人機一体 金岡博士×スケルトニクス 阿嘉代表対談(前編) - 2人が語るロボット開発の今

「あの年代の沖縄は特別だった」と、高専ロボコンの関係者たちが声を揃える、2008年の第21回大会優勝の沖縄高専。その中核を担った阿嘉倫大さん、白久レイエス樹さんらが再集結し、搭乗型ロボットの開発に着手し始めたのは、2010年夏のことでした。

そして、2011年2月に2.6メートルもの大きさの搭乗型外骨格スーツ「スケルトニクス」が完成。スケルトニクスはモーターやエンジンを使わず、リンク機構と呼ばれる動作を拡大するテクノロジーを用い、人力で自在に操ることのできる画期的なロボットでした。

そんなスケルトニクスの搭乗操縦映像がニコニコ動画の『ニコニコ技術部』にアップされると大きな話題となり、アート系の分野やテレビなどのエンターテインメント分野から依頼が相次ぎ、2013年に事業化。スケルトニクス株式会社としてスタートし、スケルトニクスの受注・販売に成功するなど、着実に実績をあげています。

今回は、同社のCEOである阿嘉倫大代表とロボット開発スタートアップの先人である「株式会社人機一体」代表の金岡克弥博士との対談が実現。手法とアプローチの仕方こそ異なるものの、“人が自在に操るロボット”という未来の実現に向けて動く両スタートアップを率いる二人の言葉から、ロボット開発の今が伝わってきます!

左:株式会社人機一体 代表取締役社長 金岡克弥博士
右:スケルトニクス株式会社 代表取締役CEO 阿嘉倫大氏

スケルトニクスの衝撃、ロボット作りを阻む壁

──金岡博士はロボット研究の先輩として、阿嘉代表のチームが作ったスケルトニクスを初めて見たときはどのような印象を持たれましたか?

金岡克弥博士(以降、金岡) 例のニコニコ動画を最初に見たときは、衝撃を受けました。「そういう解決をしたか!」という驚きです。ロボットを自在に動かすためには動力が必要で、モーターなどのアクチュエーターを組み込みます。しかし、それは同時にエネルギー源も必要とし、重さという問題が生じることになり、アクチュエーターをはじめとする駆動系のパワーウエイトレシオがネックになってくるわけです。
ところが、スケルトニクスは人間の筋肉のみをアクチュエーターに使うというアイデア。確かに筋肉は非常に高効率のアクチュエーターです。でも、普通にロボット工学の視点でロボットを開発していると、まず思いつかないアプローチです。ロボット工学の講義では最初に「ロボットとは、コンピューターとセンサーとアクチュエーターの統合だ」と教えられますからね。アクチュエーターを付けないという選択肢があったか! と。本当にびっくりしました。

動作拡大型スーツ“スケルトニクス®”

阿嘉倫大代表(以降、阿嘉) ありがとうございます。当時も今も僕が思っているのは、もっとロボットにがんばって動いて欲しいということです。例えば、ぴょんぴょん跳ねるように軽やかに。でも、いろいろなところで目にするロボットの多くは、ゆったり重たそうです。
その理由は今、金岡博士が指摘されたパワーウエイトレシオの問題で、この壁があまりに高く、ロボット技術者の前に立ちはだかっている。スケルトニクスに続くプロジェクトであったエグゾネクスの開発(*1)では、僕もまさにその壁と戦い、今も向き合っています。
その点、スケルトニクスはそこをかわして作ったロボットです。ロボットにエネルギー源を積み、アクチュエーターを付けるというのはどんどん重くなっていくという負のループに陥りがち。その制約から脱するためのアイデアが、アクチュエーターを付けないことでした。
動きを拡大するリンク機構というアイデアがあり、それを全身に適応すれば巨大ロボットが作れるんじゃないか? と。アイデアベースの挑戦が功を奏した形です。
その一方でロボット技術者は全員、こうも思っているはずです。もっと軽くて強い材料が欲しい。もっと軽くて出力の出るアクチュエーター、もしくはエネルギー源が欲しい。どうですか?

金岡 欲しいですね(笑)。

阿嘉 パワーウエイトレシオの壁は大きなテーマで、絶対に越えなくていけない問題です。僕は真正面から戦い、いつかこの壁の向こう側にあるロボットを作ってやろうと思っています。
この壁をクリアしていく手法について、金岡博士はどうお考えですか?

