数年前からテレビのニュースでも「IoT」や「ディープラーニング」といった言葉が登場するようになり、エンジニアの界隈のみに限らずこれらに関する技術が一般にも認知されるようになってきました。また、これらのニュースに付随して話題に登る「Raspberry Pi(ラズパイ)」が気になっている方もいらっしゃると思います。
この記事ではRaspberry Piについてのお話しをメインテーマとし、
- Raspberry Pi(ラズパイ)とは何なのか
- Raspberry PiとArduinoは何が違うのか
- いろんな種類のRaspberry Piがあるけど、何に気をつけて選んだらいいのか
といったポイントについてご紹介します。
目次
- Raspberry Pi(ラズパイ)とは?
- Raspberry Piの歴史・名前の由来
- Arduinoもあるけど、どちらを使えばいいの?
- ArduinoとRaspberry Piの違い
- Raspberry Piの使い方をどうやって身につけていくか
- Raspberry Piの代表的な製品一覧とそれぞれの使い方
- こんなところに使われているRaspberry Pi
- こんなことができるRaspberry Pi
- DEVICE PLUS過去の参考記事
- IoTやAIを自分でも作ってみよう
1. Raspberry Pi(ラズパイ)とは?
Raspberry Pi(ラズベリーパイ)は、英国のRaspberry Pi Foundation(ラズベリーパイ財団)が提供する「シングルボードコンピュータ」と呼ばれるパソコンのボードの一種で、教育用に使われることを想定して製造されています。代表的なものだと上の写真のような外観をしており、電子部品や端子が備えられています。
このような電子部品が載っている板は「基板」(※「基盤」ではない)や「ボード」と呼ばれることが多く、特にRaspberry Piなどで呼称される「シングルボードコンピュータ」はパソコンとして機能するために必要な部品のみに絞ることでサイズの縮小化、低価格化、低消費電力化といった、小さくすることを狙って設計されたボードです。
2. Raspberry Piの歴史・名前の由来
Raspberry Piは教育用のコンピュータとして開発された経緯があります。近年はスマートフォンやパソコンなどの電子端末の普及により、若い人は学校の講義で習わなくてもそれらを使うことについては長けていました。しかし、それらがどのような仕組みで動いているかを理解したり、自分でプログラミングをしてソフトウェアを作ったりする経験をしている人は少なく、これは電子機器がより高度な機能を持ち、完成された製品が多く出回るようになったことから、機器を分解したり自分でハードウェアやソフトウェアを作ったりする機会が少なくなったことも要因のひとつだと考えられています。
そこで、ラズベリーパイ財団の創始者であるEban Upton(エバン・アプトン)氏らが、子どもでも簡単にプログラミングできる(壊したときのリスクが小さい)安価なコンピュータを考え出し、プロトタイプの開発を始めたのがRaspberry Piの始まりでした。現在は教育用としてだけでなく、電子工作やロボットなどのようなホビー用途として利用するユーザーも多くなっています。
「Raspberry Pi」という名前の由来は、果物の「Raspberry pie(ラズベリーパイ)」が由来です。「Apple」「apricot」といった果物の名前から企業名や製品名を名付ける文化がコンピュータの界隈にあったことから、このようなネーミングになりました。また、「Pi」はプログラミング言語の「Python(パイソン)」とも関連付けられています。なお、日本では略称である「ラズパイ」と呼ばれることが多くあります。
