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小型マイクロドローンをチューニングしてオリジナルの機体をつくろう!【前編】

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みなさん、こんにちは。もっちゃんと申します。普段はインターネットでドローンのショップを運営するかたわら、さまざまなドローンのテストやドローン関連の記事を執筆しています。

今回は、最近大流行しているマイクロドローンを使ったFPVレーシングドローン機のさまざまな部分をチューニングして、自分だけのオリジナルドローンをつくっていきたいと思います。

■目次

・マイクロドローン「TinyWhoop」について
・バッテリ編:重量と放電能力のバランスを見ながら、よりパワーのあるバッテリを選ぶ
・プロペラ編:羽の枚数によって飛行特性が変化するプロペラの選択方法
・モータ編:サイズとKV値を理解して、ドローンの馬力を上げる
・まとめ

■マイクロドローン「TinyWhoop」について

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今回使用する「TinyWhoop」と呼ばれるFPVレーシングドローンですが、小さく軽いので室内でもフライトやレースができることから大人気のドローンとなっています。初めてFPVレーシングドローンに接する方にも比較的敷居が低く、始めやすいことも人気の要因のひとつでしょう。

一般には市販されているモデルを選んで飛ばすことになりますが、機体の構成やセットアップはそのままとノーマル仕様ということが多いのも事実です。と言うのも自分の理想に近づけるために何をすれば良いか、どのパーツを変えるとどこにどのような変化が現れるか、といったことが分かりにくく、場合によっては不適切なパーツ選択で全然飛ばなくなってしまったり、他のパーツやスペックに無理をさせてしまい壊してしまう、といったことが起きているようです。

モータを例に取って上げると、大きなサイズのドローンはモータ単品でプロペラやESC(Electric Speed Controller、以下ESC)などといったパーツを組み合わせてテストし、推力や電力を計測してセッティングを詰めてパーツを選定します、ところが、モータの小さなTinyWhoop機の場合、単品テストをして組み合わせを決めるといったことがむずかしいのが現状です。

もちろん条件を揃えてテストすることは可能ですが現実的ではありません。そんな事情もあり、本来はデータを元にパーツを選定していくところを、TinyWhoop機の場合はとりあえずやってみる、といったスタイルが一般的になっているようです。しかし、各種スペックの読み方やその意味を理解することで、無謀な組み合わせで壊してしまうことを回避し、自分だけのオリジナルの機体にチューニングしていく行程は楽しいもの。今回はそんなチューニングテクニックを、ハードとソフト双方から2回に分けて紹介していきたいと思います。

■バッテリ編:重量と放電能力のバランスを見ながら、よりパワーのあるバッテリを選ぶ

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マイクロドローン(TinyWhoop)を、よりハイスピードで飛ばしたい場合、比較的簡単に交換できて、しかも効果が出やすのがバッテリです。まずは、そんなバッテリのスペックの読み方を確認していきましょう。

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TinyWhoop機に使われているバッテリは1セルのリチウムポリマーバッテリ(以下、リポバッテリ)で「Li-Po」と表示されています、最近の主流は少し電圧の高い「Li-HV」と呼ばれるタイプが普及しています。ここででのスペック説明では「Li-HV」電池で進めていきます。

まず、バッテリに記載されている表示について解説していきます。「1S-250mAh 30/60C HV」というように表示されていたら、最初の「1S」は1セル電池という意味で、セルが一個だけのバッテリという意味です。次の250mAhと言う表示が定格容量で、「定格電流250mA」の電流を連続で1時間取り出せるという意味になります。

次の30/60Cと書かれているのが放電能力を表す表示で、ここの「C」という表示は「Current」の頭文字となり、電流を表しています。前側の30Cという表示は連続放電能力を表し、定格電流の30倍で連続放電可能ということになります。例に上げたバッテリーの場合、定格の30倍となります。定格電流250mA*30ですから7500mAとなり、連続7.5Aで放電可能ということが分かります。一方、後側の60C表記は瞬間最大放電能力を表します。今回の場合、定格電流250mA*60で15000mAとなり、ほんの一瞬ですが15Aもの電流を取り出すことが可能というわけです。

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最後の「HV」という表示がハイボルテージを表し、通常のリポバッテリが公称電圧3.7Vなのに対し、公称電圧で3.8Vと若干ですが電圧が上がっているものとなります。ちなみにこれは公称電圧と言われる電圧で、完全に充電された場合はこの電圧ではありません。通常のリポバッテリの満充電電圧は4.2V、HVタイプの満充電電圧は4.35Vになります。リチウム電池の充電は電圧制御方式(ピーク電圧方式)で充電されます。リポバッテリをLi-HV充電器で充電すると確実に「過充電」となり、バッテリセルが破損する可能性がありますので混在させて使うのは危険です。リポバッテリかLi-HVバッテリのどちらかに統一して使うようにしましょう。

