プロダクトを貫くのは“民主化”という理想。「Eagle Eye」Up Performaインタビュー

今回のPeoplePlusは、京都のスタートアップを訪問。

経済産業省の「フロンティアメーカーズ育成支援事業」に選ばれ、ラスベガスで開かれる世界最大の家電見本市であるCESで世界デビュー済みという、折り紙付きのスタートアップだ。

2014年7月に始動したUp Performa(アップパフォーマ)が開発中の端末は、モーションロガーと言われるもの。フィールドに出たサッカー選手が身につけることで、試合中のさまざまなデータを可視化できるというウェアラブル端末だ。

Eagle Eye端末。これを腕に装着して利用する

Eagle Eye端末。これを腕に装着して利用する

サッカーでのデータ活用は、世界のトップレベルの世界ではもはや当たり前のものになっている。しかし、フィールドに何台もカメラを設置し、膨大なデータ量の解析を行い、実際に役に立つようにビジュアライゼーションをするには、1000万円単位の費用がかかるのが通常だ。当然ながら、アマチュアや学生の世界では、利用は難しい。

しかし、この「Eagle Eye」なら、近いことが10万円台で可能だという。スポーツの分野でのデータ活用を「民主化」するツールといっていいだろう。

その秘密や開発状況、そしてプロダクトに込められた思いを、同社CEOの山田修平さんと、その心臓部の開発を担当している秋田純一さんに聴いた。

どんな質問にもビシっと答えてくれた山田修平CEO

どんな質問にもビシっと答えてくれた山田修平CEO(以下敬称略)

秋田純一さんは金沢大学教授。専門は半導体

秋田純一さんは金沢大学教授。専門は半導体(以下敬称略)

「ヤバイ」に総括されるプロダクト

──早速ですが、まずは、製品について教えてください。今はクラウドファンディング中なんですよね。

山田:はい、7/23の木曜日からスタートしました。MAKUAKEです。今のところの反応は……、爆発的に行くわけでもないし誰も反応してくれないわけでもないという、想定内の範囲です。順調、という言い方がいいですかね(笑)。

──改めて、どんな製品なのでしょうか?

山田:選手の腕にEagle Eyeを付けて、試合を行ったとします。すると、その時間中ずっとGPSで位置情報を取得し続け、端末に蓄積します。そして試合後、そのデータをアップロードすると、解析され、iOSなどのアプリでパフォーマンスを確認することができる、というものです。

取得できる主なデータは、

  • フィールド上でのポジショニング、走行の軌跡
  • ポジショニングのヒートマップ
  • スプリントの回数、スピード
  • 走行距離

という感じです。

全員が装着していれば、試合中、だれがどう動いたかが全て記録され、一覧できます。位置の精度は、直径2.5メートルの範囲内に、50%の範囲で収まるという感じです。

  • 個人のスタッツ

    個人のスタッツ

  • 選手のヒートマップ表示

    選手のヒートマップ表示

  • ピッチの登はGPSを元に

    ピッチの登録はGPSを元に

──実際に使った方たちの反応はいかがですか?

山田:中高生をメインに使ってもらいましたが、すべてが「ヤバイ」ということに総括されます。つまり、どれだけ走っているか、さぼっているかが全て数値になってしまうので(笑)。

監督やコーチからは、「上から見られるのがいい」と好意的なコメントをいただいています。普通はフィールドの横からの視点でしか見ることができず、実際とはどうしてもズレがありますよね。そのズレを修正できる、と感じていただいたようです。

プロレベルのコーチの方は、そもそもそうしたズレがあってはいけない。そもそも、頭の中で上から俯瞰したビジョンを作ることができることがプロの条件だったりします。だからそのメリットは薄いようですが、アマチュアの人たちにとっては便利だろうと言われました。また、設備が無いプロの方にも、使っていただける可能性はあるようです。

「枯れた技術」のかたまり

──ハードとしては、どんな仕組みですか?

