インタビュー

「ググる」よりも「つくる」面白さを子どもたちへ。

“モノづくりのイノベーター”にスポットを当てる「People Plus」。今回は電子工作をはじめ、ハードウェア、コンピュータ、オーディオなどの分野で長年にわたってテクニカルライターとして活躍してきた丹治佐一さんが登場。

ゲーム好きや電子工作好きの子どもたちに多くの夢を与え、現在第一線で活躍するエンジニアたちにも多大な影響を与えてきた丹治佐一さんの原点と、モノづくりに寄せる想いを伺った。

テクニカルライター・丹治佐一さん

テクニカルライター・丹治佐一さん

任天堂の家庭用テレビゲーム機「ファミリーコンピューター(通称ファミコン)」が普及し始めに“たこ吸い”という言葉があった。ファミコンのゲームが記憶されているカートリッジからプログラム内容をすべて別ROMカードにコピーする裏ワザだ。1987~88年にかけて丹治さんが手掛けたラジオライフ別冊『ファミコン改造マニュアル』(全3冊や『バックアップ活用テクニック』)の中で紹介され、ゲームファンの間で一大旋風を巻き起こした。

「ゲームをコピーして売ろうとしたわけじゃないですよ(笑)。自分で買ったファミコンを改造して楽しもうという趣旨です。子どもたちの興味をひくために“改造”とか“裏ワザ”という言葉を使ったんです。ファミコンはどうやって動いているのか。カートリッジの仕組みはどうなっているのか。ゲームのプログラムをコンピュータに取り込んだり、戻したりする方法を紹介しながら、ハードウェアの面白さをもっと知ってほしいと思っていたんです」と、懐かしそうに当時を振り返った。

 

機械を分解して遊んだ子ども時代。
試して工夫する楽しさを実感

自分でいろいろ試して、楽しみながら興味をさらに掘り下げていく。テクニカルライターとして多くの読者を魅了してきた記事のスタイルは、子どものころから自然と育まれてきたものだ。
「身近にあるモノはなんでも分解しちゃう子どもでした。分解しては機械の仕組みを見ては、またもとに戻す。当時はドライバーで簡単にネジを外すことができたし、中身も今ほど複雑ではなかった。機械好きの子どもなら誰でもやっていたんじゃないかなぁ」。

両親、兄弟、友人、周りの大人たちには、機械好き、電子工作好きはいなかったという。当然、疑問に答えてくれたり、アドバイスしてくれる人もいなかった。そうなると、普通は仕組みがわからず投げ出したり、他の遊びへ目移りしたりしそうだが、丹治さんは違った。「最初は分解してもとに戻すだけでしたが、やがて分解して工夫を加え、違う形に変えられるようになっていった。だから全然飽きない。楽しくずっと遊んでいました」。
家にある機械を分解してばかりいて、両親に怒られなかったのだろうか?「何も言わなかったですね。むしろ応援してくれるというか、自由にやらせてくれました。今思えば感謝です」。
分解遊びに夢中だった丹治さんの次の扉を開いてくれたのは、父親だった。

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『ファミコン改造マニュアル(バックアップ活用テクニック)』より“たこ吸い”を紹介したページを発見!

父に連れて行ってもらった秋葉原で、
モノづくりの面白さが一気に拡大

丹治さんが初めて秋葉原へ行ったのは中学時代のこと。今でこそアニメ文化の街としての面が強いが、多種多様な電気部品が手に入る電気街としての顔が本来の顔だ。友人が持っていたカセットテープレコーダーをみて、どうしても欲しくなり、父親に頼んで秋葉原に連れて行ってもらったのだという。「分解するためじゃないですよ、部品の仕組みにはものすごく興味がありましたけど(笑)。カセットテープレコーダー以上に衝撃を受けたのは、スイッチのパーツが50円で売られていたり、10円で買えるパーツまであったこと。それを目の当たりにして気づいちゃったんです。自分が持っている機械が壊れても、ここで部品を買って交換すれば直せるんだなってワクワクしました」。

さらに次の機会には、ハンダごてを買ってもらう。友達から譲ってもらったラジコンのコントローラの線が切れたのが原因だった。「ハンダごてで断線した部分をくっつければ直ると友達が教えてくれたのです。実際に目の前で見せてもらったら、本当に直って動いた。あのときの感動は忘れられません。ハンダごてと部品があれば新しいモノがつくれるかもしれないと思って、すぐ父に頼みました」
分解する楽しさから、新しいモノをつくりだす面白さへ。父親に連れて行ってもらった秋葉原で、モノづくりの世界がさらに広がった瞬間を今でも鮮明に覚えている。そして、その思い出が次のチャレンジの扉を開くのだが、それはもう少し先の話。

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手掛けた書籍の一部。「書籍が山ほどあって、何冊書いたのかわからないほど」。

秋葉原に通い詰めた青春時代に
テクニカルライター初挑戦!

電気系の高校に入学した丹治さんは、初めて電気好きの“仲間”と出会い、一緒にモノづくりをする楽しさを知った。仲間と研究する時間が楽しくて、学校にも早く行った。何をつくるか、どんなパーツを使うか、どんな設計がいいか、みんなと意見を言い合い、モノをつくる時間に夢中になった。「テレビゲームも手づくりですよ。今みたいにスマホでゲームをダウンロードする時代じゃないですから(笑)」。

学校が終わると、今度は友達と課外授業。父親と行った秋葉原の部品屋さんを、今度は友達と巡り、新しい部品を見つけては何をつくろうかと夢をふくらませた。
そして、新しい世界を見せてくれた秋葉原が、テクニカルライターへの道にもつながっていた。

