Wearables TechCon 2016: ウェアラブル技術の未来を一挙公開

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©IDTechEx

※この記事はDevicePlus.com(英語版)のこの記事を日本語訳したものです。

今年で第3回となるWearables TechConは、今話題のウェアラブルおよびIoT分野の第一人者やイノベーターが一堂に会すイベントで、開発者にとっては次世代デバイスを開発するためのインスピレーションを得ることのできるまたとない機会です。2016年7月18~20日、シリコンバレーの中心地、サンノゼコンベンションセンターで開催された同イベントでは、最新トレンドから開発課題、今後の見通しまで、ウェアラブル技術の全てが一挙に公開されました。

ウェアラブル端末は、決して一時の流行で終わるようなものではありません。その創造性においても経済性においても開発者を魅了する分野です。生活のあらゆる場面において、コトやモノをモニターし、解析し、相互接続するようになるであろう未来の世界・・・ウェアラブルおよびIoT技術は、その世界への懸け橋となる存在だと言えるでしょう。身体機能、感情、習慣等を測定し、それに基づいてより快適な時間を過ごすための選択肢が提案されるような世界が今まさに現実のものとなり、ますます注目を浴びています。スマートウォッチ、リストバンド、ヘッドマウントディスプレイ、ヒアラブル機器、スマートドレス等のウェアラブル分野は、ガートナーによると、2016年単年の成長率は18.4%、出荷台数は、2015年の2億3,200万台、2016年の2億7,460万台から、2020年には5億台を超えると推定されています。

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写真1. Wearables TechCon展示会場

ウェアラブル端末の新規開発には、多岐にわたる分野の専門知識が必要です。そのためWearables TechConでは、スピーカー、パネリスト、ワークショップ、出展者等いずれもハードウェア製造業者から、ソフトウェア開発者、デザイナー、データセキュリティ専門家等、ウェアラブル端末製造に関わる幅広い分野を網羅するよう選出されています。

企業のCEO、新進気鋭のイノベーターらによる講演は、ウェアラブル端末の動力源の課題、新規応用分野、エンドユーザーにとって有用かつ即時利用可能なデータの提供、データセキュリティの確保、既存製品/サービスを活用して時間とコストを削減しつつ試作品製造の早期化の実現等、多岐にわたるテーマで行われました。ウェアラブル端末の第1世代の成功後、次世代デバイスに期待される要件(小型化、高速化、高信頼性、先進データ測定等)を前に窮しているという状況にある多くの開発者にとって同イベントは、課題およびそのソリューションを共有するという恩恵を得ることのできる好機になったと言えるでしょう。

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写真2. Vufine製ドッキングステーション付HDウェアラブルディスプレイ

ウェアラブル端末

消費者製品交流イベントではありませんが、同イベントでは、既存のウェアラブル端末、特に同市場のニッチアプリケーション製品が幅広く展示されていました。例えばKickstarter社のヒット製品Vufine。Vufineは、各種眼鏡に装着可能なHDハンズフリーウェアラブルディスプレイで、小型モニター上で携帯端末からの画像を見ることができる製品です。自転車に乗りながら携帯電話を必死で見なくても、そこで再生しているYouTube画像を見たり、ポケモンGoでポケモンを捕まえたりすることができるのです。これでもう壁や電柱にぶつかる人はいなくなるでしょう(そんな事故がありましたよね)。

Vufineの魅力は、ドローン操作においてさらに発揮されるでしょう。これさえあれば、ドローンを目で追いつつ(これは必須)、同時にドローン搭載カメラから送信される画像を見ることができるというわけです。

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写真3. スマートBluetooth追跡端末Nut Find 3/©Nut Technology

スマート追跡端末シリーズを継続開発しているNut Technology社の最新製品Nut Find 3。この小型端末は大切なモノを忘れたり失くしたりしがちな人にとっての救世主です。Nutを大切なモノの中に入れるかまたは取り付け、無償携帯アプリに接続します。そのモノか携帯電話のどちらかを置き忘れそうになると、双方向即警報が鳴動して知らせてくれます。Nutがあれば、失くしたモノを探すことも可能で、モノと携帯電話が離れた場合、その場所や時間を知ることができるのです。鍵、財布、携帯電話等の貴重品をよく置き忘れてしまう人はぜひ、この忘れ物防止端末を身の回り品に加えると良いでしょう。

スポーツおよびフィットネス分野は、ウェアラブル端末が最もポピュラーな分野です。Nanovivo製パーソナルヘルスモニターは、リアルタイムで血液化学のモニター、解析を行う腕時計型の非侵襲性フォトニックセンサで、基本的な生理学的データに加え、水和レベル、体脂肪率、抗酸化物質レベル、タンパク質レベル等のデータのモニター、解析も行います。スマートフォンへの取り付けも可能で、カスタマイズしてモニターや警告を行います。ワイヤやセンサの貼付け、侵襲的検査の必要無く、トレーニング中に身体に必要な情報を確認することが可能であるため、本格的なフィットネスやトレーニングをこなす人にとって、非常に有用なツールとなるでしょう。

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写真4~6. Nanovivo製世界初ウェアラブルパーソナルヘルスアナライザ/©IDTechEx

