世界よ、これが日本を制した親子ロボットだ!
さまざまな個性をひとつにまとめた抜群のチームワークで、「NHK大学ロボコン2014」の台風の目となり、みごと日本一の栄冠に輝いた名古屋工業大学の「ロボコン工房」。チームメンバーが父となり、心血を注いで生み出し、愛情をかけて育て上げた親子ロボット「MRO & mro jr」には、メンバーの熱い情熱が随所にちりばめられている。外部に頼ることなく、すべてをチーム内で自作したという親子ロボットの完成度は驚くほど高い。ここではその秘密をつまびらかに公開していく。
■公園で母親が子供を遊ばせる。そのスピードを競う!
ロボットの秘密の前に、今年の大学ロボコンの競技課題について軽くおさらいしておこう。親ロボット(手動)と子供ロボット(自動)の2台で協力しながら、4つの遊具(シーソー、ポールウォーク、ブランコ、ジャングルジム)で遊ぶタイムを競う。対戦形式で先にジャングルジムを登り切ってゴールしたほうが勝利者となる。ほのぼのとしたテーマだが、遊具ごとにロボットに求められる動作が異なるため、すべてをクリアするためには高いスキルが要求される。ちなみに予選、決勝を通してパーフェクトにこの課題をクリアしているのは、「MRO & mro jr」だけである。それでは、この親子ロボットの強さの秘密に迫ってみよう。
2本の腕と軽快なフットワークで上手に育児。
目下の悩みは大会に向けてのダイエット…。
親ロボット「MRO」
めっちゃ、ロボコン、おもしろいのイニシャルをとって「MRO」と名付けられた親ロボット。タテマエ上はそうだが、この名前にはもっと奥深い、チームメンバーの心の支えとなる、ある人物が由来になっているという。それはさておき、「MRO」が並み居る強敵親ロボットたちを出し抜いた最大の理由は、高所用と低所用で使い分けた2本の腕、そして4輪のステアリングが生み出す軽快かつ高精度な機動力だった。
【強さのヒミツ1】 子供をしっかり遊ばせる、前後についた2本の腕
シーソーからブランコまでを高所用の腕が、ブランコから子供を引き上げ、それ以降の遊具は低所用の腕が担当する。1本の腕で遊具の高低差に悩んだ親ロボットが多かったなかで、2本の腕の使い分けで高低差をものともしなかったことは、今回のロボコンの勝因のひとつといえる。「足回りにステアリングを使っているため全体的に車高が高くなり、腕が1本だとジャングルジムのときの低所、ブランコのときの高所に対応できません。そこで2本の腕を使い分けました」と柘植さんは想いを語る。
【強さのヒミツ2】 オムニ派を沈黙させた、4輪ステアのすぐれた機動力
親ロボットの強さは2本の腕だけではない。むしろ、ロボコン工房のメンバーがもっとも自信を持っているのが4輪ステアリングホイールの足回りだ。近年の大学ロボコンではオムニホイール(車輪の円周方向にフリーで回転する樽型の小輪が複数ついた車輪)が主流だが、そこにあえてシンプルなステアリングで挑んだ。きっかけは2012年のABUロボコン、タイのロボットが使っていた4輪ステアの足回りを見て感銘を受けたこと。利点は自在な機動力に加えて滑りにくいこと(自動化にも向いている)。今回の大会ではオムニホイールのロボットが滑って減点されるシーンもあったなかで、4輪ステアは抜群の安定性を見せた。
「4輪を独自に動かすために制御のメンバーががんばってくれた。時代はオムニホイールという概念を変えられたことがうれしい。来年の大学ロボコンで4輪ステアは流行る」と久野さんは誇らしげだ。
【強さのヒミツ3】 髙いモーターがなくても勝てる。モータードライバにかけた情熱
回路部分でのポイントはモータードライバにあるという。親ロボットのモーターは通常12Vの電圧を24Vに上げて動かしているが、これは定格の2倍まで電圧を上げていいという部内でのルールにそったものだ。ただ電圧を上げると電流値も上昇するため、ノイズの量が増えて制御が困難になるという。柘植さんが自作した回路のモータードライブは、さまざまなノイズに負けることなく正確な制御が可能になっている。ちなみに多くの大学が駆動部に1つ数万円もするマクソンモーターをふんだんに使うなかで、ロボコン工房の親ロボットには1つしかマクソンモーターが使用されていない。その他は安価なマブチのRS-550モーターを使っている。たとえるならファストファッションの主婦が、ブランドをちりばめたマダムに勝つようなものか。「制御性が全然違うんですけど、出力的にはどちらも同じ。きちんと制御さえできれば問題ない。マクソンじゃないと決勝に行けないなんてことは絶対にありません」と柘植さんは声を大にして言いたいとか。
【世界大会に向けて】 親ロボットはダイエットに挑戦中!
