON/OFFを制御する、SSR(ソリッド・ステート・リレー)です。秋月電子で販売している「ソリッド・ステート・リレー(SSR)キット 8Aタイプ」をそのまま使用しています。SSRは負荷によって発熱するので、放熱器を付けています。

写真右下のブロックは、コーヒーメーカーを接続するAC100V系部分の配線で、安全装置のヒューズホルダが実装されています。

本体にはタカチのSS-125B(125mm x 80mm x 32mm)プラスチックケースを使用して各部品を実装しています。

第1回となる今回は製作する装置の概要を紹介しましたが、次回はハードウェアの詳細とその作成方法を解説します。自分で自作した機器が実生活の中で活躍するのは、まさに電子工作の醍醐味かと思います。本記事が電子工作入門者・中級者の方々のステップアップに繋がれば幸いです。

 

 

今回の連載の流れ

第1回:装置の概要とコーヒーの抽出について(今回)
第2回:ハードウェアの製作
第3回:Pythonによる制御ソフトウェア
第4回:リモート設定ソフトウェア

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測定器会社、ネットワーク機器ベンダーでシステム・エンジニアに従事。現在自作派向けの電子工作記事を各誌に掲載中。趣味は古楽器・リュートの演奏。日本リュート協会・理事

http://lute.penne.jp/thumbunder/

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