急激に発展したドローン。映像の世界だけでなく、さまざまな用途での活用に広がりを見せています。誰でも簡単に飛ばして撮影ができるからこそ、プロとして仕事でドローンを扱うなら「何ができるか」が重要となるようです。
ドローンを活用しての撮影や、ドローンに関わるさまざまな事業を展開する株式会社FLIGHTSで、ドローンパイロットとして活躍する堀内亜弥さん(空撮事業部/DJIインストラクター)に、プロとしてドローンを操作する難しさ、操作テクニックだけでなく、映像のクオリティも求められる難しさなどを、いろいろ伺ってみました。
トラブルが起こることを常に考える
──ドローンを活用してどのような仕事をされているのでしょう?
2017年まではテレビや映画での撮影が多かったのですが、2018年に入ってからは不動産の広告撮影など、企業から依頼される仕事が多くなっています。DJIの空撮産業用ドローン Matrice 600にSONYのカメラ・α7を乗せて都心部の建物を撮影するといったようなことです。また、橋梁点検の実証実験への協力を依頼されたこともありました。
http://droneagent.jp/panorama/
──依頼される内容が変わってきている、ということでしょうか?
そうです。今はドローンも安価で手に入りますし、誰にでも飛ばせます。テレビ局や映像制作会社では「外部に頼まなくても自分たちでできる」に変わってきている、とは言えると思います。
──ドローンはもはや特別なものではない、ということですね。
テレビの仕事では旅番組で地方をロケすることが多いのですが、弊社では撮影する場所の近くでドローンの操縦ができる写真家と提携して任せることが多くなっています。地方の場合は移動の時間と工数がかかりますし、天候によっては中止になることもありますからね。私はそのような案件よりむしろ、大きな機材を使わないとできないような撮影や都心部での難度の高い撮影を担当することが多くなっています。
──テレビや映画の撮影と企業から依頼される撮影とではどちらが楽しい、というのはありますか?
どちらも好きと言えば好きです。テレビや映画だと単純に自分が撮った映像を友達などに見てもらえる、という楽しさはあります。しかし、産業系の仕事でも「こんな使い方があるんだ」と新しい発見ができます。基本、どちらも撮影している時は楽しいものです。
──産業系の仕事の難しさはありますか?
産業系に関わらずですが、都心部でドローンを飛ばしていると電場障害が発生する危険があります。また、悪意ある人が電場障害を発生させる機械でジャミングしてくる可能性もなくはありません。するとドローンはコントロールが効かなくなり墜落してしまう。一番、怖いのはそれで何かを壊してしまう、誰かを傷つけてしまうことです。そのため、アナログ的な方法ですが、ドローンに糸を付けておいて遠くまで飛んで行ってしまわないようにする、というようなことをやっています。
自分の手でメンテナンスをする
──ドローンを飛ばすときは機体の整備もされるのですか?
はい。整備も大切な仕事です。Matrice 600は機体の下にジンバルを付けてからカメラをセットする必要があるので、自分でジンバルの調整が必要になります。
──カメラを安定させる装置=ジンバルは自分で調整されるわけですね。
ジンバルが崩れていては狙い通りの映像は撮れません。そのため、手で調整して、最終的にジンバルを調整するアプリで水平になっているか、変に傾いていないかを数値を見てバランスを取ります。それは現場でやらないといけません。なぜなら、環境によって変わってくるからです。
──他に調整する部分はありますか?
DJIのドローンはブラックボックス化されていて、ほとんど手を出せるところはなく、軽い調整しかできません。なので、モーターに異常があったときにモーターを交換することくらいしかできないですね。
──モーターも交換するのですか?
映像をチェックすると小刻みに動いている、ということがありました。調べてみるとモーターの振動がカメラに伝わっていたのが原因だと判明しました。なので、モーターの音が異常だなと思ったときは交換するようにしています。購入したばかりの新品でも「モーター音が悪いな」と思う機体があれば交換します。モーターのブレがカメラに伝わらないよう自分達で調整して機体をベストな状態にする必要があります。
──モーターは分解してメンテナンスするのですか?
