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「NHK学生ロボコン2022」〜物理戦、技術戦、心理戦すべて制した最強チームは?全試合レポート!【後編】

2022年6月12日、東京都の大田区総合体育館でNHK学生ロボコン2022が開催された。ABUアジア・太平洋ロボコンはオンラインが確定しているが、国内大会の有観客開催は3年ぶりだ。

今回は予選リーグの模様をお届けした前編に続き、後編として決勝トーナメントの模様をお届けしたい。

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「NHK学生ロボコン2022」〜学ロボ「リスタート」に16校が集合!全試合レポート!【前編】

 

15分間の休憩を終え、予選を勝ち抜いた6チームによる決勝トーナメントの組み合わせは以下のようになった。ここからはどんどん試合間隔が短くなっていく、かなりタフな展開だ。

 

準々決勝・第1試合:金沢工業大学(赤) vs 東京農工大学(青)

金沢工業大はR2の展開機構でBOHを守る仕組み。これまでの最高得点は65点だ。一方の農工大はパーフェクトラゴリを達成済みだ。

ラウンド1開始。金沢工業大の展開機構が大人気だ。ブレイクショットは初球3秒でブレイク。金沢工業大のシーカーR2と農工大のヒッターの動作スピードは「同じくらい」だが、農工大がヒッターボールの受け渡しに手間取る間に、金沢工業大が順調にラゴリディスクを重ねている。かなり落ち着いた、いい動きだ。農工大はラウンド終了間際、どうにかヒッターボールを投げたがBOHには当たらない。金沢工業大がパーフェクトラゴリを狙うべく、残りの3枚のディスクを一気に積み上げに行ったが惜しくも2枚がバランスを崩し落下、やはり片側からしか見えない中でのパイル操縦は相当難しいようだ。結果、ラゴリディスクを3枚パイルしてタイムアップ。得点:55

続くラウンド2。農工大も初球3秒でブレイク、両チームのR2が動き出す。スピードは互角だ。農工大のR2はディスクを吸い込むように機体内に取り込んで積み上げていくユニークな作りになっており、BOHはくるくると回っているが…農工大が3枚目のディスクを機体に取り込こもうとしたまさにその時、金沢工業大がBOHを鮮やかに撃ち抜いた!農工大は準々決勝で残念ながら敗退となった。BOHヒット:35秒、得点:25

結果:金沢工業大学(55-25)東京農工大学

 

農工大は試合後コメントで「R1の不調や、練習時と本番でのラゴリ表面の違いに苦しんだ」と語った。今回は通信環境や、フィールド面やラゴリ表面の「すべり」など、練習時との環境の変化に追われたコメントが印象的だ。

 

準々決勝・第2試合:新潟大学(赤) vs 豊橋技術科学大学(青)

新潟大はラゴリディスク格納式のシーカーR2で一気に高得点を狙う。対する豊橋技術科学大は吸い込み機構でどんな角度のラゴリディスクでもピックアップできるのが特徴だ。

ラウンド1開始前のセッティング。豊橋技術科学大は吸引機構の最終確認に余念がない。新潟大のブレイクショットは初球、3秒で成功!ラゴリパイルに入るが、自機のBOHを落としてしまってシーカーR2が強制リトライ。その間に豊橋技術科学大がヒッターボールを構えて虎視眈々とBOHを狙う。

豊橋技術科学大のBOH狙いの圧力から焦りが出たか、新潟大はリトライが連続する。ラゴリパイル未達成でタイムアップとなった。得点:25

続くラウンド2。豊橋技術科学大のブレイクショットは3球目で成功し、この時点で同点となった。新潟大のヒッターボール回収も順調だが、それ以上に豊橋技術科学大のラゴリパイルが速い。多腕を駆使して確実にパイルを進めていくが、4枚目のディスクをパイルしたところで新潟大の投球がBOHにヒットするも審議、動画確認へ。結果、BOHが成功と判断、試合終了となった。今大会はBOHヒットの判定が動画審査になることも多い。得点:65

結果:新潟大学(25-65)豊橋技術科学大学

 

新潟大は「連携が不十分だったが、練習したBOHが成功して良かった。来年に繋げていきたい」と悔しそうなコメント。敗退はしたものの見事なBOHシュートを見せてくれた。お疲れさまでした!

