10月7日〜10日に行われたCEATEC JAPAN 2015。すでにお伝えした通り、ついにデバプラ編集部もブースを持つという栄誉を得た(?)わけだが、さらに嬉しいことに、デモは予想を上回る人気ぶり。というわけで、その「カラクリ音楽隊」開発者のインタビューをお届け! 「中の人」が、どうしても伝えたいこととは?
まずは「カラクリ音楽隊」おさらい
まずはざっと「カラクリ音楽隊」のことをおさらいしておきたい。この動画がわかりやすいだろう。
動画がじれったい、せっかちな諸兄のためにまとめておくとすれば、下記のようになる。
- 気ままに散らばっていた隊員(?)達が、
- 号令とともに整列し、
- 人間が振る指揮棒に合わせて音楽を奏でる。
指揮棒には無線通信モジュールと加速度センサ、マイコンが仕込まれており、音を鳴らすタイミング(=人間の手の動き)を隊員たちに伝えることができるようになっている。隊員にはそれぞれ音階が割り振られており、人が指揮棒を振るとその音階担当の隊員が音を鳴らす。そしてタイミングを指揮棒で調整すれば、メロディになる、というわけだ。
技術的なポイントは、6名の隊員たちと指揮棒のアクションとの連携だろう。一対多の制御は、ぐっと難易度が上がる。さらには、隊員たちがきちんと同じ方向を向いて整列するのも、ひと手間ふた手間かかる処理。
これらの制御の心臓部は、「Lazurite Sub-GHz」。Arduino互換のマイコンボード「Lazurite」に、無線モジュールを組み合わせたパッケージ製品だ。Lazuriteの強みは、省電力かつArduinoの資産を活用できること。Sub-GHzは、さらに920MHz帯無線が容易に使えるようになっており、よく飛び、障害物に強く、低消費電力、という920MHz帯の強みを活かした電子工作が可能になっている。
そしてこの機能を、木製のキュートなボディにパッケージングしてくれたのが、ユカイ工学のエンジニア、織江 章裕さんだ。
ポイントは一対多の通信と、画像認識
──まずは、CEATECの4日間、お疲れ様でした。どんな感想ですか?
いやもう、たくさんの人が見に来てくれて、助かりました(笑)。ちょっとだけ大変なこともありましたが、やってよかった、というのが率直な感想です。新しいモノ(=Lazurite)が大好きなんで、触らせていただけるだけでも楽しかったです。
──大変なことというと?
CEATECの直前でしたか、家に帰れなかったり……。まあでも、周りの方たちがのサポートが厚いので、頑張ろうかな、という気になりました。
──実はそういう根を詰めたりするの、キライじゃないんじゃないですか?
そういうことになってますね、どうやら(笑)。
──今回は、Lazurite Sub-GHzという素材があったわけですが、触ってみていかがでしたか?
今回のカラクリの一番大きなポイントは、一対多の通信です。その部分を、Lazurite Sub-GHzのおかげで触らなくてすむというのは、簡単だし速いし、面白かったですね。一対多の通信って、基本的には、とても煩雑なんですよね。例えば同じチャンネルを使う場合は、0.0125秒までは1番隊員が使う、そこから0.025秒までを2番隊員が使う……という風に、タイミングを調整する必要があるんです。こういうことをSub-GHzが全部やってくれるんで、非常に楽です。
──指揮棒と隊員たちの連携が、細かいことを考えなくてもできてしまう。
はい、例えば電波の混み具合とか、うまいこと調整してくれるので、良い素材だな、と思います。
──その他、何かポイントはありましたか?
整列させるための画像認識でしょうか。いや、僕が今までやったことがなかったので……。イチから勉強して、なんとかたどり着いた感じがあります。
──舞台の上に取り付けたカメラで、舞台と隊員たちを見ているんですよね。
はい、カメラで隊員たちを見て、どの隊員がドの音で、レの音で……という個体と、今の場所、そして向いている方向を認識をして、ホストのパソコンから指令を出して正しい位置に整列させる……という、言葉で言えばそれだけなんですが、なかなか苦労しました。それなりに高速に処理しないといけませんし、開発環境と現場では、照明の具合が変わる、という要素もありました。
──個体認識は、どうしているんですか? パっと見、どれも同じ筐体に見えますが……。
頭のてっぺんに赤外LEDを埋めてあって、このパターンで認識しています。光が透けるように、木はなるべく薄く削ってあるんです。本当は、QRコードでも貼ってしまえば簡単だったんですが……、青木(俊介ユカイ工学CEO)さんに「それはダメ」って言われました。かっこ悪いですよね(笑)。
──それは確かに、ユカイさんらしくないかもしれませんね。
その辺りのムードというか、ロボットの持つ世界観みたいなものは、デザイナーの巽(孝介)さんがすごくうまく作ってくれました。社内でも「すごいカラクリ感!」と好評だったので、それを壊さないようにいかに作り上げていくか、常に考えながらの作業でした。
──指揮棒、コントローラー側はどう作ったんですか?