3. Arduinoもあるけど、どちらを使えばいいの?
昨今、電子工作に入門する方は「Raspberry Piで○○」もしくは「ラズパイで◯◯」、「Arduinoで○○」といったタイトルの記事や書籍を参考にしながら基礎的な練習をすることがメジャーとなってきました。しかし、「で、ラズパイとArduinoのどっちを買えばいいの…?」という疑問が残ったまま、どちらを選ぶべきかわからないという状況の方もいらっしゃると思います。まずはRaspberry PiとArduinoの違いを簡単にご紹介します。
Raspberry Piは「シングルボードコンピュータ」、Arduinoは「マイコンボード」と呼ばれる部類のものです。シングルボードコンピュータについては先にご紹介しました。マイコンボードはRaspberry Piのようにパソコンとしての動作はしませんが「センサの状態を検知したり、LEDやモータをON/OFFしたりするための簡易的な制御装置」と解釈していただければわかりやすいと思います。これを踏まえた上で、Raspberry PiとArduinoのどちらを使うべきか、いくつかの視点から考えてみましょう。
4. ArduinoとRaspberry Piの違い
「マイコンとパソコンだったら、パソコンのほうが上位互換では…?」といった声もあるかもしれませんが、実際はそれぞれに適した使いどころがあったり、使いやすい・使いにくいといった勘所があったりします。
① OSの有無
例えば内部のソフトウェアの動作について見てみると、Raspberry PiではOSがあり、ArduinoにはOSがないといった特徴の違いがあります。
これは「OSがあるほうが良い」といった単純なことではなく、Linuxで動作するプログラムを実行したい場合はRaspberry Piを選ぶことになりますが、OS上で動いている他のアプリケーションも本来やりたい動作に影響する可能性があり、時にはパソコンを使っているときにもよくあるフリーズなども考慮する必要があります。
② 役割の違いを考える
マイコンにはマイコンがすべき仕事があり、パソコンにはパソコンがすべき仕事があるということです。Raspberry PiがLEDやスイッチなどの入出力が割と何でもできてしまうため、できることorできないことで考えると難しいですが、それぞれに適した役割分担を考えればどちらにすべきかが見えてきます。
例えば、Arduinoが適している役割は以下のようなものが挙げられます。
- LEDやモータの制御
- スイッチやセンサの状態検知
このようなLEDやセンサなどの電気信号を扱うことが必要(ハードウェア寄り)な場合はArduinoにすると良いでしょう。
また、Raspberry Piが適している役割は以下のようなものが挙げられます。
- ネットワーク通信(有線/無線LAN)
- ディスプレイやプロジェクタなどへの映像出力
- カメラの使用(画像処理など)
このようにパソコンとして振る舞う動作が必要(ソフトウェア寄り)な場合はRaspberry Piにすると良いでしょう。
5. Raspberry Piの使い方をどうやって身につけていくか
周りに使い方を教えてくれる人がいるときはその人に聞きながら進められるとよいですが、マンツーマンで何度も教えてもらうのもちょっと気が引けたり、そういった知見を持っている人がそもそも身近にいなかったりすることも多いので、できれば一人で学べる方法がわかるといいですよね。
筆者がおすすめする方法として、以下の2つを挙げます。
① 書籍を購入して、その内容に沿って進める
② WEB記事を参考に、その内容に沿って進める
① 書籍を参考にする場合
書籍(技術書や入門書)に沿って進める場合は書店やネットショップで販売されているものを購入することになりますので書籍の代金はかかりますが、書籍の多くがゼロから始めた人向けに執筆されていることもあり解説がとても丁寧な印象があります。それに「この一冊があればほぼ大丈夫」ということもあり、自分でいろんなサイトで調べながら進めるよりも途中でつまずくことが少ないです。自らインターネット検索をしなくても読み進めれば新しい知見が得られるのも書籍の良いところですね。
例としてRaspberry Piの使い方が解説されている書籍をピックアップしました。ユーザーレビューや関連商品を参考にしながら選んでみるといいかもしれません。
② WEB記事を参考にする場合
インターネットで検索して出てくる記事を見ながら進める場合は多くが無料で閲覧することができるため、書籍を見ながら進めるより低コストに情報収集をすることができます。丁寧に執筆されている記事を見つけることができればスキルを身につけるのに十分な情報を得ることができますので、インターネット検索に慣れている方は必要な情報を検索することで多様な視点での解説を見ることができます。
例としてRaspberry Piの入門に関する記事をピックアップしました。これらの記事を中心として読み進めて、随時気になるキーワードを検索しながら読み進めると良いでしょう。
センサを使ったおもしろアイテムの簡単工作
フォトリフレクタという光センサとビー玉を使ってScratchでキャラクターの動きを操作するユニークなコントローラを作ります。ユニバーサル基板を使った配線にもチャレンジします。
センサを使ったおもしろアイテムの簡単工作
ラズパイでスマートスピーカーを自作しよう!
