第1回:はじめてのトランジスタ
第2回:はじめてのモータドライバ
第3回:はじめての抵抗器
第4回:論理回路の基礎
エレクトロニクスに関する基礎知識やさまざまな豆知識を紹介する本シリーズ。今さらに人に聞けない、でも自信を持って理解しているかは怪しい、そんな方にぜひ参考にして頂くべく、基本的な内容から応用につながる部分まで幅広く紹介していきたいと思います。
第5回では「テスターの使い方」について解説。テスターは電気回路の電圧や電流などを測定するために用いる計測機器ですが、ここではテスターのデジタル式・アナログ式の違いや基本的な機能・使い方について解説します。これらの考え方がわかると、電気回路を組み立ててうまく動作しないときのチェックで役に立ちます。
目次
1.テスターとは
「テスター」は電気回路の電圧・電流・抵抗などの値を測定するために用いる計測器で、「正しく電圧が出力されているだろうか」「どれくらいの大きさの電流が流れているのか」「この抵抗器は何オームだろう」といった状態を確認したいときに使います。
中学校の理科の実験などで使われる電圧計・電流計は、「電圧計として使う機器」と「電流計として使う機器」が別々のものとして準備されていた学校も多かったと思いますが、テスターはダイヤル等を切り替えることで、1台で電圧・電流・抵抗など複数の物理量を計測することができます。
この機器は「テスター」と呼ばれることが多いですがこれは通称のようなもので、「回路計(Circuit testers)」「マルチメーター(Multimeter)」といった名称で呼ばれることもあります。なお、中学校技術科の教科書では「回路計」と表記されています。
2.テスターの種類
テスターには大きく分けて2種類があり、「アナログテスター」と「デジタルテスター」があります。これらの2種は測定値の表示方法によって分けられます。
アナログテスター
アナログテスター(アナログ式回路計)は、測定値を目盛板と指針が指し示す位置によって見ることができる方式のテスターです。学校教材として半田付けによる組み立てをするキットもあるため、工業系の学校で組み立てた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
計測をおこなうときは、はじめにロータリースイッチを適した単位・測定レンジに切り替えた上で、赤と黒のテストピンを測定箇所に接触させます。
測定レンジを設定する際、どれくらいの大きさが適切かわからない場合は、はじめに大きな値から始めて指針が示す値を確認しながら、測定レンジを1段ずつ下げて目盛板から読み取りやすい状態にしましょう。
電圧・電流を測定するときに指針が猛スピードで振れた場合は、テスターが破損する恐れがあるためすぐにテスト棒を回路から離しましょう。このときは測定レンジを誤っている場合があります。
0位置調整器は測定していない状態で指針が0Vの位置に来るように調整するもので、0Ω調整器は抵抗測定の際にテストピンを接触させて指針が0Ωになるように合わせるためのものです。
デジタルテスター
デジタルテスター(デジタル式回路計)は、測定値が液晶ディスプレイなどに数字で表示される方式のテスターです。デジタルテスターは製品によって操作方法が異なる場合がありますが、アナログテスターと同じように単位・測定レンジをロータリースイッチで設定するものや、ロータリースイッチとセレクトボタンによって単位や機能を設定するものもあります。ロータリースイッチの1ヶ所に複数の機能がマーキングされている部分は、セレクトボタンによって機能を切り替えることができます。データホールドスイッチは、測定した値を固定表示するためのスイッチとなります。
デジタルテスターの多くは電圧・電流・抵抗の測定だけでなく、ダイオードのチェック、トランジスタの増幅率測定、熱電対による温度測定など、多様な機能が搭載されています。
デジタルとアナログ、どちらにするか
機能の多さや使いやすさから考えると、デジタルテスターを選択したほうがいいでしょう。筆者もデジタルテスターをよく使っており、オススメです。個人的にはポケットに入れやすいサイズの機種よりは、直流10Aが測定できるくらいのずっしりした機種のほうが好きです。
こう考えると、アナログテスターの出番がないようにも見えますが、アナログテスターの「指針の動きから測定値の変化を見ることができる」という特徴はとても大事なポイントです。例えば、マイコンでLEDやモータを制御しているときはON/OFFによって消費電流が変動するので、この機器の消費電流(単位:アンペア)を測定すると、電流値がゆるやかに変化しているのか急激に変化しているのかを指針の動きから観察することができます。
