さらなる冗長性と信頼性を! 920MHz帯を活用した遠隔制御の新しい形【後編】

前編:さらなる冗長性と信頼性を! 920MHz帯を活用した遠隔制御の新しい形

 

目次

  1. 双葉電子工業「TM-18 RFモジュール」の特徴
  2. 突き詰めた周波数のシームレスな移行
  3. 遠隔制御技術の今後について
  4. まとめ

 

今回はラジコンやドローンの遠隔制御製品において世界的なシェアを誇る双葉電子工業の開発担当者に、遠隔制御の冗長性と信頼性のあり方、目指すべき方向性についてお話を伺っていく記事の後編です。

 

前編では920MHz帯の特徴やメリットなどを紹介しましたが、後編では双葉電子工業の920MHz帯製品の特徴や遠隔制御のトレンド、今後についてお話を伺いました。

今回取材に伺った双葉電子工業の920MHz帯「TM-18 RFモジュール」。モジュールタイプで既存の送信機に取り付けて使用する。

 

1. 双葉電子工業「TM-18 RFモジュール」の特徴

双葉電子工業では2022年に、920MHz帯を使った通信のバックアップの仕組みを追加できる「TM-18 RFモジュール」を発売しました。この製品は2.4GHz帯の周波数を使う従来の送信機に取り付けることで、簡単に920MHz帯の電波を遠隔制御に活用できるようになります。

 

製品のポイントとしては、あくまでも普段は2.4GHz帯の周波数で制御しているという点です。しかし、何かの拍子に2.4GHz帯の電波が遮断されると、コントロールは自動的に920MHz帯に切り替わり、何事もなかったかのように機体を制御します。その後、2.4GHz帯の通信が復活すれば再び920MHz帯から2.4GHz帯に自動で戻ります。

双葉電子工業株式会社ホビーラジコン事業センター営業部営業課課長の大村文彦氏。

 

この「TM-18 RFモジュール」について、双葉電子工業株式会社ホビーラジコン事業センター営業部営業課課長の大村文彦氏は「モジュールにしたのは、既存の送信機に取り付けて簡単にSub-GHzの周波数を使ってもらえる製品を目指したからです。電源も本体の送信機から供給し、別に電源を用意する必要もありません(一部機種除く)。受信機側も2.4GHz帯の受信機と920MHz帯の受信機を受信機切り替えユニットに挿し込むだけでお使い頂けます。これで遠隔制御について信頼性と冗長性を持たすことができます。できる限りシンプルに、わかりやすい製品を目指しました」とお話頂いた。

 

2. 突き詰めた周波数のシームレスな移行

ちなみに、この「わかりやすい」というのは、取り扱いや仕組みが「わかりやすい」ということであって、他の視点から見ると「わかりづらい」製品だとも言えます。それは周波数帯が2.4GHz帯から920MHz帯に切り替わったことは、ユーザーが使っている時にはわからなく、まるで実感がないためです。切り替わる瞬間のタイムラグや機体の挙動が変わる点などがなく、シームレスに周波数の移行を実現しています。つまりこの「TM-18 RFモジュール」のありがたみが、ユーザー的にはなかなか「わかりづらい」かもしれません。しかし、逆にこれはシームレスに周波数帯を変更する双葉電子工業の技術の賜物でもあります。

 

これについて、双葉電子工業株式会社ホビーラジコン事業センター生産・開発部技術開発課開発一係係長の保泉兆優氏は次のように話します。

 

「ユーザーの方々は操縦中に、送信機の出している周波数が2.4GHz帯から920MHz帯に切り替わったのはわかりません。この周波数の切り替えについては非常に多くの試験をおこないました。最初はサーボの動きが突っかかるなど、切り替わりのタイミングがわかってしまっていました。当社のテストフライヤーは世界でも有数のトップフライヤーばかりですので、わずかな挙動でも感じ取ってしまいます。これはソフトウェア側のデータ処理の問題になってくるのですが、これを一つひとつ潰していき、現在のようにシームレスに変更できるレベルまで突き詰めていきました」

