出力電流の絶対最大定格について

第1回:消費電力の計算方法について

 

「モータドライバ博士のQ&A」では、よくあるお問い合わせを元に、ロボット製作者、エンジニアのみなさんに役に立つ技術解説を発信していきます。回答するのは、ローム株式会社モータドライバ開発課の藤井さん。名古屋工業大学電子工学科卒業後、ローム株式会社へ入社し、これまで数々の開発に取り組んできたモータードライバ一筋のエンジニアです。
第2回は、出力電流の絶対最大定格について回答します!

質問:絶対最大定格の出力電流に○○Aの規定有りますが、インパルス状の電流が流れこの値を超えてしまいます。瞬時であればこの電流は許容できないでしょうか?

回答:ピーク電流の項目などがあり瞬時(時間の規定がある)での電流値を大きくできる規定がなく、絶対最大定格で一般的な出力電流の項目のみ有る場合は、一瞬でもその値を超えてはならず、定格を超える電流は許容できません。瞬時電流が出ないように使用するか、絶対最大定格のより大きな値のものを使用する必要があります。

絶対最大定格とは仕様書に記載されている項目に対して、瞬間的であっても超えてはならない条件を示すものです。絶対最大定格を超えた電流の流入流出の使用は特性劣化や破壊の原因となります。
また、LSIの品質・信頼性は使用環境で大きく変化します。同じ品質・信頼性を持っている製品でも使用する環境が厳しいと信頼度は低下し、穏やかだと信頼度は向上します。最大定格内であっても寿命試験に相当する厳しい環境下では摩耗故障に至る原因ともなります。このため定格に対しディレーティングをとり使用する必要があります。
出力電流はパワー段の出力端子、パワー段の電源端子とGND端子に内部素子やボンディングワイヤーの特性劣化や破壊が起こらなく流すことができる最大電流です。特に記載がない場合は定常的に流すことができます。ただしパッケージの許容損失を越えないこととASO範囲を越えない値にする必要があります。

<ASOについて>
ASO(Area of Safety Operation)は安全動作領域のことで、特性図例をFig-1に示します。SOA(Safety Operation Area)と言う場合もあります。

fig-2

Fig-1 ASO特性例

定格電流で制限される領域④と定格電圧で制限される領域①の内部にあっても、許容損失で制限される領域③とさらにバイポーラ素子では2次降伏により電圧と電流が定格内でも破壊する領域②があります。またパワーMOSでも発熱点の集中によりバイポーラ素子の2次降伏で破壊するのと同じような領域②を持つ場合があります。このため特にインダクタンス負荷で使用する場合などは電圧と電流間に位相差が生じるため、過渡的に電圧、電流両方かかることがあり、ASO範囲を超えていないか確認が必要です。過渡現象を波形モニタし電圧と電流が同にかかっている時間がどのくらいあるか測定し、個々のLSIの各トランジスタのASOデータと比較して確認します。

<過電流保護(OCP: Over Current protection)と出力電流について>
過電流保護回路がある場合、この回路は出力端子の天落、地落や負荷ショートで起る過電流による破壊を防ぎます。設定電流を一定時間超えると保護動作にはいり、通常全ての出力トランジスタをオフし、出力をハイインピーダンスにします。設定電流は絶対最大定格電流値より高いものが一般的です。この設定の場合はあくまで異常状態においてLSI自体の破壊を防ぐことを目的としていて、セットの保護や保証を目的としていません。このため絶対最大定格の出力電流を超えないように使用する必要があり、過電流保護を使用して瞬時電流を絶対最大定格内に抑えることもできません。

 

 

今回の連載の流れ

第1回:消費電力の計算方法について
第2回:出力電流の絶対最大定格について(今回)
第3回:ブラシ付DCモータの簡単な駆動について
第4回:PWM駆動による定電流動作について
第5回:PWM駆動の電流回生方法による差について
第6回:モータに最大の電流が流れる状態について
第7回:出力トランジスタの寄生ダイオードを通じて電流回生した時の消費電力について
第8回:モータにトルク負荷をかけた時のモータ電流について
第9回:モータの電気的時定数に対して十分に小さいPWM周期について
第10回:1個のMOSFETでモータをPWM駆動させるときのモータに並列接続するダイオードに流れる電流について

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ローム株式会社モータアプリケーションエンジニアグループ所属。名古屋工業大学電子工学科卒業後、ローム株式会社へ入社。これまで数々の開発に取り組み、モータードライバ一筋のエンジニアです。

http://www.rohm.co.jp/web/japan/

電子工作マニュアル Vol.4