きっかけは1970年代後半、大学生のころに到来したマイコンブームだ。秋葉原にも日本のパソコン創世記を彩る、日本電気TK-80ワンボードマイコンのショールームが登場する。「基板にICが載っているものなんですが、一台10万円もするんですよ。当時は大変な金額で、ぼくら大学生にはとても手が出ない。でも触ってみたいからショールームに行くのですが、マイコンコーナーは子どもたちがすでに占拠していて、店中にも入れない。それぐらいすごかった」。

丹治さんは、それでもなんとか秋葉原にあった東芝のショールーム『マイコンセブン』に入り込み、通い詰めるようになる。「新しいプログラムを学校で書いて、ショールームに行ってマイコンで動かすのがとても楽しかった。CPUが直接理解できるマシン語でプログラムするのが大変なのですが、それが面白くて一生懸命やってました」。

ショールームに入り浸りワンボードマイコンを操り、どんどん使いこなしていく丹治さんを見て、スタッフが声をかける。「そんなに好きならバイトしない?」。
当時、ワンボードマイコンのマニュアルや実例集などの書籍は世になかった。それを書いてみないかという話だ。報酬は、なんと熱中していたワンボードマイコン!夏のアルバイト代をすべて注ぎ込み、友達と折半して買う予定だったので、まさに渡りに船。

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丹治さんが主任研究員を務める「TEPIA」では、日本のコンピュータの歴史を辿る展示も。

“ググる”よりも“つくる”ヒトに。
何度でもチャレンジする勇気を

テクニカルライターとして最前線を見つめ続けて35年以上。丹治さんは、ユーザー目線ではどんどんスピーディに、便利になっていく世の中にワクワクしている。小さいころから、工夫するモノづくりの楽しさを実践してきた一人として、一抹の不安も感じている。「ググれば(Googleへアクセスし検索すれば)、何でもわかる世の中でしょ。失敗例も成功例も事細かに載っていて、試すことも失敗もせずにモノがつくれる。それに慣れちゃうと“冒険”や“チャレンジ”することがなくなっちゃうと思うんですよ」。

身の周りの機械を手当たり次第に分解していた子ども時代。父親に連れて行ってもらった秋葉原で“部品”と“ハンダごて”を使って新しいモノがつくれるとワクワクした中学時代。仲間と何でもつくった高校時代。マイコンに夢中になった大学時代。テクニカルライターとして“体験”に基づく工夫と応用で読者の興味を惹き続けてきた35年間。そこで培った経験があるからこそ、“ググる”から始まる若い世代のモノづくりの未来が心配になるという。

自分で体験すれば、失敗しても気づくことがある。それが次の工夫や応用につながる。失敗しても何度でもチャレンジし、自分の力でカタチにしていくことが大事だという。「例えば、会社に入って『新しい面白いモノを開発しよう』と言われたとき、そうした経験が絶対に生きてくるはず」。

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「つくる」楽しさを子どもたちへ。
丹治さんの新たな挑戦!

現在、丹治さんはあるプロジェクトを進めている。主任研究員を務めるTEPIA 先端技術館での取り組みだ。日本の先端技術を気軽に体験できる「TEPIA 先端技術館」では、小学生や中学生向けに展示物や理科にまつわるワークショップも開催している。このワークショップで丹治さんは季刊誌『電子工作マガジン』とコラボレーションし、ハンダごてを使った小学生向けの電子工作ワークショップを10月(予定)に企画しているという。

「自分の出発点が、父に買ってもらってハンダごてでした。それを手にして、新しいモノがつくれることにワクワクした。その感覚をぜひ子どもたちにも知ってほしいんです。今の子どもたちが、ハンダごてを持つ機会って、まずないでしょ。やけどするから危ないというひともいるけど、大人が注意してやればいい。ハンダの熱さも含めてモノづくりを体験して、つくる楽しさを実感してほしいんです」“ググる”よりも“つくる”面白さを子どもたちに広げること。それが次の夢だ。
「テクニカルライターとして、いろいろな人に助けられ、お世話になって電子工作やモノづくりにをずっとやってきました。そのご恩返しの気持ちもあるんですよ。人前に出て話をするのは苦手ですが、今回は頑張ろうかなと思っています。何をつくるかは、まだ秘密ですよ」と言って、少年のように微笑んだ。

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●丹治佐一さんの電子工作の最新のチャレンジは、こちら!
http://www.tanjipro.com/

 

丹治さんのワークショップの詳細は、TEPIAのWebサイトで!

TEPIA 先端技術館」は、「健康にくらす(ヘルスケア)」「生活をかえる(ライフスタイル)」「世界とつながる(ICT)」「社会をまもる(セキュリティ)」「地球とともに(エネルギー)」の5つのキーワードで、日本の先端技術を楽しく紹介してくれるミュージアム。入場無料で、見て、触れて、体験できるのが魅力。アテンダントによる解説ツアーやワークショップなども好評。10月に行われる予定の丹治さんのワークショップの詳細などはWebサイトでご確認を!

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入口で迎えてくれる「ワカマル」は、相手に目線を合わせ、身振り手振りを交えて会話したり、握手したりしてくれるコミュニケーションロボット。

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アニマルセラピーと同じ癒し効果を持つというアザラシロボット“パロ”。ひと目見れば、誰もが笑顔になっていた。

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アテンダントによるツアー形式の見学も受け付けている(平日のみ・予約制・参加費無料)。

TEPIA 先端技術館

〒107-0061 東京都港区北青山2-8-44
展示事務局 TEL:03-5474-6128
見学関係専用番号TEL:03-5474-6123
開館時間:10:00~18:00(土・日・祝日は17:00まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)
http://www.tepia.jp/exhibition/

 

 

Device Plus 編集部

エレクトロニクスやメカトロニクスを愛するみなさんに、深く愛されるサイトを目指してDevice Plusを運営中。

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