CEATECで魅せた!羽ばたき飛翔ロボット『WiFly』学生開発者が切り開く未来

2018年10月、CEATEC2018の会場を、5体の飛翔ロボットが華やかに舞った。比喩ではない。「舞った」の意味は、動画が一番よく伝えてくれるだろう。

ロームのブースを彩ったのは、ロームグループ・ラピスセミコンダクタ社製の超軽量省エネマイコンボード『Lazurite Fly』を搭載した羽ばたき形ロボット、『ORIZURU』と、今年CEATECデビューした『WiFly(Waseda Intelligent Fly)』だ。

今回デバプラ編集部は、超小型飛行体研究所とともに『WiFly』を開発した早稲田大学・渡邉研究室にお邪魔した。ドローン隆盛のいま、なぜ「羽ばたき型」の飛行体研究を続けるのか? 開発秘話や今後の展望など、ワクワクするような未来の話をお届けしよう。

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研究開始から10年、『ORIZURU』との出会いからは激動の3年

ロボット飛行体『WiFly』を開発したのは、早稲田大学電子物理システム学科の渡邉研究室。10年前に研究室を立ち上げた渡邉孝信教授(工学博士)は、もとは半導体微細加工技術の専門家だった。

10年前といえば、『ムーアの法則』に限界が見え始め、機械学習による人工知能のブレイクスルーから『シンギュラリティ』が真実味を帯びてきた頃(レイ・カールワイツによるシンギュラリティの提唱が2005年)。

当時の日本は、半導体の製造拠点がどんどん海外に移転していくなかにあった。渡邉教授は「エレクトロニクス産業で日本が生き残るためのビジネスに紐付く応用製品を」という思いで、研究テーマを「飛翔ロボットによる多点環境センシング」に設定したという。

「虫のような、小さい飛行体をたくさん飛ばして、さまざまな点でのデータをとれば、現在の気象システムよりも周密な環境センシングができると思ったんです」(渡邉教授)

飛翔ロボットによる多点環境センシングをかなえるには、下記のような複数のテクノロジーを融合させる必要がある。

  • 小型化、軽量化、省電力化
  • AIによる自動航行
  • 人工筋肉による羽ばたき飛行

いずれも今後、『Society 5.0』の中核を担うと思われる基礎技術であると同時に、「消耗品ビジネスとして持続可能な事業ができる、新しい半導体市場を開くテクノロジー」(同教授)でもある。もちろん、容易なターゲットではないことは確かで、さまざまな課題があった。

そんな試行錯誤のなか、2015年のCEATECで、ローム×超小型飛行体研究所による羽ばたき型ロボット『ORIZURU』に出会った。その後早稲田大学構内で催された「ロームフェア」で飛行デモがあり、そこで超小型飛行体研究所・宗像 俊龍氏* の知遇を得て、『Lazurite Fly』 を搭載した垂直離着陸飛行体『WiFly』の原案が生まれたという。

* 宗像氏は、独自の発想から生まれたユニークなプロダクトを発表する、飛行体の世界の異才。http://mayoneko.wixsite.com/microslowfly
そして、2016年8月、JST(科学技術振興機構・Japan Science and Technology Agency)主催の『START(大学発新産業創出ブログラム)』に採択され、開発資金の調達に成功した。……ところが。

「採択されたプログラムは、半年後の展示会でプロダクトを発表しなくちゃいけなかったんですよ!」(同教授)

そこから、時間との戦いが始まった。超小型飛行体研究所の宗像氏に助けてもらいながら、なんとか『START』の展示会で飛行デモを披露するまでこぎつけたという。

1年後、改良を重ねた機体が2018年6月に民放番組『めざましテレビ』で紹介されたのをきっかけに、ロームから「展示会に出せませんか?」というオファーが来る。3カ月間の作り込みの後、2018年10月にローム社ブースの目玉プロダクトとして、CEATECデビューを果たした。それが上記の動画だ。

 

「つらいなあ」って思うこともあったけれど「なんだかんだ、楽しかった」

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右から修士2年 伊勢岳起さん(初期メンバー)、修士2年 滝口千波さん(初期メンバー)、修士1年田(ジョン) 祐在さん(2017年4月から参加)、学部4年 野沢大智さん(2018年4月から参加)以下敬称略

──「小型飛行体といえばドローン」というイメージが一般的かと思うのですが、なぜ「羽ばたいて飛ぶ」タイプのロボットを研究しようと思ったのですか?

