ロボコン

高専ロボコン2018「Bottle-Flip Cafe」振り返りと記事まとめ

2018年のロボコンが終わってしまった。まず、率直に言って、とても寂しい。

今年のテーマは『Bottle-Flip Cafe』。確実な大量得点が求められるトーナメントを勝ち抜いた先に、「速くないと優勝できない」準決勝・決勝が待つという、妥協が許されないルールだった。これを制し、優勝したのは一関工業高専。ロボコン大賞は、熊本高専八代キャンパスが受賞した。
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■大会オーバービュー【1】大きな2つの変化

毎年、NHKが用意したテーマを思いもよらない方法でクリアしてくる高専ロボコニストたちだが、今回の高専ロボコンでは、来年以降にも影響する2つの変化があった。「ペットボトルのエアタンク利用廃止」と「自動ロボット制御」だ。

変更① さようならペットボトル……開発技術も安全意識もアップデート!

会場やテレビでご覧になったファンなら気付いているかもしれないが、過去の大会をさかのぼって見ると、ゴーグルをかけていない時代、ヘルメットを被っていない時代がある。ロボコンの安全対策は毎年アップデートされているのだ。「ペットボトルでの圧縮空気利用を非推奨とする」という変更も、同様のマインドで行われたものだろう。

これまでは、圧縮空気を使用する機構の多くで、炭酸飲料用のペットボトルが常用されていた。しかし、ペットボトルはもともと、圧縮空気を充填するために作られているわけではない。より望ましいのは、エアタンクのほうだ。

今年からの3年間は「移行期間」となるが、ほとんどのチームが変更に対応していた。今年のペットボトルは、「投げるもの」。平成の終わりとともに、ペットボトルエアタンクの時代も幕を下ろしたのだ。さようなら、ペットボトル……。

変更② 自動機バトルは今後も続く

自動ロボット制御がメインの開発課題となるルールに、本大会は「過去最高難度」とまで言われていた。ところが、蓋を開ければほとんどの出場校が、自動機をきちんと仕上げており、多くの人が驚かされた。

全国大会でも、テストラン・本戦ともに「まったく動かない」という機体はいなかったように思う。トレース用のラインがあり、フィールド外に置いて自動機を制御するコントロールステーションの制限がない等、それなりの柔軟性はあったが、それらをきちんと利用してハイレベルな機体を完成させた技術力には脱帽する。

おそらく来年以降も、自動機の制御は重要な開発テーマになっていくだろう。開発者には今年のノウハウを生かした開発を続けてほしい。そして、運営側には、今年のノウハウが活きるテーマ・ルール設定を期待してしまう。

 

■大会オーバービュー【2】力と技、そして知恵のぶつかり合い!

今年の競技では、奈良、長岡、小山など、多くの「いつメン」的チームが地区大会で敗退し、全国出場を逃した。もしかしたら、出場校の顔ぶれに驚かれた方もいるかもしれない。

それもあってか、新鮮味のある対決カードが多かったように思う。抽選の妙も光り、1回戦から鈴鹿工業高専「ノーチラス」vs明石工業高専「明明明明」東京工業高専「CLΘCK WISE」vs香川高専高松キャンパス「かえるカフェ」のような息をのむ同点バトル、香川高専詫間キャンパス「Arch」vs神戸市立高専「VICT(OO)N」のような、「もうこれ決勝では……?」的なハイレベルバトルが繰り広げられた。

得点重視か、スピード重視か? ……両方だよ!

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ロボコン大賞は、熊本高専八代キャンパス「Barista」

合体による大量得点と、機体の分業によるVゴールの両方を実現する機体で会場を沸かせた。初戦の「60点」は大会最高記録だ。

同時乗せによる大量得点狙いと言えば、国際高専「森の革命」も負けていなかった。「どかん!」と聞こえてきそうな豪快な発射で大量得点を狙ったが、清楚でマッチョな合体ロボット、和歌山工業高専「江楠マキナさん」に屈する。

しかし、合体ロボットが最強だったかと言えば、そうでもない。仙台高専名取キャンパス「unlimited」岐阜工業高専「ButLamb」は、本戦で合体ができなかった。呉工業高専「Vic鳥」は合体成功したが得点にはいたらず。いずれのチームも地区大会・テストランで華やかに魅せてくれただけに、本領発揮できなかったのは悔しい。合体ロボットは、本番環境での合わせ込みに苦心するチームが多かった印象だ。そのなかで、熊本高専八代は圧倒的な強さを見せてくれた。納得の大賞受賞だ。おめでとう!

