2018年6月10日に行われたNHK学生ロボコン2018は、東京大学RoboTechが優勝し、ABUロボコン・ベトナム大会への切符を手に入れた。
■15秒という数字は世界に何を見せたのか
圧倒的な強さだった。今年度のロボコン参加者および関係者は、必ず口をそろえて言う台詞だろう。ピックアップから受け渡し、投てき、どれを見ても今年の東大RoboTechは圧倒的な精密性と俊敏性が桁違いだった。
2016年にABUへの出場権を手にしたRoboTechだったが、2017年は決勝で東工大に敗退し惜しくも優勝を逃した。2018年、決勝で対戦したのは因縁の相手、強豪・豊橋技術科学大学。今年は多くのチームが足回りに吸引式を用いてきたなかで、お家芸と呼ばれるほど吸引を多く用いてきた経験値と技術力によって、豊橋の足回りは完璧と呼べるものだった。さらに投てきの精密性については的中率ほぼ100%、最高タイムは22秒とのことから、豊橋も非常に高い完成度だったのは言うまでもない。
参考にABUへの出場を既に決めている他国の決勝タイムを見てみよう。例えば2017年に優勝したベトナム・ラクホン大学も今年度ABUへの出場を決めたが、彼らの決勝タイムは22秒との情報が入っている。そう考えれば、豊橋技術科学大学をはじめ準決勝に進出したチームのロボットは、十二分に世界へ通用するものだったと捉えられるし、むしろ東大は果たして何をやってのけたのか、なぞが深まるのも事実だ。
■決定打は制限時間内でのリカバリー能力
一旦ここでは東大チームを置いておき、それぞれの対戦において勝敗を分けた要因へ着眼していく。今大会を振り返って改めて感じるのが、予選・準々決勝と準決勝・決勝にて、勝利するための条件がそれぞれ異なったことだろうか。
決勝では言わずもがな、スピードのみで全て勝負が決まった。受け渡しや投てきの精密性が完璧であるのが前提条件となる勝負だったため、洗練された名試合であったと言っても過言ではない。
しかし、それ以外の対戦が不完全だったのかと言われれば、まったくそんなことはない。むしろスピード以外でのロボットの性能や各校の工夫を見ることができ、学生ロボコンらしいバラエティあふれる個性同士のぶつかり合いとなった。
予選を俯瞰してみてみると、勝利への決定打となったのは「制限時間内でのリカバリー能力」ではないかと記者は考える。今回大会では特に予選序盤のロボットトラブルが多く発生した。前回優勝チームの東工大も、スローイングロボットのリトライで苦しめられていた姿が象徴的であった。他チームも前日テストランで好調に作動していたものの、本番では制御できない事態も多発した。
特に青ゾーンでのトラブルが散見され、Twitterでは「魔の青ゾーン」として恐れられていたのも記憶に新しいだろう。前日の天候から一転、梅雨前線のもたらした高湿度が影響したのか、具体的に何が作用しトラブルを引き起こしたのか、未だに憶測しかできない。
そんな環境下だったからこそ、リトライから復旧しロンバイにこぎ着けたチームが結果的に予選通過したということが印象的だった。予選での三重大学vs横浜国立大学では、スタート直後に互いがリトライとなりそのまま調整作業にもつれ込むも、一歩先に出たのは三重だった。2分31秒で無事ロンバイを達成した。名古屋工業大学vs金沢工業大学でも、両者不調に苦しめられたが、名古屋が先に調整完了し、制限時間内にロンバイを達成した。
制限時間内に原因究明を行い、無事通常通り作動するまで復旧させる――。この判断と適応能力こそが、チームの実力によるものだろうし、大会のみならず広義的なロボットや開発者のあり方と通じているのであろう。ちなみに奇しくも三重と名古屋は準々決勝で対戦することとなり、両者完璧な精度のもとスピードによって勝負を制したのは三重であった。
■浮き彫りとなった受け渡しの難しさ
本大会を通じて改めて難しさを感じたのは、シャトルコックの受け渡しだ。ルールをはじめて目にしたときに、ついつい注目してしまうのがスローイングの精密性だろう。しかしながら、16年大会でチームをABUへ導いた東大RoboTech OBの田中さんは本番前から“ロボット間におけるシャトルコックの受け渡しが明暗を分ける”と語っていた。
