インタビュー

大手家電メーカーの不可能にチャレンジ! 従来の家電を“スマート家電”に変える 学生ベンチャーの肖像

“モノづくりの若きイノベーター” にスポットを当てる、「People Plus」。記念すべきVol.1は、学生ベンチャー「Pluto」。電子工作好きの少年だったお2人が、起業して自分たちの製品を世に問うまでを、飾らずに語ってくれました。

pluto01

世の中には“スマート”が溢れている。“スマート家電”もそのひとつで、家電とネットがつながることで、暮らしはもっと便利に、さらに快適になる。しかし、家電とネットはつながっても、メーカーの壁は超えられない。同じメーカーの家電でないと、つながれない。それって“スマート”なんだろうか? 便利で快適な暮らしと言えるのだろうか?

メーカーの壁を乗り越えて「家電みんなと友だちになろう」と考えた金田賢哉さん(Pluto代表取締役)。メーカーの枠から「解き放たれて自由に楽しみたい」と思った市東拓郎さん(同取締役)。2人は2010年に出会った。東京大学大学院で航空宇宙学を専攻する金田さん。電気通信大学大学院で情報ネットワークシステム学を専攻する市東さん。きっかけや専攻は違っても、やりたいことは同じ。子どもの頃から電子工作が大好きで、ワクワクすることに夢中で、大学時代にはケータイで自宅の家電をコントロールするシステムを自作していたのも一緒。「ワクワクするもの」「自分たちがつくりたいもの」を自由につくろう。2人の想いはリンクして、道はひとつになった。メーカーの壁を軽々と飛び越えて、“スマート家電”の可能性を切り拓く学生ベンチャー「Pluto」の誕生から現在までを追った。

 

パイロットの夢を断念するも
“ワクワク”するモノづくりの魅力を再発見

金田賢哉さん(Pluto代表取締役)

金田賢哉さん(Pluto代表取締役)

小学生の頃からパイロットになりたかったという金田さん。その夢は、“視力が足りない”という理由で打ち砕かれた。「飛行機に乗れないなら、それをつくる人になろう」と金田さんは東京大学に入学。上京して初めての一人暮らしは馴染めなかった。友達と楽しく遊んで帰っても、部屋に帰るといつも一人。「急に家族がいなくなって、部屋が寂しいと思ったのがきっかけです。やっぱり家はにぎやかな方がいい」と語る金田さんは、そのとき“家電と友達になろう”と思った。
船を造る父の背中を見て育った金田さんは、小さい頃からモノづくりが大好きだった。コンピュータにも夢中になり、中学時代に父からもらったパソコンでシステム開発を覚え、ゲームも自作していた。だから子どもの頃と同じ。遊びの延長でワクワクしながら家電と向き合った。照明、オーディオ、テレビにエアコン、カーテンの開閉、ついにはリモコンのない洗濯機まで、ケータイで操作できるようにしたという。
「友達に見せたらスゴくうらやましがられたのでプレゼントしたんです。とても喜んでくれたので僕もうれしかった」。自分が ワクワクするモノをつくって、それを相手が面白いと言って喜んでくれる。モノづくりの楽しさとともに、ワクワクする気持ちの大切さを金田さんは改めて実感した。

 

家電をばらしてドキドキしながら
その仕組みを自由に創造した子どもの頃

市東拓郎さん(Pluto取締役)

市東拓郎さん(Pluto取締役)

市東さんは“生まれながら”の電子工作好きだ。「周りにそういう人がいなくて、両親も機械には興味がなくて、なぜか僕だけ小さい頃から機械が大好きでした。動くもの、回るものに夢中で、両親の話だと初めてしゃべった言葉は“ママ”とか“パパ”じゃなくて“換気扇”だったそうです(笑)」。

小学生の頃には両親が怒るほど家電をばらしては、中の基板を見て回路を調べ、ドキドキしながらその仕組みを考えていたという市東さん。それを自分で一からつくりたいと思うのは必然だった。小学4年で秋葉原に通い、電子工作に夢中に。しかも、すべて独学でやっていたというから驚かされる。周りから“ナチュラル・ボーン(生まれながらの)”と呼ばれるのも納得である。
そんな市東さんは中学時代に観た映画「ジュラシック・パーク」のワンシーンが忘れられない。「中学生の女の子がパソコンを使ってハッキングして、部屋の電気を点けたんです。それを見たとき、パソコンで家中を操作できたらスゴイと思ったんです」。そのイメージが強く残っていた市東さんは、大学2年のときにケータイで家電を操作するシステムをつくった。

市東さんと金田さんが出会うのは、それから5年後。お互いが同じ時期にケータイで家電をコントロールするシステムを開発していたことに驚くとともに、ワクワクするものをつくりたいと思う考え方も共通するものだった。さらにスマホも登場し、面白いものがつくれると思っていた2人は意気投合。2010年8月、「Pluto」が動き出す。

 

