空を制したロボットたちの激闘を振り返る!
さる2022年11月27日、高専ロボコン2022全国大会が東京都墨田区の両国国技館で開催された。コロナ渦中のロボコンも3回目になり、デバプラ取材班も万全の感染対策のもと現地取材に参加した。
2020年のリモート開催、2021年のオフラインでのパフォーマンス対決を経て、2022年は対戦形式のゲームだ。対戦形式は2019年の「らん♪RUN Laundry」以来、3年ぶりとなり、高専ロボコニストたちの現場対応力が光る対決となった。
前編では第1回戦を全試合振り返ったが、後編では第2回戦から決勝までの激闘を紹介していきたい。
第2回戦
第1試合:国際高専vs小山高専
小山は初戦を無得点・審査員判定で辛勝。国際高専はマシンの若葉マークも可愛いビギナーズチームだ。強豪小山にどう立ち向かうか?
試合スタート! 小山も国際も打ち出し軌道は似ている。最初に得点したのは国際高専で、スポット2箇所を取って2点を獲得。小山は1回戦に続いてなかなか乗らず、息をつめるような戦いが進む。
試合後半に小山がベースAを制して得点差で勝利。薄氷を踏むように勝ち進んでいる。国際高専は美しい軌道と強豪校相手をぎりぎりまで追い上げる大健闘を見せた。
●赤:国際高専(3)
○青:小山高専(4)
第2試合:群馬高専vs東京高専
初戦を大量得点で勝った群馬、対する東京も地区大会やテストランでいい点数を取っている。
試合開始!両チームとも、山なりのシンプルな軌道で大量に打ち出す機構だ。群馬が滑走路への軌道を捉えてどんどん乗せていく。試合後半、東京は得意としていたベースAを狙うが得点に至らない。しかし相手チームのスタートライン近くに陣取り、群馬のマシンの距離ロスを誘っている。
どちらも低空飛行の軌道なので、紙飛行機がぶつかり合うと打ち出し量の多いほうが有利になるようだ。群馬が物量で勝った印象。東京は試合内容では負けていなかっただけに、初戦敗退は悔しい。
○赤:群馬高専(22)
●青:東京高専(6)
第3試合:富山高専本郷キャンパスvs福島高専
富山はチーム名「SKY×FAMILY」にふさわしく、ピンク色の概念的な装飾が可愛いマシンだ。福島は初戦をベースAでの得点で勝利している。
試合直後、福島が出遅れる。初戦もスタート直後に出遅れていたが大丈夫だろうか。その間に富山が射出に入る。操縦者のスローイング動作に合わせて紙飛行機を投げる仕組み。なかなか乗らないが、表情豊かなロボットが非常に可愛らしい。
試合開始から44秒で福島が始動!連射を開始して横向きのベースAに1機入れ、それが決定点となって勝利を掴んだ。ベースでの得点に強みがあるようだ。
富山、敗退はしたが、試合終了ギリギリに獲得した1点に会場から拍手が贈られた。チームメンバーがロボットを可愛がっているのがよく分かり、ほっこり。
●赤:富山高専本郷キャンパス(1)
○青:福島高専(3)
第4試合:大阪公大高専vs奈良高専
大阪公大は操縦者と誘導員の連携が活きるチーム、一方、奈良は初戦をVゴールで圧勝している。
試合スタートから奈良の猛攻。なんと開始24秒でVゴールを達成!これで奈良の勝利は確定したものの、大阪公大もベースBを狙っていく。ここからは大阪のワンマンショーだ。安定した軌道とかなりの高精度で、ベースBの狭い穴に紙飛行機をどんどん入れていく。試合時間を目一杯使ってベースBに8機を入れ、40点を獲得した。相手が奈良でなければ得点差で勝利できていただろう。両校ともに、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。
●赤:大阪公大(40)
○青:奈良高専(56・24秒Vゴール)
第5試合:石川高専vs一関高専
石川はベースAで大量得点の実績を持つ。対する一関は揚力を感じさせない不思議な軌道で手前のスポットを狙う。
試合開始直後に一関がリスタート、再装填とリスタートを細かく繰り返してじわじわとスポットを狙っている。石川は初戦よりも装填に時間がかかっている様子だ。しかし射出を始めれば、上向きの優雅な軌道でベースでの得点を重ねる。着実な得点で石川が勝利した。
○赤:石川高専(16)
●青:一関高専(1)
第6試合:大分高専vs香川高専高松キャンパス
大分高専は独自開発のAIを搭載し、最短Vゴール19秒の記録を持つ。対する香川高松はベースBを狙う大量得点チームだ。
スタートも鋭い低軌道も、装填タイミングもリスタートもほぼ同時!しかし大分の紙飛行機がスポット、滑走路、ベース全てにどんどん乗っていく。香川も得点では追い上げたが、大分が先にVゴールを達成、2試合連続でVゴール勝利を収めた。
香川高松は残り時間いっぱい使って2つのベースを制し、実力を見せる。敗退はしたものの、コメントは「大分がVゴールを狙うのは分かっていた。ベースBだけを狙っていくことにした。やれることは全部やった」と力強い。
○赤:大分高専(15・1分28秒Vゴール)
●青:香川高専高松(20)
第7試合:熊本高専八代キャンパスvs和歌山高専
和歌山は初戦を195点という大量得点で勝利している、熊本はどう戦うか?
