今回のEvent Plusは、WIREDなどで記事を多数寄稿している西村真理子さんに、今年3月に開催された今一番ヒップなイベントSXSWについてレポートしてもらいます。スタートアップ、IoTをキーワードに、今一番何がホットなのか、テクノロジートレンドを中心に報告します!
SXSW(サウスバイサウスウェスト)はテクノロジー好きな筆者にとって最高にヒッピーなイベントである。
1986年スタート時は、音楽関係者が集まるイベントだったというオリジンが、そのようなヒッピーさをDNAに組み込んでいるのかもしれない。あきらかに、他のテクノロジーイベントと比較して一番ぶっ飛んでいるのは間違いない。
Google Xプロジェクトのアストロ・テラー基調講演や、NASAの宇宙事業についての展示がある一方で、マリファナビジネスやトランスヒューマニズム(死んだあとでもネットに繋がったヒューマロイドがあれば人は存在するような考え方)のディスカッションが行われている。
デザインやファッション、マーケティングについても語られたり、ソーシャルグッドをテーマとした分科会イベントがあったり、食の未来も考えつつPerfumeがライブを行うSXSWとはなんなのか?今年はどのようなディスカッションが行われていたのか?以下レポートを読んで少しでもSXSWが身近に感じられれば嬉しい。
SXSWとは
1986年に「ミュージック」イベントとしてスタートした当イベントは、1998年に来るべきインターネット時代を見据えた「インタラクティブ」が追加されたことにより、一気に世界中のインターネットビジネスの動向が気になる人々(つまり地球上のビジネスマンの多数)の注目を浴びることとなる。
開催場所は、米国テキサス州オースティン市。毎年10日間ほど行われるSXSWはマトリクスな構成要素がある。縦串/バーティカルな特徴としては「ミュージック」「フィルム」「インタラクティブ」の3ジャンルが提供されている。
横串/ホリゾンタルな特徴として「ネットワーキング」「セレブリティ基調講演」「アワード」「セッション」「トレードショー」「テキサスBBQ」があげられる。毎年アメリカのセレブリティの参加が話題になり、一昨年はPrince、昨年はLady GAGA、今年はSnoop Doggy Dogsが基調講演を行った。
SXSWはアワードも有名だ。TwitterやFoursquare、LEAPMOTIONなどが世界中に一気に広まったのもSXSWでアワード受賞した結果である。扱われるテーマはビジネスからエンターテインメント、宇宙までと幅広く、必ずや新しい発見があり、目的を持って参加するものには、必ず大きな収穫を与えてくれるイベントである。
SXSW2015 インタラクティブ ホットトピック10
毎年3月、テキサス オースティンの町中をあげて盛り上がるSXSWは10日間の会期のうち前半が「インタラクティブ」で後半が「ミュージック」となっている。DevicePlusの記事としてはテクノロジートレンドがわかる「インタラクティブ」部門にフォーカスしスタートアップチャレンジと、IoTプロダクトトレンドにフォーカスして紹介していこう。
スタートアップを応援するSXSW
先述のとおりTwitterが世界デビューを果たしたのはSXSW 2007にてアワードを受賞し、会場に集まった人々が、Twitterでたくさんつぶやいたことがキッカケとなっている。毎年、第二第三のTwitterを狙え!と多くのスタートアップが集まるのだが、そのような熱気ある企業を集めたSTART UP VILLAGEという一角が2012年から準備されている。
年を重ねるごとに参加企業が増え、今年は、昨年に比べて倍の参加者、エリア拡大を記録した。SXSWは、投資家やビジネスパートナーを探す大企業の参加も多いので、スタートアップにとっては最高のプレゼンテーションの機会となる。
もしもDevicePlusの読者の中でも世界デビューや、海外の投資家からも調達を考えている方がいるのであれば、SXSWに挑戦するのを検討されても良いかもしれない。方法としては、展示ブースに出展する、セッション枠を取得する(審査あり)、アワードに挑戦する(審査あり)などがあげられる。
