できること

ラズパイとセンサで楽しむお手軽IoT【第3回】

センサの値をRDBMSに記録する

 

第1回:Webでデバイスを操作してみよう
第2回:Webサービスでデバイスを操作する

 

loTという言葉が一般的なものとなって久しい昨今、「loT」関連の記事も多くインターネット上に流れていると思います。そんな「loT」を独自の切り口で楽しく紹介してくれる、うすだひさしさんの連載も今回で3回目。今回はセンサの値をRDBMSに記録する方法を見ていきたいと思います。

 

目次

  1. はじめに
  2. 準備
  3. センサメダルからデータを読み取る
  4. RDBMSの設定をおこなう
  5. センサデータをRDBMSに記録する
  6. センサデータを定期的に記録する
  7. まとめ

 

1. はじめに

「ラズパイとセンサで楽しむお手軽IoT」と称して、ラズパイにつないだデバイスを外部から操作したり、センサの情報を外部から読み取ったりする連載の第3回目です。

第1回第2回では、WebやGoogleアシスタントからラズパイにつないだLEDを操作する方法をご紹介しました。ですが、IoTでは、モノを操作するだけでなく、モノから情報を得て活用することも重要です。そこで今回は、センサからデータを読み取り、データベースに記録する方法を紹介します。

センサには、本サイトではおなじみの「センサメダル(SensorMedal-EVK-002)」を使います。Bluetoothを使って、部屋に置いてあるセンサメダルから温度や湿度などのデータを定期的に読み取り、RDBMS(Relational DataBase Management System、リレーショナルデータベース管理システム)である「PostgreSQL」にデータを記録します。

easy-iot-with-raspberry-pi-and-sensor-03-01

 

2. 準備

今回必要となるものは、下記です。センサメダルがなくても(たとえばロードアベレージやプロセス数といったシステムの状態など)何かしらデータを読み取れるものがあれば、同等のことがおこなえます。

 

3. センサメダルからデータを読み取る

ロームのセンサメダル(SensorMedal-EVK-002)は、温湿度や加速度など6種類のセンサを搭載した評価キットです。Bluetoothに対応し、コイン電池で数ヶ月動作し続けます。iOSアプリが公開されていて、アプリを使ってデータを読み取ることができますが、ラズパイでも可能です。

easy-iot-with-raspberry-pi-and-sensor-03-02

 

本サイトでも、「ラズパイとセンサで作る小型健康管理ウェアラブルデバイス!」や「ラズパイとセンサメダルで作るIoT縄跳びデバイス」などで、センサメダルを活用しています。センサメダルをラズパイで使う方法自体は、これらと同等です。

 

ただ、今回は、身につけるのではなく、部屋に設置して使います。そのため、読み取るデータは、温度、湿度、気圧、照度、RSSI(Received Signal Strength Indicator、受信信号の強度)およびバッテリ残量としています(もちろん、加速度や地磁気、歩数も読み取れます。必要に応じて追加してください)。

データの読み取りやデータベースへの記録をおこなう処理は、Pythonスクリプトでします。そこでまず、Bluetoothの通信をおこなうためのPythonパッケージ「bluepy」をインストールします(下記の「$」はシェルのプロンプトです。また、もし「pip3」コマンドがなければ、「sudo apt install python3-pip」を実行してインストールしてください)。

$ sudo pip3 install bluepy

次に、本サイトの他の連載と同様、Githubで公開されている「BLE Logger for Rohm SensorMedal-EVK-002」を拝借して、動作確認をおこないます。下記のように「git」コマンドを実行して、各種Pythonスクリプトを取得します(もし「git」コマンドがなければ、「sudo apt install git」を実行してください)。

$ git clone https://github.com/bokunimowakaru/SensorMedal2.git
$ cd SensorMedal2/

データの表示をおこなうPythonスクリプト「bleloggerSensorMedal2.py」を管理者権限で実行し、「Temperature(温度)」や「Humidity(湿度)」などが出力されることを確認します。