親ロボットの軽量化も世界で戦うためには重要な課題だ。現在、ロボコン工房では世界大会に向けて親ロボットの新たなフレームを製作している。一部にカーボン繊維を導入するなどして、現在33kgの体重からマイナス1kgのダイエットを目指す。「減らしたぶん、拡張性を高くしたい。いざというときにいろいろ対応できるように。腕の部分にスイッチを押す機構をつけるとか、なにかを試したいときのために、重量の余裕を持たせておきたいのです」とは久野さんの弁。
自慢の怪力で公園遊びはお手のもの。
過保護ともいえる静電気対策は愛の賜物か。
子供ロボット「mro jr」
「MRO」の子供なのでついた名前が「mro jr」。そのまんまである。今回の大学ロボコン2014の子供ロボットのなかで6.8kgの体重はかなり重いほうだが、そのぶん圧倒的なパワーを持っているのが特長だ。エアシリンダーで稼働するトグル機構のアーム、ラジコン飛行機用のモーターを2基搭載したファンなどで遊具を次々にクリアしていくさまは、公園のガキ大将を彷彿とさせた。一方で徹底的な静電気対策も施されており、それが安定した稼働を支えていた。じつは親の愛を受けて育ったわんぱく坊や(お嬢ちゃん?)なのである。
【強さのヒミツ1】 つかんだら絶対に離さない。強力トグル機構のアーム
子供ロボットには上下に2つずつ、計4つトグル機構のアームがついている。エアシリンダーにより対角線上にある2つのアームが交互に開閉し、ポールウォークの段違いの板をつかんで反転しながら器用にわたっていく。ちなみにこのアームの手首にあたる部分が下に折れることで、ブランコにつかまる機構にもなっている。「ここら辺のおさまりの良さもがんばったところです。他大学がポールウォークで失敗するなかで、いちどつかんだら絶対に開くことのないトグル機構のアームで完ぺきにやりとげられました。ミスがなくて逆に怖かったくらいです」と柘植さんは大会を振り返る。
【強さのヒミツ2】 大人がふらつく風力。2基の強力なファン
今回の大学ロボコンの遊具のひとつ、ブランコに対して各大学のとった方法は大きく2つ。親ロボットがブランコを押してこがせるか、子供ロボットが自力でこぐかである。ロボコン工房は後者。自力でブランコをこぐために子供ロボットにはラジコン飛行機用のモーターを利用した2基のファンを搭載している。7kg近くある子供ロボットを軽々とスイングさせるファンの威力は想像以上で、大の大人がまっすぐに立っていられないほど。この強力な2基のファンのおかげで、子供ロボットはブランコでも高い成功率をみせた。柘植さんは「さすがに30アンペア程度の回路のみでは制御できないので、ラジコン用のアンプ2つ載せ、ラジコン用の信号をぶち込んで動かしました。このへんは既製品なので、安定して動きます」と説明する。
【強さのヒミツ3】 パチパチ厳禁。徹底した静電気対策による安定動作
子供ロボットのメイン基板では合計4つのモーターを制御している。ここで柘植さんが注力したのは、強力なパワーを持つ親ロボットから出る静電気から、いかに子供ロボットを守るか。「親子が連携する際に静電気が子供に流れ込むとマイコンがダメージを受け、ピンが死にます。その対策として保護ダイオードを全部のピンに入れて、ようやく安定して動くようになりました。その他にもチップバリスタ、ノイズ除去フィルタ、バイパスするコンデンサなど、安定動作するための工夫はいろいろしています」と柘植さんが語るように、静電気対策に注いだなみならぬ情熱が今回の勝因のひとつになっている。
【世界大会に向けて】 子供ロボットは微妙なダイエットに成功!
新たに電池を積み替えることで重さ6.8㎏の子供ロボットは、すでに200gのダイエットに成功している。しかしこれ以上の軽量化の余地はないという。4つの遊具をクリアするためにある、4つの機構を搭載した子供ロボットのおさまりの良さはすでに完成の域に達しているからだ。夏の世界大会に向けて、準備の時間は限られている。しかしチーム一丸となって親子ロボットを囲み、活発に議論するロボコン工房のメンバーたちには笑顔が絶えない。デバイスプラスでは引き続き、世界で戦うロボコン工房の奮闘をレポートしていく。お楽しみに!