 

準決勝・第1試合:金沢工業大学(赤) vs 東京大学(青)  

金沢工業大のお留守番機構と東大の追尾機能の対決だ!準決勝からは、試合前に各チームの応援団からのコメントが入る。金沢工業大学「うちには神が3人います、このまま決勝まで勝ち進んでほしいです」、東京大学「これまで積み重ねてきた練習を信じて相手よりも速く、同じことを達成すれば勝てると思うので頑張って欲しい」。いよいよ準決勝の開始だ。

ラウンド1の金沢工業大のブレイクショットは5秒で成功。ラゴリパイル開始とヒッターボールのセッティング完了はほぼ同時、金沢工業大が着実にラゴリディスクを積み重ねているが東大はヒッターボールをすぐには打たない。できるだけ金沢工業大のお留守番機構を引きつけ確実にBOHを狙っているのか、すごいプレッシャーだ。…と、会場が息をのむ中で、金沢工業大のシーカーR2がラゴリディスクを落とす。それと同時に東大のヒッターR1がリトライを宣言した。なんと、動かない不具合がバレないようにリトライコールをせずに金沢工業大にプレッシャーをかけていたようだ。これはまさかの心理戦。ラウンド開始から69秒、4枚のパイルを終えたところで試合終了。残る1枚のラゴリディスクがラゴリエリアの外に出たため、パイル終了と見なされた。得点:65

注目のラウンド2。東大のブレイクショットは3秒で成功…しかしシーカーR2が動かず、リトライ。その隙に金沢工業大がヒッターボールをしっかり回収して東大を狙う準備を整えていく。リトライ後、東大はシーカーR2を金沢工業大のヒッターR1のギリギリ目の前まで寄せて、かえって打ちにくくしている。金沢工業大のR1は背が低く射出地点が低いため、マシンが目の前に来るとボールの軌道が確保できずBOHの高さまで届かない。戦略の妙だ…。90秒かけてディスクを4枚パイルし同点に追いつき試合終了。得点:65

結果:金沢工業大学(65-65)東京大学

 

獲得点数とBOHヒット条件が揃ったため、ラゴリパイルを終了していた金沢工業大が勝利となった。東大は「戦略ミスをした。最後のラゴリをエリア外に出していれば勝てた」「自動機のなかに入れた手動機構で操作ミスがあり、リトライになってしまった」とのコメント。細かなルールの谷間で、とても悔しい思いをしたのが垣間見える。高度な駆け引きを見せてもらった。

 

準決勝・第2試合:豊橋技術科学大学(赤) vs 東京工科大学(青)

続く準決勝第2試合の前に応援団からコメントが入る。豊橋技術科学大学「一緒に作り上げたロボットはわれわれの誇りです。それぞれの義務を果たすことを期待しています」、東京工科大学「練習通り落ち着いてやれば優勝できると思います」。熱いエールを受けていよいよ第2試合がスタート!

ラウンド1の豊橋技術科学大のブレイクショットは3秒で成功。ただしディスクの1枚がスタックしているため、ブレイク成立は4枚で20点だ。すぐにパイルに入るもシーカーR2が自機のBOHを落としてしまい、強制リトライ。その間に東京工科大がヒッターボールを装填して確実にBOHを狙う。69秒で東京工科大のスナイパーが一撃でBOHを打ち抜いた!しかし、その直前に豊橋技術科学大が1枚のパイルを成功させていた。両者ともにすごい集中力だ。得点:30

運命のラウンド2。東京工科大のブレイクショットは4秒でブレイクし25点獲得。すぐにシーカーR2がラゴリパイルに入るも…豊橋技術科学大がヒッターボールを3つ打ち出し、BOHにヒットした。パッと見は「3球同時発射」で、これはルール違反とされているが、よく見ると微妙に発射のタイミングがズレている。これは「3連射」…なのか?会場がどよめき、実況席からも「これはスーパー審議タイム」との指摘が入る。動画判定の結果BOHの成立が確定し、豊橋技術科学大が勝利をつかんだ。確定の瞬間、東京工科大のチームメンバーは悔しさからかうずくまってしまった。BOHヒット:20秒、得点:25

結果:豊橋技術科学大学(30-25)東京工科大学

 

東京工科大の試合後コメントでは、途中で声に詰まるシーンも。「あと少し足らなかった。ここまでこれたことはみんなに感謝したい」と悔しさがにじむコメントが胸に響く。観客席の大きな拍手がこれまで健闘してきた東京工科大を見送る。豊橋技術科学大のヒッターボールの連射機能はここまで隠されていた。テストランでも見せることはなかった。ただし、審判に対しては全ての機能を見せているはずなので「連射」としてはあらかじめ認められていることになる。

 

決勝:金沢工業大学(赤) vs 豊橋技術科学大学(青)

15分間の休憩の後にいよいよ決勝戦が開始。インドで開催予定のABUアジア・太平洋ロボコンに出場できるのは、優勝チーム1校のみだ。

豊橋技術科学大が東京工科大の展開機構BOHを3連射で撃ち落とした衝撃がまだ会場に残っている。この空気の中で、同じく展開機構を持つ金沢工業大は連射対策できるのか?試合前の意気込み、そして各応援団のエールにも気合が入る。

 

金沢工業大:「あと1つで優勝できます、十数年ぶりの優勝を目指します」

金沢工業大応援団:「あと1つで優勝なので、ABUに行ってほしい、神3人に頑張ってほしい」

 