$ sudo ./ble_logger_SensorMedal2.py
(中略)
Temperature = 18.13 ℃
Humidity = 64.9 %
Pressure = 1012.828 hPa
Illuminance = 180.0 lx
Accelerometer = 1.037 g ( 0.064 0.161 1.022 g)
Geomagnetic = 103.8 uT ( 6.8 -35.3 -97.4 uT)
Magnetic = 0x3
Steps = 0 歩
Battery Level = 100 %
RSSI = -51 dB
(後略)

センサメダルのサイトからダウンロードできるマニュアルにデータフォーマットの記載があります。実行したPythonスクリプトでは、payval関数で16進数の文字を数値に変換した後、記載されている式の通りに数値を変換して、各値を算出しています。

 

4. RDBMSの設定をおこなう

データの記録や利用に使うRDBMSには、「PostgreSQL」を使います。Raspberry Pi OSにはパッケージがあり、下記のようにインストールすればすぐ使えます。

$ sudo apt install postgresql

インストールすると、PostgreSQLのサービスが自動的に起動されます。ただ、データベースを管理するサービスが動作しているだけの状態です。実際に使えるようにするには、(OSではなくPostgreSQLの)ユーザとデータベース、そしてデータを格納するテーブルを作成する必要があります。

PostgreSQLのユーザを作成するには、「createuser」コマンドを実行します。PostgreSQLは「postgres」というユーザの権限で動作しているため、下記のようにpostgresの権限でコマンドを実行します。

$ sudo -u postgres createuser -P -s pi
新しいロールのためのパスワード: (パスワードを入力)
もう一度入力してください: (パスワードを再入力)

上記では、「pi」ユーザを作成しています。「-P」オプションでパスワードの設定をおこないます。2回聞かれるので、設定したいパスワードを入力します。また、「-s」オプションで管理者権限を付与しています。

次に、「createdb」コマンドでデータベースを作成します。前述で作成した通り、piユーザはPostgreSQLの管理者権限を持っているため、そのまま実行できます。引数なしで実行すると、ユーザ名と同じ名前のデータベースを作成します(PostgreSQLのコマンドをローカルで実行する場合、OSのユーザ名とPostgreSQLのユーザ名が同じなら、パスワードの入力は不要です(pg_hba.confで設定されています)。他のコマンドも同様です)。

$ createdb

PostgreSQLの操作を行う対話形式のコマンドが「psql」です。引数なしで実行すると、ユーザ名と同じ名前のデータベースを対象として動作します。

$ psql
pi=#

「pi=#」がプロンプトです。データベースへの操作や定義をおこなう言語「SQL」のコマンドを入力したり、「\」で始まるpsqlのコマンドを入力できます。ここでは、センサメダルのデータを記録するための、下記に示すテーブル「sensormedaldata」を作成したいと思います(PostgreSQLのデータ型の詳細については、「PostgreSQL文書の8.データ型」を参照してください)。

列名 データ型 概要
temperature double precision 温度(℃)
humidity double precision 湿度(%)
pressure double precision 気圧(hPa)
illuminance double precision 照度(lx)
rssi double precision RSSI(dB)
battery double precision バッテリ残量(%)
date timestamp with time zone 日時

下記のように「CREATE TABLE」というコマンドを入力してテーブルを作成します。

pi=# CREATE TABLE sensormedaldata (temperature double precision, humidity double precision, pressure double precision, illuminance double precision, rssi double precision, battery double precision, date timestamp with time zone);
CREATE TABLE

テーブルの一覧を出力するコマンド「\dt」を実行して、テーブルが作成されたことを確認します。

pi=# \dt
リレーションの一覧
スキーマ | 名前 | 型 | 所有者
----------+-----------------+----------+--------
public | sensormedaldata | テーブル | pi
(1 行)