あれも、実は中身はLazurite Sub-GHzなんです。
──えっ。でも随分細いですよね。
はい、あれはSub-GHzを一旦ばらして、細くつなぎ直すということをしてあります。ハンダはそこそこうまくないとできないと思いますが、中身は全部書き込まれているものですから、出来ているものを並べ替えるだけ、って感じですよ。
モノづくりは▽!&※$としか言いようがない!
──電子工作・白オビの記者としては、マイコンボードを組み直すっていうのはなかなかの作業です。そういうことは前からやっていらっしゃったんですか?
電子工作、めちゃくちゃ好きでしたね。小2ぐらいからハンダづけしてます。家に農機具があって、それを直したりするための工具がたくさんあったんです。で、機械をいじるのは楽しいなあ、って。
──お、ナチュラルボーン・メイカーですね。
それで、ミニ四駆をいじったりラジコンをいじったりして、高専にたどり着きました。高専に行くと、「ホンモノの機械」がいじれるので、すごく嬉しかったです。そこでいろいろ学んで、大学に行っても、博士課程で工作をしていました。工作と言っても、ちょっと特殊な……、接触式で、むちゃくちゃ細い針で対象をなぞっていくと、100ミクロン、1ミクロン以下の凹凸形状が分かる、という顕微鏡です。そしてさらにその先に温度計を付ける、というのもありましたね。
──それは……、ちょっと想像ができない世界です。
そうですね、そのぐらいじゃないと、博士になれないので(笑)。でも結局博士にはなれなくて、困ったな、どうしようかな、就職しようかな、となったんですが、それもうまくいかない。とは言え工作は好きで得意だったので、いろんなコンテストに出ていたんです。その中のひとつ、GUGENに出したものが、まあまあ評判が良かったりしたので、「ちょっとユカイ工学でもいけるんじゃないか」と思って……、まずはバイトで働くことになりました。
編集部注:GUGENは言わずと知れたハードウェア・コンテスト。織江さんの作品は「エッジライト励起7セグメント蛍光デジタルクロック」。今でも、休みの日にバージョンアップ作業をしているとか。
──大学院の研究領域の仕事と、ユカイ工学のようなプロダクトを世に届ける仕事、ずいぶん変わりましたね。
正式に入社して半年ぐらいになりますが、楽しいですね。研究室だと、自分よりその分野の工作がうまい人というのは居ないわけで、うまくいかないとひたすら悩むことになってしまうんですよね。それが今は、自分よりも工作ができる人がたくさん居て、いろんな人の技術を吸収しながら進めていけます。
それに、中小企業なのでいろいろやらせてもらえるんですよね。調達から製造まで、全てやることになるので、例えば「中国の工場とどう交渉するのがいいか」みたいな課題があったり。そんなアレコレが体験できるのは、ひとつ、面白いと思うところです。
──今、ものづくりやそれを仕事にすることを志す人に、何かメッセージはありますか?
僕なんかぜんぜんまだまだで、僕より上手い人はたくさん居るので……。僕としてはもう、モノづくり、電子工作は面白い、としか言いようがないです。もし今、電子工作に興味があるという段階なら、ぜひ触ってみて欲しいですね。
──織江さんが作ってくれた『ユカイ工学の電子工作入門 ゼロから作るライントレーサー』ですが、こちらも好評です。電子工作に飛び込んでいくきっかけとしては、こういうのもいいですよね。
はい、ライントレーサーなら、僕のでなくてもキットもいろいろありますし。もしご興味があったら、触ってみていただければ。
──織江さんのライントレーサーは、いろいろ拡張の余地がありますね。
コアがLazuriteですから、いくらでも遊べますね。僕がやったように位置制御をしてもいいですし、ラインじゃなくて枠にして、そこから出ないようにするとか。今はソフトウェアを書ける人が多いと思いますので、きっと僕より面白いものが作れるんじゃないかと思います!
──CEOの青木さんは、「作ったものを他人に目にさらすのが大事」というようなことをおっしゃっていましたが、その辺りはいかがですか? 織江さんも、GUGENに出しましたが。
そういう道もありますよね。今こうして、ユカイ工学に入社して、そして自分が作ったものがCEATECに展示されたのは、GUGENがきっかけですからね。
僕は、今のMakersブームとか、Makerのコミュニティに入るのが苦手だったんです。オープンソースハードウェアなんて言っても、自分の書いたコードを公開したくない。恥ずかしいから(笑)。例えばファブラボに行くのも、ちょっと敷居が高くて、工作機械を自分の家に買ってしまうタイプです。人前で工作なんて、恥ずかしい。工具の持ち方とか、怒られそうで……。Maker Faireにしても、僕なんかフツウに落とされます。落とされました。でも、コンテストなら、展示まではしてくれますからね。
どっちにしても、そうやって「見てもらう」のは重要だと思います。自分が使うモノを作ると、「これくらいでいいか」って満足しちゃうんですけど、見せるとなるとすごく考えることになる。大変ですけど、面白いと思います。やっぱり、面白いとしかいいようがないですね(笑)。
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