分解まではしませんが、モーターのコイルを変えたり、ハンダ付けはします。仕事でドローンを飛ばしていて気になるところがあってメーカーに修理を依頼しても、通常の状態で帰ってくるだけです。自分達にフィットした状態に維持するには自分たちでやれるところはやらないといけない、といったところです。
──ブラックボックス化しているので、調整できる場所は限られているけれど、それでも調整しないとプロとしてはやっていけない、ということですね。
弊社は機体を点検できる資格を持っています。通常だとモーターやパーツを単体で購入することはできないのですが、些細なパーツでも映像に差が出るため、自分達で購入して交換しています。
──機体の整備も大切だけど、パイロットの腕もよくないと良い映像は撮れませんよね。
私はパイロットの腕が重要とはあまり思ったことはありませんが、調整にあわせて飛ばすポイントもあるので、パイロットは慣れていないと上手く操縦できない、ということはあるかもしれません。
──慣れていることが大事ですか?
ドローンはもちろん、カメラの知識もあって、現場にも慣れている必要があります。なので、なかなか外部には依頼できません。
経験とノウハウが役に立つ
──パイロットと言うと操縦するだけに思ってしまいますが、カメラの知識も必要なわけですね。
シャッターは地上からリモートで切ることができますが、カメラの設定は飛ばす前にしておかなければいけません。天候にあわせてF値やシャッタースピード、ISOを決めておかなければいけないので、その知識も必要になります。それは現場にあわせて毎回変わってきます。
──ドローンならではの撮影の苦労はありますか?
パノラマで撮るときは太陽の動きがあるので、オートで撮っていると一枚、一枚、色が違ってしまう、ということが起こります。最終的にステッチという一枚の画像にするとき、色味がつながらないチグハグな写真になってしまいます。そういう失敗を何度か繰り返して「これがベストだね」というノウハウを探す必要はあります。
──ドローンは動くのでなおさらですね。
そうです。また、エラーが起こったとき、どう対処するかに気を配らないといけないところも地上で撮影するのとは少し違うところだと思います。例えば、建物や鉄筋のビルがあるとドローンとに接続エラーが出ることがあります。するとカメラと通信ができなくなって、次に操縦の通信もできなくなります。そのことで人がいるところに墜落しては困りますし、仕事ですから撮影できなかったでは済まされません。そんなエラーが起こったときはどのように対処するかは経験の蓄積だけが頼りです。自分なりのノウハウが大切になります。
──堀内さんにはそのような経験が豊富だから仕事がたくさん、来るのですね。
そうかもしれません。
編集の技術も大事になる
──ドローンで撮影するのには、操縦のセンスと撮影のセンスの両方が必要ですよね。
私には撮影のセンスはないかもしれません。「この人がドローンで撮った作品は好き」というのはありますが、どのような写真や映像がベストなのか自分ではまだよくわかっていません。
──ドローンの操縦センスと撮影のセンスは、どちらのセンスを磨いて行く必要がありますか?
今は暗中模索しながら両方にトライしている状態です。映像を追求するとセンスを磨く必要はありますが、産業系だとセンスよりも求められる映像を完ぺきに撮ることが求められます。自分はどちらに向かうべきなのかは悩むところではありますね。
──ドローンは今後もいろんな人が参入すると思います。そこに対する危機感はありますか?
いろんな人が出てきているなとは思いますが、そこであせることはありませんね。自分ができることをやっていればいいと思っているので、あまり周りを気にしない感じです。
──まだまだ勉強中?
ドローンやカメラのメカニックとしてのクオリティが上がっているので、それを活かしたクオリティの高い成果物を納品しないといけませんし、撮影した後の編集技術も大切。素材は2割。それを活かす編集技術は8割だと思うので、編集部分を外部に依頼するのではなく、勉強する必要もあります。編集のこともわかっていると撮り方も変わってくると思うので。総てが勉強の途中です。
自分なりのノウハウが求められる新しい分野
プロフェッショナルとしてドローンを扱うのなら、どのようなトラブル時でも的確に対応することが重要となります。
準備のためのメンテナンスや、緊急回避などのノウハウは、新しい仕事の分野なため自分たちで磨いて行くことが大切なようです。
だからこそ、経験と知識の裏付けがしっかりしている人に仕事は集中し、より高度な撮影が求められるようです。
Vol.2ではドローンの新しいトレンドを聞いてみました。
今回の連載の流れ
第1回:ドローンを活用して末来を創る ドローンパイロット 堀内亜弥さんインタビューVol.1(今回)
第2回:ドローンを活用して末来を創る ドローンパイロット 堀内亜弥さんインタビューVol.2