試合スタート!スムーズに滑り出し、和歌山がまたベースAを捉えてどんどん得点していく様子に、会場も「ですよね…」といった空気。対する熊本はVゴールを目指し、各スポットを順に狙っていく。軌道は決して悪くない。
和歌山の獲得点数が暫定で200を超えたところで、会場から拍手が起きる。試合終了、集計の後、276点が確定した。あの筒に92機の紙飛行機が入っていたことになる。
●赤:熊本高専(2)
○青:和歌山高専(276)
準々決勝
第1試合:小山高専vs奈良高専
薄氷の接戦を勝ち上がってきた小山と、連続Vゴールを決めて勢いづく奈良高専の対決。
試合スタート!やはり奈良が圧倒的だ。小山も前の2戦よりは健闘しているが、奈良の物量に押されて軌道が安定しない様子。小山が「乗りそうで乗らない」という状況の中、奈良が33秒でVゴールを達成した。
小山高専のコメントからは「コントローラとの通信に不調があり練習以上の成果が出せなかった」と、悔しさがにじむ。
●赤:小山高専(0)
○青:奈良高専(35・33秒Vゴール)
第2試合:石川高専vs群馬高専
大量得点チーム対決。試合開始直後から、すごい量の飛行機が舞う。紙飛行機の軌道は柔らかいが、乗せあい、落としあいで目まぐるしく戦況が変わる熱戦だ。両校とも精度が高い。一進一退の勝負を制したのは群馬だった。
群馬のコメント「ベースAに入れればVゴールだった、取りたかった」
石川のコメント「1回戦、2回戦よりも焦っていた」今年のチームについて聞かれて「紙飛行機をみんなで折ったこと」を強調する。やっぱり大変だったんだなあ…。
●赤:石川高専(9)
○青:群馬高専(12)
第3試合:福島高専vs大分高専
軌道も連射ペースも似ているが、最初にチャンスを掴んだのは大分だった。福島、連射には問題ないもののうまく得点に結びつかない。大分がじりじりと得点を重ね、1分45秒でVゴールを達成した。淡々と得点を重ねる中に、メンタルの強さも感じる。
大分コメント「Vゴールに時間かかってしまっている、もっと速くとっていきたい」。AIの調子は「かなり良い」らしい。
福島は昨年、ロボットの完成に至らなかった。しかし今年は全国出場、ベスト8まで進出を果たした。惜敗となるが大躍進だった。
●赤:福島高専(3)
○青:大分高専(16・1分44秒Vゴール)
第4試合:和歌山高専vs徳山高専(ワイルドカード)
ワイルドカードは、1回戦、2回戦で敗退した中から優れた1チームが選出される。今回は射出機構が話題をさらった徳山高専が選ばれ、強豪和歌山と対決した。
試合スタート!和歌山は最初の装填分でベースAの大量得点を始める。徳山はVゴール狙いでまんべんなく乗せていく。和歌山が徳山のVゴール妨害に成功し、得点差を乗り切って勝利した。
和歌山コメント「すごくハラハラした」
徳山コメント「ここまでロボットを評価してもらって嬉しい」
○赤:和歌山高専(88)
●青:徳山高専(11)
準決勝
第1試合:奈良高専vs群馬高専
いよいよ準決勝、物量で勝ち上がってきた2校のVゴール対決だ!準決勝からは両校の応援団コメントが入る。
奈良応援団からは「がんばれ奈良高専、おー」とユルめの、群馬応援団からは「悔いを残さないように頑張ってください! グンマー!」とアツいコメントが寄せられた。
試合スタート、奈良の1つの軌道が少しおかしいようだ。群馬は低軌道でどんどん乗せる。どちらがVゴールを取ってもおかしくない試合展開となったが、54秒で奈良がVゴールを達成した。
試合後コメントでは、奈良はマシンの軌道について「パラメタがちょっとおかしかったので、試合中に直した」とのこと。群馬との競り合いには「焦った」と言ってはいるが、冷静に見える。
群馬のコメントは「Vゴールを決められなかったのは悔しいが、ここまで勝ち上がれたのは3600機の紙飛行機を後輩たちが作ってくれたおかげ」と爽やか。ベスト4は群馬の記録の中でもかなり良い結果になる。拍手で見送られた。
○赤:奈良高専(21・54秒Vゴール)
●青:群馬高専(16)
第2試合:大分高専vs和歌山高専
大分応援団からは「大量得点とVゴール、コンセプトの殴り合いみたいな試合ですが僕は皆さんを信じています、大分高専、おー!」 和歌山応援からは「大西伝説がんばれ!!!!」 と、どちらも勢いのあるコメントが寄せられる。
