ラズパイその他工作

自然の力をデジタル制御するグラフィック装置の制作

ラズパイの簡単工作を通して、電子工作の原理や基本を学ぶこの連載。教えてくれるのは、メディアアートの分野で、また「ちょっと深い仕組み」を解説する書籍の世界で活躍している、伊藤尚未さんです。前回は風を使ってキャラクタが動くことでグラフィック作品ができる装置の制作をおこないましたが、最終回の今回は、デジタル制御による自然の力を利用したグラフィック作品の制作を紹介します。

前回の記事:風のままにキャラクタが動いてグラフィック作品ができる装置の制作

[目次]

1.はじめに
2.基本に戻りLEDを点滅させる
3.重力を利用する
4.光を軌跡として記録する
5.電子工作における「ひらめき」
6.まとめ

1.はじめに

こんにちは、伊藤尚未です。普段からいろいろと作品を考えておりますと、ある時、フワッとアイデアがひらめくことがあるわけです。いわゆる「スランプ」からの脱出でしょうか。これもテクニックが必要かもしれませんが、テクニックを使いこなすにはそれなりの訓練が必要だったりします。そう考えると、自分もまだまだトレーニングが足りないと反省ばかりです。

さて、最近、電子工作でアイデアを考える時に、どうもデジタルの機器だけで遊ぶには面白みに欠けてしまうと思ってしまいます。そこで、前回は風という自然の力を使ってデジタルなグラフィック作品を作ろうと試みましたが、今回は反対にデジタル制御により自然の力を利用したグラフィック作品を作ろうと考えました。

2.基本に戻りLEDを点滅させる

複雑なことを考えるのを避けて、初心に戻りましょう。LEDを点滅させるだけなら以前紹介したように外部電源として乾電池を使えばよいので、GPIOでコントロールさせLEDを点灯するようにします。

i06_1

この回路図では赤色LEDをひとつ接続するようにしたのですが、GPIO17と27を使って同じように緑、青を接続しました。赤色には電流制限抵抗器として150Ω、緑、青には75Ωを付けています。
また、LEDの数も種類も複数にしたほうが良かろうと思い、目指す作品の柔軟性も考え、ブレッドボードにしてトランジスタ、LEDなどの部品の位置なども変更できるようにしました。

i06_2

この組み合わせを赤緑青とつくり、電池ボックスと合わせて吊り下げました。こんなカンジのイメージです。

i06_3

こちらが実際に完成した装置の画像です。ブレッドボードで赤、緑、青のLEDをつけて吊り下げます。

えっ、吊り下げる?
はい、吊り下げました。

i06_4a

i06_5

3.重力を利用する

こうして簡単に作った装置を天井から吊り下げ、ぶらんぶらんと振り子状に揺らします。つまり、重力の法則に従って装置が揺れるわけですが、ここでLEDを点灯しておき、少しだけ回るように軽く押し出します。そしてこの下部でカメラの露光時間を長くして、光の軌跡を記録します。すると長い楕円を描きながら光の曲線が描かれます。

これだけでも十分美しいのですが、ここまでは光の軌跡を記録したもので、いわばデジタル的な意図を含んでいないものになります。

i06_6

赤色LEDを点灯したままで撮影するとこのような美しい曲線を描きます。

4.光を軌跡として記録する

ここからは、プログラミングで意図的にLEDを制御してみましょう。例えば、ブレッドボードに赤と緑と青のLEDを付けてある周期で点滅させましょう。とりあえず赤だけを点滅するようにScratchではこのように組んでみました。GPIO4には赤を当てており、17,27には緑、青を当てています。これで赤は点滅しますが、緑と青はスライダで点灯、消灯の明るさを変更できる程度にしました。

i06_7

実際マイコンで組んで見ると意外と便利で、基板の仕組みを変えずに光を制御できます。まずはLED3個とも点灯したままにしてみます。

i06_8

試しにやってみるとこのようなグラフィックができました。

想像以上に美しいですね!

i06_9

こちらは青と赤だけ点灯させたもの。これでも十分綺麗ですね。オシロスコープでできる幾何学図形をみているようです。しかし、このままではマイコンを使った意味も、造形意図もないので、赤だけを点滅、2重露光などのテクニックを使ってみました。

i06_10

緑は点滅していませんが、振れる角度によりLEDの半減角から出てしまうと見えないという想定外の効果も出て、なかなか芸術的になりました。

i06_12

振り子の軌跡のようにできた造形をペンデュラムパターンなどと呼んでいます。実はこのグラフィック作成方法は昔からあり、カメラというものが発明され、光の軌跡を記録できるようになってからデザインなどの分野で実験、創作されてきました。今ではコンピュータなどを使って計算されたCGで再現することはいとも簡単にできるのでしょうけど、光を記録するという意味ではデジカメ、フィルムカメラいずれでも可能な美しい作品を作ることができます。

i06_13

LEDの色、点滅周期、明るさなどをプログラミングでコントロール、さらに多重露光などの撮影テクニックも含めると、とにかくいろいろなグラフィックが楽しめます。とはいえ、実際にはこの振り子を揺らしているだけなのですが…(笑)

さて、今回の画像は以下の条件で撮影しました。ご参考までに記載しておきます。

・使用カメラ:PENTAX K-7
・絞り:f/29
・ISO:100
・露出時間:30秒

LEDが明るかったので絞り、ISOは暗くなるようにしていますが、それでも明るすぎる場合は、プログラムでLEDの発光自体を調整することもできるでしょう。天井に黒い模造紙を貼り、その中心から約1m程度吊り下げたユニットを揺らすと約2秒で往復しています。これを真下からカメラで捕らえます。露光時間を長くすれば軌跡をもっと多くすることもできますし、多重露光でも異なる形を合成することもできます。もとからこの運動は物理的な美しさがあるので、複雑な形を目指すより、ある程度シンプルなグラフィックとして仕上げた方が美しいと思っています。

5.電子工作における「ひらめき」

「ひらめく」とか「思いつく」というのはどういうことなのでしょう?とりあえず、全く何もないところから素晴らしいアイデアが生まれるとは思えないので、多分それまでの経験や体感したものの記憶の蓄積があって、脳内のシナプスが、思ってなかったところで、フッと、くっつくのではないか?と思うのです。

つまり、それまで見たもの、触ったものを組み合わせてみたり、加減乗除してみることで、新しいものができたりするのではないでしょうか。さらにこれを改良したり、そこから連想されたり、と連鎖が起きることで、さらにオモシロい作品になるのではないかと思っています。

今回は、こういった自身の記憶をたどりながらマイコンとアートをつなげるモヤモヤとしたものを、このグラフィックを作ることでちょっとだけ整理してみました。

さて、6回に渡ってお届けしてきました本連載も今回が最終回です。これまでお読み頂きました方々に厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

発光ダイオード(LED)に関する基礎知識をもっと知りたい方はローム「発光ダイオード(LED)の豆知識」をチェック!

razero_580-230
伊藤 尚未

日本電子工作普及推進委員会代表、メディアアーティスト。サイエンスライター、動物園の飼育員のフリした電気工事士、理科実験教室講師、ワークショップ講師、教材開発など、幅広く活動中。 月刊「子供の科学(誠文堂新光社)」で電子工作の連載を続けて19年、代表的な書籍は「電子工作大図鑑」「電子工作パーフェクトガイド」があります。