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現在、世界中で活躍しているロボット。あらゆる産業においてロボットを活用した新しい仕事の仕方が次々と登場しています。そんなロボットに使われている最新テクノロジーと、それを活用した新しい仕事の仕方について、今回はドローンや自動制御の車両(ローバー)開発の第一人者である、株式会社アトラックラボ代表取締役の伊豆智幸氏にインタビューをさせて頂きました。最新のロボットの活用事例から使われているテクノロジーまで、気になる部分を2回に渡ってお届けしていきたいと思います。
1. 世界中で注目される最新技術を搭載したドローンやローバー
──まず最初に、伊豆さんがドローンや自動制御の車両、ボートといったものに興味を持たれたキッカケを教えてください。
伊豆氏:私はもともとヒューレット・パッカードに勤めていたのですが、その後独立をして株式会社エンルートという会社を創業しました。このエンルートは、最初は自分の趣味であったラジコンのメーカーとしてスタートしたのですが、その後、2011年頃に世の中にドローンというものが出始めてきました。これは現在のような高性能なドローンではなく、IMU(慣性計測装置)が出現し、それを使って自作する人たちが作ったドローンです。そんな背景もあり、その頃からエンルートでも小型のドローンなどを販売していたのですが、ある時、これは産業用でも使えるのでは?と考え始めました。そんな時、東北大学のある先生のチームが小型車両、いわゆるローバーを作って浅間山の火山観測をおこなっていました。火山は危険なこともあり人が近づけませんので、ローバーが登って火山のガスを検知するなどしていました。しかし、頂上に近づけば近づくほど斜面が急になったり、火山灰が積もったりしていてローバーが登れないのです。そこでドローンでローバーを運んで行くのが良いのではないか?というところがドローンで産業のお仕事をするようになったキッカケです。
──ドローンで観測するのではなく、ローバーを運ぶ手段としてドローンを使ったわけですね。
伊豆氏:実際に浅間山に行って東北大学のローバーを我々の「ザイオン」と名付けたドローンで持ち上げて運搬をおこなったところ、非常に有益だということになり、ここからどんどんと産業用ドローンにシフトしていくことになりました。もともとがヒューレット・パッカードという産業系の会社にいましたし、産業用途は目的がハッキリとしていて、用途や仕様に応じてデザインを描き下ろせますので、産業用ドローンに非常に面白みを覚えました。そういった経緯もあってエンルートをラジコンメーカーからドローンメーカーに変えていきました。
──現在伊豆さんが代表を務めるアトラックラボでは、ドローンだけでなく、ボートや車両なども作られています。
伊豆氏:はい。ラジコンでも飛行機だけでなく、ヘリコプターもラジコンカーもラジコンボートもあるわけで、陸海空すべてに興味がありました。その中でひとつのキッカケとなったのが、創業したエンルートをスカパーJSATのグループ企業に売却した後、エンルートが農業用ドローンの開発がメインとなってしまったことがあります。個人的にはボートや車両系もやりたかったため、独立して現在のアトラックラボを立ち上げ、さまざまな自動制御の製品の開発をおこなうようになりました。基本的にはドローンを飛ばすテクノロジーは、車両やボートにも使えてしまいます。機体が自分でGPSを見て座標を把握して、ウェイポイントを経由して移動するというのは、ドローンでもボートでも車両でも大きくは変わりません。車両にドローンのコントローラを載せるだけでいろいろなことができるようになるのです。空を飛ぶドローンよりも、むしろ実用性という意味では先に車両が来るのではないか?と考え、自動制御の車両のテクノロジー開発に特に注力しています。
──現在注力されている自動制御の車両は、どのような特徴があるのでしょうか?
伊豆氏:ひとつは携帯電話でコントロールできることです。ドローン分野において、日本はなぜDJIのような中国メーカーに負けてしまっているかというと、国産の遠隔制御技術の中に画像を送る技術がなかったことが挙げられます。中国が長距離で鮮明な画像を送る技術を持っており、そこが勝負の分かれ目だったと思います。ドローンは最初は空撮がメインでしたので、そんな時に機体から映像を地上に送れないというのは致命的です。しかし、車両ですと地上局として携帯電話を搭載することが許されています。これによりリアルタイムに映像を送ったりすることができますし、通信機を造る資本力も不要ですので、車両というカテゴリではディスアドバンテージはないのかと考えています。
──アトラックラボはドローンや自動制御の車両などのメーカーということでよろしいのでしょうか?
伊豆氏:いえ、アトラックラボのコンセプトはメーカーではなく、技術を提供する会社としています。さまざまなメーカーさんに我々が持っている技術を提供するということをメインにやっております。私個人としては新しいことに挑戦している時が一番幸せですので、常に何か新しい技術を使って、製品化したいメーカーさんのバックアップをする位置づけでやっています。
2. 最新ロボットに活用されている技術とは?