伊勢:まず、見た目です(笑)。先生のビジョンなどは全く知らずに「なんだか面白そうだなー」と思って選択しました。

渡邉教授:説明したんだけどなあ(笑)。

野沢:僕はもともと鳥が好きでした。それで漠然と、プロペラで移動するタイプの飛行体よりも、自然界にあるものの動きのほうが優れているのではないか、という思いがありまして。滑空って、長距離移動のエネルギー効率がとても良いですよね。

ジョン:見た目の美しさと、トンボのようにホバリングしたり宙返りしたり……そういう、今のプロペラ機にはできない動きが基礎研究として良いと思いました。

──CEATECでのデモンストレーションも、とても華やかで美しかったですよね。

伊勢:5体同時飛行というチャレンジは、会場のスタッフの方からCEATEC当日に提案されました。はい、当日です(笑)。でも1台だけのデモよりも気楽だったかな……。たまたま僕らの使っていた帯域は無線の混線もありませんでしたし、5体飛んでいれば、まあ1体くらい調子が悪くてもね……?(笑)

ジョン:1日9ステージのデモ飛行だったのですが、毎回毎回環境が変わるんです。お客さんが入れば熱気で上昇気流が生まれるし、気温が上がれば空調が入って風向きが変わります。ステージのインターバルも短かったので、何か異常があっても、調整する時間がありませんでした。

野沢:僕は、落ちたらキャッチしようと思って、初日はひっそりとお客さんに混じっていました。

伊勢:宗像さんに、風の読み方を教えてもらったりもしました。看板の揺れ方を見て「あのへんは気をつける」とか……。

渡邉教授:宗像さんは人間国宝と呼びたくなるぐらいのマイスターでした。モデル化されていない羽ばたき飛行という仕組みを、おそらく感覚も理論も併せて理解されていました。WiFlyの具合が良くないとき、「○○○を少しいじってみたら」という助言に従うと、本当に改善されるんです。

──デモ中はトラブルはなかったのですか?

野沢:ステージでいちばん焦ったのは、バッテリーとコントロールのケーブルが断線したときですね。お客さんに混じっていたジョンさんにPCを持ってきてもらって、その場で接続してしのぎました。

渡邉教授:あの時の対応は、宗像さんも称賛していましたね。

伊勢:前日までは絶好調で、「これは行けるだろう!」と思っていたんです。でも、初日の1回目のステージで墜落しちゃって。「つらいなあ」って……(しみじみ)。ロームさんのブースでの出展ですから、企業の看板を背負っているという緊張感もありました。

──開発は順調でしたか?

伊勢:CEATEC出展が決まったのが6月だったのですが、7月や8月の時点ではホバリングがやっとで、左右の制御も水平飛行もうまくいっていませんでした。とにかく調整するべきパラメータが多いので、行き当たりばったりで調整をしながら、だんだん勘所をつかんでいったと思います。

野沢:パラメータが多い、というのは大きな問題でした。調整したパラメータが本当に効いたのか分からないんです。機構の位置を変えて水平機構が安定したと思ったらホバリングが不安定になるし、この部分(リアのプロペラ)が回っていることに意味があるのか分からないし。どの部分も独立しているわけではなく、絶妙なバランスでできあがっているんですね。

ジョン:飛行テストは毎回動画に残しているのですが、調整のツボを見つけたときの動画には、僕の「やった!」という声が入ってます(笑)。

野沢:あっ、テールモータの場所がキマったときですね!

ジョン:でも、絶望だけで終わる日もありましたよ。暑い教室で空調を止めて飛行させて……、それで一日かけても何も得られない日もありました。

伊勢:そういう日は「なんで引き受けちゃったんだろうなあ」って思いました。うまく飛ばなさすぎて、「そもそもこの形は前に飛ばないんじゃないか?」とまで思っていました。

──「もう一度同じことをやれ」と言われたら、嫌ですか?

伊勢:う~ん……なんだかんだ楽しかったので、もう1回くらいなら、良いかな(笑)。もっとうまくできるような気がします。

 

これからの社会での『WiFly』

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本体から突き出たアームがキモ。先端にはバッテリーが収まっており、この質量をバランス取りに使う、特許出願中の技術

──これからの『WiFly』や、皆さんの研究について聞かせてください。

伊勢:ライブ演出とかで使われるんじゃないかな、と思っています。Perfumeとか?

滝口:そうですね、やっぱり見ていて面白いので、イベントとか。あと、外でも普通に飛んでいるようなものになったら良いなあと思います。

ジョン:あと1年半は研究室にいるので、より安定した飛行ができる、一段階上のものを作りたいですね。来年は着陸を目指したいです!

野沢:鳥や昆虫のように風を読んで、ひと山くらい超えていくような機体にできたら良いですね。カメラを乗せて、線分抽出でマッピングするような技術がかなえられたら、例えば災害現場の地図が作れます。

 

◆ ◆ ◆
 

山火事や悪天候、上昇気流のきつい場所など、ロボットのために整備されていない状況での飛翔は、プロペラ型ドローンには難しい。垂直飛行と水平飛行のシームレスな切り替えが構造上できず、リモートコントロールでは、瞬間ごとに変化する環境に対応することが困難なためだ。

「でも、そんな環境でも生物は飛んでいるんです。生物の機構とAIによる自律制御で、”風をつかんで飛ぶ”ことができるはずです。他にも2018年のピョンチャンオリンピック開会式で、ドローン1200台が五輪を描きましたよね。AIの導入が進めば、羽ばたき型ロボットで同じことができるはずです」(渡邉教授)

「飛翔ロボットによる多点環境センシング」というテーマや、生き物のように舞う羽ばたき型ロボットに興味がある方は、「早稲田大学・電子物理システム学科」に注目してはいかがだろう。オリンピックの開会式で、その手による羽ばたきロボットを目にするのも、絵空事ではないかもしれない。

Device Plus 編集部

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