話がやや逸れましたので、バッテリスペックの読み方に戻ります。パワーを出すためには安定して大電流が取り出せるバッテリを利用するのが良いのですが、そのためには先ほどの取り出し電流を計算した計算式で分かる通り、定格電流か放電能力を大きなものに変えれば良いのです。

ここで注意していただきたいのは、これらの数字と重量は完全に比例することです。定格電流はバッテリ内部のポリマー状電解液の量、放電能力は電解液に接する内部電極の面積で決まるからです。TinyWhoop機は飛行重量で30gほどしかない機体ですので重量に関してはシビアにいきたいところ。なるべく軽量に仕上げるべきですので、目的に合わせてバッテリスペックを決めていきます。通常は飛行時間等も考えなければいけませんので容量を増やした方が有利となりますが、前記のような理由からバッテリ容量は300mAh前後のものにするのが一般的です。最近では、多くの300mAhバッテリで40/80Cの放電能力を持ったバッテリが出回ってきています。これですと、定格で12A、最大で24Aも取り出せる計算になります。単4電池ほどの大きさしかないバッテリと考えるとその能力に驚かされることでしょう。
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このように見ると、とても良いバッテリと思いがちですが、実際のところはかなり無理をさせていることになりますので、バッテリの扱い方が悪いとすぐに性能が劣化してしまいます。この場合の劣化とは、バッテリ内部のセルが膨らんでしまうような症状も含まれます。性能と耐久性は反比例するところですので、バッテリが膨らんできたり、パワーが出なくなった場合はすぐに使用を中止しましょう。

ここまでは、ピークパワーやパンチ力に特化してリポバッテリの交換を紹介しましたが、まったく違うアプローチもあります。それは重量を変える考え方です。TinyWhoop機の通常飛行時の消費電流は4〜5Aほどしかありません。その程度であれば230mAhの30C程度のバッテリでも十分ともいえます。TinyWhoop機の構成部品としてバッテリ重量は飛行重量の多くを占めます。これを軽くすることで旋回性を向上させることができます。

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レースコースの大きさにも寄りますが、スピードを競うドローンレースにおいて旋回性は大きな武器となります。軽量なマシンに仕上げてコーナーリングマシンという特性を持たせるのも面白い考え方でしょう。ただし、この場合は操縦技術が伴わないと無理ですので万人向けとは言えません。

■プロペラ編:羽の枚数によって飛行特性が変化するプロペラの選択方法

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今度はマシンスペックに手を付けて、よりハイスピードなマシンをつくっていきます。ここでは部品を交換することになりますので、機体を壊さないように分解することも合わせて覚えましょう。

まず、簡単なところでプロペラの交換からおこないます。プロペラは羽根の枚数や、メーカーによる形状の違いによりさまざまな種類があります。一般的な傾向としては、枚数が多いプロペラは浮きや座りが良く、マイルドな設定になることが多いです。しかし、同じ4枚羽のプロペラでも、羽根の幅が広い物と細い物を比べると傾向が違ってきます。枚数だけでは語れませんのでいろいろ試してみると良いと思います。
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プロペラに関して一般的な理論から紹介します。効率性から言うと、枚数が少ない方が高い傾向にあります。究極は一枚羽にカウンターウエイト(プロペラのバランスを保つために羽の根元に取り付けるオモリのこと)を対向で配置したものでしょうが、そんな特殊なプロペラは除いて話しますと、羽の枚数が少ない方が当然軽くなりますし、表面積も小さいですので、操縦者が舵を切った際のレスポンスは良好ですが、長さが制限されたプロペラですので推力が不足しがちになります。2枚羽のプロペラは推力が少ないこともあり、使っている人は少ないのが現状です。

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次に3枚羽のプロペラ(画像左)ですが、こちらは多くの種類が発売されており、推力も十分に出ます。軽く、しかも低抵抗なのでスピードの乗りが良く、舵に対するレスポンスも良好な製品が多い傾向にあります。

続いて4枚羽(画像右)ですが、外形が同じ大きさならば、2枚や3枚羽のプロペラより推力は一番稼げます。そのため、浮きや座りが良くなります。4枚羽の中でも羽根が細いタイプのものがありますが、このタイプは軽量低抵抗でレスポンスも良く、しかも引きが強い感じがします。よりパワーやスピードが出したいならば、4枚プロペラに変更してみるのが良いでしょう。

プロペラは、自分の飛ばし方や目的に合わせていろいろ試してみると面白いでしょう。左右を違うものにするのはあまり常識的ではありませんが、中には前後でプロペラを変えている方も一部見かけます。

