ロボコン

ロボット開発の伝統と革新を続ける「第20回全国ロボコン交流会」レポート

第20回全国ロボコン交流会が盛大に開催された

1月21日、第20回の全国ロボコン交流会(以下、全ロボ20)が開催された。記念すべき20回目の開催に、デバプラ編集部も久々に取材班として現地入りした。

 

今回は32校が参加。募集当初は33校361名の参加希望があったが感染症対策のためかなり人数を絞り、当日の参加者は191名となった。それを14名の幹事団が取り仕切る。

 

幹事団代表の池端さんは前年の全ロボも主催している。幹事団は全国の高専から有志が集い、Discordで連絡しあってプロジェクトを進めたらしい。学校によって課題の量やテストのタイミングが違うため、各々の都合に合わせてタスクを調整していったという。

幹事団代表の池端さん

 

11:45 開会式

32校が揃って開会式が始まる。幹事団の紹介とプログラムの案内、協賛企業からのコメントが寄せられた。

 

13:00 ブース展示・OBによる技術講習会

企業と参加校によるブース展示。どれも個性的で内容が濃い。それぞれのブースで、展示ロボットへの質疑応答やチーム運営に関する情報交換、悩みの共有などが飛び交っている。内容が濃く、時間内に全ての展示を回りきれなかったため、記者が行けた限りの展示の紹介でご容赦頂きたい。

 

明石高専ではロボットの機構や開発環境について機械屋さんらしい相談が飛び交う。「部員の中で3Dプリンタを持っている率ってどのくらいですか?」「4〜5人に1人くらいです」……高専ロボコニストとしての平均値は分からないが、明石では「機械班はだいたい持っている」という状況のようだ。安くはないが、手の届きやすい価格になったのを感じる。

明石高専の展示

 

熊本高専八代キャンパスでは紙飛行機の射出機巧と共に、2021年の「超絶機巧(すごロボ)」でダイナミックなジャンプを披露した犬ロボットも展示。記者が訪ねたときは、他校の参加者と技術の継承や新入部員の教育についての悩みを話し合っていた。ここ数年、コロナ禍により対面での開発が厳しく制限され、学校によっては先輩からの技術継承が途絶えてしまっている。その中でどのようにノウハウを取り戻し、しかも次の代に引き継ぐかは悩ましい課題のようだ。

熊本高専八代キャンパスの展示

 

奈良高専の展示ブースでは、今年の優勝ロボット「三笠」の射出機構が展示されていた。プレゼンの予定もあったが、残念ながらリーダーの参加が叶わず見送ることとなり、射出機構の展示のみとなった。一見して非常に完成度が高い。入れ替わり立ち替わりに人が訪れて、機構部の細かい部分をアップで撮影している。「素材やモータの選定が良い、細かいところまでしっかり作ってある」など開発者らしい賞賛が相次いだ。

 

2022年のテーマ「ミラクル☆フライ」で圧倒的な強さを見せた奈良は、ルール発表から1〜2週間程で発射機構の試作機を作り上げていたという。「速く作って、速く試運転させ、速く改善する」という爆速PDCAが強さの秘訣だったようだ。

奈良高専の機構を囲む開発者の皆さん

 

和歌山高専の展示は、名機「とば~す君」。2022年の高専ロボコンでは大量射出で魅せる学校が多かったが、特に和歌山は圧倒的な得点力が印象に残る。本戦では紙飛行機をリロードする速さも際立っていたが、一見シンプルな装填治具がよく考えられている。

軽く押さえながら持ち上げるだけで、裏側に貼り付けたスポンジテープが柔軟に追従する

 

舞鶴高専の展示では、興味深い光景が見られた。コロナ感染や濃厚接触者になったために参加できないメンバーが多く出てしまったのだという。しかし、現地参加できたメンバーのスマホから舞鶴高専の寮で待機している開発担当に繋ぎ、リモートで開発について説明している。ニューノーマル開発の光景だ。

残念ながら寮で待機することになった開発者が、自作の機構について説明している

 

東京高専の展示は、回路班の底力を感じさせる多種多様な基板たちだ。近年の半導体不足で苦労した話が盛り上がる。コロナ禍の前後から半導体不足は深刻化していたが、特に車載用途や表面実装タイプの半導体は世界的な「奪い合い」に巻き込まれ、価格の上昇や調達に苦労していたようだ。東京高専はもちろん、他校の涙ぐましい努力のエピソードが聞かれた。

 