──アトラックラボが持っている独自の技術とはどういったものでしょうか?
伊豆氏:3つあります。ひとつが技術のコアとなっている中のひとつがロボットです。これは陸海空すべてで対応可能です。二つ目が、通信に関しても当社のコアとなる技術となります。先ほど紹介したように携帯電話でいろいろコントロールしたり、映像を送ったりする技術です。そして3つ目がGIS(Geographic Information System)です。ロボットが動き回ったデータを見て実用化していきますので、地理情報システムといったデータベースに力を入れています。
──機体や車両の製造はおこなわないのでしょうか?
伊豆氏:メーカーではないのですが、ドローンや車両を造ることは非常に難易度が高いこともあり、当社でもドローンや車両の製作もおこないます。それをメーカーさんにOEM供給するようなことはしています。お客様の用途によってベースとなる機体をカスタマイズして納品する形がメインとなりますが、機体は造らず、アプリケーションだけ提供するケースもあります。
3. あらゆる産業に進出してきたロボットたち
──そんなドローンや自動制御の車両、ボートなどについて、最近ではどのような活用の仕方が増えてきているのでしょうか?
伊豆氏:現在、あらゆるところでそういったロボットたちが活躍し始めています。特にローバーについて言えば、例えば物を運んだり点検をしたりと、これまで人間が動かなくてはいけなかったことはローバーに置き換えることができるでしょう。例えば大きな倉庫やショッピングモールを建設した際に、カーペットを張る前にコンクリートのクラック(ひび割れ)がないかどうか土間の点検をおこないます。従来は人が歩いて回って、どの位置にどのくらいのクラックがあったかをノートにつけていたのですが、人間は自分で自分がいる位置の座標は分かりません。図面を見ておおよその位置が分かるだけです。しかし、ローバーのようなロボットは自己位置を常に把握しながら写真を撮って進みます。そうすると、ひとつのオルソ図の中にクラックの位置が記されていき、修復の指示書まですべて電子式に出来上がっていきます。これはドローンで上空から撮影して3次元マップを作るのと同じようなものです。ただし、ローバーのほうがドローンと比べてエネルギー効率は非常に良いので、夜中にローバーが撮影して朝までに点検が完了している、といったことも可能です。
──最近では農業分野でもロボットの活用が進んでいると聞いています。
伊豆氏:はい、その通りです。現在、当社で進めているのがいちごのビニールハウスの中を車両が自動で走行していちごを自動でカウントして、来週いくつくらい収穫できそうか予測をおこなうという仕組み作りです。ビニールハウス内は場所によってさまざまな育ち方をします。そこで車両がビニールハウス内を走り回って、いちごの数をカウントしつつ、CO2の量や温度、湿度といったデータを取得していくと、面でいろいろな情報が見えてくるようになります。例えばあるコーナーはいつも湿度が高いからファンを当てよう、といった具合に対策を取ることができます。最近ではこういったことを「農業の見える化」という言葉で表現されています。これまで農家の方が長年培ってきた勘でやっていたものが、若い世代の方には何をやっているのか分からないのです。それをローバーやAIを使って見えるようにすることに取り組んでいます。
──そういった取り組みの先には効率化や高品質化があるのでしょうか?
伊豆氏:前向きに考えるとそうですね。しかし、その手前にもっと根が深い問題として、これまで農家の方が、長年の勘で実態がよく分からないまま農業をおこなっていた、という点があります。最初に「農業×ロボット」と聞くと収穫ロボットのような作業系のロボットをイメージすると思います。しかし、例えば農作物の病気がいち早く分かったり、虫の発生をすぐに感知して、それに対抗する処置を素早くおこなっていくためにはデータが重要になります。ただ、そういったデータを取得するにしても、人を雇ってずっと歩き回りながら観測するのは現実的ではありません。でも、ローバーならそういったデータを効率的に取得することができます。現在、こういったいわゆる「スマート農業」と呼ばれるデータドリブンの農業が大きな流れとして来ています。そのデータをロボットで取れるようになったことが、ロボットの付加価値となってくるのです。
──ドローンやローバーはいわゆる「ビッグデータ」を取得するロボットという観点が強くなってきていますね。
伊豆氏:そうですね。例えば、これまではヘリコプターを飛ばして土石流の発生予測などを調査していたものが、現在ではドローンを飛ばしておこなうようになり、非常に多くのデータを上空から取得できるようになりました。同様に、衛星から圃場を撮影するよりは、ドローンを飛ばして低高度から撮影した方が、植生の状態を細部まで把握することができます。ロボットというのはスマートフォンと同じように新しいインフラで、現在はそのインフラを使った新しい仕事のやり方に変えていくという時代にあると考えています。
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前編はここまで。後編では、実際にドローンやローバーに使われている最新のテクノロジーについて、より深く紹介して頂く予定です。ご期待ください!