筆者もSXSW 2014に展示ブース出展を経験したのだが、来場者はビジネスパートナーを探す世界各国の感度高い人々が集まるので、確かに一気に注目を浴びるチャンスが得られる。
今年は日本ブースがぶっ飛んでいた!注目度満載の展示エリア
今年、日本からは約30社が出展を果たしたのだが、IoT関連ハードウェアを展示する企業が多く、各国メディアやビジネスパートナーを探す企業からの注目度は非常に高かった。
DMM.make.Akibaは、約10社束ねてスノーボードデバイス、シューズ、ロボットなどを展示し、東大のSXSW支援プログラムTODAI TO TEXASチームは農業用デバイス、家庭内コミュニケーションロボット、超音波物体浮遊技術などを発表し見応え十分な展示ブースとなっていた。
展示ブースに出展しているのはスタートアップ企業だけではなく大企業のスタートアップチームも出展している。
今年はSONYのスタートアッププロジェクトの「MESH」というDIYツールキットチームが出展していたり、富士通総研が北里大学と組んで漢方を身近に活用してもらうための「KAMPO.ME」プロジェクトを発表していた。
読者の中で、大企業に勤めつつ次の一歩を見出せないという悩みを抱えている方がいれば、ぜひ社内プロジェクトでSXSW出展を目指してはどうだろうか。チームを組むことで、自身と組織の活性化が図れ新しい化学変化が起きるかもしれない。
一社単独で出展検討も良し、複数社で一緒に出展検討も良し。多くの人に評価してもらえるプロジェクトに関わっている人は、ぜひ出展を目指す勢いでいてもらいたい。
日本では、Facebookグループで出展検討社がディスカッションをしており、ガイダンスイベントを行っているので、気になる方は問い合わせて見るのが良いだろう。
固定概念を打ち砕く展示、セッション
日本以外のスタートアップチャレンジで、筆者が注目したのは、人体組織を作る3Dプリンター「BioBot」がスタートアップを表彰するアクセラレーターアワードで、MOST INNOVATIVE(とても革新的な)賞を受賞していたことと、3Dプリンターで作る車(STRATI)や、空飛ぶ車(AEROMOBILE)などコネクテッドカーや、セルフドライビングカーの先を行く自動車の未来が紹介されていたことである。
筆者が冒頭でSXSWが、ヒッピーなイベントであると述べたのも、人体組織3Dプリンターや空飛ぶ車の展示を見て、かなりぶっ飛んでいるな、と感じたからである。
アートイベントでそれらが展示されているのであれば、まだ納得できるがSXSWで紹介されている作品は、将来性ビジネスマネタイズも検討されており実現性を帯びている。
日本のカンファレンスでは、安全性や倫理性鑑みて、出展されない可能性もあるかもしれないプロダクトが堂々と展示され、表彰されているのを見ると自分の固定概念が崩壊する。イノベーティブなことを行うためには、固定概念がどれだけ邪魔なのかを知らせてくれるのもSXSWである。
宇宙開発をみんなの手に
米国では宇宙開発も民間に委託開始していることを背景に、NASAが積極的に関与しているのも興味深い。
SXSW来場者に宇宙ビジネスに関心を持ってもらうために、アポロ11号が月面着陸した際に拾ってきた月の石があったり、重量120kgの宇宙服の重さをリアルに感じることができたり、月面着陸の際の足跡を紹介したり、宇宙に対する憧れとワクワク感を一気に高めてくれる展示ブースとなっている。NASAブースの方々に話を聞くために「我々は宇宙を知っていただくこと、教育目的でSXSWに出展しています」と、答えて親切に取り組みを紹介してくれるのも印象的だ。宇宙ビジネスを民間とともに盛り上げていきたいという熱意が伝わる。
SXSW来場者が好みそうな形で、展示をしているのも興味深い。火星探査機Curiosityが撮影した火星面映像をOculus RiftでVR体験できたり、必要な工具は現地で作り出すしかない月面、火星面調査の際に3Dプリンターを活用している事例なども紹介していたり、最新テクノロジーは地球上だけではなく宇宙でも活用されていることを考えると興奮を覚える。