 

自分との戦いを制し、勝利をつかんだ優勝・準優勝校

優勝は、一関工業高専「一角」。こちらも大量得点とスピードVゴールの両方を実現する、強いチームだった。初戦、群馬工業高専「Glory」とのバトルで白熱の競り合いを制し、その後もぐんぐん調子を上げる。得点・スピード・駆け引き全ての強さを発揮し、優勝旗を手にした。

似たタイプの凄みを見せたチームを挙げれば、香川高専高松キャンパス「かえるカフェ」広島商船高専「紫電☆一閃」、そして北九州工業高専「Bottle Mermaid」。いずれの機体も完成度が高く、十分に優勝を狙えた。敗退した試合は、戦法の妙が決め手になっていたように思う。

迷いのない戦法で勝ち上がったのは、準優勝した函館工業高専「Café Rivage」だ。苦しい戦いでも場に飲まれず、試合をねじ伏せていった。旭川工業高専「メイド in 旭川」との試合は、対決というよりも、一緒に試練を乗り越える仲間のようにすら見えた。

優勝校・一関の強さの秘密として、ひとつ「ロボットの共通設計」を紹介しておこう。今回、多くのチームが手動機と自動機を別のロボットとして開発していたが、一関は2台をまったく共通の機構にしたのだ。「万が一のときは、手動機のパーツを自動機に載せ替えて自動機だけで戦える」とのこと。システムの冗長性まで考慮した開発戦略も、優勝を支えたのかもしれない。

 

豊かな発想と、アイデアをカタチにする技術力

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高専ロボコンは、「アイデア対決」。勝負への強さと並んで、発想の面白さが評価される催しだ。「アイデア倒れ賞」は、他に類を見ないアイデアを採用しながらも、アイデア優先のあまり勝利から縁遠くなってしまったチームに贈られる栄誉だ。

今年は手動機が投げたボトルを自動機がトランポリンで跳ね返し、2.4mテーブルに立てることにチャレンジした都城工業高専「曲鯨師!ホエールくん!」が選ばれ、会場全体が祝福の空気に包まれた。ただ、アイデア「倒れ」とはいっても、

・手動機がトランポリンに向かって正確に投げる
・自動機がボトルを検知してトランポリンを動かす
・トランポリンがボトルを「前方・上へ」跳ね返し、テーブルを狙う

という何重にも凝った機構を、実戦レベルまで再現度を上げてきたのだ。技術力の高さは確かだった。

常識にとらわれないチャレンジ精神は、津山高専「一投勝射」の手動機にも見られる。手動ロボットエリアから3回転フリップの遠投で、2.4mテーブルを狙う作戦だ。本番では残念ながら見ることが叶わなかったが、練習中は「3回転半してキャップで立つ」という神業が成功したこともあったらしい。

勝利の法則は、粘り強さ?

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準優勝校、函館と同様の粘り強さを見せたのは、都立産技高専荒川キャンパス「天才bottle学者」豊田工業高専「Insect Guild」だった。押されても諦めない、意地の得点が印象に残っている。

粘り強さが発揮されるのは試合だけではない。フリップ動作の再現を目指したマシンからは、丁寧な作り込みが伺い知れた。手動機のフリップが美しい長野工業高専「Nature」福島工業高専「ベスト・ペット」、そして、自動機のフリップでVゴール勝利を狙った佐世保高専「火種」だ。いずれのチームも、「ロボットでボトルフリップを成功させる」という原点のテーマをしっかりとクリアしていた。

■おわりに

記者は、一つひとつの試合を思い返しては万感の思いに浸っている。

全てのマシンが、愛らしく、かっこよく見えた。大会までの努力や苦労が刻みつけられていたからだろうか。開発の際には、さまざまな制約のなかで、泣く泣く諦めたアイデア・機構もあっただろう。「詰めきれなかった部分などない!」というチームは、ほとんど無いのではないだろうか。

ロボコンへの挑戦は、PDCAサイクルの高速ループだ。ロボット開発の経験は、きっとこれからも生きるだろう。青春を称える精神論だけではない。ロボットが一般社会にも浸透し始めた現代では、実務経験としてもかけがえのないモノとなるはずだ。これからの高専ロボコニストの活躍に期待しつつ、記事を締める。

……皆さん、本当にお疲れ様でした!


デバプラ編集部では、高専ロボコン2018の各賞を受賞したチームに、ロボット開発の経緯、システムの概要、自慢できるポイント等を詳細にヒアリングし、「高専ロボコン2018出場ロボット解剖計画」としてまとめる予定です。どうぞお楽しみに!

これまでの高専ロボコン出場ロボット解剖計画

高専ロボコン2017 出場ロボット解剖計画
高専ロボコン2016 出場ロボット解剖計画
高専ロボコン2015 出場ロボット解剖計画

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