インタビュー

CPUボードの「ありえない!」を覆した組み込みプラットフォームのリーディングカンパニー

ソフトウェア資産ゼロからのスタート。誰もが非常識だと笑った独自のCPUボードは10年後、IoT時代を担う存在へと成長を遂げた。組み込みプラットフォーム「Armadillo」で知られる株式会社アットマークテクノ。その挑戦の軌跡を追った。

 IoTゲートウェイを実現する「Armadillo」

省エネ時代のいま、注目を集める無線通信規格「EnOcean(エンオーシャン)」。光や温度、振動といった微弱なエネルギーを集めて電力に変換する「エネルギーハーベスト技術(環境発電技術)」を活用することで、バッテリーレス、ワイヤレスを実現する。

EnOcean用のゲートウェイ開発キット「CS-A420W-ENOCEAN」は、ローム(株)と(株)アットマークテクノが共同開発した製品だ。EnOceanの無線だけでは見通し100メートル程度の通信が限界だったが、(株)アットマークテクノの「Armadillo」を組み合わせることでこの限界を越えることが可能となった。

「Armadillo(アルマジロ)」は、ARMプロセッサ搭載の小型・省電力組み込みCPUボード。LANや無線LANインタフェースに対応している上、Linux搭載でインターネットとの親和性も高い。この「Armadillo」をベースにEnOceanの各種センサモジュールをセットすることで、無線LANや有線LANを通じてインターネット接続することができる。これにより、EnOceanがこれまでに実現してきたスマートホームやビルオートメーションにおける各種センサシステムから一歩進んだ遠隔制御や、クラウド連携も視野に入れたIoT(Internet of Things)ゲートウェイが可能となった。

Armadillo

 

受託開発で汎用型プラットフォームの必要性を実感

産業用組み込み機器のコンピュータボード開発メーカーとして知られる(株)アットマークテクノ。今や同社を代表するブランドに成長したArmadilloはどのように誕生したのか。

(株)アットマークテクノ代表取締役・実吉智裕さんは大学で制御理論を学び、卒業後はコンピュータシステム会社に就職。「もともと数学寄りなのになぜかハードウェア開発部門に配属されて、最初は戸惑いの連続。でも、自分でモノを作り始めて世界が大きく変わりました」と実吉さんは当時を振り返る。「コストを抑えて必要な機能を満たすためには、単純に安い部品を使う方法もあれば、回路設計そのものを見直す方法もある。ひとつの目的を形にするための選択肢がたくさんあるんだ、と気づいてモノ作りが俄然面白くなりました」。

やがて情報家電やネットワーク家電に興味を持ち、入社4年目に独立。独自開発の傍ら受託開発を請け負っていたが、徐々に疑問を感じ始める。「案件の数だけハードを作らなくてはならない受託開発は時間も手間もお金もかかる。いろんなシステムに使えるプラットフォームがあればモノ作りがもっとラクになるんじゃないか」。しかしゼロから始めた会社に過去のソフトウェア資産はない。そこで考えたのが、無償で使えるLinuxをARMプロセッサに組み込むことだった。

時は2000年、携帯電話がインターネットとつながり、ドコモの「iモード」が世を席巻した時代。インターネットがいろいろな装置とつながるほど必要なプロトコルも増えていく。そのすべてをメーカーが自前で作れるわけがない。だったらすでにサーバやPCとつながっていて精度も高いLinuxを利用する方が安定性もコストもメリットがあるはずだ。小型で省電力型のARMもきっとこれから流行る。そんな予感があった。

(株)アットマークテクノ代表取締役・実吉智裕さん

 

時代がArmadilloに追いついた!