秋田:すごく複雑、というわけではありません。デバイスの心臓部はGPSモジュールと、そのデータを蓄積するフラッシュメモリ、そしてそれをWi-Fiに飛ばす仕組み。その他は、バッテリー関係のICなど。基本的には、すごく「枯れた技術」のかたまりです。

山田:むしろその部分がポイントだと思います。あえて最先端のものや複雑なものは使っていません。技術の「民主化」ということを秋田先生がずっとおっしゃっていたんですよね。まず目的ややりたいことがあって、それが最優先。けっして技術が優先ではなく、やりたいことができるなら枯れた技術でも構わない、むしろ枯れた技術がいい。それはものすごく同意できる話で、だからこそ秋田先生にお願いしました。

  • EagleEye_09
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「ぜんぜん構いません」とのことだったので、遠慮無く心臓部を公開

──そのデータを可視化する、ソフトウェア側も重要ですね。

山田:ソフトウェア側、データの解析側は、まだまだ作り込んでいます。どう精度を上げるか、どう状態を表現するか、選手間の距離のようなサッカーの戦術的な部分をどうフォローするか……、ソフト担当の西田(琢也)さんがいろいろやっています。単なる位置情報に関しては、言わば絶対値なので問題ありません。しかし加速度やスピードなんかは、相対値です。これが難しいようで……「クォータニオン」というらしいんですが、3Dプログラミングの世界で使われている概念を使って……、このへんは、僕も分からない世界になってくるのですが(笑)。

タッパーに入れた巨大プロトタイプ

──山田さんは、バリバリの技術者というわけではないんですよね。

山田:はい、前職は服屋でしたし。ただ、理系の血は流れています。父親はメーカーで、家に部品が転がっていましたし、小学生のころに無線の免許をとったり、中学生のころは学校にあったPC98でゲームをプログラミングしたり。HyperCardもやりましたね。少し上の世代の方がやるようなことかもしれませんが、そういう意味ではずっと枯れた技術に触れていました。

一方で、6年間野球部でしたし、映画監督を志したり、ラジオ番組をやっていた時期もありましたけど。

──えっ?

山田:FM彦根というとこの30分番組で、中高生の悩みにガチで答えるという企画です。

──そんなことまで……。いろいろやっていらっしゃる。

山田:そうですね、いろいろやってしまうタイプです。それでどれひとつとして大成功はしない、という器用貧乏(笑)。ただ、今のようなスタートアップという形は、ずっとやりたいと思っていたんですが。

──なるほど、ではきっと、自分だけではなくて、「支え」的なものが必要ですね。

山田:支えがないとだめですね。みんながいないとダメです。そもそも、Eagle Eyeの初期プロトタイプは僕が作ったのですが、タッパーに基板を入れるレベルでしたから(笑)。

秋田:そうでしたね。これを見て、山田さんのような、作りたいものがある人がものを作るのは良いこと、と考えて、このプロジェクトに参加しました。

もともとは、学生が加わるのが良いと思っていたんです。学生さんはやっぱりお金が無いじゃないですか。それで居酒屋とかコンビニでバイトをしながら研究をする。それってもったいないなと考えていて、できれば、山田さんのプロジェクトに加わるというような、そうしたリアルな経験をした方がいいのではないか、という思いがありました。そのいい機会だと思ったんですね。今回は私が作りましたが、学生さんでもできることだったと思います。

学生にこうしたプロジェクトに加わってもらうのは、秋田さんの「夢」でもあるとのこと

学生にこうしたプロジェクトに加わってもらうのは、秋田さんの「夢」でもあるとのこと

「最終的には僕がなんとかすればいい」

──その他メンバーの方は、どんな構成ですか?