問題なければ、「\q」を入力してpsqlコマンドを終了します。

pi=# \q
$

なお、psqlコマンドでは、「\h」と入力するとSQLのコマンド、「\?」と入力するとpsqlのコマンドのヘルプを出力してくれます。何か困ったら実行してみてください。

 

5. センサデータをRDBMSに記録する

作成したテーブルに、センサメダルのデータを記録します。まず、PythonからPostgreSQLへアクセスするため、「psycopg2」というPythonパッケージをインストールします。

$ sudo pip3 install psycopg2

前述の「bleloggerSensorMedal2.py」を参考に、センサメダルからデータを読み取ってPostgreSQLのテーブルへ記録するPythonスクリプトを作りました。下記をテキストエディタで入力(コピペ)し、「/home/pi/sm2pg.py」というファイル名で保存してください(「パスワード」には実際のパスワードを設定してください)。

#!/usr/bin/env python3
# based on: https://github.com/bokunimowakaru/SensorMedal2
from bluepy import btle
import psycopg2
import datetime

timeout = 5

def payval(val, num, bytes=1, sign=False):
    a = 0
    for i in range(0, bytes):
        a += (256 ** i) * int(val[(num - 2 + i) * 2 : (num - 1 + i) * 2], 16)
    if sign:
        if a >= 2 ** (bytes * 8 - 1):
            a -= 2 ** (bytes * 8)
    return a

def insertdb(t, h, p, i, r, b):
    try:
        conn = psycopg2.connect(host='localhost', dbname='pi', user='pi', password='パスワード')
    except Exception as e:
        print('Error: ', e)
        return
    sql = 'INSERT INTO sensormedaldata VALUES (%s,%s,%s,%s,%s,%s,%s)'
    try:
        with conn.cursor() as cur:
            cur.execute(sql, (t, h, p, i, r, b, 'NOW'))
        conn.commit()
    except Exception as e:
        print('Error: ', e)
    conn.close()
    
if __name__ == '__main__':
    print('Start: ', datetime.datetime.now())
    scanner = btle.Scanner()
    try:
        devices = scanner.scan(timeout)
    except Exception as e:
        print('Error: ', e)
        exit(2)

    for dev in devices:
        isRohmMedal = False
        for (adtype, desc, val) in dev.getScanData():
            if desc == 'Short Local Name' and val[0:10] == 'ROHMMedal2':
                isRohmMedal = True
            if isRohmMedal and desc == 'Manufacturer':
                temperature = -45 + 175 * payval(val, 4, 2) / 65536
                humidity = 100 * payval(val, 6, 2) / 65536
                pressure = payval(val, 22, 3) / 2048
                illuminance = payval(val, 25, 2) / 1.2
                rssi = dev.rssi
                battery = payval(val, 30)
                print('%f,%f,%f,%f,%f,%f' % (temperature, humidity, pressure, illuminance, rssi, battery))
                insertdb(temperature, humidity, pressure, illuminance, rssi, battery)
    print('End: ', datetime.datetime.now())

そして、「chmod」コマンドで実行権を付与します。

$ chmod +x ~/sm2pg.py

それでは実際に動かしてみましょう。
下記のように、「Start」と「End」が日時とともに出力され、それらの間にカンマ区切りのデータが出力されていれば、動作しています。念のため5秒待つようにしていますが、まれにデータを読み取れないことがあります。StartとEndしか出力されなかったときは、再度実行してみてください。

$ sudo ~/sm2pg.py
Start: 2021-03-21 10:07:05.526701
20.114975,75.114441,998.004395,126.666667,-69.000000,90.000000
End: 2021-03-21 10:07:10.654526
$

psqlコマンドで、テーブルに記録されていることを確認します。下記のように「-c」オプションとコマンドを指定して実行すると、対話形式ではなくコマンドを実行します。