「モータの動きと指針の動きはこんな関係性があるのだな」とか「急激に指針が振り切れているときは、もしかしたら回路やテスターに過負荷がかかっている状態なのかもしれない」とか、指針の動きを目で見て体感することで、電圧・電流の大きさを感覚的に理解できるようになります。こういった能力は、電子工作をはじめ電子機器開発やロボット開発では大事な感覚ですので、ぜひアナログテスターにも慣れておくことをオススメします。
3.直流電圧の測定
ここからはテスターの基本的な使い方について説明します。なお、本記事の例ではデジタルテスターを用います。
まずは最も使用頻度の多い、直流電圧(単位:[V] ボルト)の測定です。直流電圧の測定は、バッテリやACアダプタの電源電圧・極性の確認、LEDやセンサの状態確認など、あらゆる場面でおこなわれます。
直流電圧は、以下の手順で測定をおこないます。
①ロータリースイッチを「直流電圧測定(DCVなど)」に合わせます。
②電圧を測定する対象(電源または負荷)のプラス極側にテスターのテスト棒(赤色)を、マイナス極側にテスト棒(黒色)を接触させます。なお、測定対象とテスターは並列接続の関係になります。
③表示部の数値を読み取ります。
直流電圧の測定で重要なポイントは「測定対象とテスターは並列接続の関係になる」ということです。電気回路では並列に接続している負荷に加わる電圧はすべて同じになるため、電圧測定の際はテスターも並列に接続することで正しい値を測定することができます。
後述する直流電流の測定では“直列接続”となるので、電圧の測定と電流の測定では接続方法が異なります。接続方法を間違えると、機器が動作しなかったり、最悪の場合は機器やテスターが故障したりすることもありますのでご注意ください。
4.直流電流の測定
直流電流の測定は、電源から供給されている電流や、モータ・LEDなどの部品に流れる電流を測定する際に用いられ、機器の消費電流(単位:[A] アンペア)の数値を確認したいときによく利用します。
直流電流は、以下の手順で測定をおこないます。
①ロータリースイッチを「直流電流測定(DCA・DCmA・DCμAなどのいずれか適したレンジ)」に合わせます。
②電流を測定したい負荷に対してテスターを直列接続します。テスターのテスト棒(赤色)はプラス極側に、テスト棒(黒色)はマイナス極側に接続します。このとき、テスターは負荷に対して並列に接続しないよう注意しましょう。
③表示部の数値を読み取ります。
直流電流の測定で重要なポイントは「測定対象とテスターは直列接続の関係になる」ということです。電気回路では直列に接続している負荷に流れる電流はすべて同じになるため、電流測定の際はテスターを直列に接続することで正しい値を測定することができます。
注意点としては、ロータリースイッチを電流測定に設定した状態で誤って“電圧測定時のように負荷に対して並列に接続する”ことは必ず避けてください。電流測定時のテスターは入力抵抗が小さいため、負荷に対して並列に接続すると、回路の負荷に流れるべき電流がテスター側に流入して奪われてしまうため正しい値が測定できない上に誤動作や故障の原因になります。電流測定時にはこの点は特に注意しましょう。
5.抵抗値の測定
テスターでは抵抗器などの抵抗値(単位:[Ω] オーム)を測定することもできます。抵抗値の測定は、抵抗器の値がわからないとき(カラーコードが読み取りにくいときなど)、複数の抵抗を直並列に接続して合成抵抗をつくったとき、抵抗値の精度を検証したいときなどに行います。
抵抗値は、以下の手順で測定をおこないます。
①ロータリースイッチを「抵抗値測定(Ω・OHMのいずれか)」に合わせます。
②テスターのテスト棒2本(赤色・黒色)をそれぞれ、測定対象の抵抗器の両端の足に接触させます。
③表示部の数値を読み取ります。
抵抗値の測定は接続方法が簡単であるため、電圧・電流の測定のときほど注意しなければならない点はありませんが、表示部の数値を読み取るときに桁数を間違えないように注意深く確認しましょう。ちなみに、20kΩのレンジで計測すると下の画像のように19.72[kΩ]と表示されました。値の小さなレンジを選ぶことで、より高い分解能で抵抗値を計測することができます。抵抗値の大きさや、求められる精度を考慮しながら適切にレンジ設定を考えていきましょう。