山田:ハードウェアが秋田先生の他に小島惇さん、ソフト側に今村庄一さん、春日崇喜さん、河原ひろきさん、西田琢也さん。全員Up Performaの社員ではないというか、みなさん本業がありながら、プロジェクトに参加してくれている感じです。すごく助かってます。

──なぜ参加してくれているんでしょうか。きっと現場は大変なこともあると思いますが……。

山田:いや〜、僕が困っているからですかね(笑)。でも多分、みなさん何かしらの面白みを感じてくれているのだとは思います。サッカーが好きなメンバーも多いですし。

秋田:そうですね。ハンダづけや基板をいじるのは、僕にとってはレジャーなんです。ハンダの匂いは落ち着く匂いです。ハンダセラピーと呼んでいますが(笑)。

──そんなメンバーでの開発の現場は、どんな様子なんですか? お話しをお伺いしていると、大変なムードはあまり感じませんが……。

山田:そうですね、平和だと思いますよ。

秋田:時には、基板の製造を開始する3時間前に、すごい変更がかかったりしましたけど。詳細はもう忘れましたが、LEDが2個だったのを4個にして、それにまつわる変更もいろいろ、というような。でも、これが普通にプロに発注しているものだったら、「やり直し」とか「プラス30万円」という話になると思うのですが、僕がやっている話なので、小回りが利くのがいいところですね。そうしたことがあっても、大変だとかモチベーションが湧かないとか、そういうことにはなりません。

──プロダクトを世の中に届けるということは、責任のようなものも発生しますよね。それに会社の経営のこともある。そんな課題はどうでしょうか?

秋田:確かに、不具合があって回収がかかったり、サーバがとまったり、いろいろあり得ますね。でも……、

山田:はい、そのへんは、僕がなんとかすればいいと思っています。困っていてもしゃあないというか、なんとかするか、なにもしないかしかない。

秋田:山田さんがそう言ってくれているので、みんな安心して自分の仕事ができているんだと思います。

「作りたいと思った時が、作り始める時」

──なるほど、そんな山田さんが持つ求心力に、みなさんが吸い寄せられているという感じですね。では最後に、デバプラ読者に向けてもっと楽しくなるためのメッセージをお願いできませんか。

山田:いける、という直観を大事にする、直観をムリヤリにでも持つのが大事かなあ、と思っています。技術とか、体系化された知識を持つことは、もちろん重要です。でも、それだけではどこかで行き詰まってしまう時が来る。だから、勉強だけじゃなくて、直観みたいなものを重視したら、もっと楽しくなるんじゃないかと思います。

秋田:まさにその通りです。少し違う言い方をすると、作ることに対する怖さみたいなものを持たない方が良い。ものづくりの世界にも、当然先達がいて歴史があります。そういう部分を気にして、恥ずかしさとか怖さみたいなものを持ってしまうケースがあるように思います。だけど、気にしないで、自分でやってみる。山田さんのように、素人なりに作ってしまう。プロから見たらツッコミどころ満載の、タッパーに入れた基板でも(笑)。自分でやってみて、例えば抵抗やトランジスタから煙が出たとしても、そこから学ぶことがありますよね。後から理論・理屈がついてきます。

幸いにして、今はそういうことができる時代になりました。技術が進歩するということは、高度なことができるようになるということはもちろんありますが、一方で、そこそこのことをみんなができるようになるという側面もあります。Arduinoはまさにその一例ですが、誰でも作れるようになっている。先ほど少し申し上げた、「民主化」というのはそういうことです。作りたい人がいたら、作れる。作るべき。その延長で、私はLSIも自作したりしています。

※記者注:秋田さんの自作LSIプロジェクトは、Maker魂を持った者にとってとても刺激的なはず。ぜひ下記サイトをご覧頂きたい。
http://makezine.jp/blog/2014/09/l-chica-lsi_akita.html
http://ifdl.jp/make_lsi/

山田:そうですね。人が想像できたものは、人が作れるのだと思います。ドラえもんが想像できたのなら、いずれ作れる。作りたいと思った時が、作り始める時なんではないでしょうか。

 

EagleEye_08

──ありがとうございました!
Up Performa
MAKUAKE Eagle Eye プロジェクトページ

撮影協力:
シェアオフィス share KARASUMA

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