ロボコン

「第7回東海北陸ロボコン交流会」レポート

〜強さの秘訣は愛なのかもしれない〜

東海北陸交流会は7回目、設立時のメンバーもOBとして参加している

 

2023年3月12~13日、東海北陸ロボコン交流会が開催された。デバプラ編集部も初日に現地入りして、3年ぶりのリアル開催を見届けてきた。

 

東海北陸交流会はコロナ禍による中断を挟み、今回で7回目となる。参加数は9校にOBを加えて101人。全ロボ同様、当初の参加希望はもっと多かったという話だ。

幹事は全員で15人。うち6人が石川高専メンバーだ。石川高専は交流会の参加者も最大で、なんと26人に上る。1~2年生の部員がとても多いらしく、「人=力」な勢いを感じる。

 

12:00取材班現地入り、受付開始

幹事団は参加者名簿の確認や必要な物品の受け渡し、検温、金銭のやりとり、企業対応など、することが多く慌ただしい時間だ。しかし「案内お願いします」「確認終わりました」など、声掛けが盛んで情報の共有もできている。全く危なげがないため、和気あいあいの雰囲気にすら見える。

 

13:15 開会式

幹事団の紹介とプログラムの案内、協賛企業の紹介がされた。幹事団には代表の池端さん(石川高専)と副代表の富永さん(鈴鹿高専)をはじめ、全ロボを取り仕切ったジェネラリストエンジニアがそろっている。幹事のあいさつでは「また(お前が幹事かよ)と思われるかもしれませんが……」と話して笑いが起きていたが、安心感が半端ないからこその冗談だ。

 

開会式の後は、ミニロボコンと足軽ロボコンのオリエンテーションに入る……と同時に、開会式の会場ホールを企業プレゼン仕様に模様替えしていく。段取りが良い。その中で足軽ロボコンに参加するOBが、もう技術の話に熱を入れている。

 

13:35~ 企業プレゼン、企業や現役生による技術講習会

複数の部屋に分かれて、企業や現役生の講習会が始まった。複数の企画が同時進行したため、記者が行けた限りの紹介でご容赦いただきたい。

 

機械班向け「設計者心得」

石川高専5年の永原さんによる、ロボット機構の解説。永原さんは、2021年の高専ロボコン「超絶機巧」(すごロボ)で「箸割観音」の後光の設計者だ。記者自身、ジワジワした箸割り動作と神々しい後光のギャップに心を奪われた一人である。

講演の中で永原さんは「良い機構をつくるには“理解すること”が大事だ」と力説する。ロボットの機構を「足回り、展開、射出」などの具体的な要素に分解し、それぞれの作り方や物理的な限界値の考えかたなどを説明していった。

 

加工機や材料の物理的な限界を把握しきれずに「無理やり作って、組み上げる」をしてしまうのは、実際ありがちなことだろう。それを「どうしていますか?」「ちゃんと理解してコントロールしていますか?」と問いかけ、聴講者からの返答を受けながら具体的な話に落とし込んでいく。実地的で身近な課題が多いためか、とても盛り上がっている。

 

現在の高専5年生は、1~2年生でコロナ前のロボコンを経験し、3年生からコロナ禍に巻き込まれてニューノーマル開発に立ち向かった年代だ。高専ロボコンにおける「コロナで起きた全世界リセット」の全てを見てきた学年でもある。技術の継承にかける思いが熱いのは、苦労してきた時間があるからだろうか。

 

電気班向け「スギケン先生直伝!モータを知ろう」

電気班向けには「Tech Web」で連載中の「スギケン先生のモータードライバー道場」著者、スギケン先生によるモータの技術解説が実施された。講演タイトル「モータを知ろう ~開発者に必要な思考~」の通り、モータを扱うための「カンどころ」が語られた。

 

興味深いのは「開発者に必要な思考」としてスギケン先生が最初に語ったのが「原理を知り、ちゃんと理解した上で扱うこと」だった点だ。同時に開催されていた機械班向け講演と同じ話をしている!

原理を理解せずに行うトラブルシューティングは「現場レベルの工夫」としては有効かもしれない。しかし、工夫の影響が波及して他のトラブルを起こしたり、条件が変わった場合により悪い状況に陥ったりしてしまう。原理を理解した上で根本的なアプローチをすれば、潜在的な問題も解消できる。

モータの専門家による各種モータの原理解説という、ぜいたくな講義だ。内容は、3年生以降で習う電磁気学の授業とリンクする点が多い。記者も習った記憶がある。しかし白状すると、仕事で使うまではあまり理解できていなかったと思う(反省しています…)。原理の理解は大切だぞ!!

スギケン先生による講義には非常に多くのロボコニストたちが参加していた

 

15:00~ ミニロボコン、足軽ロボコン

東海北陸交流会の目玉イベントといえば、ミニロボコンと足軽ロボコンだ。技術講習会の時間中に開会式をしたホールが片付き、企業展示ブースとロボコンフィールドが設置されていく。本当に手際がいい!