今回際立って注目を集めていたのが「RoboMaster」に挑戦する日本チーム「OOEDO SAMURAI」による実機展示だ。 RoboMasterはエンジニアの人材育成を目的に中国の民間企業が開催するゴージャスなロボコンだ。ABUロボコンでも、中国の強さと豊かさは段違いだ。日本の開発者にも、もっと恵まれた開発環境が用意されてほしいと切実に思う。

「強いロボット」を体現する機敏な動きに人だかりができる、非常にかっこいい

 

ブース展示と平行して、高専ロボコンOBによる技術講習会も開催された。

鈴鹿高専OBの金子さんによる「はじめてでも得点できるロボットをつくろう!」では何から手を付けるのか、何が決まれば何を決められるのか……といった、全体的な開発のプロセスが語られた。金子さん自身が「1年生のときに知っておきたかったこと」をテーマにしているという。

 

金子さん自作のクローラーロボットは、前述したRoboMaster機とのコラボで会場を盛り上げていた。BB弾を撃ち出して高専校内の蜂の巣を落とすものだったのだが、実機投入前に業者が駆除してしまったらしい(残念!)。

 

豊橋技科大の田光さんによる「ロボコンの自習のすすめ」では、制御、回路、プログラムを担う「電気班」を対象に、具体的な設計の方法などが語られた。

 

特に、最初の壁として紹介されたのが「部品選定」だ。コネクタやセンサ、ケーブルの選び方をしっかりと説明できるだろうか。「部室にあったから、先輩が使っていたから」という理由も間違いではないが、知識に基づいた選定もできるはずだ。その他、組み込みソフトの書き方や独学に適した書籍の紹介、情報の集め方、勉強の仕方など、手を動かしている開発者ならではの充実した内容に、後輩たちが聞き入っていた。

全ロボが貴重かつアツい場になる理由にもつながるが、ロボット開発において「情報共有の場の少なさ」はなかなか深刻だ。先輩方も様々なソースから情報をかき集めている。

 

15:45 分割会議

分割会議は機械班、回路班、制御班に分かれて別室に集まり、フリースタイルで談話する時間だ。

回路班では「どこで部品調達していますか?」「自作するか、買うか問題」などが盛り上がっている。制御班では、ロボコン本戦で必ず起きる通信障害の話題が熱い。また、「一年生が(開発言語の)Rustを覚え始めた」「LiDARで遊んでいます」といった、トレンドへの感度の高さを感じる発言も出た。機械班では技術継承の話が聞かれ、経験が強みになる機械屋さんならではの職人気質が見えた。

悩みは共通でも選択肢は多種多様、課題へのアプローチの仕方から開発に対する哲学が見えるシーンも

 

オンラインが当たり前だからこその、対面交流の価値

今回ロボコニストたちの話を聞いていて強く感じたのが、コロナによる開発制限の深刻さだ。対面コミュニケーションの制限は世界中に影響を及ぼし、今でも多くの人がその流れに追いつけていない。しかもロボコンは「触って、作って、動かして、完成させていく」という、徹頭徹尾実機に向き合うトライアンドエラーのプロジェクトだ。「膝を突き合わせて話す」時間の多さでロボットの強さが変わるといっても過言ではない。そんな厳しい環境でロボット開発を続け、完成させてきた皆さんの技術力や適応能力は感嘆モノである。

 

先輩からの技術継承が途絶えてしまったチームや、急きょ自宅で開発をすることになり、部室にある部材も分からずに身動きが取れなくなってしまった話も聞かれた。OBや顧問の先生から教えを受けられたチームもあれば、何も分からない1年生が必死で手探りの開発をしていったチームもあったようだ。

そのようなタフな状況かつ、非対面でのコミュニケーションを駆使することに馴れた皆さんだからこそ、貴重な対面交流の機会をフルで生かしていたように思う。

 

1泊2日の全ロボ20のうち、取材班が立ち会えたのはごく一部、初日の夕方までとなった。しかしTwitterのハッシュタグ「#全ロボ20」を巡っていると、随所で夢のコラボや新たな出会い、ブレイクスルーが起きていたことが分かる。全ロボ20をきっかけに次世代のロボコンがますます盛り上がると感じられた。

 

ロボコンは伝統と革新の両輪で進化を続けるだろう。参加校の皆さん、OBの皆さん、そして大規模開催を実現した幹事団の皆さん、本当にお疲れ様でした!

全ロボ20集合写真。皆さん、お疲れ様でした!

 

高専ロボコン2018解剖計画
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