$ psql -c 'SELECT * FROM sensormedaldata'
temperature | humidity | pressure | illuminance | rssi | battery | date
------------------+------------------+------------------+------------------+------+---------+-------------------------------
20.1149749755859 | 75.1144409179688 | 998.00439453125 | 126.666666666667 | -69 | 90 | 2021-03-21 10:07:10.63709+09
(1行)

Pythonスクリプト(sm2pg.py)を実行する度に、データが1行ずつテーブルへ追加されます。

 

6. センサデータを定期的に記録する

最後に、Unix系OSで定期的に処理を行うサービス「cron」を使って、センサメダルのデータを定期的に記録しましょう。

通常は「crontab」コマンドで設定や確認をおこないますが、管理者権限で実行する必要があるため、今回は「/etc/crontab」ファイルに直接設定します。
/etc/crontabでは、1行に1つの設定を記述します。形式は下記の通りです。

分 時 日 月 曜日 ユーザ コマンド...

最初の5つのフィールドで、実行したい日時を指定します。たとえば、「0 * * * *」と指定した場合、1時間毎に(毎時0分に)実行されます。「30 12 * * 0」と指定すると、毎週日曜日の12時半に実行されます。

「ユーザ」には、実行する際のユーザを指定します。「コマンド…」には、実行したいコマンドとその引数を指定します。今回は、5分おきにPythonスクリプトを実行しようと思います。/etc/crontabの末尾に下記の1行を追記します(管理者権限でテキストエディタを起動し、/etc/crontabを開いて下記を追記します)。

*/5 * * * root /home/pi/sm2pg.py >> /home/pi/log_sm2pg.txt 2>&1

追記したら、少し(5分以上)待って、テーブルにデータが記録されていることを確認します。何か問題がある場合は、スクリプトの出力を「/home/pi/log_sm2pg.txt」に追記して残すようにしていますので、このファイルを確認してください。

ただ、定期的に実行していると、「Error: Failed to execute management command ‘scanend’」というエラーが発生することがあります。bluepyのissueによると、「hciconfig hci0 down」と「hciconfig hci0 up」を実行すれば直るようです。そのため、上記の代わりに下記を/etc/crontabに設定すると、エラーが発生しても自動で復帰します。上記のhciconfigを実行しないと、ずっとエラーが出続けます。

*/5 * * * root /home/pi/sm2pg.py >> /home/pi/log_sm2pg.txt 2>&1 || (hciconfig hci0 down >> /home/pi/log_sm2pg.txt 2>&1 && hciconfig hci0 up >> /home/pi/log_sm2pg.txt 2>&1 && /home/pi/SensorMedal2/sm2pg.py >> /home/pi/log_sm2pg.txt 2>&1)

 

7. まとめ

以上、センサメダルのデータを定期的に読み取り、PostgreSQLに記録する方法を紹介しました。

easy-iot-with-raspberry-pi-and-sensor-03-03

 

なお、大事なデータは、「pg_dump」コマンドで定期的にバックアップしておくことをオススメします。下記に例を示します。

$ pg_dump -t sensormedaldata | gzip -9 > sensormedaldata-$(date +%Y%m%d%H%M).txt.gz

また、別のマシンのPostgreSQLに記録したり、PostgreSQLのレプリケーション機能を使って別のマシンに複製しておくと、さらに安心です。

次回は、記録したデータの可視化など、活用する方法を紹介したいと思います。お楽しみに!

 

 

今回の連載の流れ

第1回:Webでデバイスを操作してみよう
第2回:Webサービスでデバイスを操作する
第3回:センサの値をRDBMSに記録する(今回)
第4回:RDBMSの情報をWebで可視化する

アバター画像

LinuxやRTOSの移植・ドライバ開発、Unix系OSのサーバ構築・管理、自動運転(Autoware)関連の開発に関わった後、現在はなぜかテストエンジニアに。毎日栗の絵も描いています。

https://www.usupi.org/

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