SXSWに行くと不可能が可能に感じる。宇宙は手の届くものであり、車は3Dプリンターで作れるものである。
既存の固定概念で勝手に頭の中で「宇宙ビジネスはJAXAやNASAメンバーにならなければ参画できない」と思い込んでいた自分の呪縛を解きほどいてくれる。
生活の延長上に存在するロボット
SXSWではやはりロボットはホットトピックだった。
トランスジェンダーの起業家マーチン・ロスブラット氏が行った基調講演「バイオテクノロジーの革新:超人間主義」では、人型ロボットに人間の行動データをアーカイブし、IoTとしてインターネットにつないでおけば生身の人間が死んだ後にも存在は残ると説いた。
先述の人体組織生成3Dプリンター「BioBot」も展示されているSXSWでのマーチン氏のセッションは人の生死とは?を考えさせられるセッションでもあった。
生活の延長上に存在するロボット
日本でも話題になった、オックスフォード大学オズボーン教授発表の「THE FUTURE OF EMPLOYMENT」では、今後ロボットやAIの台頭で消える可能性がある職業をいくつかあげていた。
生死の倫理観、宗教観に加え既存のライフスタイルが変わることに恐怖を感じ、テクノロジーの進化をネガティブに感じてしまうのは本能に従った保身行為なので人間として当たり前の反応だと思うが、テクノロジーの進化は止められない。このテクノロジーの進化をポジティブに受け止める思考回路も今後必要になるのではないか?とSXSWのセッションや展示で体感した。
マーチン氏のセッションとは別に「ペットロボット動物園」なる企画があったのも面白い。脳波で飛ばすドローンや、災害時に必要に応じて形を変更する3Dプリンタードローンも紹介されていた。「ペットロボット」というと日本人にはSONYのAIBOを連想するが、愛玩犬よりは狩猟犬としてのペットの意味合いが強く人間を助けるロボットが多く展示されていた。「ペット」に対する概念の違いだろうか?
SXSWに限ったことではないが、和製英語と現地英語ではニュアンスが違い、新しい発見があるのも海外カンファレンスや、グローバルな交流をする醍醐味のひとつと考える。
さてロボットに戻ろう、日本の展示ブースでは家族間のコミュニケーションを促進するユカイ工学のBOCCOも紹介されていた。上述の海外勢の考える役立つロボットに対して生活に溶け込むかわいいデザイン性のあるロボットとして非常にユニークな方向性を示していた。
海外の方もデザイン性を評価していただけに、ユカイ工学の青木氏は今年日本のグッドデザインの審査員も担当するそうだ。役に立つロボットの存在と生活に溶け込むグッドデザイン、良きUI/UXを提供するロボットにも注目が集まっている。
生活の延長上に存在するロボット
今回紹介したストーリーの中にはスタートアップや先進ロボットの話を中心にしたが、SXSWには大企業もブースやセッション、パーティー出展をしている。既存の垣根を越えてシームレスにつながることができるのがSXSWの良いところである。そして誰もが新しいチャレンジを紹介し、つながろうとしている。Google [X]プロジェクトのリーダーであるアストロ・テラーも基調講演で以下のように述べている。
「Google GlassもGoogleのセルフドライビングカーもラボの中だけに閉じた研究ではなく、世界中の人の目に手に触れさせたことにより多くの得るものができる。失敗を恐れずに突き進め、まずはチャレンジし、その評価を世間一般から求めよ。もしも自身のプロジェクトをより多くの人に評価してもらいたいとおもう野望があるのであればSXSWはそのチャレンジスピリットを受け入れてくれるだろう。チャレンジ精神を忘れずに突き進もう」。
SXSWのセッションや展示にチャレンジするのも最高に良い取り組みだが、その場に居て人々がどのような話題に食いつき、企業がどのような発表を行うのかを体感するだけでも自分自身のバージョンアップにつながると考える。来年3月のSXSWに向けて、自分がどのように関わるか?そんなことを少しでも意識してもらえれば、筆者として望外の喜びだ。