呪いをかけられること〜ロボマスター日本初出場チーム FUKUOKA NIWAKA大会後インタビューVol.2

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Vol.1に続き、中国のハイレベルなロボットコンペティション・ロボマスターに日本から初参戦したFUKUOKA NIWAKAのインタビューをお届けする。後編のテーマは、「呪い」と喪失感、そしてロボマスターに参加する意義について。

 

「ただのええやつやんけ!」なピット

ピットでの作業風景

━━その修理の場所になるピットエリアは、どんな場所だったのでしょうか。

花守:基本的な雰囲気は、高専・学生ロボコンと変わらないと思います。が、飲食に対する意識とか安全管理の意識とか、そのあたりの常識が違った、という面はあります。

河島:試合場に行くまでに、学生ロボコンだったら台に載せるか持って行くか、という感じですが、ロボマスターの場合はロボットの電源を入れて、プロポで操縦しながら走らせて運ぶ、というか移動するというか。それがいいか悪いかは別として、自由な感じですね。

━━非常にフレンドリーというか、チーム同士のコミュニケーションが盛んだったと聞きました。

河島:ありますね。言葉の問題はありつつも、特に試合をした後はフレンドリーでした。「コードをくれ」もありましたし、エアタンクなんかを貸し借りしたり。ロボットがベストパフォーマンスを出せるように、お互い協力して頑張っていこう、という雰囲気があって、温かい感じがありました。

花守:いいやつしかいなかったですね!
僕たちが敗退して、荷物も全部片付けて帰る時に、中国チームの人たちが日本語で「さよなら」って手を振ってくれたんですよ。みんなで。
「おまえら……ええやつやん、ええやつやんけ、ただのええやつやんか」みたいな(笑)。すごくよかったです。同じモノを作っている同士で、彼らがどう思ってそうしたかはわからないですけど、そうされてうれしかったのは確かです。

河島:そうそう、例えばロボットの検査でいろいろチェックされる時も、日本語でしゃべりかけてくれたり、応援してくれる人たちがいたんですよ。そういう気遣いというか、いいコミュニケーションがあったな、と思います。ボランティアスタッフのかたも応援してくれて、アウェイという感じは無かったです。

 

対東北大学戦。その喪失感

━━各マッチについてもお聞きしたいと思います。初の負け以外に、印象に残っている試合はありますか。

花守:今回の組み合わせって、もうなんだか敵の強くなり方が、ロボット系のアニメかゲームみたいなんですよ。だんだんレベルが上がっていくんです。その辺、古賀さんのくじ運がすごかったな、と(笑)。
最初の戦いは、相手のマシンの不調などのいわゆる「ラッキー」で勝ち進められた部分が大きかったです。操作がわからない主人公でも偶然勝てた、みたいな。そして、初めて「強い」と思った相手がバージニア工科大学でした。歩兵3台の連携が有効で、ヒーローを倒しても、「歩兵が強いとこんなに面倒なんだ」ということに気づきました。オペレータールームが騒然となる一戦で、印象深かったですね。

設計・機械リーダーの花守 拓樹さん

設計・機械リーダーの花守 拓樹さん

━━歩兵の連携、という点では、本戦トーナメントであたった東北大学が光っていたように思います。

花守:トンペイ(東北大学)は、ガチのラスボスにあたった、という感じでした。トンペイはあのリーグの中でもかなり強い方に分類されると思います。エンジニアとしては、ダウンしたロボットを助けたり、進路妨害を行ったり、いろいろエンジニアらしく動いていたと思います。しかし、裏をかえせば、それは負け試合だったからです。トンペイが、こちらが息つく暇も無く有効な攻め手をうってきていた、ということだと思います。
正直に言えば、ベスト16以降は、僕たちのマシンではどことあたっても負けると思うんですよ。その中に入らせてもらって、そしてかなり強い方のトンペイとあたったというのは、経験値的にいいことだったと思っています。ここでも、古賀さんのくじ運は光っていたな、と。もう、僕らのロボマスター2018を締めくくるのにふさわしい、圧倒的な強さの敵とあたれて、とてもよかったと思っています。

━━その一連の流れを、リーダーたる古賀さんはどう見ていたのでしょうか。

古賀:そうですね、やはり190チームを勝ち抜いてきたチームの強さというかすごさというか、感じていましたね。そして同時に、僕たちの今の状況では難しかったかな、と途中から感じていました。試合を見ていて、こちらの攻めが効かないし、相手の攻めが怒濤だったかといえばそうでもないんですが、いつの間にかじりじりと削られていったり。
そしてトンペイに負けて、華北理工大学に負けて、すべての試合が終わった後のむなしい感じ、喪失感とでも言うのでしょうか。これは今も覚えています。

河島:そうですね。決勝リーグの試合が終わったときの、目標がなくなってしまった感じ。もう優勝することはできないのか、という喪失感。

回路班リーダーの河島 晋さん

回路班リーダーの河島 晋さん

 

改めて、ロボマスターとは。参加する意義とは

━━改めて、お聞きしてみます。ロボマスターとは、どんな大会だったのでしょうか。

花守:歩兵オペレーターの古澤 美典さんが、この大会のことを「魔法」と表現しました。これがすごく的を射ている、と思います。僕は高専ロボコンを5年間やってきて、ある程度、その世界のことを見てきたと思います。しかし、ロボマスターは新しいことだらけで、そして人は自分が形容できないものを魔法って呼んだりするじゃないですか。そういう意味で、ロボマスターで得たモノは魔法としか形容できないものでした。……でも、僕はあえて魔法ではなく、「呪い」と呼んでいますが。

━━……呪い?