構想から1年。2002年から販売を開始したArmadilloの評判は芳しくなかった。「当時は完全にキワモノ扱いでしたね。周りからはLinuxみたいな馬鹿でかいものを組み込んだらメモリもCPUパワーも高価にしかならないだろうし、組み込み機器ならリアルタイムOSだよね?非常識なんじゃないかと(笑)」。開発上の課題は技術でクリアできるが、製品の価値を広く認めてもらうことは容易ではない。しかし実吉さんは周囲の意見に屈することなく開発を続け、Armadilloの2世代、3世代を次々に発表していく。シリーズ化することで知名度が上がり、さらに世界の半導体技術の進化と相まって世代を追うほどその性能も上がっていく。そして2007年、Armadilloの名を世に知らしめる出来事が起こった。Androidの誕生である。

日本のガラケー文化をiPhoneが根底から覆していく中、Googleが発表したオープンソースのAndroid構想に実吉さんは興奮した。「AndroidがLinuxベースでARMの上で動くと知って『キターーー!』と思いました(笑)。ArmadilloでAndroidを動かすことができれば、メーカーへの大きなアピールになりますから」。すぐにArmadilloにAndroidを移植することに成功。いち早くスマホ以外の装置にAndroidを載せて動かし、Youtubeに掲載した動画は大きな反響を呼び、以降Androidの注目度が高まるとともに、Armadilloの知名度も一挙に拡大した。「Armadilloを構想した当時からARMのCPUとしての可能性に着目していましたが、ここまで伸びるとは想像していませんでした。今やARMもLinuxも完全にデファクトスタンダードになった。最初からこれらに目を付けたのは奇跡みたいなものです」。

ただ、Androidの進化も想像を超えていた。スマホのスペックそのものが組み込み機器よりはるかに高度化し、バージョンアップも頻繁に行われていく。「長期に渡る供給性や安定性を核とするArmadilloにとって、激しく変化し続けるAndroidへ対応することに意義はあるのか?」、時代の流れを受け入れ、自社製品にそぐわないものを捨てることも、経営者として必要な決断だった。現在Armadilloは再び原点に立ち返り、ARMとLinuxを基本にQtやJavaを取り入れ、遠隔通信システムなどの組み込みプラットフォームとして提案している。その用途は多岐にわたり、初めに紹介したEnOceanを活用したIoTゲートウェイ向け開発キットのほかにも、気象観測装置に組み込んで複数地点の気象データを取得しゲリラ豪雨の発生をリアルタイムに観測したり、牛舎を遠隔監視して牛の発情期を測定するなど、ユニークな活用法も登場している。

(株)アットマークテクノ代表取締役・実吉智裕さん

 

一流から第一人者へ。進化は技術者の使命

「これまではメーカーがイチからモノづくりをするのが当たり前だったけれど、今は組み込み機器を活用して形にしていく時代。我々も組み合わせを前提としたプラットフォームの提案へシフトしていく必要があります。ArmadilloがIoT時代のプラットフォームとしての地位を確立していくために、性能だけでなく機能の追加しやすさなど、作る人にとっての使いやすさを追求していきたいですね」と実吉さん。自身がハードウェアエンジニアとしてモノ作りの厳しさと楽しさを肌で味わってきたからこそ「ちゃんとしたモノ作りを志す人にこそArmadilloの価値を知ってほしい」と言う。その言葉にはArmadilloに対する自信とともに、これからのモノ作りを担う若手エンジニアへの期待が込められている。

「技術者を目指すからには一人前ではなく一流を、一流になったからには第一人者を目指してほしい。この世界で停滞は衰退を意味します。挑戦し続け、進化し続けることは技術者の使命であり、当社はそんな意識の高いエンジニアの受け皿でありたいと思っています」。60名あまりの社員を抱える経営者となった今も、実吉さんのまなざしはモノ作りの現場に注がれている。「いま気になっている部品は半導体バッテリ。ホントは自分で取り寄せて組み込んでみたいんですよねぇ」。そのまなざしに、モノ作りに目覚めたエンジニア時代の実吉さんを垣間見た気がした。

●アットマークテクノ

http://www.atmark-techno.com/

●Armadillo製品ページ

http://armadillo.atmark-techno.com/

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