ロボコン

高専ロボコン2019振り返りまとめ:この大会のいくつもの「実質決勝」に

高専ロボコン2019「らん♪RUN Laundry」が幕を下ろした。香川高専詫間キャンパスが10年ぶりに優勝し、ロボコン大賞は奈良高専に贈られた。

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記者の主観で恐縮だが、今回のゲームを一言でいうと「たくさんの『実質決勝』があったなあ……」となる。ゆるめのテーマタイトルに反して、戦略的な駆け引きも感じるアツいバトルが繰り広げられ、当日の会場やSNSでも「これ決勝では?」的なコメントがあちこちで飛び交っていた。

2回戦から勝ち進んだ8チームのうち5チームが満点を獲得していたのだから、終盤に向けて審査員の主観判定が増えたのは当然のこと。審査員のプレッシャーはどれほどのものだったかは、想像もできない。

君にとっての「実質決勝」ベストバウトはどれだ?

1回戦第1試合、岐阜高専VS一関高専は、点数こそ満点には届かなかったものの、初戦から同点終了の審査員判定となった。振り返ってみると、岐阜高専が1回戦で敗退しているのが信じられない。岐阜ロボットの装飾は、昨年の「Bottle-Flip Café」でも場を和ませてくれた羊の執事「ラムちゃん」。愛らしい「ヨシ!」をもっと見たかった。

1回戦第5試合、熊本高専八代キャンパスVS明石高専は、満点どうしの審査員評価だった。しかも、両チームが満点を獲得したとき、試合終了まで30秒近い余裕が残っていたのだ。オーディエンスが少なからず戸惑っていたのが印象に残っている。上記第1試合と同様、明石が1回戦で敗退しているのが信じられない。

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2回戦第2試合、奈良高専VS鈴鹿高専は、いずれも全機自動機の対決。4台の自動機が次々と洗濯物を回収し、干していく様は圧巻の一言だった。結果の数字だけ見れば「奈良20点:鈴鹿5点」で奈良の圧勝。しかし、鈴鹿も全ての洗濯物を干し終えていたのだ。得点条件を満たしきれず、特に「試合終了時点でロボットが竿に触れていると、その竿の得点が全て無効化される」という厳しいルールが勝敗を分けた。
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2回戦第6試合、大分高専VS香川高専詫間キャンパスでは、高専ロボコンらしい勝敗判定が印象深い。大分は、洗濯物をより早く乾かすために、片方の面を長く垂らす「片面干し」を選択した唯一のチームだ。片面干しは非常にバランスが悪く、少しでもミスがあればシーツは落下、9点を逃してしまう。大分はそんなリスキーな干し方に挑戦し、王者・詫間に勝利した唯一のチームとなった。受賞はなかったものの、無冠の覇者として強く記憶に残っている。

詫間は大分に敗北したものの、その後ワイルドカードでベスト8へ進出。準々決勝第4試合、大阪府大高専との戦いを制した。2分30秒を待たずに両チームとも満点を獲得し、試合終了までの十数秒間、フィールドにはためく洗濯物をただ眺めながら「これ、決勝じゃないのか……」とぼうぜんとしてしまった。干し終わりまでの時間も、干し方のレイアウトも同じだった。何が勝敗を分けたのか、記者にはいまだにわからない。

どちらが勝ってもおかしくなかったのは、1回戦第7試合の旭川高専VS長野高専、森の動物対決も同様だった。ゆるふわキュートなモチーフとは裏腹の、息の詰まる点取り合戦で魅せてくれた。

愛されたマシンたち、推しチームを振り返る

今回はVゴールがなく、時間いっぱいまでパフォーマンスで魅せるルールが設定されていた。そのため、各チームの個性はいつにも増して輝いていたように思う。
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都城高専の「ポッポちゃん」は、技術力と遊び心と愛くるしさでオーディエンスをとりこにした。2回戦第3試合で敗退した際の、解説・田所先生の慈愛に満ちたコメントが印象深い。昨年のトランポリンロボットに続き、今年もエキションに登場。会場が温かい拍手に包まれた。

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都城と共にエキシビションで魅せたのは、小山高専Aチーム。宇宙飛行士型の手動機がTシャツを干し、ロケットをモチーフとした自動機が宇宙デザインのシーツを広げる。その後、ロケットと宇宙飛行士が合体してタオルを干すというストーリー性に会場が沸いた。