タスクスケジュールは細かく定め、幹事団のDiscordで一元管理されている

 

ミニロボコンは1~2年生を中心とした高専ロボコンビギナーが「まずは動くロボットを完成させること」を目指すステップアップ大会だ。今回のテーマは「あめ玉集め」。ピンポン玉とパインアメを、自走するロボットで集める。獲得したあめはチームの得点兼おやつとなるが、食べ物を粗末にした場合は没収される。

 

クローラー型や歩行型(なんと1年生の初設計!)など多種多様な足回り、あめを集める機構にも多彩なアイデアや遊び心が光っている。優勝はスムーズな走行で魅せた鳥羽商船高専だった。

全国大会やABUロボコンを見ていると「勝ちか負けか」で白熱して忘れそうになるが、そもそも「手作りでちゃんと動くロボットを完成させる」のがとんでもなく難しいことである。今回のミニロボコンでも、悔しい思いを味わったチームがいた。これを経て開発者とロボットがともに成長していくのだと感じさせられる。

全てのロボットに共通するのが安全設計の徹底だ。安全は全てに優先して美しい

 

足軽ロボコンは、足回りの機構自慢が集まる「ヨーイドン!」のかけっこ勝負だ。主にミニロボコンの対象外である高学年生やOBが参加するもので、東海北陸地区の足回りの強さを支える催しとも言える。駆動の電源は乾電池に限られ、最大傾斜15°の坂を昇降する。

 

足軽ロボコンは1チームにつき2回走行し、タイムの短いチームが勝者となる。ただし500ミリリットルのペットボトル水を最大8本積載でき、1本ごとにタイムボーナスが与えられる。ロボットの重量制限が4kgなので、最大では自重と同じ質量の可搬性を試せるルールだ。

 

優勝したのは8本の水を運んで23秒でコースを走破した、東京都立産業技術高専 品川キャンパスOBの古作さんだった。話を聞いたところ「足軽ロボコンに出たくてOBになってから参加した」とのこと。

優勝マシン。2本のワイヤーを軸にしたクローラーがかっこいい

 

また、完走には至らなかったが会場を大いに沸かせたのが、飛び込み参加の富山本郷OB、水上さんによる4足歩行ロボットだ。小型犬くらいの大きさで、健気に坂に挑戦する姿がかわいい。

成長するとspotになるかもしれない。なってほしくない…

 

「もう現役生に任せていいんじゃないかな」

東海北陸交流会の再開にあたって、創立時からの参加メンバーである豊田高専OBの酒向さんと、3~4回目交流会の代表を務めた富山射水OBの田光さんも参加していた。酒向さんと田光さんは2019年度、世界が新型コロナの影響をまだ測りかねている時期に、いち早く東海北陸交流会の中止を判断した二人でもある。

 

現在の幹事団とのつながりは、Twitterアカウントで「東海北陸交流会の引き継ぎ先を募集している」とつぶやいたのが始まりだったという。それまで面識もなかったが、リモートでコミュニケーションを取りながら幹事の役目を引き継いでいった。

お二人は初日の夜の部でOBプレゼンにも登壇するが、「あまりOBが出張る必要はないと思う。高専の交流は、もう現役生に任せていいんじゃないかな」とのことだ。信頼関係ができている。

酒向さん、田光さん、鈴鹿高専OBの金子さん。東海北陸交流会の初期を支えた面々だ

 

コロナ禍のロボコン活動、止まってなんかいなかった

取材時間の都合から全日程に立ち会えず、聞けなかったプレゼンや見られなかった展示も多かった。残念ではあったが、短い時間の中でも東海北陸ロボコンチームの仲の良さや信頼関係は十分に見せてもらえたと思う。

OBの皆さんからは「東海北陸がルーツなんです」「ミニロボコンが登竜門だった」といったコメントを多くいただいた。この、交流会やロボットをつくることへの愛情の深さもまた、強い開発者と強いロボットを作り上げる土壌になっているようだ。

 

また、記者は「リアルで会えなくてもTeamsのログで情報を追える。教員が見ていればアドバイスももらえる。コロナ前よりも、コミュニケーションの質は高いと思う」という、5年生の言葉が印象に残っている。Microsoftのサティア・ナデラが「コロナ禍が世界のDXを急速に進めた」と語ったのはもう2年前になるが、最先端のDXは学生開発者の間で起きているのかもしれない。それを支えたのも、ロボットへの愛情だろう。

 

ロボコン活動は、コロナごときでは止まっていなかったようだ。世界の変化を最適な形で乗り切り、その成果はもう見え始めている。どんな状況でもタフに開発を続けるロボコニストに心からの尊敬と応援を送り、本レポートの締めとする。

 

参加者の皆さま、OBの方々、そして何より会をつつがなく運営した幹事団の皆さん。本当にお疲れさまでした!

高専ロボコン2016 出場ロボット解剖計画
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