フィンランドに拠点を置くFirstbeat社は、先端科学を駆使した心拍データ解析によって、身体パフォーマンスや健康をサポートするサービスを提供しています。個人の生理学的データから、ストレス、運動、睡眠等に関する詳細な識見を導き出して提供する同社のサービスは、運動能力の強化、フィットネス効果の評価、健康評価等のための貴重なツールとして、現在50余点の消費者製品に搭載され、500を超える優良スポーツチームに採用されています。また同社のサービスは、多くの企業の健康および業績コーチングプログラムにも採用されています。

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写真7. Firstbeat製健康テクノロジーディスプレイ/©Alan Hanstein

 

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写真8. Firstbeat製ボディガード2-心拍数変動解析システム/©IDTechEx

 

 

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写真9. Sony製スマートバンド2アクティビティトラッカー、
Firstbeat製生理学的解析システムを搭載/©IDTechEx

開発者のためのソリューション

ウェアラブル端末に関する新たなアイデアを持ちつつも、どこから手を付けるべきか、資金源や開発チームはどうすべきか、その解決策が得られないという開発者の方も数多くいらっしゃることでしょう。製品開発の全段階に要する膨大な時間とコストのことを考えて頭を悩ませている開発者にとって、ワンストップショップIoTソリューションは、重要なパートナーシップを提供してくれる先進的なサービスです。こういったサービスを利用することで、試作品の製作、ハードウェアのカスタマイズ、製造の効率化が促進され、イノベーターとしてはファームウェアデザイン、アプリ製作、クラウド解析等独自の分野にのみ集中することが可能となります。

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写真10. RoweBots製ユニゾンRTOSリアルタイム業務システム

Redpine Signal社製WyzBeeプラットフォーム、MediaTek社製LinkIt、Rowebots社やInfostretch社製のシステム等は、製品開発から発売、その後に至るまで、カスタマイズされたソリューションを提供するサービスで、上市の早期化、総所有コストの削減をサポートします。ウェアラブル市場が大きく成長する中、増加する顧客の期待や製品の差別化という課題に直面する開発者にとって、こういったサービスは不可欠となるでしょう。センセーショナルなウェアラブル端末を開発するにあたり、そのプロセスについてもう思い悩む必要はありません。開発者の夢を実現するために利用できる多くのサービスやシステムが提供されているのですから。

設計上の課題

ウェアラブルおよびIoT製品の設計における明らかな共通課題とは、小型端末にいかに効率的な動力源(power)を確保することができるか、ということでしょう。この「p」で始まる単語、すなわち動力源のことに話題が及ぶと、満場はため息と頷き、さらには絶望的なうめき声の混じった反応でいっぱいになります。次世代デバイスの開発において、動力源の要件は追い打ちをかけるように、さらに高まっていくと予測されます。

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写真11. 「ウェアラブルコンピュータの試作品製造の早期化、ならびにハイブリッドアーキテクチャインターフェイスセンサ」についてプレゼンするwarpx.io社Aaron Moore(左)とNicola La Gloria(右)

機能に対する要求の増大を受けて、今後1台あたりのセンサ数は増加し、それによってさらに大きなMCU処理能力およびメモリが必要となっていきます。ウェアラブルに関する知識を全く持っていなくても、動力源問題に対する解決策を持っている人がいたとすれば、技術界の人たちは皆、その人の前にひれ伏すことでしょう。微細設計、微細加工というトピックスについては、Wearables TechCon 2016シリーズ記事第3弾で詳しく取り上げます。

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写真12~13. Delta Microeletronics製マルチプロトコルトランスポンダー「THOR」:設定可能な時間間隔で温度の測定、データ保存を行うオンボード温度センサ
/©IDTechEx

今後の見通し

「超人力:ウェアラブルによってトランスヒューマニズムへ向かう」と題した基調講演で、ウェアラブル端末、モノのインターネットに関する著作の執筆者であり、Venture1st社業務執行社員、Amyx+社CEOのScott Amyx氏は、テクノロジーによって人類はどこへ向かおうとしているのか、そしてその結果人類は何に進化しようとしているのか、という疑問を呈しました。人類は、科学と技術の力によって、自身の身体的、精神的限界を超越し(トランスヒューマニズム:超人間的主義)、その結果、全く新しい種が誕生するのではないか、と氏は問いかけます。ウェアラブル端末によってデータ(視覚、聴覚、触覚)を検知し、人間の能力を超えた処理を行うことで、人類は自己の潜在能力を最大限に実現することが可能となります。そういった超人的な生体工学能力を今後、どのように使っていくべきなのでしょうか?

また、まさにイベント開催中に口コミによってポケモンGoが爆発的な広がりを見せたこと、これはテクノロジー界の運命を暗示するものではないか、という話もありました。このゲームの人気は拡張現実(AR)製品を強力に後押しするものであり、一般の人々がARの世界に親しむ一助となるものだという意見について異を唱える人はいなかったようです。

Wearables TechCon 2016のトピックスやそこで得られた識見については、シリーズ記事として今後、医療用ウェアラブル、MEMS微細加工技術、AI情動認識システム、ウェアラブルの今後のイノベーションと題して随時ご紹介していきます。次号「医療用ウェアラブル」をどうぞお楽しみに。

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写真14. Wearables TechCon展示会場

執筆:Amanda Mintier

Wearables TechCon 2016シリーズ

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