花守:キツすぎるんですよいろいろ!
2週間修理地獄で、そこまでもずっと自分の時間やらなにやらを注ぎ込んで、慣れない環境で自分にむち打って……。でも、それでも、来年も出たいんです。これを呪いと言わずしてなんと言うべきか(笑)。

━━人生が変わってしまう呪いかもしれませんね。

花守:でもまあ、高専ロボコンの5年も呪いだったかもしれませんね。残りの人生、解除方法を探しながらやっていきたいと思います。

河島:僕は、高専ロボコンやロボカップ、レスキュー、水中ロボコンなど、いろんな背景や側面を持ったロボコンに参加してきました。比べてみると、ロボマスターは、「人材」にフォーカスした大会だな、と感じましたね。なんというか、この大会のエンターテインメント性で多くの人に届いて、そしてロボットの面白さを伝えて、エンジニアになりたいという人を生む。そしてロボマスターに出ることで鍛えられ、その先のことも見えてくる。そういう力があるのでは、と思います。
だから、僕もその「呪い」を他の人にかけたいな、と(笑)。仲間を増やして、一緒に苦しんで、でも楽しい。そんな人をどんどん増やしていきたい、そんな人同士でこそ共通の空気というか、そういうものを分かち合っていきたいと思いました。

古賀:参加者としての目線で言うと、正直に言って、僕もあそこに立ちたかった、と思わせられる何かがありました。「自分がオペレーターをやります」って言いたかった。
経営者だったり、プロジェクトリーダーとして言えば、それだけ魅力的なステージを作ったDJIはすごい、と思います。体育会系で言えばオリンピックのようなハレの舞台で、それだけすごい人たちが集まる、というような。そこへ、ソフトだけじゃだめ、ハードだけじゃだめ、みんなで一丸となって目標を設定して、目指す。チーム作りから個人の技術の向上まで、うまく流れを作っているというのは、なかなかないと思います。さらに言えば、その先、就職だったりエンジニアがスポットライトを浴びてヒーローになるっていうところまで行くかもしれない環境を作っているというのは、素直にすごいと思ってしまいます。日本にも持ってきたいし、ここを目指す人を増やしたい、とも思っています。

プロジェクトリーダーの古賀 聡さん

プロジェクトリーダーの古賀 聡さん

━━最後に、めんどくさい質問を。「参加する意義」について改めてお聞きしたいです。

花守:単純に言って、ロボマスター、めちゃくちゃかっこいいじゃないですか。例えば高専ロボコンには高専ロボコンの良さがあって、ロボマスターにもそれはもちろんある。これから、そのロボマスターに参加して、日本で作っていけるというのは大きな役得です。だから他の人たちも、どんどん僕らといっしょの立場になって、この「良さを比べ、創っていく」という権利をバリバリ行使していけるようにしたいですね。

河島:全くその通りで、今は、ロボマスターを日本に展開するという始まりの段階ですよね。そこに参加できるというのは大きいように思います。僕はたまたま今ここにいますが、他の、参加したいと思う人たちにもどんどんPRして、参加の道筋を作れたら、そして前回の取材でも言いましたが、子供がプロ野球選手になりたいと思うように、エンジニアのタマゴがロボマスターに出たいと思うようになったら、一番幸せです。そんなエンジニアを巡る環境が作れたら、幸せです。

古賀:それで、もし参加したいと思ったら、参加する意義とかアレコレ考えなくても、目立ちたいでもいいんですが、とにかくやってしまえばいいとも思います。今はまだ日本にはベースになる環境がなくて、でもそれは逆に言えば新しいことにチャレンジしたいという人にとってはとても活躍できるタイミングです。そういう人が目立って欲しいし、そういう人たちが集まって欲しいし、そういう人をできるだけサポートしたいと思っています。

◆ ◆ ◆

実に2時間超のインタビュー。蛇足ながら記者の感想を付け加えさせていただければ、最も印象に残ったのは、みなさんの言葉の力強さ。長い取材中、常に圧倒されっぱなしだった。それはこの日本初となる難事業をやりきった者だけが持つことができるものであり、また次へ進もうとする明確な意思を持った者ならではのパワーがあるから、と思えた。この希有な経験は、確実にメンバーのみなさんの血肉となっている。そしておそらく、その言葉は、聞いた者をインスパイアするに違いない。
気になる今後だが、本文中に述べていただいている通り、FUKUOKA NIWAKAはすでに動き出している。我らデバプラ編集部も、FUKUOKA NIWAKAの活動はもちろん、ロボマスターに関わりたいと思ったすべての人たちをサポートするべく、企画を用意している。続報をお待ちいただきたい。

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今回の連載の流れ

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