豊橋技術科学大:「落として、勝ちます(断言)」

豊橋技術科学大応援団:「もう決勝なので、皆さんのやりたいことにはどうこう言いません。勝ってください!」

決勝戦ラウンド1。金沢工業大のブレイクショットは5秒で成功。豊橋技術科学大のヒッターの足が速い!しかし、金沢工業大のシーカーR2も速い。ヒッターボールが当たって展開した子機が転倒、BOHも落ちるが…ビデオ判定の結果「自機からの落下」と判断され、強制リトライからの試合再開となった。BOHヒットの判定が本当に難しい。ゲーム再開後、ラウンド開始から70秒の時点で、豊橋技術科学大が連射!BOHがヒット…試合前の宣言通り本当に当てた…!得点:25

最終ラウンドとなるラウンド2。豊橋技術科学大はラゴリブレイクを3秒で成功させる。そしてシーカーR2を…出さない!会場の空気が一瞬戸惑う中で、いち早く豊橋技術科学大の作戦に気付いた東大チームから拍手が起きた。「試合終了時点で獲得点数が同じ場合、BOHのヒットを成功させたチームが勝ち」になる。豊橋技術科学大はラゴリブレイクで金沢工業大と同点に並んだため、BOHさえ守れればパイルしなくても勝利が確定する。金沢工業大も豊橋技術科学大のR2を狙うがヒットは出せず、豊橋技術科学大が90秒を乗り切った!得点:25

 

優勝:豊橋技術科学大学

優勝が確定した瞬間に会場では金テープが発射される(現地で見るのは本当に久しぶりだ!)。豊橋技術科学大学が見事優勝を果たし、ABUアジア・太平洋ロボコンへの出場権を獲得した。

 

最後に試合後のコメントをお届けしたい。

 

豊橋技術科学大:「もうやめたい、と思うこともあった。『落として勝つ』を実行でき、結果がついてきたことがとてもうれしい」

金沢工業大:「あと一歩届かずとても悔しい、展開機の強みを十分に活かしきることができなかった」

 

実況席の東大OB、河村さんのコメント「豊橋技術科学大はロボコンがうまい。いかに勝つかを狡猾に考え、それを実行している」が印象的だった。

 

すべての試合が終わり、表彰式がおこなわれる。優勝校、準優勝校、特別賞それぞれが発表され、順に表彰を受けていくが、マスク越しでも十分に見える喜びや悔しさ、達成感が熱い。

 

【最終結果】

  • 優勝:豊橋技術科学大学(とよはし☆ロボコンズ)
  • 準優勝:金沢工業大学(翡翠)
  • アイデア賞:千葉大学(CRS)
  • 技術賞:東京工科大学(プロジェクト R)
  • デザイン賞:京都工芸繊維大学(Forte Fibre)
  • 特別賞・パナソニック コネクト株式会社賞:九州大学(KURT)
  • 特別賞・トヨタ自動車株式会社賞:新潟大学(科学技術研究部)
  • 特別賞・マブチモーター株式会社賞:筑波大学(つくばろぼっとサークル)
  • 特別賞・株式会社ナガセ賞:東京大学(RoboTech)
  • 特別賞・ローム株式会社賞:東京農工大学(R.U.R)
  • 特別賞・NOK株式会社賞:信州大学(ALPS)
  • 特別賞・東京エレクトロン株式会社賞:工学院大学(KRP)

 

まとめ

本年は直接対決の中でも「ロボット同士がボールをぶつけあう」というかなり挑戦的なルールが設定された。試合ルールや勝敗判定も複雑になり、例年の「自動機vs手動機」「ロボットvsロボット」「人vsロボット」に加えて、「人vs人」のバトルが際立った。

 

特に心理戦やルールの読み合いが高度で、この細かなルールの中でいかに勝つかを各チームが全力で考えて抜いてきたことがよく分かる。ロボットも多種多様で試合展開も多彩、思いもよらない展開や勝敗に驚かされた。

 

閉会式の中で小島瑠璃子さんが「ルールブックの難しさについて思うところもあるでしょう」と、悔しい思いをした開発者にエールを送った。「それも含めてロボットだし、ここにいる開発者はみんなかっこいい」。

ロボコンはルール発表の瞬間から始まっている。ABUアジア・太平洋ロボコンは8月21日にオンライン開催が決まっているが、その際またルールの見直しはあるだろう。今回の「豊橋の強さ」が、ABUアジア・太平洋ロボコンに合わせてどのようにアップデートされてくるのか、今後も注目だ。

コロナ禍の中で継承の難しくなった技術もあれば、新しく生まれたチーム文化もあるだろう。制限の多い中でもロボット開発を諦めない開発者全てに敬意を表したい。本当にお疲れさまでした!

NHK学生ロボコン2018
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