第1回:消費電力の計算方法について
第2回:出力電流の絶対最大定格について
第3回:ブラシ付DCモータの簡単な駆動について
第4回:PWM駆動による定電流動作について
第5回:PWM駆動の電流回生方法による差について
第6回:モータに最大の電流が流れる状態について
質問:ブラシ付きDCモータドライバLSIのPWM動作で電流回生を出力MOSトランジスタの寄生ダイオードを通じて行った場合、回生時の消費電力が寄生ダイオードの順方向電圧にモータ電流をかけた値より大きい場合がありますが原因として何が考えられますか?
回答:出力MOSトランジスタの寄生ダイオードに順方向電圧が発生するように電流が流れると、寄生のトランジスタが動作し電源からGNDに電流を流します。この電流はダイオードに流れる電流の数10分の1未満で少ない電流ですが、この消費電力は電源電圧×電源-GND間電流となり、電源電圧が高い場合など無視できない場合があります。
ブラシ付きDCモータをPWM駆動している状態で電流を供給する回路と、電流を回生する場合に出力MOSトラジスタをオフさせて寄生ダイオードを通じて行う場合の回路例をFig-1に示します。
- (a) 電流供給時
- (b) 電流回生時1
- (c) 電流回生時2
Fig-1の(b)電流回生時1では電流供給時にオンしていたQ1をオフし、Q4はオンのままのため、オフしているQ2の寄生ダイオードとオンしているQ4を通じて電流が回生します。また、Fig-1の(c)電流回生時2では電流供給時にオンしていたQ1、Q4をオフし全てのMOSトランジスタがオフにしているため、Q2とQ4の寄生ダイオードを通じて電流が流れます。
次に、Fig-2にドライバLSIの出力MOSトランジスタの構造略図を示します。
出力NMOSはドレイン(D)のN型拡散と、素子分離のP型拡散と、電源につながるN型拡散(ここでは出力PMOSのソース(S)に接続)とで寄生NPNトランジスタ(Qa)ができます。出力NMOSのソース・ドレイン間の寄生ダイオード(Di_a)に回生電流が流れると、素子分離用のP型拡散がGNDに接続のため、寄生NPNトランジスタ(Qa)のベース・エミッタ間のダイオードにも順方向の電圧が発生します。このために寄生NPNトランジスタ(Qa)がオンしてコレクタ電流を流し、電源(Ea)から電流を引き込みます。
また、出力PMOSはドレイン(D)のP型拡散と、ソースと共通のバックゲートのN型拡散と、素子分離などのP型拡散とで寄生PNPトランジスタができます。出力PMOSのソース・ドレイン間の寄生ダイオード(Di_b)に回生電流が流れると、寄生PNPトランジスタ(Qb)がオンしてコレクタ電流を流し、GNDにも電流を流し出します。
出力MOSの寄生ダイオードに回生電流が流れた時、これらの寄生トランジスタにより、電源-GND間に流れる電流は回生電流より2桁程度下より小さい電流になりますが、LSIの使用しているプロセスや、チップレイアウトにより大きく変わるため、出力MOSの寄生ダイオードを通じて電流回生を行う使い方をする場合はこれらの寄生トランジスタにより流れる電流の大きさの確認が必要です。
例えば、Fig-1(c)電流回生時2で Ea=24V、回生電流Io=1.0A、NMOSの寄生ダイオードの順方向電圧VF_N=0.8V、PMOSの寄生ダイオードの順方向電圧VF_P=0.95V、NMOSの寄生トランジスタとPMOSの寄生トランジスタとが電源-GND間に流す電流の回生電流に対する比を各々k1=1/100とすると消費電力Pcは
Pc=Io×(VF_N+VF_P+2×k1×Ea)
=1×(0.8+0.95+2×1/100×24)=1.75+0.48=2.23W
となり、寄生トランジスタで流す電流による消費電力への影響が大きいです。電源電圧が高い場合に注意が必要です。
今回の連載の流れ
第1回:消費電力の計算方法について
第2回:出力電流の絶対最大定格について
第3回:ブラシ付DCモータの簡単な駆動について
第4回:PWM駆動による定電流動作について
第5回:PWM駆動の電流回生方法による差について
第6回:モータに最大の電流が流れる状態について
第7回:出力トランジスタの寄生ダイオードを通じて電流回生した時の消費電力について(今回)
第8回:モータにトルク負荷をかけた時のモータ電流について
第9回:モータの電気的時定数に対して十分に小さいPWM周期について
第10回:1個のMOSFETでモータをPWM駆動させるときのモータに並列接続するダイオードに流れる電流について