Googleのスマートスピーカーの機能を使うためのSDKを使って、「OK, Google」と話しかけて動作するスマートスピーカーをRaspberry Piで自作します。これを応用すれば音声で操作をするロボットなども作れそうですね。
ラズパイでスマートスピーカーを自作しよう!第1回: Google AIYを使って、日本語対応スマートスピーカーをサクッと作る
ラズパイでAIカメラを自作しよう!
Raspberry Piにカメラを搭載し、AI機能を応用することで画像解析や音声認識をして撮影をしてくれるAIカメラを作ります。この機能をすべて使えるようになれば、かなり高度な作品制作に取り組めそうです。
第1回 ラズパイでAIカメラを自作しよう! 初めの一歩、ラズパイに目、耳、口を追加する
6. Raspberry Piの代表的な製品一覧とそれぞれの使い方
Raspberry Piのボードにもいくつかの種類がありますので、何を考えて選べばいいかをここで解説します。Raspberry Piは年月が経つごとに新しいシリーズが次々と出てきていますが、これらは種類によって値段や機能が異なります。今回は3種類のRaspberry Piのボードをよくあるニーズに合わせてご紹介します。
① とりあえずRaspberry Piを触ってみたい
まずはきちんと使い慣れてみたいという方、選び方がよくわからない方へのおすすめは「Raspberry Pi 4 Model B」です。
Raspberry Pi 4 Model Bは日本国内では2019年末頃から発売された最新のRaspberry Piです(2020年7月現在)。Raspberry Piの中で最も高い性能を誇っており、インターネットのブラウジングなど一般的な利用方法であれば問題なく利用できます。クアッドコアCPUを搭載しており、メモリは8GB・4GB・2GBのいずれかから選ぶことができます。映像出力用のHDMIポートは2系統搭載されており、USB3.0端子も使うことができます。
映像出力にはMicro HDMIが採用されているため、一般的なディスプレイと接続するときはMicro HDMIからフルサイズHDMIの端子に変換するアダプタやケーブルを使う必要があります。本体を購入する際に一緒に調達しておきましょう。
② コンパクトに作りたい
Raspberry Pi 4 Model Bよりも小さなサイズが必要な方へのおすすめは「Raspberry Pi 3 Model A+」です。
Raspberry Pi 3 Model A+は、Raspberry Pi 4 Model B(第4世代)の1つ前の第3世代のボードです。有線LANのポートが省かれていたり(無線LANは搭載されています)、USBポートが1つだけになっていたりする分、基板のサイズが小さくなっています。メモリは1GBとなるためRaspberry Pi 4 Model Bと比較するとスペックは劣りますが、あまり重い処理を実行しないのであればサイズの小型化や価格の低コスト化を優先してこれを選ぶのも良いかもしれません。
USBポートが1つだけなのでマウスやキーボードを接続するときはUSBハブを使ってポートを増やすことになりますが、その際はセルフパワー付きのUSBハブ(ACアダプタで電源供給をするタイプ)を使えばRaspberry Pi本体の消費電力を抑えることができます。
③ バッテリを駆動させたい
ACアダプタを使わずモバイルバッテリなどで持ち運べる状態にして動かしたいときは「Raspberry Pi Zero W(またはWH)」がおすすめです。
Raspberry Pi Zero WとWHの違いは、GPIOポートにピンヘッダが実装されていないのがW、最初から実装されているのがWHとなっており、センサなどとの配線で半田付けを省略したい場合はWよりもWHを選ぶと良いでしょう。
Raspberry Pi Zero WHはRaspberry Piのボードの中で最もサイズが小さいモデルで、価格も5ドルという低価格です。また、消費電力が他のモデルよりも小さいためモバイルバッテリなどで駆動させるのに適しています。HDMIポートはMini HDMI、USBポートはmicro USBポートになっているため、一般的なディスプレイやキーボード、マウスに接続するときは変換ケーブルが必要となります。