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プロペラに関しては、ある程度のスキルがあれば変更した際にその違いが飛びの変化で実感できるのですが、ビギナーのフライヤーさんの場合、まだ分からない方も多いと思います。しかし、違いを実感できる点もあります。それは飛行時間です。同じメーカーの4枚羽と3枚羽を比べると、3枚羽の方が省電力で飛行時間が長くなる傾向にあります。モータとの組み合わせもあるので一概には言えないのですが、飛び以外にも変化が現れますので良く観察してみましょう。

■モータ編:サイズとKV値を理解して、ドローンの馬力を上げる

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機体の特性を大きく変えることができるのがモータです。ドローンに使われているモータのスペックは「大きさ」と「KV値」といわれる回転特性に分けられます。モータスペックの表記は決まりがあるわけではないので例外もありますが、おおむね表示は同じような表記になります。
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モータのスペックは、まず大きさを表す4桁の数字があり、それと並行してKV値が併記しされています。大きさを表す4桁の数字は0603や0802等で表されますが、これはホルマル線の巻かれているステータの大きさを表しています。前側の2桁がステータ外形を表し、後側2桁が同じくステータの厚みを表しています。0603モータの場合、6mm外形で厚みが3mmのステータということになります。

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ステータですが、一般的に外形が大きくなるとモータのトルクが大きくなります。トルクが増えれば抵抗に負けなくなりますので、舵に対するレスポンスが向上します。この場合の「トルク」とは回転を維持する力のことで、一方で回転させる力のことは「馬力」と言います。

馬力を向上させる一番手っ取り早い方法は、回転数を上げてしまうことで、一般に回転馬力と呼ばれるもので最もシンプルな方法です。ブラシレスモータの場合、これを表すスペック表示として「KV値」というものがあります。このKV値とは、1Vの電圧を掛けた時のモータの回転数を表します。KV16000と表示がある場合は、電圧1Vでモータを無負荷で廻した場合の理論回転数が16000となります。

このKV値を上げると馬力を上げることができます。ですが同じプロペラを使用していると当然回転数に比例して電流も増えてしまいます。効率も悪化することになりますので、電費が悪化してしまいます。このように、パワー感と電費は相反する関係性にあります。目的に合わせて、自分に丁度良いバランスを見つけることもチューニングする上で大切な要素になります。

とはいえ、総当たりすると大変な労力になりますし、組み合わせも多いのである程度特性を見極めてモータを選んでいく必要があります。TinyWhoop機で使用されるモータのKV値は概ね4種類が多く利用されています。KV値で「16000」「19000」「22000」「25000」が一般に流通しているもので、モータの大きさは「0603」「0703」「0802」といったサイズがリリースされています。

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最近では、0802モータの利用が多くなっています。TinyWhoop機のドローンレースで一番多く利用されていると思われるのが、0802サイズでKV値が19000のものです。非常にバランスが良く、3ブレードプロペラでも4ブレードプロペラでも利用でき、消費電流も程よく、通常のフライトでしたら約4分の飛行が可能です。

最近、インターネットなどで良く売れている完成機なども、この組み合わせを採用している機体が多く売られています。もっともベーシックなスタイルですが、これでもループやフリップといったアクロバティックな演技も十分に可能です。

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しかし、フリースタイル的なフライトをする場合、慣れているフライヤーには上昇力やタイトターン時に不満を感じることがあるかもしれません。その場合は、モータのKV値を上げて馬力を稼ぎます。初級から本格的なフリースタイルへステップアップする際は、KV値22000程度のモータを選びましょう。

さらに、完全にフリースタイル機に仕上げてしまう時はKV値を25000まで上げてしまうのが良いと思います。この場合、プロペラは3ブレードを選んでください。4ブレードは過電流になってしまい、ESCに負荷を掛けてしまいます。KV値が20000を超えたモータを使った場合、飛行時間は長くて2分半まで低下します。消費電流もフルパワー時で9〜10Aくらいまで増えてしまいます。バッテリにも大きな負担を掛けますので、寿命も短くなりがちです。そのため、機体のメンテナンスや部品の交換が重要になってきます。

■まとめ

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今回は、バッテリ、プロペラ、モータを交換して、自分のフライトスタイルに合った機体にチューニングする方法を紹介しました。後編では、機体そのもののハード面ではなく、ドローンに搭載されたフライトコントローラの設定を変更して、オリジナルの機体に仕上げていく、いわゆるソフトの面のチューニングを紹介していきたいと思います。次回もお楽しみに!

 

 

今回の連載の流れ

前編:小型マイクロドローンをチューニングしてオリジナルの機体をつくろう!(今回)
後編:小型マイクロドローンをチューニングしてオリジナルの機体をつくろう!

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無類の空物ラジコンマニア。小型電動機からガソリンエンジン搭載の大型機まで何でもありのマルチフライヤー。マルチローター機(ドローン)の導入を2012年ころから始め、現在はネット通販の模型店を経営の傍ら、ドローンによる空撮を生業とする。

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