金岡 我々の作ろうとしている、マスタスレーブシステムによる汎用人型重機は、当然大型です。我々のコアは「パワー増幅」ですからね。大きいことに価値があります。そして大きくなればなるほど、スケール効果で質量の寄与が増えます。ここに何らかの解決策が必要なのは確かです。
とはいえ、私はロボット制御とインテグレーションが専門であり、要素部品や素材の専門家ではありません。正面から解決することは私には難しい。そこで今、取り組んでいるのはモーターなどの機械部品メーカーや、CFRP、つまり炭素繊維素材を成形・精密加工する企業との協業です。大型ロボットの主要部品をカーボン化することはできないかなど、軽量化プロジェクトを進めています。

阿嘉 アクチュエーターについてはどうですか?

金岡 当面、電動モーターのみでの駆動を考えています。電動モーターはなんと言っても高精度制御可能で扱いやすい。エネルギー変換効率も高い。一般に、内燃機関の熱効率は3割程度ではないでしょうか。しかもカルノーの定理(カルノーサイクル)で理論熱効率の上限が押さえられていて、今後、技術を向上させてもたかだか数パーセントの改善しか見込めないと思います。
一方、電動モーターのエネルギー変換効率は9割を超えていて、電気エネルギーをほぼ完全に運動エネルギーに変えてくれます。しかも静かで、汚染物質を排出することもない。アクチュエーターとしては理想的です。
電気自動車の実用化や建設重機の電動化の流れも電動モーターには追い風です。電動モーターを用いた汎用人型重機開発が、ビジネスとして成立する環境が整いつつあります。
ただし、電動モーターにも課題があります。それはモーターそのものではなく、モーターと併用せざるを得ない「減速機(ギア)」の課題です。ロボットのメカニカルなシステムの中で最も衝撃に弱いのが減速機であり、また、運動エネルギーを生み出すわけではなく、インピーダンスを合わせるだけの、言わば「整合機」に過ぎないにもかかわらず、モーターよりも重い。減速機は、ロボットの駆動系のボトルネックです。
私が思うに、工場で使われるような据え置き型の産業機械の概念をそのままロボットに適用しているから、ロボット用とは言いがたい減速機がそのまま使われている。でも、ロボットの関節は多くの場合、無限回転しなくていいのです。一定の範囲で動けばいい。入出力関係が線形である必要もない。減速機を、まったく違う構造にできないかと考えています。
そこで、有望だと思っているのはムーバブル・フレームです。

──ムーバブル・フレーム……ですか?

阿嘉 ガンダムですか?

金岡 はい(笑)。もちろん、架空のメカがそのまま使えるわけではないんですが、考え方は優れていると思っています。ムーバブル・フレーム的構造をうまく現実世界に持ってくることができれば、減速機の問題がかなり解決できるのではないか。人機一体社に「ロボット用の減速機を作りたい」と声をかけてくださったメーカーさんに「減速機ではない構造を作りましょう」と逆に提案し、こちらも検討を進めています。
こうした取り組みが、間接的にパワーウエイトレシオの解決策になるかもしれません。

阿嘉 電気エネルギーを動力エネルギーに変えるのがモーターの役割で、その動力をより使いやすい形に変換するのがギアですよね。僕はギアに魅力を感じていて、根本的に模索中です。
人搭載型のヒューマノイドやパワードスーツにしか使えないアクチュエーター、減速機、関節に最適化して偏らせたギアができないものか。詳しくは話せないんですが、人が乗っていないロボットでは難しい部分も、人搭載型ならできる実現可能なことがあります。複雑にして、解決する。そんなイメージを持っています。

ロボット開発スタートアップ代表二人の対談は、スケルトニクスに受けた衝撃から始まり、ロボット開発の現場にある問題点とその打開策の話へと広がっていきました。
後編ではモノづくりの本質、スタートアップを目指す人たちへの愛情深くも厳しいメッセージへと続いてきます。

*1 エグゾネクス……スケルトニクスの次に構想された機体。スケルトニクスの機構にモーターを組み入れてパワードスーツ化し、なおかつ移動型に変形し、走るというプロジェクトだった。しかし、2015年末でプロジェクトは終了。想定のスペックには及ばなかったことが発表された。

 

 

今回の連載の流れ

第1回:人機一体 金岡博士×スケルトニクス 阿嘉代表対談(前編) - 2人が語るロボット開発の今(今回)
第2回:人機一体 金岡博士×スケルトニクス 阿嘉代表対談(後編) - なぜ、我々はロボットを作るのか?

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