Raspberry Pi(ラズパイ)の強みと特徴をArduino、M5Stackと比べてみた
「電子工作を始めてみようかな…でも、Arduino?とかRaspberry Pi? 他にも、M5Stackっていうのもある…?」と、“どのマイコンをどのように選んで、どう始めればいいのか問題”で悩んでいる初心者の方も多いのではないでしょうか。
一方、電子工作に慣れている方がそういった悩みを初心者の方に聞かれても、「テキトーに好きなのから始めたらいいよ!」「その作品のアイデアなら…どれ使っても”技術的には可能”だね」としか返答ができないこともありがちです。初心者の方が電子工作で次のステップに進むためにはどのデバイスを使っていくと良いのか、判断が難しいところです。
今回の連載では、電子工作の分野にさまざまなボードがある中で「こんなときはRaspberry Pi(ラズパイ)を、こんな時はArduinoを、こんな時はM5Stackを使おう」とその使い分けを3つのマイコンで比較しながら紹介していきたいと思います。
第1回は「Raspberry Pi(ラズパイ)」について、ArduinoやM5stackと比較して見ていきながら、使用する際のオススメできる場面も含め、Raspberry Piの強みや特徴についてご紹介していきたいと思います。
目次
- Raspberry Pi(ラズパイ)とは
- こんなときはRaspberry Piから始めよう
- Raspberry Piの強みや特徴
- ArduinoやM5Stackのほうがいい”かもしれない”ケース
- 複数種類のボードを搭載する
- まとめ
1.Raspberry Pi(ラズパイ)とは?
Raspberry Pi(ラズベリーパイ、以下ラズパイ)は、英国のRaspberry Pi Foundation(ラズベリーパイ財団)が提供する「シングルボードコンピュータ」と呼ばれるパソコンのボードの一種で、教育用に使われることを想定して製造されています。代表的なものだと下の写真のような外観をしており、電子部品や端子が備えられています。
【ラズパイについての詳細はこちら】
歴史から使い方まで解説!電子工作の必須アイテムRaspberry Pi(ラズパイ)とは!?
2.こんなときはRaspberry Pi(ラズパイ)から始めよう
「LEDを光らせるなら、ArduinoでもM5Stackでもできるし…」と、どのボードから入門すればいいか迷ってしまう方は、ご自身がどんなものを作りたいのか、どんな分野の技術に取り組みたいのかを考えながら、以下、ラズパイの特徴の情報をたよりに検討してみるとよいでしょう。
① 映像を表示するデバイスの開発がしたい ② USB接続で使える機器を導入したい ③ パソコン上で動作するプログラムを扱いたい ④ 大部分はパソコン上のアプリケーションで動くが、簡単な入出力もしたい |
①映像を表示するデバイスの開発がしたい
液晶ディスプレイやプロジェクターなどの映像を表示する機器に、情報を表示するデバイスを開発したいときは、ラズパイがとても便利です。
例えば、デジタルサイネージに数値や状態を表示したいときに、ラズパイを使って得たセンサの値や、インターネットへの接続によって取得した情報など、何らかの方法で表示したい情報を得ることができれば、比較的かんたんに実装することができ、画面上に表示することが可能です。
下記の記事では、ラズパイと液晶画面が一体となったデバイス「reTerminal」を使った室内環境測定器の制作例が紹介されています。
画面付きラズパイ「reTerminal」でつくる快適環境確認デバイス!