試合開始!和歌山はセオリー通り、点数を確保してから大分のVゴール妨害に入る。しかし大分の動きが良い。和歌山が再装填をしている隙を突いて、大分がVゴールを達成した。心理戦を制したようにも見える。
大分コメント「しっかり1分以内にVゴールが取れて良かったです」息を切らし、かなり消耗している様子だ。
和歌山チームは、言葉が出てこない。チームリーダーの大西さんが絞り出すように「本当に悔しいです」と言ったきり絶句してしまい、会場から拍手が送られた。チームメンバーが三者三様に悔しさを噛み締めている。
○赤:大分高専(15・50秒Vゴール)
●青:和歌山高専(48)
エキシビション
決勝前にエキシビションとして、地区大会で敗退した中から特に魅力的なロボットを作成した、長野高専と沖縄高専の2チームがパフォーマンスを披露した。
長野高専
折り鶴と漆塗りの箱のような、和風のフォルムが美しいロボット。紙飛行機も鳥のような姿をしている。規定時間を少しだけオーバーしたが2種類の紙飛行機を無事に射出した。
沖縄高専
間の動きに合わせて紙飛行機を掴んで投げる、ご機嫌で華やかなロボットだ。同校から生まれた外骨格ロボット「スケルトニクス」を思い出す。人間とのシンクロと自動での射出、さらに沖縄らしい踊りも披露した。
夢と楽しさのあふれるロボット2機が会場をなごませてくれた。
決勝戦
奈良高専vs大分高専
いよいよ決勝戦。Vゴール勝利チームどうしの「なるべくしてなった」タイトルマッチだ。
奈良のチームコメントは「絶対に勝ちます」 応援団のコメントは「Vゴールで勝ってください」とクレバーながら力強い。
大分のチームコメントは「これまでの自分たち通りの動きでVゴールを取りたい」 応援団のコメントは「ロボットの誇りをかけた戦いだと思います、僕は皆さんを信じます」とアツい。
セッティングタイムの緊迫感も大会随一だ。
試合開始、両チームともクレバーなスタートを切った!…が、どうしようもなく奈良が速い!大分が装填のためにリスタートに入ったところでVゴールが成立し、奈良が優勝を決めた。金テープと共に、ずっと冷静だった奈良のリーダーが喜びを爆発させている。おめでとう!!
○赤:奈良高専(22・35秒Vゴール)
●青:大分高専(2)
結果
優勝:奈良高専
準優勝:大分高専
アイデア賞:長野高専(遊園地ライクな楽しませる機構が高く評価された)
技術賞:和歌山高専(圧倒的得点力、ひとつの的から徹底して得点する技術力が評価された)
デザイン賞:有明高専(ライトアップされた空港から一気ずつ優雅に飛び立つ飛行機で会場を魅せた)
アイデア倒れ賞:都城高専(カバ機構がヘボコン主催の審査員にウケた)
ロボコン大賞:徳山高専
今年のテーマを最も具現化した吸い上げ機構、人が投げるような安定感で美しく紙飛行機を投げた点を高く評価された。会場が祝福の拍手で満ちる。納得の大賞受賞だ。
スポンサー特別賞
本田技研工業株式会社:富山高専本郷キャンパス
マブチモーター株式会社:大阪公大高専
株式会社安川電機:熊本高専八代キャンパス
東京エレクトロン株式会社:旭川高専
田中貴金属グループ:香川高専詫間キャンパス
ローム株式会社:国際高専
セメダイン株式会社:大島商船高専
株式会社牧野フライス製作所:都城高専
デバプラ的振り返りまとめ
2018年の「ペットボトルを投げて、テーブルに乗せる」、2019年の「洗濯物を干す」に続いて、今年は「紙飛行機を飛ばして、乗せる」という、かなりハードな課題が出された。各チームがそれをしっかりと実現するロボットを完成させてきたのは、本当にすごいことだ。
ロボットはまず「ちゃんと動く状態まで作り上げる」ことが難しい。しかもコロナ禍以降は「リモート開発、リモート対決」という世界的な課題もある。
超難題にもかかわらずロボットの完成度は高く、ジャムや紙飛行機の個体差による精度の低下といった問題はほとんどなかったように思う。強く、楽しく、夢のあるロボットが集結し、高専ロボコニストのレベルの高さが感じられた。
今年のロボコンは終わったが、開発者人生はロボコンがピークではない。競技を通じて得た経験を技術者として活かして欲しいと思いながら、今回のレポートを締めようと思う。
本当にお疲れ様でした。とてもかっこ良かった!
今回の連載の流れ
高専ロボコン2022、ロボットは風を読めるのか?
空を制したロボットたちの激闘を振り返る!【前編】
空を制したロボットたちの激闘を振り返る!【後編】(今回)