パソコンが苦手でもすぐに使える手軽さと
環境に左右されずに楽しく使える自由さを

2012年11月に発売された「Plutoステーション」は、そんな2人の想いの結晶。スマホやタブレットをリモコン代わりにして家電を操作できる便利なデバイスだが、発売から一年半が経った今も大きな反響を呼んでいる。
2人がこだわったのが、パソコンが苦手な人でもすぐに使える手軽さ。ユーザーは「Plutoステーション」にLANケーブルとACアダプタをつなげば準備完了。シリアルキーを入力すればネット接続の設定も完了し、すぐ使い始めることができる。「Wi-Fiでできないのか」という声もあるというが、Wi-Fi接続の場合ペアリングがうまくいかないケースも多く、“どんな家でも、誰でもすぐ使えること”にこだわり、あえてLAN接続にしているという。
ユーザー目線に立ったこだわりは、スマホやタブレットからの操作をブラウザ経由で行う点にも表れている。それがアプリベースならOSが違ったり、極端な話だがスマホの規格が変わったりすれば使えなくなる。しかしブラウザベースなら、そうしたことにも関係なく安心してずっと使ってもらえるからである。「環境に左右されるのがスゴく嫌なんですよ。他のメーカーのものは使えない。スマホの規格が変わったから使えない。そういうことから解放されて自由に家電を使える方が絶対便利だし、楽しいと思うんです」と市東さん。
また、「Plutoステーション」は“家電のリモコンを一括操作する”という機能に特化している点も他とは違う。普通ならさまざまな機能を追加しがちだが、機能をシンプルに絞ることでユーザーを迷わせない気づかいだ。「僕はUnixが大好きなんです。Unixってひとつのソフトをまずしっかり実行するという考え方じゃないですか。それがきちんとできたうえで汎用化していく。そういう思想が強く入っています」と市東さんは言葉を続ける。

Pluto ステーション

「Plutoステーション」13,800円 (税込)は手のひらに載るコンパクトサイズ。デザインは金田さんが考案。赤外線を部屋の隅々まで届かせることを第一に考えて、このカタチに辿り着いた。

スマートフォンでの操作画面

スマホの操作画面。他の機能はなく、リモコン操作に絞り込んでいるため、表示もシンプルでわかりやすい。タブレットになるとさらにボタンが大きくなり、高齢者に好評だという。

 

ユーザーが広げる使い方にワクワク
“面白い”が広げるモノづくりの楽しさ

花岡正明さん(Plutoマネージャー)

花岡正明さん(Plutoマネージャー)

こうした「Pluto」の想いは、ユーザーにしっかりと届いているようだ。販売はAmazonで主に行っているが、カスタマーレビューを拝見するとシンプル・簡単・快適といった言葉が並ぶ。

ずっと趣味で電子工作を楽しんできた2人だが、「Pluto」を起業し、自分たちの製品を利用してくれるユーザーの声を通して、モノづくりの新たな“面白さ”を発見し、さらにワクワクしている。「僕たちが思いもしなかったような、想定外の使い方をしてくれる人がたくさんいて、それがスゴくうれしい。僕たちのデバイスをみなさんが楽しく自由に使ってくれているということですから」と金田さんは語る。
「次のタップも楽しみですね。こっちはさらに想定外の使い方ができると思いますよ」と市東さん。“タップ”とは、5月13日に発売された新デバイス「Plutoタップリンク」のこと。家電のリモコンの一括操作はもちろん、専用の電源タップに挿した家電の消費電力の“見える化”、電源のON/OFFの確認およびコントロールも可能になる。具体的には電気の消し忘れの確認、離れて暮らす家族の電気利用状況の確認(見守り)、さらにコーヒーメーカーのドリップが完了すると照明スタンドが点灯するように設定できる、といったことである。「自由に使ってもらって、僕らの想定外の使い方をした方はぜひ教えてほしいですね」と語る市東さんも楽しそうだ。
「早く起業できてよかったと思います。僕たちがワクワクしてつくったモノに対して、ユーザーの声をたくさん聞けて勉強になるし、それを生かすことでモノづくりがさらに面白くなる。やりたい人は早く始めて、いろいろな人の意見を聞くといいと思います」と金田さん。

「Pluto」は個人の利用だけでなく、介護施設、マンション、ホテル、家庭内のエネルギーマネジメントシステムとして発展が期待される「HEMS」などの分野でも注目されている。
「HEMSについては、工務店さんからの問い合わせも結構あるんですよ。住宅用に壁に埋め込めるタイプも開発中です。やりたいことがいっぱいあるので、これからに期待してください」と語るのは、この取材を温かく見守っていた花岡正明さん。若い2人をサポートする頼れるマネージャーである。
“面白い”にこだわり、従来の家電を“スマート家電”へと変える「Pluto」の挑戦。それは、ユーザーと“ワクワク”を共有しながら、楽しい未来を切り拓いていた。

Pluto タップリンク

5月13日に発売された「Plutoタップリンク」29,800円(税込)は、4つの家電を接続できる専用電源タップとワイヤレスでつながる「Plutoステーション2」で構成。家電の消費電力を確認できるなど従来の家電をさらにアクティブに活用できる。

Device Plus 編集部

エレクトロニクスやメカトロニクスを愛するみなさんに、深く愛されるサイトを目指してDevice Plusを運営中。

http://deviceplus.jp

電子工作マニュアル Vol.4