②USB接続で使える機器を導入したい
人の動きを検出したいときにウェブカメラや測域センサ(LiDAR等)を用いたり、音声マイクによる入力やスピーカへの出力をしたいときにオーディオインターフェイスを接続することはありますが、これらの製品の多くはパソコンで使用することを想定されており、USB接続によって動作するものが多いです。
このようなUSB接続の機器をロボットやシステムに導入したいときは、ラズパイを利用する人も多いです。ただし、複雑な画像処理を行ったり、人工知能(AI)のしくみを活用する場合は処理が重くなることもあるため、プログラムの内容によってはより高性能なノートパソコンやミニPCを使うことも検討してよいでしょう。
③パソコン上で動作するプログラムを扱いたい
Web上からデータを自動取得させて分析・保存することや、ROS(Robot Operating System)等のソフトウェアプラットフォームを活用したいときにはラズパイがよく使われます。これらの処理はノートパソコンやミニPCなどでもできますが、「普段使いのパソコンを壊したくない」というときに安価に入手できるラズパイを使うことが多いようです。
ラズパイではmicroSDカードにOSのインストールや設定情報の保存をしますが、これらのデータをイメージファイル化してバックアップすることで、OS上の重要なファイルが破損したときや、microSDカードが物理的に破損してしまったときなどにも即座に修復することができます。
特に、Linuxコマンドを使ったファイル操作の練習をしているときにうっかり全データを削除してしまうと大変なことになりますが、修復が簡単にできるよう準備しておくとパソコンを初めて使うお子さんも気兼ねなく遊ぶことができます。
④大部分がパソコン上のアプリケーションで動くが、簡単な入出力もしたい
「センサが反応したらスマホに通知を送りたい」「Web上から特定の情報を取得したらLEDを点灯させたい」といった、大部分の機能はパソコン上で動くアプリケーションで動作するが、“ちょっと電子工作の要素を混ぜたい”といったシステムをつくる際にはラズパイがとても便利です。
具体的な例として、下記の記事ではラズパイでNode-REDとIFTTTを活用した、スマートフォンにメッセージを送るIoTデバイスの作成例が紹介されています。
ラズパイ(Raspberry Pi)とNode-REDで初めてのIoT!GPIOピンを世界につなげよう!
3.Raspberry Piの強みや特徴
ゼロから始めやすいLinuxパソコン
多くの方は普段使いのパソコンではWindows・MacなどのOSを使っていると思いますが、前章で述べたような作品やシステムを作りたいときに、専用のパソコンを用意することは金銭的にも負担が大きく大変です。コストを抑えるために自作パソコンを組み立ててLinux系のOSをインストールするという手段もありますが、初心者にとっては少しハードルが高く、着手しづらい印象があります。
それに比べてラズパイは価格が安いことはもちろん、電源入力の端子やUSB・LAN端子がひとつのボードにすべて搭載されているため、初心者でもどこに何を繋げばいいのかがとてもわかりやすくなっています。
初心者向けの書籍が多い
ラズパイは“組み立てキット”としてではなく“単品のコンピュータボード”として販売されていることが多いため、ラズパイそのものの使い方は別途調べる必要があります。
入門してすぐの頃は「何を買えばスタートできるのだろう?」「ここの工程、どうやって進めるのがいいのだろう?」と何もわからないことだらけなことが多くあります。スムーズに入門したい方には書籍を1冊持っておくと、途中で挫折せずに進められる安心感を得ることができますので、入手を推奨します(もちろん、書籍を使わずインターネット検索で情報を探すのが得意な方はそれでもOKです!)。
4.ArduinoやM5Stackのほうがいい“かもしれない“ケース
何か作品やシステムを作ろうとしたときに「それならラズパイでも作れるし、ArduinoやM5Stackでも作れそうだね」となって、どのボードを使うべきなのか判断に迷ってしまうこともあるかもしれません。
もちろん「ラズパイを使うのが得意だから全部ラズパイで作りたい!」という場合はそれでも大丈夫ですが、状況によってはうまくボードを選定することで製作コストや消費電流を抑えることもできますので、ボードの選定基準のひとつとして考えてみてもよいかもしれません。
以下、ArduinoもしくはM5Stackのほうがいい”かもしれない”ケースについて述べます。なお、ArduinoとM5Stackはどちらも「マイコンによって動作するボード」なので、ここではほぼ同じものとしてご認識ください(詳細な違いは別記事で解説します)。
