できること

『魅せる』ロボットの作り方【前編】

はじめに

こんにちは、河島と申します。ロボットをつくる人です。

この記事をご覧になっている皆さんはものづくりをすることが好きだったり、ものづくりをする人に興味があったりする方が多いのではないかと思います。私は学生時代にロボコンに出場していたときに回路やプログラムを担当していたことからロボットや電子工作といった領域を主軸としてものづくりをすることが好きで、個人で作品を作ってSNSや動画サイトで公開する活動もたまにしております。

しかし、いくら好きといっても「Hardware is hard」といった言葉があるようにハードウェア作品をゼロから作り出すのはなかなか大変なことです。自分だけのオリジナル作品を何か作りたいと思っていても、なかなかスタートできないってこと、ありますよね。よくわかります。

今回は私の作品のひとつである全自動二度寝支援装置『アトゴフンダケ』を例に、

  • 前編:作品のアイデアを生み出すフェーズ
  • 後編:作品を実際に開発するフェーズ

の2本立てで作品をゼロから実際にカタチにするまでの流れをご紹介いたします。
本記事では、前編の内容について紹介します。

 

全自動二度寝支援装置『アトゴフンダケ』

みなさん、朝起きられるように、寝る前にいつも目覚まし時計をセットしますよね。でもいざ朝になると「もう一度寝たい…あと5分だけ…」とそのままスヤァ( ˘ω˘) してしまうことってありますよね。
そんな二度寝をしたいという願いを叶えてくれるのが、この全自動二度寝支援装置『アトゴフンダケ』です。

目覚まし時計の音をセンサで検知して、自動でアラームを止めてくれる画期的な発明品です。
これでベッドから出ることなく快適に二度寝をすることができます!幸せ!

・・・とこんな具合の作品です。「目覚まし時計の意味ねーやん!」というツッコミ、お待ちしております。

こういった系統の作品制作を始めたのは、『論文まもるくん』という作品(キーボードの保存のショートカットキーCtrl+Sを物理的に押してデータ自動保存するロボット)をコンテストに向けて開発して動画をアップロードしたら意図せずバズってしまったことがきっかけでした。

図1

論文まもるくん

それ以来、ロボットや電子工作の技術を使って人間の心情にはたらきかける、いわゆる『エモいロボット』を作ることに興味を持ち始め、こんな方向でロボット作品を作っていきたいな~と思うようになったわけです。
ここからは、全自動二度寝支援装置『アトゴフンダケ』のアイデアが生み出されるまでの思考プロセスをご紹介します。

 

「背水の陣」で制作に挑む

早速おっかない見出しが現れましたが、できればこのまま読み進めていただけると嬉しいです。
ものづくりが好きな友人と話しているときによくあるのが
図2

といった、「いいアイデアがない」「実際に作るのは大変だから着手しにくい」という悩み。

ものづくりが趣味の人によくある「結局何も作らなかった」という結末。私も頻繁にあるどころではなく常にこれなので何も偉そうなことは言えないのですが、それなりに気合が入った作品を作るには重い腰を上げなければなりません。ここで「背水の陣」です。川を背に陣を敷き、後に引けない状態をつくります。

具体的に、私の場合は【どんなクオリティになろうと、作品をコンテストに出品する】と決めて周りの人に「新しい作品を作って応募します!」と宣言することで背水の陣を敷きました。これによって作品をちゃんと形にして見せられるようにしなければならないことと、その期限(納期)が決まります。コンテストだと審査員に認められれば賞をいただけることもあるので、制作のモチベーションにもつながって一石二鳥(?)ですね。

とはいえ、この考え方は誰にでも有効というわけではないと思います。仲が良い友人と一緒に取り組むことで楽しみながらモチベーションを保つとか、納期を決めずに毎日1時間取り組むとか、自分に合った取り組み方を見つけるのも面白いかもしれません。

 

作品の「ヒント」を考える

「さあ、今から1時間作品のアイデアを考えま~す。一生懸命考えて面白い作品を作ってくださいね~。どうぞ!!」なんて言われてもいきなり限られた時間でアイデアを固めるのは難しいですよね。ざっくりでもいいので方向性やテーマは先に決めておきたいところです。後々これが自分自身でアイデアを考える上でのヒントとなります。
私の場合は「前回(論文まもるくん)は偶然バズったけど、今回は意図(計画)的にバズらせてみたい」という願望があったので、「論文まもるくんがなぜバズったのか」を分析しながら作品のヒントへつなげていくことにしました。