「Raspberry Pi Zero W/WH」には無線LANとBluetoothが搭載されており価格が約10ドルです。「Raspberry Pi Zero」は無線LANとBluetoothが非搭載ですが、5ドルとより安価です。
7. こんなところに使われているRaspberry Pi
Raspberry Piは教育用のコンピュータとしてだけでなく、様々な場所で活躍しています。特にカメラを使った画像処理やAIを活用したシステムの開発で多く活用されており、その事例を3つご紹介します。
きゅうりの仕分け作業へのAI活用
農家できゅうりの等級による仕分け作業をしていたお母さんの技を本人だけでなく他の人でも再現できるようにディープラーニングによる画像認識をおこなって仕分け作業のサポートをするシステムが開発されました。画像認識やサーバへのデータ送信などにRaspberry Pi 3が使用されています。
自動運転AIで走るドンキーカー
「AIカー」と呼ばれる、AIで自動走行する模型自動車を走らせるイベントやワークショップが各地で行われており、このドンキーカーもAIカーのひとつとして多くの人に使われています。ドンキーカーはオープンソースで提供されているキットで、ラジコンカーにRaspberry Piやスピードコントローラ、サーボモータなどを搭載して走行の制御を行えます。
ルービックキューブを解くロボット
3Dプリント部品によって構成されている全自動のルービックキューブを解くロボットです。このロボットのデータはオープンソースで提供されており、非営利目的であれば誰でも同じ部品を購入すれば組み立てられるようになっています。ハードウェアの組み立て方やソフトウェアの準備方法が全てウェブサイト上で閲覧できるようになっており、教育用のコンテンツとして公開されています。
8. こんなことができるRaspberry Pi
【ラズパイとセンサで作る「快適空間自動生成装置」】
Raspberry Piを使って家の中の環境(温度や湿度など)をセンサで計測、天気予報の情報を取得し、それを表示したり、洗濯物の取り込み忘れを防止するためのアラートを出すシステムを制作しています。市販品ではできない柔軟なカスタマイズが自由にできるのは自作の醍醐味ですね。
【Raspberry Piで作るLED警告灯ソリューション】
Raspberry Piに差し込んで使える拡張モジュール「Crystal Signal Pi」を使って自作の警告灯を作ることもできます。外観もアーティスティックなのでインテリアとしてもオシャレですね。
【サーボモータを使って指さし温度計を作ってみよう】
気温を計測して、その温度をサーボモータで指し示すことでアナログ温度計のように表示ができるシステムです。この例を応用し、センサの入力とサーボモータの出力が使えるようになればセンサの種類を変えるだけでいろんな場面で使えるシステムが自由に作ることができそうです。
9. DEVICE PLUS過去の参考記事
ラズパイ4を使って、イチからラズパイのセットアップ方法、必要な部品、電子工作のやり方などをまとめます。
最新のラズパイのOS、Raspbian(ラズビアン) Busterを見ていきます。手軽なNOOBSを使ってラズビアンOSをインストールしてみますよ。
今後よく使っていく画面無し(ヘッドレス)のリモート接続でのセットアップをしてみます。どこでもラズパイが使えるようになりますし、ラズパイの基本コマンドを学ぶことができますよ。
GPIO(データ入出力端子)を使って、センサなどを接続し、実際に電子工作をおこなっていきたいと思います。
10. IoTやAIを自分でも作ってみよう
今回はRaspberry Pi(ラズパイ)の特徴や選び方、実際の作例をご紹介しました。IoTやAIというとニュースではよく見るもののどんなものかイマイチわからないといったイメージがあると思いますが、Raspberry Piを使えばそんなシステムを自分でDIYすることもできるようになります。「これをセンサで検知してスマホに通知を送りたい」「カメラとAIでこれを自動化してみたい」のようなアイデアがありましたら、ぜひRaspberry Piを使って作ってみましょう!