双葉電子工業株式会社ホビーラジコン事業センター生産・開発部技術開発課開発一係係長の保泉兆優氏。

 

今回の取材ではこの周波数帯のシームレスな変更を見える化すべく、実験を披露してくれました。18個並んだサーボを2.4GHz帯で動かしている時に(2チャンネルはON、OFFだけのチャンネルのため、可動は16個)2.4GHz帯の受信機を引き抜きます。すると電波が遮断されたわけですから、普通であればサーボは動きを止めるはずです。しかし「TM-18 RFモジュール」を整備しているため、920MHz帯の電波が引き続きサーボの動きを制御することで、サーボは一度も動きを止めず可動を続けるのです。再び2.4GHz帯の受信機を挿すと2.4GHz帯の通信が復活します。実験の模様はぜひ動画をご覧頂きたいと思いますが、まったく動きが止まることなく、スムーズに通信できている様子がよくわかると思います。

 

 

3. 遠隔制御技術の今後について

今回、920MHz帯を使った、遠隔制御の環境を整えることができる製品を発売した双葉電子工業では、今後どのような方向性で遠隔制御に関する製品の開発を考えているのでしょうか?

 

双葉電子工業ホビーラジコン事業センター生産・開発部主管技師の田中昌廣氏は、ポイントは「さらなる信頼性と冗長性」だと話します。

 

「今回はモジュールタイプで製品化しましたが、次は一つの送信機の中に920MHz帯も入れたビルトイン形式での製品を考えています。一つの送信機で2.4GHz帯と920Mhz帯を同時に使えるデュアルバンドの送信機です。モジュールタイプと違って見た目もスッキリしますし、あらかじめSub-GHzの周波数が準備されているのは、信頼性と冗長性の意味から大きな進化だと思います」

双葉電子工業ホビーラジコン事業センター生産・開発部主管技師の田中昌廣氏。

 

双葉電子工業では従来よりラジコン飛行機やラジコンヘリ、そしてドローンという空を飛ぶ無人航空機の制御について製品を開発してきました。地上を走行するラジコンカーとは異なり、万が一墜落となると、さまざまな被害が考えられるだけに無人航空機の機体を制御するシステムには一段と高い信頼性が求められます。さらにそこに実機の航空機などでも重要視されている冗長性という要素を追加することで、信頼性がさらに高まることになります。

 

また、双葉電子工業では既存の2.4GHz帯通信についても、さらに信頼性の高い通信方式を開発していくとのこと。920MHz帯というバックアップがあるから、それに頼るのではなく、あくまで制御のメインを司る2.4GHz帯についても新しい通信方式の開発を進めていくことで、信頼性と冗長性の両面から遠隔制御技術をさらに高いところへ持っていくことを目指しているそうです。

 

4. まとめ

今回は前後編2回にわけて、遠隔制御の冗長性と信頼性向上を目指した双葉電子工業の取り組みと、遠隔制御のトレンドについて紹介してきました。さまざまなシーンで使われている遠隔制御技術ですが、今後はますます安心安全に使えることが求められるでしょう。

双葉電子工業ではホビーラジコンだけでなく産業用ドローンやドローンの制御についても開発している。この分野においても、遠隔制御技術の発展はなくてはならないものとなっている。

 

そして、ラジコンやドローン、ロボットの遠隔制御についても、単にマシンを制御するだけでなく、送信機からワイヤレスでマシンのさまざまな装置を操作したり、産業用ドローンのように上空で多くの任務が求められるとチャンネル数の増加が必要になったりするなど、多機能化が進んでいくことでしょう。

 

今後の遠隔制御技術の発展にぜひご注目頂きたいと思います。

 

 

今回の連載の流れ

さらなる冗長性と信頼性を! 920MHz帯を活用した遠隔制御の新しい形【前編】
さらなる冗長性と信頼性を! 920MHz帯を活用した遠隔制御の新しい形【後編】(今回)

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