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ストーリーで魅せてくれたのは、徳山高専も同様だ。初戦で敗退してしまったが、ピラミッド型自動機から洗濯物を干す古代エジプト人(?)がにゅっと出る光景はなかなかのインパクトだった。「ピラミッドに書かれたヒエログリフはちゃんと読める」といううわさもあったが真実は分からず、とても気になっている。

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チームとしてのパフォーマンスにグっと来たのは都立産業技術高専。詫間との勝負に敗退した瞬間、相手チームを拍手でたたえる姿には敬意しかない。ロボコン応援団長のこじるりこと小島瑠璃子さんの「君みたいな技術者が、日本にいてよかったよ」は、本大会最高の賛辞だった。

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デザイン、ストーリー性、強さを全て兼ね備えて来たのは、大阪府大高専奈良高専だった。大阪府大は派手な造形とキビキビとした動き、ミスによるタイムロスを爆速で取り返す「オカン」が見る者全てを圧倒し、デザイン賞を受賞。

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奈良は伝説の神獣である朱雀を思わせるゴージャスなパフォーマンスと自動機の連係技で、納得のロボコン大賞を受賞した。特に自動機をまとめあげた技術力は、多くのロボコニストを驚嘆させたに違いない。記者は交流会などで奈良チームに話を聞いたことがあるが、強い勝利へのこだわりがあることを感じている。いずれこのチーム文化の深層に迫りたい。

人とロボット、ロボットとロボットの未来

小山高専Bチームは決勝まで満点で勝ち進み、「一度も負けていないチーム」としてパーフェクトゲーマーの詫間に挑んで初めて敗退、準優勝となった。テストランでは苦戦の様子を見せたものの本戦ではきっちり仕上げてきたのは米子高専福井高専。逆に、テストランでは順調そうだったものの、本戦で苦戦しているように見えたのは、自走式ハンガーの豊田高専と大型ファンで派手に洗濯物を飛ばす茨城高専佐世保高専だった。

仙台高専呉高専福島高専苫小牧高専、そして香川高専高松キャンパスはじゅうぶんに善戦したものの、相手チームの強さが際立ち、勝ちきれなかったように見える。

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ロボコンというイベントの特性上、どうしても「勝った、負けた」という結果は出てしまう。しかし、今回はそもそものテーマに「協働」がある。Tシャツ8枚、タオル4枚、大きなシーツ1枚を2分30秒で干し終えるのは、実は人間にだって難しいのだ。そう思えば本大会のロボットたちは皆、充分に頼れる存在になっていた。

また、試合中の駆け引きでは、人間が洗濯物をセットする時間を有効に使うために「人間がロボットに合わせて動きを変える」ような戦法も多く見られた。人とロボットが協力しあう時代の到来を思わせる、希望にあふれる光景だった。

「ロボットが人の仕事を奪う」と言われて久しいが、ロボットは人を支え、手伝ってくれる存在ではないかと、記者は思う。そんな未来を見せてくれた高専ロボコニストたちに最大限の敬意と感謝を込めて、本稿を締めさせていただく。

皆さん、本当にお疲れさまでした!

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デバプラ編集部では、今年も高専ロボコン2019の各賞を受賞したチームに、ロボット開発の経緯、システムの概要、自慢できるポイント等を詳細にヒアリングし、「高専ロボコン2019出場ロボット解剖計画」としてまとめる予定です。どうぞお楽しみに!

これまでの高専ロボコン出場ロボット解剖計画

高専ロボコン2018 出場ロボット解剖計画
高専ロボコン2017 出場ロボット解剖計画
高専ロボコン2016 出場ロボット解剖計画
高専ロボコン2015 出場ロボット解剖計画

高専ロボコン2019記事まとめ

決勝速報:高専ロボコン2019全国大会 パーフェクトゲーム!
準決勝速報:高専ロボコン2019全国大会 圧倒的技術!
準々決勝速報:高専ロボコン2019全国大会 どこが勝っても不思議じゃない!
第2回戦速報:高専ロボコン2019全国大会 いわゆる魔物は存在するのか?
第1回戦速報:高専ロボコン2019全国大会 満点続出!
【超速報】高専ロボコン2019試合結果
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間もなく開催、高専ロボコン2019!テーマは「らん♪RUN Laundry」だー!(何て?)

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