心理学や感性学の知識があればもうちょっと良い言い回しがあるのかもしれませんが、「なぜバズったのか」を私が考えた結果としては、

① 誰もが感じたことがある「日常のあるある」が共感に結びついた
② 技術の無駄遣い(誰が見ても無駄だとわかる)
③ ペットのような「かわいい」と感じる動き

の3つがキーポイントだったのではないかという考えに至りました。
②と③については①が決まった上で考える内容なので、今回は①の「日常のあるある」をヒントにアイデアを考えていくことにしました。

 

起きてから寝るまで全部アイデア出し

背水の陣だけにとどまらず、ここでも不穏なワードが出てきましたが、大丈夫です、安心してください。

「起きてから寝るまで」というのはまさに「日常」のことです。ご飯を食べたり、ベッドで寝たり起きたり、学校や会社に移動したり、といった普通に生活している場面にこそたくさんのアイデアの源が眠っています。
私が日常からアイデアを見つけ出す際に大事にしているは以下の3点です。

  • 自分や周りの人が行っている何気ない行動や状況を言語化する
  • その行動や状況に対しての感情を言語化する
  • 言語化した内容をすぐにメモする

これができれば、普通に暮らしているだけでアイデアを蓄積することができます。
「言語化」というポイントには特に気を使っていて、普段何気なく見たり聞いたりしているものが実は面白いことだったり素敵なことだったりすることは少なくありません。見て感じたことを忘れる前に書き留めておくことはとても大事なことです。

『アトゴフンダケ』のアイデアを思いついたのは、まさに目覚まし時計が寝室に鳴り響いて目を覚ました瞬間でした。ピピピピと鳴り響くアラーム音。でも布団から出たくない。眠気に負けそうになりながらも必死にスマホを手に取り、メモ帳アプリで『目覚まし時計が鳴る 寝たい 目覚ましが鳴ったら即座に止めるマシン』とすかさず記録しました。ここでメモしなかったらこのアイデアは絶対に忘却の彼方に消え去っていたでしょう。
スマホにメモして余裕ができたタイミングで、メモの内容をマインドマップのアプリ(PC用)に情報を蓄積し、思いついたことをどんどん書いていきます。

図3

マインドマップのアプリに実際に書いた内容。もちろん採用されていない項目もある。

後日そのメモから「人類みんな二度寝したいはずなのに自らアラームをセットするとかわけわかんないな」「目覚まし時計の存在意義とは」「あと5分だけ…アトゴフンダケ…ダケ…キノコじゃん」などと意味不明な連想を繰り返していったら、名前は全自動二度寝支援装置『アトゴフンダケ』、見た目は「キノコ」という大雑把なアイデアが固まってきました。

『目覚ましが鳴ったら即座に止めるマシン』というメモ以外にもたくさんのメモを蓄積していて合計120個くらいには達していたのですが、やはりアイデアの面白さの感じ方にもバラつきはあるもので、「昨日はめっちゃ面白いと感じていたのに、今見ると微妙だよな…」と思うことは多々あります。120個のアイデアの中から最終的に全自動二度寝支援装置を作ることに決めたのは「このアイデア好き!作りたい!」というシンプルな情熱です。趣味のものづくりはできるだけ楽しいほうがいいですからね。最後はパッションです。

 

作品を実際に開発するフェーズは後編で

前編の記事1本丸々使って、作品の進捗は

  • 名前は全自動二度寝支援装置『アトゴフンダケ』
  • 目覚まし時計が鳴ったら即座に止める
  • 見た目は「キノコ」

というコンセプトが決まったのみですが、作品の軸をしっかり決めることは重要です。何かあった時に立ち戻るのもまたコンセプトであります。いきなり手を動かす積極性ももちろん大事ですが、「作品の軸」を大事にしていきましょう。
後編では、これらのコンセプトをベースとして、実際に機械・回路・プログラムを作るプロセスをご紹介します。お楽しみに!

 

 

今回の連載の流れ

前編:『魅せる』ロボットの作り方(今回)
後編:『魅せる』ロボットの作り方

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1991年、福岡県北九州市生まれ。九州工業大学大学院を卒業後、電子工作キットの開発、ロボット競技会の運営、デジタルアート作品の制作などを手掛けてきた。現在はデジタルものづくりコミュニティ『薬院Make部』を運営し、福岡県福岡市内でものづくり活動にも取り組んでいる。ロボット競技会・作品コンテストに多数参加。代表作は『論文まもるくん』『アトゴフンダケ』など。

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