また、測定そのものとは関係のない話になりますが、抵抗器を部品棚やパーツケースの中に収納していると、異なる値の抵抗器が混在してしまうことがあります。筆者は個人的な習慣ですが「一度袋から取り出した抵抗器は袋に戻さない(未使用品と混ぜない)」を徹底しております。見分けがつきにくい部品の管理方法は工夫してみると良いかもしれません。
6.導通・短絡(ショート)の確認
電子部品をユニバーサル基板やプリント基板に半田付けしたときやケーブルによって配線したときは、導通させたい部分が正しく接続されているか、導通させたくない部分が短絡(ショート)していないかを確認する場面が多々あります。
①ロータリースイッチを「導通チェック(BZ)」に合わせます。測定対象の回路は電源をOFFにしてください。
②テスターのテスト棒2本(赤色・黒色)をそれぞれ、導通を確認したい2点に接触させます。
③テスターのブザー音が鳴ったら、接触させた2点間が導通していることを意味します。ブザーが鳴らないときは、2点間が導通していない(短絡・ショートしていない)可能性があります。
導通チェックをするときは、測定対象にテスト棒を接触させる前にテスト棒同士を直接接触させてブザー音が鳴るか否かを確認しましょう。ブザー音が鳴らないときは、テスト棒のケーブルがテスター本体に正しく接続されていない可能性があります。
なお、上記③でブザー音が鳴っていないときは、すぐに「短絡していないな」などのように判断せず、用心深く測定を行いましょう。測定箇所の半田付けされた部分の表面が酸化しているときや、テスト棒の接触が十分でないときはブザー音が鳴らないこともあるため、注意が必要です。
このテスターの場合、導通チェック時に液晶に表示されるのはテスト棒間の抵抗値(単位[Ω])です。下の画像では270[Ω]の抵抗器を接続しています。なお、この抵抗器を接続しているとき、ブザー音は鳴っていません。
これも測定とは違う話になりますが、意図しない短絡(ショート)が無いことを確認し終わっていない電子回路は、できるだけ安定化電源など電流抑制機能を持つ電源を使って動作実験を行うことを推奨します。安全な回路の動作確認を習慣づけて、楽しく電子工作に取り組みましょう!
7.その他の機能
デジタルテスターでは、以上の機能の他にも「トランジスタの電流増幅率測定」や「ダイオード検査」ができる機種もあります。
トランジスタの電流増幅率測定
トランジスタはLEDやモータを駆動するときなど、小信号によって大電流を必要とする部品を制御する際に用いられます。
トランジスタの測定。
測定の際にはトランジスタの型(NPN型・PNP型)と端子の差込口(E・C・B)を間違えないように注意しましょう。
ダイオード検査
ダイオードはアノード(A)とカソード(K)の2つの端子を持つ電子部品で、アノードからカソードへ向かう方向にのみ電流を流し、その逆向きには電流を流さない特性があります。
テスターによるダイオード検査では、テスト棒を接触させることでダイオードの順方向電圧を測定することができます。また、それにともなってダイオードの極性(アノード・カソード)の判別も可能です。一般的にダイオードのカソード側には帯状のマークがついていますが、これが見にくいときはテスターのダイオード検査の機能を活用しましょう。
静電容量測定機能
テスターによってはコンデンサなどの静電容量(単位は[F]ファラド)を測定することができます。テスターで静電容量を測定する前に、コンデンサ内に溜まっている電荷を完全に放電する必要があるため、必ず適切な抵抗でコンデンサの両端子を接続して完全に放電させましょう。また、測定時はテスターのテスト棒とコンデンサの端子を接触させるときに指でつまむと人体が電気的に影響してしまうため、みの虫クリップなどで挟んで指は触れない状態で測定しましょう。
8.まとめ
今回はデジタルテスターとアナログテスターの違いや、テスターの接続方法など、テスターの使い方について紹介してきました。
テスターは電子工作に取り組む際に必ずと言っていいほど必要な測定機器です。ご自身で作った回路をテスターで測定しながら観察することで、電子回路のしくみについても理解を深めることができるので、ぜひ回路のいろんな場所をテスターで計測してみましょう!
今回の連載の流れ
第1回:はじめてのトランジスタ
第2回:はじめてのモータドライバ
第3回:はじめての抵抗器
第4回:論理回路の基礎
第5回:テスターの使い方(今回)
※ROHM「エレクトロニクス豆知識」はこちらから!