「リングは一定の距離と高さを保っており変化することはありません。不可変的なものに対して、ロボットは一定の結果を出し続けることは得意です。一方で可変的なもの、例えば位置が常に変化するようなものに対しては、適応性が弱いのです。そのため各チームがどこまで、動き回るキャリーイングロボットとスローイングロボット間の受け渡しをスムーズに行えるかが勝敗を分けるかぎになるでしょう」
まさにその通りだった。受け渡しに関しては、操縦者のマニュアルコントロールに頼るチームから、ロボット両者が自動で互いに動きつつ受け渡しを行うなど、各チームの個性が現れる箇所であった。予選での東京農工大学vs岐阜大学のように、両者がスローイングまでたどり着けなくとも、シャトルコックの受け渡しで得た1点によって勝利を収めるというケースがあり、受け渡し行程における難しさと重要性を感じた大会であった。
■「当たり前のことを、確実に行っているだけ」東大チームの強さとは
さて冒頭でも述べたように、今年の東大RoboTechの強さは段違いであった。一方でチーム全体を通じて感じた、掴み所のない雰囲気も印象的だった。「彼女」「彼氏」と名札が付けられたロボットにはツッコまざるを得ないし、「オムニです」「オムらいす」と書かれた足回りがオムニホイールでないことも自明だ。さらに決勝前のインタビューでは、フルスロットルで意気込む豊橋技術科学大学に対して、淡々とした対応が印象的だった。
しかし、彼らの冷静さは強さからくる自信があったからこそなしえた雰囲気だったに違いない。そしてその強さは、実は天才的な発想や高度な技術力のみが導いたものではないのだ。
例えばテストランの朝、RoboTechは迅速に梱包からロボットを取り出し、手早くテストラン会場へ向かった。
「誰でもできる、だからこそ見失いがちな“当たり前”を100%落とさずに行うことがRoboTechの強さの由縁なんです」
そう語るのは、前述の田中さん。
「例えば朝一番で受付を済ませテストランを行えば、もしかすると他チームよりも1回多くさらにテストランを行えるかもしれない」
その言葉通り、テストラン終盤では全体を通じた放送機材の調整も兼ねて、実際の対戦形式で模擬戦を行うことができた。田中さんは“それも重要だった”と言う。
「試走できる回数が増えるだけ、メンテナンスし調整する機会が増える。それだけ本番フィールドへの適応性を上げていくことができるのです。常に最高の状態を目指して高めていけるように、抜かりなく準備をしておく。発想や技術が先に語られてしまいがちですが、その前にRoboTechは“当たり前”を積み重ねているに過ぎないのです」
筆者はこの“当たり前”だけが強さの秘訣だとは決して思わない。最高峰の技術力や経験値、チームとしての総合力が他を寄せ付けない圧倒的なまでの実力につながったのだと考えている。根底に流れているのは勝利への執着というよりも、自分たちの実力を出し切れるかという問題なのだろう。全てを発揮できれば勝利を必ず手にできる、という自信からチームの雰囲気が生まれているのではなかろうか。
■ABUロボコン2018に向けて
さて、これから東大RoboTechはABUに向けて最終調整を行う。既に圧倒的である15秒から果たしてタイムを縮めてくるのか、この数字に世界はどのように対抗してくるのか、いちロボコンファンとしても今から胸が高鳴る。
同時にデバプラ編集部は、全チームの全メンバーに「本当に熱い試合をありがとう」と感謝の意を伝えたい。大田区総合体育館を包む熱気やロボットへ注がれる視線、応援団からの声援、悔しさに打ち震える姿など、記者が、そしておそらく多くの人が忘れている何かを思い出させてくれる時間だった。
また、今回は東大の強さが光る大会だったが、もちろん他のチームも、黙っているわけにはいかないだろう。デバプラ編集部も、できる限り、そんなロボコニスト達をバックアップしていくつもりだ。
デバプラ編集部では、学生ロボコン2018の各賞を受賞したチームに、ロボット開発の経緯、システムの概要、自慢できるポイント等を詳細にヒアリングし、「学生ロボコン2018出場ロボット解剖計画」としてまとめる予定です。どうぞお楽しみに!