- ①必ずしもパソコン上のアプリで動作させなくてもいいとき
- ②電源を立ち上げて瞬時に動作させたいとき
- ③消費電流を抑えたいとき
①必ずしもパソコン上のアプリで動作させなくてもいいとき
USB接続が必要となるカメラや測域センサ(LiDARなど)を使うときや、画像処理や複雑なデータ処理が必要なときはラズパイなどのパソコンによる処理が必要となりますが、システムにこれらのアプリケーションが不要な場合はラズパイを使う必要もありません。
例えば「センサが反応したらLEDを点灯させる」といった処理はArduinoでも無理なく動作させることができますので、Arduinoで実装したほうが金銭的にも時間的にもコストを抑えられます。
②電源を立ち上げて瞬時に動作させたいとき
パソコンの電源を入れてから使えるようになるまで少し時間がかかるように、ラズパイもArduinoやM5Stackと比較すると起動に時間がかかります。電源のON/OFFが頻繁におこなわれる環境で、ラズパイなどのパソコンを使うときは特に注意が必要です。ソフトウェア上で正常なシャットダウンをしないとファイルが破損してしまうことや、停電復旧時に再起動させたときにもアプリケーションが自動的に起動するよう設定しなければならないなど、あらゆるエラーを想定することが必要なこともあります。
展示会やロボットコンテストなどで動作させるシステムをつくるときは、電池交換をしたときや緊急停止をさせたときに起こる事象を想像しながら、どのボードを導入するか考えてみると良いでしょう。
③消費電流を抑えたいとき
使用するボードにどのような電源を導入するかを考える上で「コネクタの形状」と「供給可能な電流量」が重要なポイントとなりますが、ラズパイ4の場合はUSB Type-Cの電源端子にACアダプタなどで電源供給をする必要があります。ラズパイ4に対応する電流量としては3A(アンペア)が推奨されており、3A以上の電流を供給できる電源(ACアダプタやバッテリ)を準備する必要があるでしょう。
一方、Arduino(代表例としてArduino UNO)はラズパイ4よりも消費電流がとても小さく、50mAあれば最低限動かすことができます。Arduinoに接続するACアダプタの供給可能な電流量の推奨値は、接続するセンサやモータなどの大きさや個数によって変わるので一概には言えませんが、消費電流が大きなものを繋がない場合はUSBケーブルで電源供給をしたり、1A程度のACアダプタを接続したりすればよいと言えるでしょう。
5.複数種類のボードを搭載する
「この機能はArduinoのほうが適正あるし、こっちはラズパイじゃないとできないし…」といった作品やシステムの場合は、Arduinoとラズパイの両方を搭載してしまうという方法もあります。
例えば「カメラを搭載した2輪駆動のロボット」をつくる場合、ロボットの目となる部分はカメラを接続したラズパイが担当し、ロボットの脳となる部分(行動の判断をする部分)はArduinoが担当するというシステムの分担方法が考えられます。
このようにシステム全体の中で「目のモジュール」と「脳のモジュール」を分けることで、それぞれで使われるボードの良いところを発揮させたり、開発中に起こった問題のエラー探しがシンプルにできたりと、使いやすさを考慮することで開発者自身やユーザーにとってうれしい設計ができるようになります。
6.まとめ
本記事では、ラズパイの強みや特徴の解説を中心とし、作品制作に使用するボードの選択肢として、ArduinoやM5Stackもあるときに何を基準として選べばいいのかを紹介してきました。
「◯◯のほうがいい”かもしれない”ケース」と述べたように、何か作品をつくるときに“こうしなければならない”というルールはないものの、ボードの選び方を含めたシステム設計にもコツがあります。このあたりは製作者自身の得意不得意によっても変わってくるので「◯◯を使うのが好き」くらいの基準で選んでしまうのも良いでしょう。
初めてのことにチャレンジするときはちょっと勇気が必要ですが、1回作品を作ってしまえばいろんなものを作れる自信がついてきます。アイデアが降ってきたら、ぜひラズパイで作品制作にチャレンジしてみましょう!
今回の連載の流れ
第1回:Raspberry Pi(ラズパイ)の強みと特徴をArduino、M5Stackと比べてみた(今回)
第2回:Arduinoの強みと特徴をラズパイ、M5Stackと比べてみた
第3回:M5Stackの強みと特徴をラズパイ、Arduinoと比べてみた